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千晶は起き上がると服についた土埃を手で払う、その悠然とした態度に鬼頭は不思議そうな表情を浮かべた。
鬼頭が千晶の顔を見ると殴り飛ばしたはずの頬に跡も腫れもなく、千晶の足下には薄い岩の破片が落ちていた。
(なるほど、岩の魔力を鎧のように纏ったのか。)
千晶の様子を見るに鬼頭があれだけの猛攻を仕掛け、千晶に与えたダメージは無に等しいものであった。
しかし鬼頭は落胆することなくファイティングポーズをとる。
(なら何度でも拳を叩き込んでやる、今は俺が圧倒してんだ。この勢いで行けば・・・!)
そう思った鬼頭は大地を蹴り一瞬で千晶の目の前に迫る、しかし千晶の表情に焦りはなかった。
「それだけか?」
突然、千晶に問いかけられるが構わず鬼頭は正拳突きを放つ。が、岩の壁に阻まれ千晶が杖で地面を叩くと鬼頭の脚が砂に捉えられ、そのまま投げ飛ばされる。
そして受け身をとった鬼頭に千晶は上空を指差し、次のように言った。
「他になにかあるのなら、出し惜しみはやめておけ。でなければお前は次の俺の攻撃で負ける。」
鬼頭が上を見上げると空には公園で最初に戦った時に千晶が作ったものと同じ岩のピラミッドがあった。
以前は脚を砂で捉えられ回避することが出来なかった、しかし今は先程のように闘気で砂を吹き飛ばすことができる。
鬼頭はそう思い黒い闘気を膨張させる、しかし突然身体がガクッと下に沈み足下を見ると地面に沼が形成されていた。
脚からゆっくりと沼に沈んでいき、慌てる鬼頭を見て進は驚愕の表情を浮かべた。
「バカな、ここに沼なんてなかったはず───」
進はまさかと思いながら千晶を見ると、千晶は笑みを浮かべ右手を空高くかざしていた。
千晶は戦いの中で自分の繰り出す攻撃に対して鬼頭がどういった反応を起こすのかを観察していた。
そして以前とは違い、鬼頭は脚を砂で拘束してもそれを解く術があった。そこで千晶は砂よりも拘束力があり、尚且つ鬼頭の機動力を奪うのに適した"沼"に彼の足下の地形を変えて拘束したのだ。
「俺の魔力の属性は岩じゃない、大地そのものだ。地形を変える程度のこと、造作もないんだよ。」
そう言って千晶が右手の指をパチンと鳴らすと頂点を下に向けたピラミッドが鬼頭に向けて落下していく。
(またなのか・・・!また俺は、凡人は、天才に負けるのか・・・!)
無理に抜け出そうともがいた結果、腰の高さまで沼に沈んだ鬼頭は身動きが取れず、落下してくるピラミッドをただ睨みつけることしかできない自身の無力さを恨んだ。
「おおおおおおおおぁぁ!!!」
ついには怒りの咆哮をあげ涙を流す、次第に鬼頭のあげる咆哮が人外じみたものへと変わっていく。
『あああ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!』
黒い闘気が鬼頭の感情の昂りに呼応するかのように急激に膨張しはじめる、そして右腕にはまるで異形が持つ巨大な爪を形成し、左肩からは不気味な肌色の長い腕が生える。
そして膨張した闘気は鬼頭を拘束する沼を地面ごと抉り取ると辺りへ吹き飛ばす、沼から脱出した鬼頭は再び上空のピラミッドを睨みつけると大地を蹴り飛翔する。
下を向いているピラミッドの頂点を右腕の巨大な爪で鷲掴み咆哮をあげながら力を入れ握りしめる、するとピシピシと音を立てながらピラミッドにヒビが入りはじめ、鬼頭の右腕の爪がピラミッドの頂点を握り潰すと同時に轟音をたてながらピラミッドは崩壊した。
ピラミッドの残骸は辺りに落下していき砂塵を巻き上げる、千晶は桐江のもとへと瞬時に駆けつけ彼女を守った。
ピラミッドの崩落が止みやがて砂塵も晴れると桐江の無事を確認し千晶はその場から離れた。
千晶はピラミッドの残骸が散らばる戦場に戻り、そこに佇む鬼頭と再び対峙する。
そして鬼頭の姿を目にした千晶はそのあまりの変化に驚きの表情を見せた。
「おいおいマジかよ・・・お前、その姿はまるで・・・」
右腕の巨大な爪、左肩から生える不気味な肌色の長い腕、そして臀部からは長い尻尾が生えていた。目つきも人間のそれとはかけ離れており、まさに"異形"と呼んでも差し支えないほどの禍々しい姿へと変容を遂げていた。
この鬼頭の予期せぬ変化に進も驚き戸惑う。
「なんだ、この変化は・・・私はこんなの知らないぞ・・・」
そして鬼頭は千晶を視界に捉えると口角を上げてニヤリと笑いながら大地を蹴り、真っ向から千晶に突進する。
右腕の爪を無造作に振るうと千晶は岩の壁で防ぐが、爪は岩の壁を簡単に砕き千晶を襲う。千晶はギリギリ回避するが鬼頭は身を翻し尻尾を鞭のようにしならせて振るう。
尻尾の打撃を杖でなんとか防ぐがあまりの衝撃に後ずさる。
(パワーもスピードも、"人間離れ"なんてレベルじゃねぇな。とんでもねぇもん作りやがってあの親父・・・!)
