82 / 89
第79話 日曜日の夜は……(1)
しおりを挟む鴨志田さん……結衣と乗った観覧車はゆっくり下降している。
俺と結衣は、何度目かわからないほど唇を重ねた。
そして、観覧車は終着地について扉の鍵が外から外される。
俺達は黙ったまま手を繋いでそのまま歩いた。
口火を切ったのは俺からだ。
「結衣、今日はこれから仕事があるんだ」
「バイトだって言ってたよね。わかってるよ。私はみんなのところに戻るから平気だよ」
「すまない」
「じゃあ、私みんなのところに戻るね。またねカズキ」
結衣はそう言って手を振って、みんなのいる所に戻って行った。
その顔は、少し赤らんでいて恥ずかしそうだった。
「東藤殿、お待たせいたしました」
「カズキお兄ちゃん、来たよ」
ふと背後から呼ばれる。樫藤姉妹だ。
「気配がわからなかった。いつからいたんだ?」
「2人で手を繋いで観覧車から降りてくるところからだよ」
花乃果まで気配を消すのが上手いらしい。
「そうか……」
「目的のホテルはここから見える近い距離にありますが遅れるわけには参りません」
これから、名家の集いによるパーティーがある。
今回は西音寺家主催なので、このトウキョウ・ドームシティのオーナーでもある西音寺家は、ドームに隣接するホテルを会場に選んだようだ。
時計を見れば4時10分前。
今から行けばちょうど良い時間だろう。
「わかった、行くぞ」
俺と穂乃果、そして花乃果は歩いてそのホテルを目指した。
◇
俺達3人はホテルのフロアーに着き受付で話を通しと、43階建てのホテルのうち、今日は30階以上が貸切となっているらしい。
俺達の部屋は31階の3101号室から3104号室の4部屋があてがわれており、聡美姉達は3101号室で待っていると伝言があった。
エレベーターの前に着くとガードマンが数人立っていてボディチェックされた。
ここにある2基のエレベーターは30階までノンストップらしい。
今回、名家の集いによる防犯対策だ。
エレベーターに乗り込み31階を押す。扉は閉まり、高速で上昇するエレベーターの揺れはほとんど感じなかった。
31階につき01号室を探す。
番号通りこのホテルの角にあり、エレベーターからは少し距離があった。
ドアをノックしてしばらくすると、中から返事が来た。
「お兄しゃん、今開けるね」
莉音が来て鍵を開けてくれる。
目の前にはドレスに身を包んだ可愛い莉音がそこにいた。
「おお、莉音可愛いぞ」
「そ、そう、変じゃない。初めて着たからおかしいかと思って」
「そんなことないぞ。良く似合ってる」
北キュウシュウで俺の後をついて来た薄汚れた莉音は、もう存在しない。
ここにいるのは、紛れもなく可憐な少女の莉音だ。
「本当でありますね。確かに可愛らしいであります。はい」
「莉音ちゃん、すっごく綺麗だよ~~」
「ありがとう。穂乃果さん、花乃果ちゃん。さあ、中に入って、みんないるから」
莉音の標準語も板についてきた。明日からは俺と同じ緑扇館学園の生徒だ。
室内に入ると女性独特の甘い香りが充満している。
みんなもここで着替えを済ませたみたいだ。
「おお、グーグ、いいとこにきたネ。背中のチャック閉めてほしいあるヨ」
相変わらずメイは遠慮がない。
メイはチャイナドレスのイメージだが、今回は普通のドレスだ。
狐顔のメイのシックな感じのドレスが似合っている。
「ほら、閉めたぞ」
「サンキューなのネ」
部屋は2つに分かれており、雫姉と聡美姉は奥の部屋にいるようだ。
着替え中なら悪いので出てくるまで待つつもりだ。
「ほら、今度は穂乃果と花乃果の番ネ、着替えないと時間ないあるヨ」
穂乃果と花乃果はメイと莉音に連れられて奥の部屋に行ってしまった。
代わりに珠美が着飾って登場する。
「あ、お兄ちゃん、どう珠美のドレス」
「フリフリがいっぱいついてて可愛いぞ。珠美によく似合ってる」
「ほんと、うれしい。少しお化粧もしたんだ。ルージュも塗ったんだよ」
薄化粧だが、きちんと珠美の良さを引き出している。
「本当だ。ますます可愛くなっちゃったな」
「えへへへ」
そう言うと珠美は照れながらも嬉しそうだった。
珠美と話しながらテレビを見ていると今日のミニ・コンサートをした『苺パフェ8』話題が取り上げられていた。
テレビ局の取材は来なかったのに、と思っていると、観客が撮影した動画サイトの映像が流れている。
『いや~~凄い動きですねえ』
『この子達、みんなまだ小学生ですよ。体操選手になったらオリンピックとか出れそうですけど』
司会とコメンテーターが掛け合いで会話してる。
確かに迫力はあった。
「すごーい。花乃果ちゃんがテレビに出てる~~」
珠美は驚いた様子で、みんなに伝えに奥の部屋に行ってしまった。
さて俺も着替えないと……
そう思ってると聡美姉が奥の部屋から顔と手を出して手招きしてる。
着替えが終わったようなので、俺も奥の部屋に行くと大きなキャリーバッグを渡された。
「カズ君、悪いけどそれ持って隣の部屋で着替えてくれる。必要なものは全て入ってるからキチンと着替えてね」
「わかった」
着替えはまだ終わってなかったようだ。
俺は、この部屋を出て隣の部屋3102号室に向かう。
