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第45話 事務処理
しおりを挟むコクラでレンタカーを借りた俺達は、ターゲットのマンションに直行する。
この時間は会社に行っているはずなので、単身赴任の男の家は留守のはずだ。
「莉音は、車の中で待っていろ」
「なにすると?」
「仕事だ」
莉音は、店で買った服を着ている。
年相応の可愛らしい女の子に変わっていた。
俺達にも、少し慣れたようで、問いかけても返事が返ってくるようになった。
俺と聡美姉は、対象のマンションに潜入する為、帽子とマスクを被り顔を隠すようにして部屋の前に行く。
俺は、鍵穴を見て聡美姉と頷き合い、ピッキングで鍵を開ける。
部屋に入って靴にビニールを被せて土足で部屋を探索する。
「カズ君はここで警戒してて」
部屋の中には人の気配はない。
俺は念のために監視カメラ、盗聴器の有無を調査してベランダに続く窓の鍵を開けておいた。
20分ぐらいすると、聡美姉が仕事を終わり俺のところに来る。
「もういいのか?」
「家にあるパソコンのデータは入手したよ。そして、仕掛けもしたし今回はこれでOKだよ。やっこさんがこれでどう動くかで今後の方針を決めるけどね」
「わかった。撤収しよう」
俺達は玄関ドアの前で人の気配がないか確かめ、外に出る。
マンション内の移動は、監視カメラと人の気配を避けてレンタカーに戻った。
「お待たせ、大丈夫だったか?」
「うん」
莉音は、少し緊張してるようだ。
俺達の出立ちが泥棒にしか見えないようだ。
うっかり出会った俺達について行くのが不安に感じたのだろう。
「そう言えば、莉音ちゃんには私達の仕事教えて無かったよね」
「うん」
「私達はウィステリア探偵事務所。依頼を受けて仕事をこなすプロなのです。えっへん!」
「え~~っ!」
驚いたようだ。
確かにやってる事はコソ泥にしか見えないしな。
「私達の仕事はこれでおしまい。今度は莉音ちゃんの番だね」
「うちの?」
「そうだよ。私達はトウキョウに住んでるけど、莉音ちゃんをこのままトウキョウに連れてったら誘拐犯になっちゃうしね。きちんと事務処理してからじゃないと連れて行けないんだよ」
「…………」
莉音は黙ってしまった。
そんなことはお構いなしに聡美姉は、電話をかけ始める。
話の内容から通話相手は、知り合いの弁護士のようだ。
「莉音は本当にいいのか?俺達と一緒に来るって事はここにはしばらく帰れないんだぞ。友達とかに別れを告げなくてもいいのか?」
「うちに友達はおらん!でも、お母しゃんのお墓に行きたか」
「どこにあるんだ?」
「ハカタです」
ちょうど、聡美姉の電話が終わったようだ。
「ハカタに行くよ!」
「莉音の母親のお墓がハカタにあるみたいだ」
「なら、ちょうど良かった。紹介してもらった弁護士さん、ハカタに事務所を構えてるんだって。アポとってもらったよ。それに銀行にも寄りたいしね」
そうか、莉音を引き取るためにはお金が必要になる。
「俺が出すよ。1億あれば足りるか?」
「カズ君も、大袈裟だよ。でも、ごねた場合を考えてその1割はあったほうがいいね」
「銀行行ったら用意する」
すると莉音が驚いて聞いてきた。
「それってどう言う意味と?」
「お父さんから莉音を引き取りための円満解決料だ」
「うちん為にそげん大金払わんでよか」
「これは決定事項だ。今更引き返せない。お金が気になるなら莉音が大人になって働いて返してくれ」
「うちん為に……うち、お金持ちになって必ず返す!」
「ああ、でも大人になってからだぞ。わかったな」
「うん」
俺達が話終わるのを待っていた聡美姉は『では、出発!』と言って車を出した。
◇
「では、莉音さん、こちらに……」
ハカタにある冷泉総合法律事務所で一通りの事情を説明して、莉音は女性事務員に連れられて身体にあるアザの写真を撮りに別室に向かった。
そして、この事務所の代表弁護士である冷泉慎太郎は、俺達に尋ねた。
「本当に宜しいのですか?事情はよくわかりましたが、あの子が嘘をついている可能性もありますよ」
「そうですよね。でもご心配は無用です。その時はその時なんで」
「ああ、莉音が俺たちを利用としてるのは知っている。でも、それはそれだけ追い詰められているって事だ。別に一時の感情で動いてるわけではない。俺もそうやって救われた事があるからだ」
「そうですか……でも、楠木先生のご紹介なので何かあっては私の立場もあります。可能な限り下調べはさせて下さい」
「いいですよ。こちらこそお願いします」
冷泉先生の意見に聡美姉は、頷いた。
ちょうどその時、莉音が部屋に戻ってきた。
「カズ君、これからは大人の話になるから莉音ちゃん連れてお母さんのお墓参りの行ってきなよ」
聡美姉がそう言う時は、莉音がここにいたらマズいと判断したのだろう。
「わかった」
俺は、莉音と2人でお墓参りに行くことにした。
タクシーに乗り込み行き先を告げる。
行きに近くの花屋さんに寄ってもらってお花を購入した。
莉音の母親が眠る公園墓地、少し小高い場所にあり、見晴らしの良いところだった。
「ここ……」
莉音が立ち止まった場所には月隈家と言う墓石が立っている。
白い御影石で作られた墓地は、草が伸びている。
「掃除するか、莉音はバケツに水を汲んで来てくれ」
「うん」
水道は近くにある。
俺は、一礼してから墓石の周りの草を抜き始めた。
莉音は、バケツに水を汲んできて、スポンジで墓石を洗い始める。
「ここにはお母さんだけか?」
「そう」
「立派なお墓だけど、どうやって建てたんだ?」
「お母しゃんの保険のお金」
「そうか、莉音は自分が生きる為ではなく母親の為に使ったのか」
「…………」
莉音は黙って頷いた。
俺がテロ組織に拉致されてた時、同じように拉致されるれて亡くなった子達は大勢いるし、野晒しで放置されていた。その後は野犬達の餌になったのだろう。
土に返してもらえるだけで贅沢な感じをうけたものだ。
掃除を終えた俺達はすっかり綺麗になった墓石の前に買ってきた花を添え、お線香を焚いて静かにお祈りをした。
そして、しばらく俺はその場から離れて母親と莉音の2人だけにした。
◇
その日の夕方、俺達は弁護士の冷泉慎太郎をと一緒に莉音の家に来ている。
俺と莉音は、車の中で待機を聡美姉から命じられた。
醜い大人の姿を見せたくなかったのかも知れない。
お金は銀行に寄って用意して聡美姉に預けてある。
でも、結局、聡美姉に頼ることになってしまった。
自分で撒いた種なのに、情けないと思ってしまう。
レンタカーの中でビクついている莉音と一緒にいる。
1時間くらい経った頃、聡美姉と弁護士の先生が荷物を抱えて車に戻ってきた。
「話はついたよ。荷物も写真とかアルバムとかあったから持ってきたけど、他に必要なものある?」
「お母さんの写真だけでいい」
「そうか、荷物があまりにもないんで少し驚いてたんだ。学校関係のものはトウキョウで手配できるしね」
「みんなお父しゃんに捨てられた……」
「そうか… …」
「では、私はここで、転校手続きとか役所関係はこちらで滞りなくさせてもらいます」
そう言って弁護士さんと助手の若い男は車に乗り込んだ。
「さあ、私達も帰ろうか」
レンタカーをコクラの事業所に返してタクシーで北キュウシュウ空港に向かう。
そして、俺達が乗り込んだ飛行機は羽田空港へと飛び立った。
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