インミシべルな玩具〜暗殺者として育てられた俺が普通の高校生に〜

涼月 風

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第80話 日曜日の夜は……(2)

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俺とメイは着替えを済ませて隣の部屋に行く。
みんなは部屋で紅茶を飲みながら談笑していた。

「あ、カズ君、着替え終わったみたいね」

聡美姉の言う着替えは装備の仕込みのことだと理解する。

「ああ、でも必要なのか?派手なのもあったし」
「うん、ちょっと使うかもしれないでしょう。最低限の準備はしとかなくちゃね」

よくみると聡美姉も雫姉も銃を仕込んでいるのがわかる。

「穂乃果はいいのか?」
「私は、このスタイルが標準であります」

穂乃果は銃を仕込んでないが、他の武器を仕込んでいる。

「あ、それとこのブローチ胸に付けといてね。カメラが仕込んであるから。映像はいつものチャンネルで見れるよ」

「ああ、わかった」

「みんなの分もあるから、それぞれ可愛いの付けといて」

「「「は~~い」」」

莉音、花乃果、そして珠美は綺麗なアクセサリーだと思っているようだ。

「じゃあ、そろそろ会場入りしようか?」
「総代のところに挨拶に行かなくてもいいのか?」
「うん、事前に連絡もらってるから大丈夫。それに行くと怖い人達がたくさんいるしね」

確かに総代の付き添っている警護官はハンパない強さだろう。

俺達は部屋を出て上階に上がる為、エレベーターの前で待機してると、同じ階にいた人もエレベーターの前に歩いて来た。

「あ、東藤くん、それに藤宮様まで……」

俺の名前を呼ぶ声の方を向くとそこには白金姉妹と中年男女が揃っていた。

「あ、生徒会長と葉月さん」
「こんばんは、会えてうれしいです。カズキ先輩」

白金葉月が嬉しそうに笑っている。

「おやおや葉月がここまで懐く男性も珍しいな。私は白金明宏、結月と葉月の父親だ。そして、こちらが私の妻、幸恵だ」

「白金様、初めましてお目にかかります。私は藤宮聡美です。そしてここにいる者達は私の屋敷にいる者達です」

聡美姉が挨拶をして順番に自己紹介をしていく。
白金家は藤宮家の支流でもあり、白鴎院家の支流でもあるらしい。

「東藤くんが来るなら、もう少しおしゃれをした方が良かったわ」
「生徒会長はそのままで充分綺麗ですよ」
「姉さんばかりずるいです。葉月はどうですか?」
「勿論、よく似合ってますよ」
「あ、ありがとうございます」

「まあ、葉月が照れるなんて、台風でも来そうね」
「やだ、ママ、変なこと言わないでよ」

仲の良さそうな家族だ。

俺達は偶然出会った白金家の人達と一緒に会場に向かうことになった。





42階にある広いスペースの会場には、綺麗に着飾った男女が歓談していた。
総代(白鴎院兼定)と百合子はまだ来てないようだ。

「何か場違いな場所だな」
「私もこういうのは好きじゃないんだあ」

こういう場に慣れているはずの聡美姉もこの雰囲気は好きではないらしい。

「私達、向こうで食べてるネ」

メイが珠美と花乃果そして穂乃果を誘って食事が並んでいる場所に向かった。

メイは食い気が優るんだな……

俺と聡美姉、そして雫姉がその場にいると、3人の若い男子が俺達のところに寄って来た。

何か見た目からちゃそうな奴らだ。

「そこにいるのは、藤宮聡美さんではありませんか?」
「本当だ。こういう場にはもう来ないかと思ってたけどね」
「まあ、藤宮家なら来てもおかしくないだろう。警護官としてな。そうか、もう警護官の仕事はできなよな。わははは」

聡美姉は俯いて小さくなってしまった。

「お前ら、何を言ってる!」

俺は思わず身体が動いてしまった。
だが、それを止めたのは聡美姉だ。
俺の服を掴んでいる。

「おや、君は誰だい?見かけない顔だね~~」
「名家じゃない人間が何しに来てるんだ?」
「この女の男じゃないか?男連れで同伴など来る場所を間違えているんだよ。わははは」

殺してもいいよな……うん、殺そう……

今度は、雫姉が近くに来て俺を止める。
ということは、この男達はそれなりの家柄だということだ。
だが、家柄など関係ない俺にとってはどうでもいいことだ。

「カズキ様、どうかお心をお静め下さい。これも聡美お嬢様の為ですから」

文句を言われるのが聡美姉の為、そうではない。
おそらく、こいつと問題を起こせば困るのは聡美姉だと言いたいらしい。

「まあ、そちらにいらっしゃるのは、黄嶋家の分家の方々ですか?」

尋ねたのは白金結月、生徒会長だ。

「貴女は、確か白金家の方でしたね」

「ええ、白金結月ですわ。そうですわね。あちらで歓談されませんか?黄嶋家は芸術にお詳しいとのこと。本家の方ではないのが残念ですが、分家の方々でも最低限の目利きはおできになるのでしょう?私はこう見えても幼い頃から芸術に親しんでおります。黄嶋家の琴音様からもお褒めに預かった事があるのですよ。どうですか?お詳しい話をあちらで、そうですね。黄嶋家、所有のモネの作品のことでもお教えくださいませんか?」

