7 / 8
一章:異世界召喚
7.
しおりを挟む
「アリシアス様! 今の叫び声は一体!?」
「お怪我はございませんか!!」
アリシアスの絶叫を聞きつけた兵士たちが、扉をぶち破る勢いで部屋に雪崩れ込んでくる。あっという間に数十人の兵士にベッドの周りを囲まれ、俺は慌てて両手をあげて無実をアピールするが然程意味はなさそうだった。
「やはり聖女様というのは嘘だったのか!? この不届き者!」
「最初っから違うって言ってんだろ!?」
「聖女を騙るだけではなく、アリシアス様を襲おうとするなど言語道断! 今すぐ極刑に処しましょう!」
「待て待て待て落ち着け! 今の状況見てくれよ! どこからどう見たって襲われてんのは俺だろ!?」
口々に叫ぶ兵士たちと同じ声量で返すが、そこで気が付く。
今の俺たちはベッドの上で、アリシアスは顔を真っ赤にして肩を震わせている。先程までは俺が押し倒されていたが、今この瞬間だけを切り取ってみれば、俺が嫌がるアリシアスに無体を働いたと見られてもおかしくないかもしれない。
いや、確かに。経験のなさそうな無垢な青年に、キス(と呼べるようなものではないが)をしたのは俺だ。
だけどそれは、断じて下心からではない。国のために頑張る王子様を労わってやりたいとか、そういう気持ちがあったのだ。でも当の本人であるアリシアスは真っ赤になって震えていて、――あれ? もしかして俺、やっちまったのか?
傍から見たら嫌がるアリシアスにキスをした不届き者、と捉えられても仕方がない。頭のてっぺんから爪先まで、一気に血の気が引いていくような感覚が走る。きっと今の俺の顔は、アリシアスとは正反対に真っ青になっているだろう。
「ははは、面白い男だな! やはり俺が見込んだだけのことはある!」
兵士の間から割って現れた魔族の王、――ルヴァが、大きく笑った。
おい今出てくるな話が拗れる!
そう目で訴えたが、ルヴァには当然伝わらない。知らぬ存ぜぬといった風采でベッドの横に立ったルヴァは、口元に手を添え「ふむ」と俺たちを見下ろした。
「アリシアス。やはりお前にこの男は扱えまい。聖女でないと言うのなら、俺が貰い受けよう。構わないだろう?」
「なっ……! 構うに決まっているだろう! 勝手なことを言うな!」
「そう吠えるな。この男に聖女の力がないのは明らかだろう。この国にとっては無用の長物であるはずだ。だが俺は違う。力の有無は関係ない。『召喚された』という事実だけで良いのだ。それだけで、俺の花嫁になる条件は十分に揃っている」
「だ、だがしかし……!」
「このままここにこいつを置くのか? お前の臣下達は、こいつの首を跳ねようとしているが? ……なあ男よ、戒斗といったか」
「あ、はい」
アリシアスとルヴァの口論を完全に部外者として見守っていたが、急に話を振られて驚いてしまう。ベッドの上であぐらをかいたまま「なんすか」と問い返せば、ルヴァは楽し気に笑った。
「二つに一つだ、今選ぶが良い。このままここに残り処刑を待つか、俺と来るか」
「究極の選択過ぎねえ!? えーと、それ以外に選択肢は……」
「ないな」
ないのかよ! 叫びたくなるのをぐっと堪え、俺は拳を握る。
正直言ってしまえば、どちらの選択肢も選びたくない。理不尽過ぎる。
処刑なんて言われて当然受け入れられるはずがないし、得体のしれない魔族の王様とやらについていくのだって嫌だ。夢なら早く醒めてくれ。
そう願うが、この夢が醒める気配は相変わらずちっともなかった。
――まあ、生きるか死ぬかだったら、選びたい道は決まっている。前者だ。何が悲しくて黙って処刑されるのを待たなきゃなんねーんだ。
「……それじゃあ」
「待て!」
「おわっ!?」
ルヴァの方へと向き直った瞬間、強く手を引かれる。身構えていなかった俺は、手を引かれる勢いのままにアリシアスに抱き寄せられる形になった。胸元に俺を引き寄せたアリシアスは、そのまま俺をぎゅうと抱き締めた。おもちゃを誰にも獲られたくない子どもみてえ、――と思ったのは、更に話が拗れそうなので黙っておく。
「……戒斗は、私達が召喚したんだ。誰にも渡さない。たとえ今は力がなくとも、この後目覚めるかもしれないだろう。な、戒斗!」
「な、って言われても……。俺、本当に期待されてるような力なんてねーよ? ほら見ろ、ただのおっさんだし……」
「それでも、何か一つくらいは特技があるだろう! 古より、もともと兼ね備えている力を伸ばすことも能力の開花には大切だと言われているんだ。何でもいいぞ、何か思い当たるところはないか?」
「ええー……、そう言われてもなあ……」
ンなもんねえよと突っぱねそうになるが、堪えたのは俺を見下ろすアリシアスがあまりにも必死だったからだ。散々頭を悩ませて数十秒、――俺の頭にひとつの可能性が浮かぶ。
あまりにも不思議な世界に巻き込まれてしまったせいで思考が回っていなかったが、あるじゃん。俺にも、特技って言えるもんが。
