Starlog ー星の記憶ー

八城七夜

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Ogre

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居合の体勢で刀を構える千歳と拳を握りしめ構える千尋、この両名を前にしても魁の顔から笑みが消えることはなかった。

「なんか作戦みたいなのあるのか?千尋。」

千歳が千尋に問うと、千尋はニヤリと笑いながら魁にも聞こえるような大きな声でハッキリと言う。


「ない!」

「ソウダヨネー」

千歳も開き直り、二人はただ目の前にいる魁という敵に集中する。千尋は地面を蹴り、魁の正面から拳を突き出すが難なく防がれてしまう。

「愚直過ぎる、もう少し速さを活かさなければなりませんよ。千尋さん。」

すると魁の背後から千歳が鞘から抜いた刀を魁に向かって振り下ろすが、これも魁は千尋がやってきたように刀を持っている千歳の手を弾く。

「あなたのように素早いタイプの攻め方もわかりやすい、それにしても・・・」

魁は千歳の手に握られている刀の刃を見ると、千歳は魁に向かって刃ではなく峰打ちで振り下ろしていた。魁はそれが気に入らないようだった。

「どのみち防がれていたとはいえ峰打ちとは、刀は斬るためのものですよ?長門千歳。」

「木刀を千尋に折られましてね、生憎とアンタを斬るつもりもないんで。」

千歳に軽口を叩かれたことに腹を立てたのか魁は顔をしかめ、千尋の手首を掴み、弾かれた千歳に向かって思い切り投げ飛ばす。


「長門千歳、あまり私にナメた口を叩かないでいただきたい。思わず千尋さんを投げてしまいました。」

そう言いながら『ふぅ』とひと息つき、今の動作でズレた眼鏡を指でクイッと押し整える。

「くそっ、何気に強いじゃねえかあの人。」

「まあ一応うちの祖父さんの側近だからな、さてどうするか・・・」

すると千歳がなにかを思いついたのか千尋に小声で話しかける、千尋は半信半疑の表情で聞いていたがすぐに考えられる作戦もなかったためその作戦に乗ることにした。

二人は構え直すとまず先程と同じように千尋が迅速に魁に近づき左手の拳を放つ、魁は呆れながらも手のひらでそれを防ぐと千歳が千尋の陰から現れ刀を振り下ろすがこれも鬼山は千歳の手を弾き防ぐ。

すると千歳は刀を手放し下に落とすと千尋が右手でそれを受け取り、そのまま魁に向かって振るうと魁は上体をそらし避ける。

すると千尋が右手で刀を上に放り投げると千歳がそれを空中で受け取りそのまま再び魁に向かって刀を振り下ろす、すると魁の身体から影が吹き出し千歳と千尋の両名を吹き飛ばす。


魁の表情から余裕は消え、服装も乱れていた。平静を装い服装を直しつつ目の前の光景が鬼山の怒りを増幅させた。

「惜しかったな」

「あとちょいだったけどな、次どうするか・・・」

この二人自体は魁にとって大した相手ではない、しかし千歳と千尋が、有間と長門が協力している。これは魁にとって耐え難い状況であった。

ついには眼鏡を外し、地面に叩きつけると足で踏みにじり割ってしまう。

『はぁー・・・めんどくせぇ・・・』

そして、人間のものとは思えない禍々しい声が魁の口から発せられる。

『はぁー・・・めんどくせぇ・・・』

魁の口から発せられた声を聞いて、千歳たちは耳を疑った。声の響き方があまりに非人間的、まさしく異形のようだったからだ。

『この眼鏡も、邪魔だったがもう外すとしましょう。あとはこのような堅苦しい装いも・・・』

そう言いながら魁はキッチリと締めたネクタイを外し、ジャケットも脱ぐと地面に放り投げる。

『そして、この喋り方もめんどうだ。すまないが普段の口調に戻させてもらうよ、下等生物共。』

言い終えると魁は千歳と同様に黒い影を体に纏い、千歳と千尋を睨む。


ーーーなんとかなる。


そう思っていた千歳と千尋の希望を崩すには十分な存在感と威圧感、魁の放つ赤い眼光に睨まれた二人は思わずたじろいでしまう。

そこへ後ろから一人の人物が千歳と千尋の肩に手を置く。

「千尋、千歳くん。よく頑張ってくれた、あとは僕に任せて二人は下がりなさい。」

二人がバッと後ろを向くと、そこには千尋の父親である有間ありま 道雪どうせつが立っていた。物怖じする様子もなく、道雪は禍々しい雰囲気を放つ魁を真っ直ぐに見つめる。

「父さん!?そんな、父さんにあんなの相手できるわけが・・・」

「いいから、下がっていなさい。僕もね、彼を一発殴らないと気が済まないんだ。」

千尋は意外そうな表情を浮かべる、普段穏やかで戦いとは無縁だと思っていた父親が自ら戦いを望み、なおかつ千尋が見とこともない雰囲気を放っていたことに。

「おやおや、有間のご隠居が来るかと思えば・・・戦いが大嫌いな現当主様じゃないか。まさか、君が私の相手をすると?」

「その通りだ。今言ったように、僕はあなたを一発殴りたい気分なんだ。」

表情には出さずとも怒りの念に駆られている道雪、それに対し魁は侮蔑の笑みを浮かべる。


「戦う前にひとつ聞く、あなたは異形なのか?魁さん。」

道雪の問いに眉をピクっと動かしながら魁は『ふん』と鼻で笑う。

『異形だと?私をあのような野蛮なだけの下衆共と一緒にしないでもらいたいね。まぁだからといって、君たち人間のような脆弱な者共と一緒にされても困るのだが。』

「異形でもなく、人間でもない・・・」

少し考えた道雪は魁の正体に見当がついたのか、千尋と同じように拳を構え雷を身体に纏う。

「アンタは・・・『鬼』だったのか。」

『今頃気付いたかバカめ。そんなだから息子を利用され・・・っ!?』

言葉を言い終える前に魁の眼前に道雪の拳が光速で迫り、魁はこれを間一髪で避ける。が、魁の表情からは侮蔑の笑みは消え、焦りが出始めている。

魁は思い出す。万歳のような威圧感がなくとも、千尋のような天賦の才能がなくとも、自分が相手をしているのはあの有間家の現当主だということを。

「鬼だというのなら、容赦はしない。ましてや息子とその息子が愛する女性、この二人の愛情を利用するものならば、僕はお前を許しはしない!」

そう言いながら道雪は建御雷を顕現させ、『久しぶりだな』と声をかけるとすぐに建御雷の雷を身体に纏わせる。千尋が千歳との戦闘中に見せた神性体質の能力だ。

「千尋、よう見ておれ。あやつの戦いを、当主としての戦いを。」

呆気に取られる千尋に万歳が声をかける、千尋は『はい』と返事をしてただ父親の背中を見守る。
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