インミシべルな玩具〜暗殺者として育てられた俺が普通の高校生に〜

涼月 風

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第54話 ちびっ子達は思った事を口にする

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メイの講師就任を聞かされてなかった俺は一抹の不安がよぎる。
だって、その場のノリで決まったことが明らかだからだ。
いつものみんなをみてれば、よくわかる。

だが、俺がその場に残ってちびっ子達を見守ろうとしてたら、聡美姉から珠美の幼稚園のお迎えをお願いされ、珠美の幼稚園に行くことになった。

今日は月2回ある土曜保育がある。
希望者のみの自由登園らしいが。

珠美は幼稚園が好きらしい。
友達と遊ぶのが楽しいという。

俺は、歩きながら珠美の幼稚園に向かう。
お屋敷から歩いて15分ぐらいの所に、その幼稚園はあった。

幼稚園の建物が見え始めると、既にこの場所から幼児の元気な声が聞こえてくる。
子供の無邪気な遊び声は平和の象徴でもある。
楽しむ声をあげなくなった子供は、不憫でしかない。

小さな門を潜ると、子供達が走っている。
その中に、珠美もいた。

「おい、珠美」
「あ、カズお兄ちゃんだ」

追いかけっこをやめて嬉しそうに近寄ってくる珠美。
その笑顔を見るだけで癒される。

「あ、あいつだ」
「珠美ちゃんのお兄ちゃんだよね」
「うん、この間来たお兄さんだ」

珠美はいつもこの4人で遊んでるらしく、仲の良さが伝わってくる。

「おい、おっさん。珠美に気安く近づくんじゃねぇよ」

言ってる内容はヤクザ顔負けだが、その喋りは子供特有のもので迫力に欠ける。

「確か、木梨の弟だな」
「お、おまえ、お姉ちゃんに言うのか?」
「言わないよ。話しかけるほど仲良くはない」
「ははあん、お前、ぼっちとかいう奴だな。意味は知らないけどお姉ちゃん達が言ってたし」

「さとし君、そんなこと言うもんじゃないよ。お兄さんに失礼だよ」

このできた少年は確かゆうくんとかいう彼女持ちの子だったっけ。

「そうだよ。ゆうくんの言う通りなんだから~~」

この子はゆうくんと付き合ってるあゆみちゃん。
ゆうくんにベタ惚れらしい。

「みんな仲良いな。珠美そろそろ帰るぞ」
「うん、用意してくる」

そう言って珠美は荷物を取りに行った。

その間、木梨弟は俺に絡んでくるというか、じゃれついてくる。
いつの間にか他の残った子供達を追いかける鬼役になっていた。

すると、そこに珠美も加わっていた。
俺は幼児達のおもちゃ代わりにされたらしい。

でも、そこにある人物が現れる。
木梨弟がいるのだから、その本人がお迎えに来るのは当然かもしれないが。

「「あ…………」」

学校で会うのなら話さなくて済むが、こんな場所ではそうもいかない。
おそらく、木梨もそう思っているに違いない。

木梨は、学校ではクール美女として名を轟かせている。
滅多に笑わないその姿は、笑顔を忘れてしまった俺と同じようだ。

「東藤、さとしと遊んでくれたみたいだね。礼を言うよ」
「ああ、気にするな」

会話はこれで終了。
俺達はそれぞれ家に帰るだけ。
それで済むはずだったのだが……

木梨弟が、他の園児と滑り台に登って遊んでおり、ふざけて遊んでそこから落ちてしまった。

本人は、頭に大きなコブができて泣き叫んでいる。
木梨は、落ち着いてその様子を見ており、先生達の方が慌ててる感じだ。

一応、近くの病院で診てもらうことになり、さとしを心配してる珠美と俺も付き合う結果となった。





目の前には大きな病院がある。
その病院は見覚えあるどころか、見慣れた病院、神宮司総合病院だった。

小さい頃はよく来ていた。
懐かしい光景が目の前に広がっている。

木梨が受付の女性と話をしている。
すると、数分後に看護士姿の40歳代の女性が現れた。

「なに、さとしが転んだの?」
「違う、滑り台から落ちて少し頭を打ったみたい」
「そうなの、どれどれ」

どうやら木梨の母親のようだ。

「一応、先生に見てもらおうか?」

木梨の母親は、そう言ってさとしを連れて行ってしまった。
この病院で働いているのは明らかだ。
まさか、俺と木梨にこんな共通点があったとは……

俺と珠美は待合室で並んで座っている。
木梨も何故かさとしの後についていかないでそこにいた。

「カズお兄ちゃん、さとしくん、大丈夫かな?」
「タンコブは痛そうだったけど、先生が診察して治してくれるよ」
「うん、早く治るといいね。お兄ちゃんの怪我も良くなったしね」