アリシアスの腕から抜けて、遠慮がちに手を上げる。室内にいる奴ら全員の視線が刺さるのを感じながら、俺は遠慮がちに口を開いた。
「料理。俺、料理ができます」
「お怪我はございませんか!!」
アリシアスの絶叫を聞きつけた兵士たちが、扉をぶち破る勢いで部屋に雪崩れ込んでくる。あっという間に数十人の兵士にベッドの周りを囲まれ、俺は慌てて両手をあげて無実をアピールするが然程意味はなさそうだった。
「やはり聖女様というのは嘘だったのか!? この不届き者!」
「最初っから違うって言ってんだろ!?」
「聖女を騙るだけではなく、アリシアス様を襲おうとするなど言語道断! 今すぐ極刑に処しましょう!」
「待て待て待て落ち着け! 今の状況見てくれよ! どこからどう見たって襲われてんのは俺だろ!?」
口々に叫ぶ兵士たちと同じ声量で返すが、そこで気が付く。
今の俺たちはベッドの上で、アリシアスは顔を真っ赤にして肩を震わせている。先程までは俺が押し倒されていたが、今この瞬間だけを切り取ってみれば、俺が嫌がるアリシアスに無体を働いたと見られてもおかしくないかもしれない。
いや、確かに。経験のなさそうな無垢な青年に、キス(と呼べるようなものではないが)をしたのは俺だ。
だけどそれは、断じて下心からではない。国のために頑張る王子様を労わってやりたいとか、そういう気持ちがあったのだ。でも当の本人であるアリシアスは真っ赤になって震えていて、――あれ? もしかして俺、やっちまったのか?
傍から見たら嫌がるアリシアスにキスをした不届き者、と捉えられても仕方がない。頭のてっぺんから爪先まで、一気に血の気が引いていくような感覚が走る。きっと今の俺の顔は、アリシアスとは正反対に真っ青になっているだろう。
「ははは、面白い男だな! やはり俺が見込んだだけのことはある!」
兵士の間から割って現れた魔族の王、――ルヴァが、大きく笑った。
おい今出てくるな話が拗れる!
そう目で訴えたが、ルヴァには当然伝わらない。知らぬ存ぜぬといった風采でベッドの横に立ったルヴァは、口元に手を添え「ふむ」と俺たちを見下ろした。
「アリシアス。やはりお前にこの男は扱えまい。聖女でないと言うのなら、俺が貰い受けよう。構わないだろう?」
「なっ……! 構うに決まっているだろう! 勝手なことを言うな!」
「そう吠えるな。この男に聖女の力がないのは明らかだろう。この国にとっては無用の長物であるはずだ。だが俺は違う。力の有無は関係ない。『召喚された』という事実だけで良いのだ。それだけで、俺の花嫁になる条件は十分に揃っている」
「だ、だがしかし……!」
「このままここにこいつを置くのか? お前の臣下達は、こいつの首を跳ねようとしているが? ……なあ男よ、戒斗といったか」
「あ、はい」
アリシアスとルヴァの口論を完全に部外者として見守っていたが、急に話を振られて驚いてしまう。ベッドの上であぐらをかいたまま「なんすか」と問い返せば、ルヴァは楽し気に笑った。
「二つに一つだ、今選ぶが良い。このままここに残り処刑を待つか、俺と来るか」
「究極の選択過ぎねえ!? えーと、それ以外に選択肢は……」
「ないな」
ないのかよ! 叫びたくなるのをぐっと堪え、俺は拳を握る。
正直言ってしまえば、どちらの選択肢も選びたくない。理不尽過ぎる。
処刑なんて言われて当然受け入れられるはずがないし、得体のしれない魔族の王様とやらについていくのだって嫌だ。夢なら早く醒めてくれ。
そう願うが、この夢が醒める気配は相変わらずちっともなかった。
――まあ、生きるか死ぬかだったら、選びたい道は決まっている。前者だ。何が悲しくて黙って処刑されるのを待たなきゃなんねーんだ。
「……それじゃあ」
「待て!」
「おわっ!?」
ルヴァの方へと向き直った瞬間、強く手を引かれる。身構えていなかった俺は、手を引かれる勢いのままにアリシアスに抱き寄せられる形になった。胸元に俺を引き寄せたアリシアスは、そのまま俺をぎゅうと抱き締めた。おもちゃを誰にも獲られたくない子どもみてえ、――と思ったのは、更に話が拗れそうなので黙っておく。
「……戒斗は、私達が召喚したんだ。誰にも渡さない。たとえ今は力がなくとも、この後目覚めるかもしれないだろう。な、戒斗!」
「な、って言われても……。俺、本当に期待されてるような力なんてねーよ? ほら見ろ、ただのおっさんだし……」
「それでも、何か一つくらいは特技があるだろう! 古より、もともと兼ね備えている力を伸ばすことも能力の開花には大切だと言われているんだ。何でもいいぞ、何か思い当たるところはないか?」
「ええー……、そう言われてもなあ……」
ンなもんねえよと突っぱねそうになるが、堪えたのは俺を見下ろすアリシアスがあまりにも必死だったからだ。散々頭を悩ませて数十秒、――俺の頭にひとつの可能性が浮かぶ。
あまりにも不思議な世界に巻き込まれてしまったせいで思考が回っていなかったが、あるじゃん。俺にも、特技って言えるもんが。
