インミシべルな玩具〜暗殺者として育てられた俺が普通の高校生に〜

涼月 風

文字の大きさ
47 / 89

第46話 百合子からの手紙

しおりを挟む


「まあ、とても可愛らしい女の子ですね。私は斎藤雫、お屋敷で家事全般を賄っております」

羽田空港に着くと、雫姉が迎えに来ていた。
メイの姿は見えないので屋敷で珠美といるようだ。

「月隈莉音です。よろしくお願いします」

そう小声で挨拶をする莉音は、恥ずかしそうにうつむいた。
初めて飛行機に乗って興奮していたさっきまでの莉音とはまるで別人だ。

「それにしても北キュウシュウに仕事に行って女の子を連れて帰ってくるなんてカズキ様の趣味は、拉致する程小さな女の子がお好きなのですね」

「それ、違うから!」

俺は自分の名誉の為にもそれだけは言いたい。

「では、お屋敷に帰りましょう」
「雫ちゃん、あっちの方は?」
「ええ、滞りなく。聡美お嬢様が可愛い女の子とウハウハしてる間にすませてあります」
「ウハウハしてないから!」

聡美姉も雫姉には敵わないらしい。
俺も無理だ。

雫姉のベントレーに乗り込み、車はお屋敷へ向かう。
お屋敷の門を見た莉音は「ばりデカッ!」と驚いていた。
そして、屋敷を見てさらに「ばりデカッ!」と呟いていた。

屋敷に着いたのは夜の11時過ぎ。
珠美は寝てるので、みんなへの紹介は明日の朝という話になった。

みんながお茶を飲んで休んでいた時、メイが目をショボショボして入ってくる。

「みんな、お帰りなのネ」
「ああ、メイ、その目。お前ゲームしてたんじゃないだろうな?」
「そ、そんなことしてないネ。本当ネ。敵をぎったんばっこんに斬り捨ててないあるヨ」

ゲームしてたようだ。

「メイ、後でお仕置きだ!」
「ひえ~~、グーグは酷いネ」

騒いでるメイをみて莉音が呆気にとられてみている。

「あ、そうだ。メイ、莉音だ。これから一緒に住むから頼むな」
「メイファンっていう名前ネ。みんなメイって呼ぶネ」
「月隈莉音です。よろしくお願いします」

莉音はきちんと挨拶した。

「メイ、お風呂まだだろう?莉音をお風呂に入れてくれ」

「わかったネ、行こう。そして、私のパーティーメンバーに入れるネ。今なら紹介特典もらえるヨ」

「はあ……?」

莉音は意味がわかってないようだ。

2人は、お風呂に向かった。
莉音の「ばりデカッ!」という声がここまで響いた。





翌朝、莉音のことを珠美に紹介した。
これで、この屋敷で莉音を知らない者はいない。
莉音は、雫姉とお揃いのメイド服を着ている。
莉音が何か手伝いたいと言ったからだ。

学校の転入手続きが済むまで1週間から2週間かかるらしい。
それまで、家の手伝いをしながら勉強をメイと一緒にするらしい。

俺は学校に行く準備をして家を出る。
駅の着くと改札前広場で沙希が待っていた。
俺を見つけて近寄ってくる。

「先輩、おはよう」
「ああ、おはよう」

たった2~3日会ってないだけで、物凄く久しぶりな感じがする。
沙希は、以前のように話しかけてこなくなった。
時々俺を見ては、顔をうつむく。

傷が怖いのなら無理しなくても良いのに……

俺はそう思いながら、電車に乗ってると、沙希が思わぬ事を言い出した。

「先輩、土曜日空いてますか?」
「予定は今のところないが、仕事が入るかもしれない」
「じゃあ、今は空いてるんですね。良かったら家に来ませんか?その日は誰もいないので……」

まさかの家へのお誘いだ。
沙希は実の妹だ。
あの家には5歳まで俺も住んでいた。
懐かしいというより、今の神宮司家の家に行きたいと正直思ってしまう。
だが、俺は……

「すまない、それは無理だ」
「え~~っ!どうしてですか?」
「どうしてもだ」

沙希を怒らせたかもしれない。
でも、俺が神宮司家に行ったら、懐かしくて後戻りできなくなる。

「先輩、私……」

沙希は何かを言おうとして黙りこむ。
そして、沙希はさっきとは変わって戯けるように話し出す。

「先輩って紳士なんですね」
「なんだ、それは?」
「だって、女の子が家に誘うと男の子は期待して喜んで来るって雑誌に書いてありましたよ」

俺は試されたのか?

「まあ、先輩ですし、そんな勇気はないと思ってましたけど」
「なあ、後輩。そういう事は好きな人ができたらそう言え。誤解を与えるような言動は感心しない」

「はい、はい。わかりました。でも、こんな事、話すのは先輩だけですよ……」

小悪魔のような笑みを浮かべる沙希。
どうも悪戯っ子に育ってしまったようだ。

「それと、先輩、なんで制服の上着をいつまでも着てるんですか?」
「学校行くのに制服着るのは当たり前だろう?」
「いやいや、先輩。もう6月過ぎて随分経ちますよ。衣替えしないんですか?」
「衣替えってなんだ?」

「えーーっ、先輩、知ってて制服着てたんじゃないんですか?」

「ああ、衣替えなんて言葉、初めて聞いた」

「ああ、そうでしたよね。先輩って帰国子女で衣替えなんて今まで無かったんですね。日本の学校は、6月から9月いっぱいまで夏服に変わるんです。だって、暑いでしょう」

そういうものなのか?
そう言えば、クラスのみんなも制服の上着を着ていなかった。
てっきり、暑くて脱いでるだけだと思っていた。

「そうか、教えてくれてありがとう」

「はあ~~、先輩の将来が心配です」

「大丈夫だ。教えてもらった事は忘れない」

俺は、上着を脱いでワイシャツ姿になる。

「これでいいんだろう?」

「はい、はい、あれ、先輩の上着の内ポケットの白いものが見えますよ」

「あっ、忘れてた」

俺は聡美姉から手紙を預かっていたんだ。
そして、その差出人は……

「それってラブレターですか?どうなんですか!」

「ち、違う。そういうものではない」

「ふ~~ん、怪しいですね。先輩なんか冬服に包まってミノムシみたいに木から吊る下がっていればいいんです!」

その後、沙希は本格的に怒って口を聞いてくれなかった。





俺は学校に着いて教室に向かわず、穂乃果といつも弁当を食べていた木陰のところにやってきた。

そして、制服にしまってあった手紙を開ける。
少ししわになってしまっていたが、それを伸ばしながら書かれている内容に目を通す。

~~~~~
お手紙謹んで拝読致しました。

雨の映える紫陽花の花が美しく咲く季節となりましたが、和輝さまにおかれましては、いかがお過ごしなのでしょうか。

私、百合子は、あの時のことを1日たりとも忘れたことがありません。

決して長い時間ではありませんでしたが、かーくんと過ごした日々の記憶は色あせること無く、今でも鮮明に思いだされます。

祖父から、このお手紙を頂いて読ませてもらい、私は、言葉にならないほど嬉しかったです。
また、兄の件につきましては、残念としか言いあらわせません。

ですが、私にはかーくんがいる。それだけで、その悲しみも暗雲を吹き散らす風が吹いた後のように晴れやかな気持ちになります。

かーくんにお会いしたい。
これは、私の我がままでしょうか。
 
祖父からは、時期ではないと言われてしまいました。
それでも、私の心はかーくんにお会いしたいと思っております。

今は、ご無理のようなら近いうちにお会いできる日を楽しみにしております。
また、恐れ入りますが、お手紙のご返事を頂きたく思います。

かーくんへ        百合子より

~~~~~

「百合子、覚えててくれたんだ……」

俺は、手紙を読んで目頭が熱くなった。
こんなところで涙を流すわけにはいかない。

俺は空を見上げて、こぼれ落ちそうな滴を落ちないようにする。

曇り空からは、小粒の雨が降ってきた。

丁度いい。
このまま濡れてしまおう。

雨は、人の思いを優しく隠す天からの恵みなのだから……


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

付きまとう聖女様は、貧乏貴族の僕にだけ甘すぎる〜人生相談がきっかけで日常がカオスに。でも、モテたい願望が強すぎて、つい……〜

咲月ねむと
ファンタジー
この乙女ゲーの世界に転生してからというもの毎日教会に通い詰めている。アランという貧乏貴族の三男に生まれた俺は、何を目指し、何を糧にして生きていけばいいのか分からない。 そんな人生のアドバイスをもらうため教会に通っているのだが……。 「アランくん。今日も来てくれたのね」 そう優しく語り掛けてくれるのは、頼れる聖女リリシア様だ。人々の悩みを静かに聞き入れ、的確なアドバイスをくれる美人聖女様だと人気だ。 そんな彼女だが、なぜか俺が相談するといつも様子が変になる。アドバイスはくれるのだがそのアドバイス自体が問題でどうも自己主張が強すぎるのだ。 「お母様のプレゼントは何を買えばいい?」 と相談すれば、 「ネックレスをプレゼントするのはどう? でもね私は結婚指輪が欲しいの」などという発言が飛び出すのだ。意味が分からない。 そして俺もようやく一人暮らしを始める歳になった。王都にある学園に通い始めたのだが、教会本部にそれはもう美人な聖女が赴任してきたとか。 興味本位で俺は教会本部に人生相談をお願いした。担当になった人物というのが、またもやリリシアさんで…………。 ようやく俺は気づいたんだ。 リリシアさんに付きまとわれていること、この頻繁に相談する関係が実は異常だったということに。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...