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第53話 一難去ってまた一難
しおりを挟む一難去ってまた一難……
そんな言葉が日本にはあるらしい。
人生をうまく表した言葉だと思う。
特に俺個人に良く当てはまる。
もしかして、俺の為の言葉なのかもしれない。
振り付けの講師がいない……
以前、苺パフェのメンバーを教えていた講師は、あの子達には2度と教えたくないと言われたそうだ。
「ねえ、どうする?東藤君……」
応接室でコーヒーを飲みながら俺に呟く蓼科さん。
「どうすると言われても俺は素人ですし……」
「そうよね。それに合宿先が見つからないのよ」
「さらっと問題を増やしましたね」
「ええ、にっちもさっちも行かないわ。なんでこんな事になっちゃったのかしら」
それは、貴女のせいです!とは言えない。
「都内で練習できて8人の子供達が寝泊りできて安全なところなんて、そうそうあるわけないわよね~~」
確かに、探せばあるだろうけど、急すぎて無理だろう。
「はあ~~」
ため息を吐く蓼科さん。
歌は決まったのだから、後は振り付けだけ。
今日は土曜日。
残り9日しかない。
「困りましたね。それで、俺は歌を探しましたし、あとは蓼科さんに任せて大丈夫ですよね」
「なに言ってるの?東藤君。私と貴方は運命共同体でしょう」
いつそんな事になったのだろうか?
「俺はただのサブで、普通の高校生ですよ」
「いいえ、ただの高校生だけじゃないでしょう?ウィステリア探偵事務所の社員であり、このサンセット・サンライズ・エンターテイメント・ミュージックの契約社員なんだから」
俺、契約社員だったのか?
「そうよ。カズ君は契約社員になったわ」
突然、事務所の応接室に聡美姉が入ってきた。
何故かニタニタしてる。
こういう時の聡美姉は嫌な予感がする。
「あら、藤宮さん、どうしたのですか?」
「今日はね~~お宅の社長と話があったの。この間の報酬の件と今回の件ね。ちゃんと契約しないとまずいでしょう?」
「ああ、確かにそうですね。すみません、気が付かなくて」
蓼科さんも聡美姉には弱いみたいだ。
「なあ、聡美姉、俺ってこの会社の契約社員だったのか?」
「うん、さっきそうなったよ。その方が個人の報酬がハッキリするし、この会社にも出入りがしやすいでしょう?」
お金の件は大事だが、あまりこの会社には関わりたくない。
蓼科さんがいるし……
「ところで、合宿先の候補なんだけどアテがあるわ」
「本当ですか!」
聡美姉の話に食い付く蓼科さん。
まさか……
「ええ、まかせて頂戴」
「聡美姉、敢えて聞くけど藤宮家別邸とかじゃないだろうな?」
「ピンポーン、さすがカズ君、冴えてるね~~」
予想が当たってしまった。
ちびっ子達8人もいるんだぞ。
それも、我儘放題の子も数人いるし……
「そういうわけで、みんなを連れて家に帰りましょう」
聡美姉は、最初からそのつもりでここに来てたのだろう。
だって、乗ってきた車がマイクロバスだったし……
◇
苺パフェのみんなはマイクロバスに乗り、お屋敷に向かう。
泊まるところは、稽古場らしい。
確かに畳の場所と板の間に分かれていて、スペースもあり、壁に鏡がある場所もある。
そう考えると武芸の稽古も音楽の稽古も似てるところもある。
だが、マイクロバスの中で1人だけ青ざめた顔をしてるちびっ子がいる。
樫藤花乃果だ。
当然と言えば当然だろう。
姉には内緒でこのグループにいる。
しかも合宿先は、自分の自宅同然の場所だ。
助手席に座っている俺は、運転する聡美姉に話しかけた。
「なあ、穂乃果の妹がいるだろう?今回の件は穂乃果には内緒だったらしいんだ」
「そうなんだ。なんで内緒にしてたのかな?」
「それは、樫藤流の件らしい。きっとバレたら大騒ぎになると思うのだが」
「うん、大丈夫だよ。だってカズ君がいるし」
「えっ、俺?」
「そう、カズ君」
俺になんとかしろと言いたいのか?