アリシアスの腕から抜けて、遠慮がちに手を上げる。室内にいる奴ら全員の視線が刺さるのを感じながら、俺は遠慮がちに口を開いた。
「料理。俺、料理ができます」
40
あなたにおすすめの小説
病み墜ちした騎士を救う方法
無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。
死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。
死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。
どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……?
※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です
助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!
夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。 ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公
贖罪公爵長男とのんきな俺
侑希
BL
異世界転生したら子爵家に生まれたけれど自分以外一家全滅という惨事に見舞われたレオン。
貴族生活に恐れ慄いたレオンは自分を死んだことにして平民のリオとして生きることにした。
一方公爵家の長男であるフレドリックは当時流行っていた児童小説の影響で、公爵家に身を寄せていたレオンにひどい言葉をぶつけてしまう。その後すぐにレオンが死んだと知らされたフレドリックは、以降十年、ひたすらそのことを悔いて生活していた。
そして十年後、二人はフレドリックとリオとして再会することになる。
・フレドリック視点は重め、レオン及びリオ視点は軽め
・異世界転生がちょいちょい発生する世界。色々な世界の色々な時代からの転生者の影響で文明が若干ちぐはぐ。
・世界観ふんわり 細かいことは気にしないで読んでください。
・CP固定・ご都合主義・ハピエン
・他サイト掲載予定あり
僕に双子の義兄が出来まして
サク
BL
この度、この僕に双子の義兄が出来ました。もう、嬉し過ぎて自慢しちゃうよ。でも、自慢しちゃうと、僕の日常が壊れてしまう気がするほど、その二人は人気者なんだよ。だから黙って置くのが、吉と見た。
そんなある日、僕は二人の秘密を知ってしまった。ん?知っているのを知られてしまった?が正しいかも。
ごめんよ。あの時、僕は焦っていたんだ。でもね。僕の秘密もね、共有して、だんだん仲良くなったんだよ。
…仲良くなったと、そう信じている。それから、僕の日常は楽しく、幸せな日々へと変わったんだ。そんな僕の話だよ。
え?内容紹介が内容紹介になってないって?気にしない、気にしない。
【完結】異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます
七夜かなた
恋愛
仕事中に突然異世界に転移された、向先唯奈 29歳
どうやら聖女召喚に巻き込まれたらしい。
一緒に召喚されたのはお金持ち女子校の美少女、財前麗。当然誰もが彼女を聖女と認定する。
聖女じゃない方だと認定されたが、国として責任は取ると言われ、取り敢えず王族の家に居候して面倒見てもらうことになった。
居候先はアドルファス・レインズフォードの邸宅。
左顔面に大きな傷跡を持ち、片脚を少し引きずっている。
かつて優秀な騎士だった彼は魔獣討伐の折にその傷を負ったということだった。
今は現役を退き王立学園の教授を勤めているという。
彼の元で帰れる日が来ることを願い日々を過ごすことになった。
怪我のせいで今は女性から嫌厭されているが、元は女性との付き合いも派手な伊達男だったらしいアドルファスから恋人にならないかと迫られて
ムーライトノベルでも先行掲載しています。
前半はあまりイチャイチャはありません。
イラストは青ちょびれさんに依頼しました
118話完結です。
ムーライトノベル、ベリーズカフェでも掲載しています。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!
モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。
その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。
魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。
その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?!
ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる