付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話

頼瑠 ユウ

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1章

第三十三話:解決策

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「お願い、ユート――私と、ずっと一緒に居て――!」

 悠斗に抱きしめられながら、綾乃は声を震わせた。

「やっと、ユートと恋人になれたのに、こんな事でまた離れるなんて絶対に嫌……!」

 ギュッと彼の服を掴む。

「学校も辞めるっ、家からも出ない。ユートにもおばさん達にも迷惑かけるのは、分かってるけど――でも……!」

 縋る様に、

「ユートと、居たい……!」

 小さい、悲痛な叫びだった。

 気付いた時には、悠斗は彼女を抱きしめる力を強めていた。

「俺も、綾乃と一緒に居たい。これから、どんな事があっても俺は綾乃の傍に居る。だから、泣くな」

 彼女を一人にさせたくない。

 彼女の手を離したくない。

 彼女をこれ以上、悲しませたくない。

 上条悠斗は心からそう思った。

 そして、自分に出来る事など限られていると身の程も弁えている。

「――そうだ、綾乃。俺に良い考えがある。それで全部解決だ」

「……?」

 悠斗の胸に顔を埋めていた綾乃は僅かに身を離した。

 この不安しかない状況で、彼の言葉からは自信を感じる。

 悠斗は、綾乃の手を取りその目を真っ直ぐに見た。



「――結婚しよう」



 シンプルで短く、力強い一言。

「――――」

 そう来るとは予想外だったのだろう。

 綾乃は息を呑む。

 心臓が大きく脈を打ち、痛い位に暴れ出す。

 身体の奥が熱くなる。

「ま、また突然ね!?」

「迷惑だったかな?」

「ぁぅ……」

 寂しそうで困った様に尋ねられ、綾乃は小さく喘いだ。



『もう一度、言わせてくれ。俺は綾乃が好きだ。大事な中学の三年間無駄にさせたけど、これからの三年間は絶対に無駄になんかさせない! 苦しい思いも寂しい思いも、させたりしない。それに、もしも許してくれるのなら卒業してからもずっと、傍に居たい――居させて欲しい』
『この手をまた繋いでくれるなら、俺は絶対に離さないから』

『俺の――綾乃を想う気持ちだけは、誰にも負けないから』

『分からないようだから、はっきり言っておく――俺の女に手を出すな』

『あぁ、一生大事にする』

『なら、ちゃんと責任が取れるようになったら改めて言うよ』

『勿論です。彼女が望んでくれる限りは、卒業した後も一緒に居たいと思っています』

『綾乃は、一人じゃないんだよ。これからはずっと俺が一緒に居るから』



 彼の言葉のどれもが、真剣だった。

「まぁ、まだ俺はガキだし、責任なんて取れる事もほとんど無いんだけど……何があっても、綾乃の傍に居る事は出来るから」

 もう一度、悠斗は綾乃の目を真っ直ぐに見て、照れくさそうに笑う。

「どうかな。綾乃は俺のお嫁さんになってくれる?」

 綾乃はキュッと悠斗の手を握り返す。

 ――色々な想いが頭に浮かび、心を廻る。

 そんなものは決まっている。

 七年前から何一つ変わっていない。

「――な……るぅ……」

 絞り出す様に、

「ユートの――お嫁さんに、なりたい……っ!」

 ポロポロと涙を溢しながら、一ノ瀬綾乃は上条悠斗のプロポーズを受け入れた。

「……マジ?」

「まじよ゛ぉ゛、ばがぁ……!」

 えぐえぐと泣く綾乃を、改めて悠斗は抱きしめた。

「良かった。振られたらどうしようかと思ったよ」

「――私がアンタを振る訳無いでしょぉ」

「でも、指輪も無くてごめんな。ホントはもっとちゃんと準備してプロポーズをしたかったんだけど」

「良い。もう、十分過ぎる位だから」

 背を擦りながら言う悠斗に綾乃は猫の様に甘えながら、

「でも、本当にどうするの? このままじゃ、月曜にあのバカが私らのクラスに来て、告白してくるのよ――って、想像したら気持ち悪くなって来ちゃった……もっと、ギュッとして」

「はいはい。綾乃は俺以外の男の事なんか考えなくて良いからなー」

「わーい、私の婚約者って束縛するタイプだったぁー」

 へへへ、と二人で力無く笑う。

「まぁ、こうなってくると俺達だけで収まる話でも無くなってきた。少なくとも月曜までは猶予はある。ちゃんと、母さん達に相談しよう。それと学校と警察にも。それで一緒になんとかしよう。だから、綾乃は俺と居てくれ」

「うん」

 お互いの存在を確かめる様に、より身体を密着させた。

「……所でさ、ホットケーキってもう冷めちゃってるよね?」

「もう、パサパサだろうな」

「メイプルシロップいっぱいかけて良い?」

「べちゃべちゃにしちゃえ」

「まぁ、私が買ってきた奴なんだけどさ。……あ、そうだ、餡子も買って来たわよ。粒の方」

「分かってるじゃん。流石、俺のお嫁さんだ」

「まだお嫁さんじゃないけどねー」

「細かい事は良いんだよー」

 自分達が何に悩んでいたのか忘れる程に、安心感があった。

 そして、同時にドキドキと胸が高鳴る。

「綾乃」

 悠斗は彼女の頬に手を添えた。

「――まぁ……うん」

 優しいキスだった。

 短く触れただけでは、満足する訳も無く――。

 求めて、ねだられて、また求めて。

 拙くて、不器用で、もどかしくて、でも満たされて――のぼせる様だった。

「ん……ちょ――キス、長っ」

「ごめん。ちょっと……」

 綾乃は息苦しくて身体を離すが、悠斗は彼女の腰に手を回す。

「ぁ~、そういう感じになっちゃった?」

「まだ、我慢出来る所では……ある、けども」

「なる、ほど……」

 互いに僅かに視線を逸らす。

「でも――その……結局、私――『アレ』は買ってないし」

「いや、その……ゴム的なモノは、もう用意してある」

 綾乃の顔が一気に真っ赤になった。

 悠斗は、彼女の様子を気に掛けながら、

「ごめん。正直、ちょっとそういう期待してた。製造元のホームページを調べたから“その辺りの正しい情報”は、知識としてはある。だから……あとは綾乃次第、かな」

 悠斗は綾乃から手を離した。

 あくまでも、彼女の気持ちを一番にしたい。

 俯いた綾乃に、

「ごめん。やっぱり行き成り過ぎだよな。温かい紅茶でも――」

 罪悪感と自己嫌悪を感じた悠斗が言い終わる前に、綾乃は彼の袖を摘まんだ。




「――部屋……いこ?」
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