無理だろう、それ……
お屋敷の門が見えてきた。
みんなは「デカっ」と言って驚いている。
そしてマイクロバスは門を潜り、稽古場の前に止まった。
「さあ、ついたわよ~~みんな、降りてね」
「すごーーい」
「ここどこなの?」
「あっちの家はお屋敷だよ」
まあ、無理もない。
初めて見たら誰でも驚く。
「この稽古場で練習しま~~す。荷物は畳のところにおいてね。寝泊まりもここでするからね」
「え~~っ、ベッドじゃないの?」
「畳なんて無理」
「ダニとかいるんじゃないの?」
駒場アキ、池上ツカサ、代田アカネ。
我儘ちびっ子はこの3人らしい。
「毎日、綺麗の掃除してるから大丈夫だよ。お布団は後で持ってくるからね」
聡美姉がそう言うとさらにブーイングが激しくなる。
確かにこれでは振り付け講師も呆れるだろう。
それと蓼科さんはここには来ていない。
ローズさんとの契約の確認作業やグッズの販売、衣装の手配、音響設備や会場責任者との打ち合わせ、各マスコミへの告知など仕事は山ほどあるらしい。
今回は、俺がみつけたローズさんの曲とローズさんが未発表のバラードの曲、そして『FG5』の曲を3曲、合計5曲を披露するようだ。
ちびっ子達に休む暇はない。
「みんなには、まず柔軟と体力作りをしてもらいます」
聡美姉は、ノリノリだ。
だが、そこは我儘放題で育ったちびっ子達。
素直に聞くはずもない。
「やだよ、そんなの」
「体力作りなら自分がやれば?」
「無理、したくない」
「はあ、どうしようもないですね。この子達は。では、スパルタ方式でやるからね」
「横暴だ」
「お祖父様に言いつけてやる」
「虐待されたってパパに報告するからね」
そう言われて聡美姉は、稽古場の作業台の上に置いてあったノートパソコンを持ってきた。
そして、パソコンを開いてある動画を見せる。
~~~~~
「駒場会長ですね」
『そうだが、君は誰だね?』
「藤宮家次女藤宮聡美と言います」
『藤宮……まさか』
「そのまさかですよ。会長のお孫さん、芸能事務所に入ってますよね」
『ア、ア、アキのことですか?』
「そう、そのアキさん。うちでしばらく預かります。少し我儘に育ったようで」
『も、も、申し訳ありません。藤宮様のお屋敷にアキのような子を預けるわけには……』
「預かると言ってもアイドルグループのメンバーと一緒ですよ。合宿先が当家と言うだけで、コンサートが終わり次第、お返ししますね」
『そ、そういうことでしたら是非ともお願い致します。私にできる事が有ればなんでもお申し付け下さい』
「いいえ、特には、ではそうことで~~」
~~~~~
駒場会長ってアキの祖父だったけ。
あの意地悪そうな爺さんが掌返したように頭を下げるとは……
「という事です。他のみんなの保護者の方にも連絡しといたからね~~」
聡美姉がそういうと、我儘ちびっ子達は顔を青ざめている。
特に駒場アキは、尊敬する爺さんが何度も頭を下げてる姿を見て顔が青ざめていた。
「では、貴女達のダンスレッスンの講師の方を紹介します。どうぞ~~パチパチ」
奥から現れたその人は……
「メイなのネ。ダンスは得意なのネ。私の指導は優しいから安心していいのネ」
メイだった。
あいつ、ダンスなんてできるのか?
確かに戦闘は、真似できないほどのアクロバット攻撃をするが……
「では、練習着に着替えてレッツらゴーなのネ」
なんか、不安しかない……
◆
~神宮司沙希~
「あ~~あ、今日は、お兄ちゃんと一緒にお家で過ごす予定だったのになあ~~」
お兄ちゃんに……先輩に、おうちデートに誘ったらあっさり断られてしまった。
その時のお兄ちゃん……先輩が思いつめてた顔をしてたので、私は、まだ早かった、と確信した。
家にくれば懐かしくなって「俺がお前の兄だ」と、なるはずだったのに……
少し急ぎすぎたようだ。
私は、焦っていた。
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