「ほう、モネの話をねl
「真也兄さん、もう行こう」
「そうだな、琴音様のお知り合いなら仕方がない。行こう」

そのチャラそうな男3人組は別の場所に行ってしまった。

「結月さん、この度はご面倒をおかけして申し訳ありません」

聡美姉は、生徒会長に頭を下げる。

「いいえ、こちらこそ何もできず申し訳ありません。名家の支流に過ぎない白金家ではこれ以上のことができませんでした。お許し願います」

「すまない」

俺も生徒会長に頭を下げる。
どうやらここは、殺しの力はあっても役に立たない世界の戦場らしい。

「東藤くんも短気は損気ですよ。ここでは短慮な行動をした者は生きていけません。戦い方にもいろいろあるのですよ」

「わかった。気をつけよう……」

一度学べば二度と同じ過ちは起こさない。
世界は別でも二度も三度も繰り返せば当然最後には『死』あるのみだ。
だが、藤宮家は名家としても有名なはず、聡美姉はなぜ言いたい放題言われていたんだ?

「あちらにお食事の用意もありますよ。総代が来られるまでお腹を満たしませんか?」

雫姉が気持ちを切り替えようと提案している。
多分、それが正しいのだろう。

「聡美姉、行こうか」
「うん、カズ君……」

そうして、俺達は場所を移動する。

「あのね、カズ君、私……」
「何か事情があるんだろう?」
「うん、聞いてくれる?」
「ああ、構わないよ」
「私ね、藤宮家の次女でしょう。小さい頃からあるお嬢様の警護官としてお側についてたんだ」
「そうか、それが黄嶋家なんだな」
「そう、黄嶋家、本家の長女綾音様の警護官だったの」
「そうか……」

「藤宮の家は名家としては1番古いんだよ。それは、武芸に秀でていたから。歴史の中では活躍した人物もいるんだ。でもね、第二次世界大戦で米国に負けてGHQに占領されると藤宮の家は急速に衰えたの。だって、戦うしか術のない一族は平和な時代にはいらないものね。軍部に影響力のあった藤宮家はGHQに目をつけられて、殆どの財産を没収させられた。残ったのは僅かな土地と名前だけなんだ」

「その僅かな資産のうち、今俺が厄介になってる屋敷も含まれるのか?」

「そうだよ。本家にもお屋敷が残ってる。私が住んでる別邸は、お祖父様のお父様が女を囲っていた場所なんだ」

そういう事か……

「お祖父様は、昔から本宅よりも今の別邸が好きで小さい頃から訪れては遊んでいたらしいよ。だから、隠居した後はあの別邸に住んで後継者の指導に当たってたんだ」

「紫藤さんや穂乃果の家も指導を受けた家というわけだな」

「そうだよ。元は藤宮家の支流でそこの次男、三男とかの人の行き場を確保する目的もあったみたい。でも、時代の流れで戦闘能力よりも経済性を求める人も多くて抜けていった人達もたくさんいると聞いたよ」

確かに生きてく為にはお金が必要だ。

「戦後、戦闘能力しかない藤宮家は、他の名家の警護官としての生業を身につけたんだ。でも、それが他家にとって見下される要因にもなったんだよ」

「雇用主と従業員の関係みたいなものか?」

「まさにそうだよ。それでね、話は戻るけど、私も小学生の時に黄嶋綾音様の警護官としてお勤めをしていたんだ。でも、ある日事件が起きて……綾音様に怪我を負わせてしまったの。私は守るべき相手に怪我をさせた警護官失格なんだよ」

ああ、それであの黄嶋家の奴らが絡んできたのか……
でも、その綾音とかいう女性か若しくは直系のものがチャチャを入れるなら理解できるが、分家の小倅が文句を言うのは筋違いだと思う。

「そうだったのか……それで、その綾音とかいう女性は生きているんだろう?」
「う、うん……歩けなくなっちゃったけどね。車椅子で生活してるよ」

それが聡美姉の心の傷……

「そうか、辛い話をすまなかった」
「ううん、カズ君にいつか聞いてもらおうと思ってたんだ。話せて良かったよ」

だから、聡美姉はあの分家の小倅に言い返さなかったのか。
直接関係ないとしても黄嶋家の人間。
問題を起こせば本家にも伝わる。

くそったれな世界だな、この名家の世界ってやつは……

気に食わなかったら殺せばいい。
俺のいた世界とは随分違うようだ。

『おおーー!』

『パチパチパチ……』

会場がどよめき拍手がかわされる。

現在の名家のトップ、白鴎院家の登場だ。

俺の目には、拍手で迎えられる白鴎院兼定と百合子が写っていた。



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