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バースについて
「え、俺が使ってたやつはどうやってやるのかって」
「違う、方法じゃなくて。どういうものになるのか、と」
伯爵夫妻が帰る際に、クロードに声を掛けた。クロードが度々フォスに使っていた言葉掛け。命令をすると、精神不安定なフォスに言葉が届いていた。
「ああ、フェロモンを出す方法の応用だよ。こう、力を込めて」
「分からん」
「多分意識的にやるのが難しいだけで、無意識的にはやってると思う。怒ったり感情的になると多分そうなる、かな?」
クロードは曖昧な言い方をする。アルバは眉を顰める。説明しようと、うーん、とクロードは言うが説明は諦めたらしい。
「『座れ』」
「…………?」
「ああ、そうそう。その顔。面白いね。そうだね、フェロモンが効く相手しか通用しない。今俺が命令できるのはフォスだけ」
「番になっていたら、番だけか……」
「そうだね。まあこれ、一番得意なのはオメガだよ。発情してフェロモンで誘ってくるでしょ。あれと同じ原理だよ」
発情。アルバが思い出すのはリオールの匂いだけだ。甘くて暖かい匂いがする。匂いに温度などあるかと言われたら難しいが、暖かい気持ちになるのだ。
「これして、と言われると逆らう気が起きないようなそんなもの。でも例えば全くしたくないことを頼まれたら逆らえるような、そんな感じ」
「逆らえもするのか」
「そうだね。フォスが頭の中ぐちゃぐちゃになって何したらいいか分からなくなった時、落ち着くように使うかな。悪用したら嫌われちゃうから気をつけて」
アルバの胸によぎったのは、『死んでくれ』の言葉に強制力があったのか。あって欲しいのかも知れない。彼が絶望して死んだわけではないと、自分が殺した咎でありたいと。
「やりたくないことは強制できないよ。したいことをよりしたくさせるとか、したいともしたくないとも考えていないことをしたいに傾けることはできる。フラットな状態から選択肢を誘導することはできるかなあ。分からない。アルバ殿が発情期にオメガに言われていろんなことしてやりたいと思う気持ちと一緒だと思うけど」
「そうか……」
「そうだね。聞きたいことは、"それ"でよかった?」
「…………っ」
息を詰める。鋭い指摘だったから。アルバは父親の方針のもと勉学などは家庭教師に学び、剣術は父親から学び、稽古は他者と行ったが小さい頃のアルバに命の危険があるようなものであった。それを気にかけるような大人もいない。同年代は勿論いない。歳の近い人と話す機会はほとんどない。だからクロードのような存在が、アルバにはいなかった。
「『死んでくれ』と命令して、本当に死なせることができるのか」
「……そりゃ、また凄い話だね。やったことが分からないから"分からない"が返答」
「そうか……、そうだよな」
「ただ、フォスのように自分を傷付けたい願望があるオメガに対して言ったらどうなるかは分からない。リオールくんが、どうかは分からないけど。どうやら仲良いみたいだし、アルバ殿の為になると信じたらやっちゃうかも知れない。可能性の話」
クロードは真っ直ぐアルバを見ていた。茶化すでも、笑うでもない。クロードはアルバの問いに真剣に返していた。
「貴方は自分の妻に死んで欲しいと思うほど憎んでいるの?」
ハッとした。かつて、部下に同じように問われた。その時は何と答えただろう。確か、命令を必ず伝えるように憎んでいると答えた気がする。
「まさか。幸せになって欲しいだけだ」
「幸せ、ね。まあ今の話は聞かなかったことにするさ。フォスは意外とリオールくんに依存傾向あるし、傷付けようものなら怒り狂うから」
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