可愛いことを言ってくれる子だ。
きっと紫藤親父の方ではなく母親に似たんだな。

すると木梨がいきなり話し出した。

「東藤、すまない。君達には関係ないのに心配だと言って病院までついて来てくれて。それなのに、私は君が怪我してても何も構わず無視していた。結衣の言う通りだ。私は自分が情けない」

何を言い出すかと思えば、鴨志田さんが教室で騒ぎを起こした時の事を言っているようだ。

「もう、怪我は殆ど治っている。気にしなくてもいい」

「だが、私は……」

「木梨の気持ちは俺にはどうすることもできない。自分で解決しろ」

「確かにそうだな。自分の罪悪感を君がどうにかできるわけもない。私が間違っていたよ。だが、これだけは言わせてくれ。今日はさとしに付き合ってくれてありがとう」

「ああ」「うん」

俺と珠美はそれぞれ返事をした。

木梨にはそれで十分だ。
俺達はただのクラスメイトなのだから。





俺と木梨はただのクラスメイトだ。
例え、木梨の家でオヤツを食べててもそれは変わらない。

目の前には、ちびっ子が4人もいる。
そのうちの1人が頭に包帯をぐるぐる巻きにされて俺の隣でテレビゲームをしてる。

「弱いなあ、何やってもダメだなぁ」

俺はテレビゲームをしたことがない。
コントローラーを持つのも初めてだ。
存在自体は知っている。
これでも5歳までは日本の普通の子だったのだから。

「初めてなんだ。次は負けない!」
「マジかよ。おっさんは俺より貧乏だったんだなぁ」

やり始めると面白くてハマる。
でも、レースゲームなのになんでバナナの皮でスリップするんだ。
亀のこうらも行き交ってるし……

珠美は、小学2年生くらいの女の子とお絵描きしてる。
小学生高学年ぐらいの男女の双子は、テーブルで教科書を開いて勉強してた。

台所からエプロンをつけた木梨がホットケーキを焼いていて、甘い匂いがここまで漂ってくる。

「あははは、おっさん、また最下位じゃん。よえ~~」

全てこうらのせいだ。

「幼稚園児に負けるとは……」

地味にショックだ。

「みんな、出来上がったよ」

クールにそう言う木梨は、ホットケーキをテーブルの上に置く。

「「「「わ~~い、いただきま~~す」」」」

さすが兄弟。
みんな言葉がそろってる。

俺と珠美も御相伴に預かる。
みんなで食べるオヤツは、味も格別だ。

「ねぇ、なんで前髪長くしてるの?」

そう俺に問いかけてきたのは、小学生高学年の双子の女の子の方だ。

「そうだな。イースター島のモアイ像は知ってるか?」
「モアイ像ってあの変な石像の?」
「そうだ。その石像が埋まってる土を掘り返すと足とか出てくるらしいぞ。そういう事だ」

「え~~意味わかんない」

騒ぎ出すちびっ子達。
最近の俺はちびっ子に呪われているようだ。

「カズお兄ちゃんは、イケメンなんだけど傷があるから隠してるんだよ」

珠美の説明はとてもうまい。

「おお、傷見せろ!おっさん」

頭に包帯をぐるぐる巻きされてる奴に言われたくないが、不可抗力というものはある。
既に別のちびっ子が俺の髪を後ろから近づき上げていた。

「あ、ほんとだ。額のところに傷がある~~。でも、眼鏡が邪魔でよく見えない」

そう言った矢先に俺の眼鏡が外される。
ここの兄弟は連携プレーが得意らしい。

「「すご~~い、かっこいい」」

ちびっ子女子2人にそう言われた。

「そうなの。カズお兄ちゃんはすごくかっこいいんだから~~」

珠美はドヤ顔でホットケーキを食べている。

「お、お、おっさん、ひきょうだぞ。バカ、アホ、アンポンタン。おっさんなんか死んじまえ~~!」

包帯少年は、オヤツの途中で退席した。
しっかり、自分の分のホットケーキを持って去るところが抜け目ない。

「はあ、これで4人目だ……」

この傷はちびっ子、男の子にも有効らしい。
俺が、取り上げられた眼鏡を返してもらいそれをかけると木梨なんとかが、口からメープルシロップなのかよだれなのかわからない液体を垂らしていた。

つっ込んだらいけない気がする……

俺は見てないフリをして、ホットケーキを口に運んだ。



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