インミシべルな玩具〜暗殺者として育てられた俺が普通の高校生に〜

涼月 風

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第66話 木曜日は期待(2)

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ちびっ子アイドル達の衣装が決まり、俺と蓼科さんはミニ・コンサート向けて期待が膨らんできた。

これが成功すれば、蓼科さんのボーナスが上がるようだ。
マンションも買ったみたいだし順風満帆の感じだ。

俺もこの面倒臭い任務から離れられる。

喜び勇んでSSEM事務所に帰ると『苺パフェ8』のメンバーが第二レッスン室で待っていると伝えられた。

その第二レッスン室にスキップしながら向かう蓼科さん。
レッスン場に近づくにつれて大きな子供の声が聞こえてくる。
それも、ただ騒いでるとかそういうものとはちょっと違う。

俺と蓼科さんは目を合わせる。
嫌な予感がする……


第二レッスン室に入ると、そこは戦場だった。


「敵は前方800メートルまで近づいて来てるわ」
「対人地雷まであと300メートル」
「斥候が罠にかかったら攻撃開始」
「M271ARの準備完了」
「すみません、弾倉が空です」
「バカもん!何故用意しとかなかった」
「敵の攻撃確認、サヤカ隊員が左手負傷」
「おい、衛生兵はどうした。衛生兵~~!」

ちびっこ達は、歌やダンスのレッスンではなく、仮想敵兵と戦闘をしていた。

なんで……?





「どういう事なの、説明して頂戴!」

蓼科さんは、おでこに怒りマークが浮き出るほどおかんむりだ。
俺だって何でこうなってるのか、訳が分からない。
ただ、これを教えた人物はわかる。

メイだ!!メイ以外いない……

「これは余興ですよ。多分……」

本当にそうであってくれ。

「お~~い、みんなそれを中断して集まってくれ」

ちびっ子達に声をかけると、走って俺と蓼科さんの前に整列する。
以前のようなグダグダ感は全くない。
それどころか、

「せいれーつ!番号1」「2」「3」「4」「5」「6」「7」「8」

「欠落者無し、指揮官殿、全員そろいました!ビシッ!」

「「…………」」

敬礼上手いな……って、そんな事考えてる場合じゃない。
マジか、軍隊かよ……

蓼科さんは、黙って俺を見ている。
怒りマークがもう一つ額に浮き上がっていた。

「東藤君、貴方に歌と踊りは任せたのよね?そうよね?」
「…………はい」
「どういう事なのかな?かな?」

かなかな煩い……

メイは何を教えてたんだ?
これで、歌とダンスができなければ、ミニ・コンサートは終わりだ……

「これはですね。体育の整列をイメージしたものです」
「みんな小学生だものね。わかるわ、体育でしょう、体育なのよね?」
「…………」

マズいぞ、これ……

「あ、痛たたたた……腹が、持病の腰が、ヘルニアが飛びでて……おお、おまけに頭があああ」
「東藤君、さっきまでスキップしてここまで来てたよね?」
「違います。スキップしてたのは蓼科さんです」
「そうだったかしら、でも元気になったようね。よかったわ」

しまった!つい、痛がるフリを忘れて答えてしまった。
この人、俺に対してだけ優秀すぎる。

「ええ、蓼科さんの看病のおかげです。で、何がどうしたのですか?」

「どうしたって、これってどういうこと?みんな以前と全然違うじゃない」

「人は日々成長するものです。若い身体は、それだけ細胞分裂が激しいのです。活性化ですよ!以前という過去のことは、今この場に存在しないのです」

「意味がわからないのだけど?」

「俺もわかりま……いえ、そういうことなんですよ!これは新しい価値観なのです。苺パフェ8の将来に期待してるのです!」

「東藤君、君キャラ変わってない?」

「俺にもこういう一面があるのです。苺パフェ8のメンバーが様々な一面を持っていてもおかしくないでしょう。そうですよね?」

「そうね……そうかもね」

その場を押しの強さで切り開く。
言ってる俺自身が一番意味がわからない。

「それに蓼科さんは苺パフェ8の歌と振り付けの指導を俺に任せたんですよね。それならどのような結果になっても文句はないはずです」

「た、確かにそうだけど、でも……」

「でももクソもへったくれもありません。これは新しいマンションの為です、そして輝かしい蓼科さんの未来の為でもあるんですよ」

「わ、わかったわ。よ~~く、わかりました」

ふう、人は物事を誤魔化す時お喋りになるようだ。

ちびっ子達は、そんな俺達の会話を黙って聞いていた。
大人はエゲツないと思っているのかもしれない。

「じゃあ、一度通しでやってもらいましょう。東藤君、楽曲を用意してくれる。みんなも用意してね~~」

「「「「「「「「はい!」」」」」」」」

ミニ・コンサートの楽曲が流れ始める。
ちびっ子達は所定の位置に立っている。
そして、始まったのだ。
新しいダンス……えっ、チアリーディングかな?これ……。





『パチパチパチパチ……』

「みんな、良かったわよ~~、あまりの迫力で感動を通り越して東藤君を殺したくなったわ」

「…………」

俺は殺されるらしい。
確かに迫力はあった。
だが、『FG5』の楽曲の振り付けは、本家の物とはまるっきり違ってた。
ちびっ子達が飛んだり、跳ねたりしてる。
そんな振り付けは本家にはない。

「東藤君、後で別室で話し合いましょうね」
「…………はい」

ちびっ子達の我儘な性格は直ってる。
というか従順すぎる。
メイは何をしたんだ?