俺の後をメイが同じようなキャリーバッグを引っ張って付いて来た。
◇
部屋に入ってキャリーバッグを開けた俺は、少し戸惑っていた。
ここが日本でなければ何も考えずに着替えていただろう。
「確かに、珠美や花乃果、莉音のいる前では着替えられないな」
「そうネ、でもこれ必要だから用意したあるヨ。私がここまで運んだあるネ」
聡美姉の考えがあるのだろう。
中に入ってたメモには、総代も了承済みと書かれている。
「グーグ、早く着替えるネ」
「わかったよ」
素肌の上に着るの防弾チョッキだ。
最新型の薄くても銃弾を通さない優れものだ。
そして、その上にワイシャツを着る。
これの使われている繊維も特別性だとわかる。
「なあ、メイ。詳しい話は聞いているか?」
「ううん、聞いてないあるヨ」
今まで履いていたズボンを脱いで用意されている黒地に薄っすらストライプの模様が入っているズボンを履く。
雫ねえが調整してくれたようでサイズもピッタリだ。
そして、普通ならここで装着するはずのものをあえて俺はしなかった。
それが、かつてのスタイルだからだ。
キャリーバッグの中に入っていた銀色のアタッシュケース。
中を開くと懐かしい玩具が入っている。
Beretta U22 Neos……
俺の好きなイタリア製の拳銃が2丁入っている。
グリップを握り、銃の感触を確かめる。
勿論、2丁ともだ。
手に伝わる重みを筋肉が覚えているが、久し振りなので少し違和感がある。
俺は、それを構えてみると、まだ数ヶ月しか経ってないのに懐かしく感じた。
マガジンを取り出して10発の弾を詰め込む。
さっきより重みのました銃が今度はしっくりと手に馴染んだ。
予備のマガジンは4つ。
それぞれに弾を詰めておく。
どんな事態が待ち受けてるか知らないが、準備は入念に済ませておく。
俺はその2丁の銃を腰に挟んだ。
これが俺のいつものスタイルだった。
「メイの方はどうなんだ?」
メイのメイン武器はトンファーだ。
彼女はそれを太ももにセットできるホルダーに収めた。
そして、メイの銃は、SIG SAUER P239。
ドイツ製の小型の拳銃で9mmパラベラム弾が8発+1発装弾される。
メイも予備マガジンを2つ弾を入れてドレスの内側についてるポケットに仕舞い込んだ。
それぞれ、ポケットには、俺はいつものパチンコ玉を入れてあるし、小型ナイフも装備してある。
いつもならメイはナイフ付きの靴を使用するのだが、ドレスには流石に合わない。結って持ち上げた髪の毛の中に仕込んでいたようだ。
「どうだ、動きは阻害されないか?」
「うん、ドレスがヒラヒラが邪魔なのネ。もし、戦闘になったら切り裂いて短くするから問題ないあるヨ」
俺も動きを阻害されないように仕込めるだけ仕込んだ。
ユリアと暮らしていた頃の装備に比べれば大したことはないが、これでも普通の対人戦なら問題ない。
「なあ、俺の見間違いかもしれんが、キャリーバッグの中にロケットランチャーが入ってるんだが?」
「それ、私が入れたネ。こっちには、C4が幾つか入ってるネ。花火するあるヨ」
「プラスチック爆弾も持って来てるのか?何と戦うつもりなんだ。それは嵩張るから持ってかなくてもいいぞ」
「ひとつだけ持ってくネ。私、花火好きだしネ」
確かにメイは爆発系が好きだ。
派手なものに惹かれるらしい。
「さあ、行くか?」
「イエス、マイロード!」
やはり、ちびっ子達に教えたのはお前か、メイ……
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
付きまとう聖女様は、貧乏貴族の僕にだけ甘すぎる〜人生相談がきっかけで日常がカオスに。でも、モテたい願望が強すぎて、つい……〜
咲月ねむと
ファンタジー
この乙女ゲーの世界に転生してからというもの毎日教会に通い詰めている。アランという貧乏貴族の三男に生まれた俺は、何を目指し、何を糧にして生きていけばいいのか分からない。
そんな人生のアドバイスをもらうため教会に通っているのだが……。
「アランくん。今日も来てくれたのね」
そう優しく語り掛けてくれるのは、頼れる聖女リリシア様だ。人々の悩みを静かに聞き入れ、的確なアドバイスをくれる美人聖女様だと人気だ。
そんな彼女だが、なぜか俺が相談するといつも様子が変になる。アドバイスはくれるのだがそのアドバイス自体が問題でどうも自己主張が強すぎるのだ。
「お母様のプレゼントは何を買えばいい?」
と相談すれば、
「ネックレスをプレゼントするのはどう? でもね私は結婚指輪が欲しいの」などという発言が飛び出すのだ。意味が分からない。
そして俺もようやく一人暮らしを始める歳になった。王都にある学園に通い始めたのだが、教会本部にそれはもう美人な聖女が赴任してきたとか。
興味本位で俺は教会本部に人生相談をお願いした。担当になった人物というのが、またもやリリシアさんで…………。
ようやく俺は気づいたんだ。
リリシアさんに付きまとわれていること、この頻繁に相談する関係が実は異常だったということに。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる