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第42話 仕事の中間報告
しおりを挟む散歩から帰ってきて、聡美姉に呼ばれた。
金堂組の出戻り娘の件だ。
下調べの調査は、聡美姉が一気に引き受けていた。
俺も手伝うと言ったのだが「私の仕事取らないで~~」と言われてしまったので、俺は何もしないままだった。
応接室に行きと聡美姉はノートパソコンを開いて見ていた。
「カズ君、中間報告だよ」
「すまない。俺が平凡な日常を送ってる間に調べてくれて」
「それは言いっこなし。それより座って、座って」
急かされるまま俺はソファーに腰掛ける。
「唐突だけど、銃の入手の線から辿ってみたんだ。銃はロシア製のトカレフ。今では中共や某隣接国など多数出回っているわ」
「確かに裏の世界ではトカレフは割と簡単に手に入る。トリガーが重いし俺はあまり好きじゃない」
「そう、だから銃の線からは追えなかったわ。でも、気になる噂を聞いたの」
「それは?」
「うん、カズ君が死体処理したあの腹上死のおっさん覚えてる?」
「どこかの会社のお偉いさんだったんだよな」
「岸澤康作、泉橋印刷工業の重役さんね」
「そうそう、そいつだ」
「その泉橋印刷工業なんだけど、株式会社帝都インキ技研と取引があってね。その帝都インキ技研の部長さんが岸澤康作が亡くなってから数日後に死んでるの。北九州の海に浮かんでね」
「う~~ん、普通なら考えすぎだと思うけど、聡美姉がわざわざ言うなら怪しいんだろう?」
「えへへ、そうよ。帝都インキ技研の工場件研究所が北九州にあってね、そこの研究所長代理も亡くなってたのよ」
「怪しいのはわかるが、この件との関連性が理解できない。だって、腹上死のおっさんは完全な励み過ぎの結果だろう。殺されたわけじゃない。それで、何で取引相手に過ぎない帝都技研の社員が亡くなったのと関係あるんだ?」
「それはね、私達も無関係じゃないわ」
「え、どういう事?」
「出戻り娘の依頼で車ごとシナガワの埠頭で海の落としたでしょう。今回のターゲットは、それを見て殺されたと判断したのね」
「確かに悪巧みしている奴ならそう思うだろうが、いまいち本筋が見えてこない」
すると、聡美姉は1万円札を財布から抜き取って俺に見せた。
「これよ」
「1万円札がどうかしたか?」
「これの印刷に使われているのは特殊インキ。つまり、インキの横流しをしてたのよ」
「ああ、そうか、偽札を作ってる組織がいるという事なんだな。しかも、それが岸澤耕作の死によって発覚するのを恐れて特殊インキを横流ししてた研究所の仲間を殺した。そして、岸澤の背後の金堂組の影が見えた。だから、あの出戻りおばさんを金で雇ったやつに銃で打たせた、というわけか」
「そうそう、カズ君、冴えてるね」
「金堂のお爺さんにはまだ連絡はしてないよ。全てが明らかになった時に報告するつもり」
「ああ、でも、今回のケースだと金堂組にも他の被害が出るんじゃないのか?」
「う~~ん、絶対ではないけど、それはないかも」
「どういうこと?」
「今回の件、金堂組は動かなかったでしょう?」
「ああ、それは俺も気になっていた」
「現組長は、左文字雄三というインテリヤクザなんだよ」
「金堂組ではあるけど、昨今のマル暴対策で金貸しを本業としてるわけ。それで、古い体質の金堂左近は組を残すために身をひいたのよね」
「そうなんだ」
「金堂組は、江戸時代の火消の系統なのよ。歴史があるの。でもね、時代の流れで組を維持する方に重きをおいたのね。それが世代交代の裏話。そして旧世代の娘のことで組を動かせばつぶされかねない、と新世代は判断したのよ。それをわかってるから金堂左近は私達に依頼したのよ」
「じゃあ、あの鰻澤儀三郎とかあの屋敷にいた若い者は旧世代の派閥ということになるのか?」
「ご名答。よくできました」
ヤクザ屋さんもだいぶ様変わりしたようだ。
「じゃあ、相手もその裏事情を知ってると?」
「そこまではわからないけど、金堂組が動けば情報が伝わるわ。だから、監視はしてるんじゃないかな?」
組織が動かなければ、わざわざこちら側から動く必要もないわけだ。
でも、ターゲットは思ってたより大きな組織のようだ。
「なあ、作ってた偽札って日本円なのか?」
「違うわよ。多分ドルよ。ドルにも帝都インキ技研の特殊インキが使われているから」
「ドルなら国際的な犯罪組織だよな」
「そうね。ひょんなところから大物が釣れそうだよ。だから、少し警戒レベルを上げてほしいんだ。どこで私達の存在が向こうに知られるかわからないからね」
「そうだな。気おつけておく」
