俺の味噌汁が、どうやら世界を救うらしい

ヌー

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一章:異世界召喚

7.

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「アリシアス様! 今の叫び声は一体!?」
「お怪我はございませんか!!」

 アリシアスの絶叫を聞きつけた兵士たちが、扉をぶち破る勢いで部屋に雪崩れ込んでくる。あっという間に数十人の兵士にベッドの周りを囲まれ、俺は慌てて両手をあげて無実をアピールするが然程意味はなさそうだった。

「やはり聖女様というのは嘘だったのか!? この不届き者!」
「最初っから違うって言ってんだろ!?」
「聖女を騙るだけではなく、アリシアス様を襲おうとするなど言語道断! 今すぐ極刑に処しましょう!」
「待て待て待て落ち着け! 今の状況見てくれよ! どこからどう見たって襲われてんのは俺だろ!?」

 口々に叫ぶ兵士たちと同じ声量で返すが、そこで気が付く。
 今の俺たちはベッドの上で、アリシアスは顔を真っ赤にして肩を震わせている。先程までは俺が押し倒されていたが、今この瞬間だけを切り取ってみれば、俺が嫌がるアリシアスに無体を働いたと見られてもおかしくないかもしれない。

 いや、確かに。経験のなさそうな無垢な青年に、キス(と呼べるようなものではないが)をしたのは俺だ。
 だけどそれは、断じて下心からではない。国のために頑張る王子様を労わってやりたいとか、そういう気持ちがあったのだ。でも当の本人であるアリシアスは真っ赤になって震えていて、――あれ? もしかして俺、やっちまったのか?

 傍から見たら嫌がるアリシアスにキスをした不届き者、と捉えられても仕方がない。頭のてっぺんから爪先まで、一気に血の気が引いていくような感覚が走る。きっと今の俺の顔は、アリシアスとは正反対に真っ青になっているだろう。

「ははは、面白い男だな! やはり俺が見込んだだけのことはある!」

 兵士の間から割って現れた魔族の王、――ルヴァが、大きく笑った。

 おい今出てくるな話が拗れる!

 そう目で訴えたが、ルヴァには当然伝わらない。知らぬ存ぜぬといった風采でベッドの横に立ったルヴァは、口元に手を添え「ふむ」と俺たちを見下ろした。

「アリシアス。やはりお前にこの男は扱えまい。聖女でないと言うのなら、俺が貰い受けよう。構わないだろう?」
「なっ……! 構うに決まっているだろう! 勝手なことを言うな!」
「そう吠えるな。この男に聖女の力がないのは明らかだろう。この国にとっては無用の長物であるはずだ。だが俺は違う。力の有無は関係ない。『召喚された』という事実だけで良いのだ。それだけで、俺の花嫁になる条件は十分に揃っている」
「だ、だがしかし……!」
「このままここにこいつを置くのか? お前の臣下達は、こいつの首を跳ねようとしているが? ……なあ男よ、戒斗といったか」
「あ、はい」

 アリシアスとルヴァの口論を完全に部外者として見守っていたが、急に話を振られて驚いてしまう。ベッドの上であぐらをかいたまま「なんすか」と問い返せば、ルヴァは楽し気に笑った。

「二つに一つだ、今選ぶが良い。このままここに残り処刑を待つか、俺と来るか」
「究極の選択過ぎねえ!? えーと、それ以外に選択肢は……」
「ないな」

 ないのかよ! 叫びたくなるのをぐっと堪え、俺は拳を握る。
 正直言ってしまえば、どちらの選択肢も選びたくない。理不尽過ぎる。
 処刑なんて言われて当然受け入れられるはずがないし、得体のしれない魔族の王様とやらについていくのだって嫌だ。夢なら早く醒めてくれ。

 そう願うが、この夢が醒める気配は相変わらずちっともなかった。
 ――まあ、生きるか死ぬかだったら、選びたい道は決まっている。前者だ。何が悲しくて黙って処刑されるのを待たなきゃなんねーんだ。

「……それじゃあ」
「待て!」
「おわっ!?」

 ルヴァの方へと向き直った瞬間、強く手を引かれる。身構えていなかった俺は、手を引かれる勢いのままにアリシアスに抱き寄せられる形になった。胸元に俺を引き寄せたアリシアスは、そのまま俺をぎゅうと抱き締めた。おもちゃを誰にも獲られたくない子どもみてえ、――と思ったのは、更に話が拗れそうなので黙っておく。

「……戒斗は、私達が召喚したんだ。誰にも渡さない。たとえ今は力がなくとも、この後目覚めるかもしれないだろう。な、戒斗!」
「な、って言われても……。俺、本当に期待されてるような力なんてねーよ? ほら見ろ、ただのおっさんだし……」
「それでも、何か一つくらいは特技があるだろう! 古より、もともと兼ね備えている力を伸ばすことも能力の開花には大切だと言われているんだ。何でもいいぞ、何か思い当たるところはないか?」
「ええー……、そう言われてもなあ……」

 ンなもんねえよと突っぱねそうになるが、堪えたのは俺を見下ろすアリシアスがあまりにも必死だったからだ。散々頭を悩ませて数十秒、――俺の頭にひとつの可能性が浮かぶ。
 あまりにも不思議な世界に巻き込まれてしまったせいで思考が回っていなかったが、あるじゃん。俺にも、特技って言えるもんが。

 アリシアスの腕から抜けて、遠慮がちに手を上げる。室内にいる奴ら全員の視線が刺さるのを感じながら、俺は遠慮がちに口を開いた。

「料理。俺、料理ができます」
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