歌はみんな覚えてるし、立ち位置もいい感じだ。
だが、その振り付けはアクロバットそのものだ。
逆によく短時間でここまでできたと感心してしまう。
これが、チアリーディングならの話だが……

ちびっ子達はそのまま練習することに。
俺と蓼科さんは別室で緊急会議だ。

「ちびっ子達、頑張ってましたね」

そう言うしかない。
今更、新しい振り付けなど間に合わない。

「そうね、頑張ってたわ」

蓼科さんさんもそれは理解してるようだ。

「「はあ~~…………」」

その会議は何度も吐かれる俺と蓼科さんのため息で終わった。





蓼科さんとの話し合いが溜息合戦となったその後、SSEM事務所を後にして俺は聡美姉から頼まれた件で新宿の繁華街に来ていた。

黒のスーツに着替えて髪はヘアクリームで上げ眼鏡を外す。
この姿では、高校生には見えないだろう。

聡美姉の依頼は、明日緑扇館学園に搬入する機材と空調設備、その他の仕事を金堂組の縁故のある建設会社に依頼したようだ。
今回のような秘密厳守の工事などはヤクザ家さんが絡んだ方が守られるらしい。
確かに、うっかり口を滑らしたら殺される、と思わせておけばあちこちに言いふらしたりできないだろう。

金堂組の鰻澤さんが、その間を仕切ってくれたので、今夜は建設会社の社長と顔合わせをするようだ。

指定の店に向かってる途中、路地で数人の男達が女子を囲っていた。
運動系の大学生らしく、みんなガタイがいい。

「嫌だって言ってるでしょう!」

「生意気な高校生だなl
「まあ、美少女が嫌がる姿、そこがいいけどな」
「なあ、いい薬もあるんだ。ホテルに行こうぜ」
「あははは、俺が先でいいよな。この間は最後だったしよ~~」
「いいんじゃねえの?結局、最後は従順になるんだからよ」

ゲスい会話が聞こえてくる。
この辺りでは割とよく見る光景だ。
だが、その絡まれてる女子に見覚えがあった。

はあ~~マジか……

絡まれてる女子は、同じクラスの鈴谷羅維華。
鴨志田さんの友人だ。

ただ働きはしない主義なんだが……

俺は、男達に引っ張られて連れて行かされそうになっている鈴谷と男の間に割り込んだ。

「なんだ、テメー!!」
「おい、にいちゃんよ~~なにカッコつけてんだあ?」
「正義のヒーロー気取りですか?笑っちゃうね~~」
「俺達は〇〇大学空手愛好会の者だ。どうだビビっただろう?」

こう言う奴らの会話は聞く必要がない。
話してる暇が有れば攻撃すれば良いものを。
平和ボケして遊んでる大学生にそんな事を期待しても仕方がない。

俺は、一気に5人の男を路上に組み伏せる。

「うわっ」「おえっ」「あっ」「痛っ」「ぎゃほっ」

男達はそれぞれ変な喚き声を上げた。
その男達に蹴りを順番に入れて気絶させておく。

スマホなどで俺の姿を撮られたら堪らない。
その時、1人の男から小さなビニールに入った錠剤が蹴った拍子でポケットから飛び出していた。

これ、生徒会長が言ってたあの薬だよな……

「あ、あの………」

鈴谷は、俺の背中越しで何か言いたそうにしている。

「こ、この間、ウエノの博物館で私を助けてくれた人ですよね?」

そうか、あの時、鈴谷にこの姿を見られていたっけ……

「知らないな。それより早く家に帰れ。高校生が1人でこんなところを彷徨くもんじゃない」

まあ、俺も高校生なのだが……

「わ、私、貴方を探してたんです。この間のお礼を言おうとして……でも、見つからなくて、それに怖い男が寄って来て、私、私……」

そう言いながら泣き出してしまった。
このままでは、1人で帰すわけにもいかない。

『おい、こっちだ!』

誰かが警官を呼んだらしい。
数人の制服を着た者達が見えた。

「マズい、行くぞ!」

俺は鈴谷の手をとってその場を走り去る。
こうなったら、鈴谷が落ち着くまで、付き合うしかなかった。


鰻澤さんに連絡を入れて1時間ほど遅れる旨を伝える。
俺は、近くにある神社の境内に連れて行き鈴谷が泣き止むのを待っていた。

あの薬を持ってた奴を警察に渡してしまった。
せっかくの情報源が水の泡だ。

そんな事を考えていると鈴谷が話し出した。

「あの……グスン……あの時はありがとうございました。それに、グスン、さっきも助けてくれて……ありがとう……グスン」

泣きながら礼を言わなくともいいのだが……

俺はハンカチを鈴谷に渡す。
彼女は、そのハンカチで目を押さえていた。

「さっき、俺を探していたとか言ってたが?」
「……は…い、探しても見つからなくて……お礼を言いたくて。でも、会えましたあ」
「はあ~~そんな事で1人でこんな危険な場所に来るなんてどうかしてるぞ」
「でも、どうしても会いたかったんです」

鈴谷は力強くそう言い切った。
このままでは、また同じ事を繰り返しそうだ。
俺は、仕方なく鈴谷に連絡先を教えた。

「何かあったら連絡してくれて構わない。だけど、約束してくれ。危険な場所にひとりで近づかない事、わかったな」

「はい、あの~~私、鈴谷羅維華って言います。17歳です」

自己紹介しなくとも良~く知っている。
クラスメイトだしな。

「そうか、覚えておくよ」

「はい!」

泣き散らして目が真っ赤な鈴谷は、そんな状況なのに俺に飛びっきりの笑顔を向けた。

普段、教室で虫けらを見るような眼で俺を見るのとは別物だ。

不覚にも俺は、その笑顔が可愛いと思ってしまった。

それはきっと不可抗力だ。


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