「それと、帝都インキ技研は、西音寺家のグループの1企業なんだよね。白鴎院家も11パーセントの株式を所有してるんだよ」
「名家が絡んでいるのか?」
「そこまでは、まだ調査中」
「そうか、聡美姉や雫姉が出かける時はメイに護衛を頼んでおくよ。あいつネットの住人になりかけてるしな」
「そうだね。万が一ってこともあるし、私からもお願いしてみるよ」
少しきな臭くなってきた。
このまま何も起きなければ良いが……
◇
次の日、学校に行き昨日の古本屋で買った本を読んでいる。
沙希とは日曜日以来会っていない。
メッセージは来るものの、明らかに避けられている様子だ。
鴨志田さんも素っ気ない態度だ。
チラチラ俺を見るのだが、目が合うとすぐに視線を逸らす。
顔が赤いようだが、もしかしたら体調が悪いのかもしれない。
そして、昼休み、いつもの通り木陰で穂乃果と一緒に弁当を食べる。
穂乃果は基本無口だが、会話がないことで気まずくなる様なことはない。
「そうだ、少し警戒を強めてくれ。今度の仕事はきな臭そうなんだ」
「はい、聡美殿から伺っております。何でも年甲斐もなく子作りに励んだおっさんがヤクザの女の腹にぶっかけて死んだとか」
「う、うん、まあそんなものだ」
「狙ってくるのは世紀末思想のヒャホーな奴らだとか、そんな輩は指先で秘孔を突けば「あじゃぽ~~」って死んでいきますよ」
「ま、まあ相手の素性はまだハッキリしない。でも、油断はするな」
「それより、最近私の周りで変なことが起こってます」
「それはなんだ?」
「トイレに行く途中、男子生徒が近づいて来て「付き合って下さい」とか言い始めます。それで、私は、樫藤流第三奥義乱れ突きを喰らわすのですが、相手はそのまま気絶してしまい、突き合い稽古ができない状態がしばらく続いています」
「そうか、奥義は素人にはマズかったのではないか?」
「では、今度は樫藤流第三奥義乱れ突きの下位互換に当たる目潰しをしてみましょう」
「目はマズい。失明する恐れがある。眉間でいいのではないか?」
「そうですね。善処します」
穂乃果と一緒に弁当を食べ終えるとスマホがなった。
メッセージがきたようだ。
俺はその相手を見る。
意外にも『FG5』の柚木カレンからだ。
「次の授業指されそう。英訳お願い」
と書いてあった。
返信すると、教科書の1ページ丸ごと写真で写して送ってきた。
俺は、それを日本語に訳して送り返す。
「助かった。サンキュー」
と返信が送られてくる。
俺と穂乃果は教室に戻り、俺は自分の席に座る。
まだ、昼休みは10分ほど残っている。
クラスのみんなは、好き勝手やってるようだ。
本を取り出して読もうとしたら鴨志田さんがやってきた。
佐伯楓も一緒だ。
そして話しかけてきたのは佐伯楓の方だった。
「東藤君、今日の放課後って予定ある?」
「予定はないけど、もしかしたら知り合いの子を迎えに行くかもしれない」
「知り合いの子って?」
「世話になってる家の知り合いの幼稚園児だ。迎えに行く人の都合が悪い時は俺が代わりの行ってる」
「そうかあ、でも、まだ、連絡きてないんでしょう?じゃあ、少しだけ時間ちょうだい」
少しだけなら……
「わかった」
2人はそう言って、席に戻った。
鴨志田さんは佐伯の背後に隠れるようにしてモジモジしてたけど、トイレ我慢してたのか?
◆
~遊佐和真里~
お嬢様の様子が変だ!
私は小さい頃から白鴎院百合子様のお付きをしている。
百合子お嬢様は、出会った時は寡黙な方だった。
それに、何かに怯えるように毎日過ごされていた。
その理由を知ったのは、百合子様専属の警護官 北藤香奈恵さんが教えてくれた。
まさか、あのシー・サマー号に乗っていたなんて……
私と香奈恵さんが百合子お嬢様のお側に付いたのはあの事件の3ヶ月後だった。
私は、毎日、百合子お嬢様がお元気になるように冗談を言ったりして戯けて見せた。
その甲斐あってか、少しづつ心を開いてくれた。
笑顔も見せてくれるようになった時は心の底から喜んだ。
時々、パニックに似た症状を起こすお嬢様は、年々とその回数も減ってきた。
でも、夜は毎晩のようにうなされている。
私は夢の中まで入っていけないのでそうする事もできなかった。
そして、最近、お嬢様は総代とのご昼食会にお行きになった。
そこで、結婚、婚約の話をされたそうだ。
その日のお嬢様は見る影もなかった。
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だが、この間の日曜日の朝から妙に明るい。
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