心の中で恨み言を言いながら進を見ると、千晶には父がなぜかうろたえてるように見えた。
「どこで・・・なにを、間違えたんだ。私は、私は・・・」
進は小声でつぶやきながら異形に近い存在へと変異した鬼頭を見つめていた。
『こんなはずではなかった。』
そう心の中で繰り返しながら、進は己の過去を思い返す。
─────
───
─
私の妻は幼い頃から身体が弱かった、幼なじみである私は彼女が他の子達のように元気に外で遊べないのを不憫に思っていた。
幼い頃から彼女に恋心を抱いていた私は他の子達と外で遊ぶことはせず、彼女の家で一緒に本を読んだり彼女が休んでいる間に学校で起きたりしたことを話したりして楽しく遊んでいた。
時折、家の塀の向こうから子供達の元気に走る音や楽しそうな声が聞こえた時、彼女はふと羨ましそうな表情を浮かべ、それを見る度に私の心は締め付けられたように痛んだ。
年月が経ち中学に上がっても彼女の体質は改善されず学校を休みがちになり、彼女自身も半分諦めていたようにも見えた。
中学でも相変わらず私は彼女の家で彼女に勉強や宿題を教えたり、観たテレビ番組の話などをして遊んでいた。
彼女のご両親も幼なじみである私が変わらず娘と仲良く遊んでいるのがありがたかったらしく、そして彼女は私と遊んでいる時が一番元気だと私を歓迎してくれていた。
そんなある日、彼女が突然私に問いかけてきた。
「進くんは、私と遊んでて楽しい?」
「え、当たり前じゃないか、君は僕の一番の友達さ。」
"なぜそんなことを聞くのだろう?"そんなことを思いながら読んでいた本から視線を外し、私が彼女の目を見つめて質問に答えると彼女は安堵の表情を浮かべた。
「私って外に出られないじゃない?千晶くんは男の子だから、外で遊びたいんじゃないかなって。」
彼女の言葉を聞き、私は"そんなことか"とため息をついた。
「僕はあまり運動が得意じゃなくてね、それに・・・僕は君と一緒にいるのが好きなんだ。」
言い終えたあとでなにか恥ずかしいセリフを言ったような気がして私は彼女の顔を見ると、彼女の頬はほんのりと赤く染まっていた。つられて私まで恥ずかしくなり読んでいた本で顔を隠した。
そしてほんの数秒の沈黙のあと、彼女が口を開いた。
「それって、私のことが好きってこと・・・?」
彼女の言葉に返す照れ隠しの言葉も思い浮かばず、私は本を閉じて机の上に置き、紅潮した顔で彼女と向き合った。
「そ・・・そうさ、僕は君のことが前から好きだったさ。」
そしてまっすぐな好意を彼女に伝えた、彼女は一瞬嬉しそうな表情を浮かべたがすぐに顔を俯かせた。
「それって、私の身体が弱くて・・・"可哀想だ"と思ったから?」
「違う!」
彼女の言葉を私は即座に、シンプルに否定した。私は同情や哀れみという、そんな不純な感情で彼女を好きになったわけでは断じてないからだ。
「僕は君の、静かで優しい性格が好きだ!もし君が自分の身体の弱さを負い目に感じているのなら、僕が"変えて"みせる!」
私が彼女の前で声を張り上げたことなどその時まではなかった、彼女の唇が小さく震え両眼から涙を流しながら一言つぶやいた。
「ありがとう。」
その時から私と彼女の関係が親友から恋人に"変わった"。
読んでいた本は漫画から医学書に、そして医学書から科学書へと"変わった"。
そして医者を志していた私は科学者になった。
鬼頭が千晶の顔を見ると殴り飛ばしたはずの頬に跡も腫れもなく、千晶の足下には薄い岩の破片が落ちていた。
(なるほど、岩の魔力を鎧のように纏ったのか。)
千晶の様子を見るに鬼頭があれだけの猛攻を仕掛け、千晶に与えたダメージは無に等しいものであった。
しかし鬼頭は落胆することなくファイティングポーズをとる。
(なら何度でも拳を叩き込んでやる、今は俺が圧倒してんだ。この勢いで行けば・・・!)
そう思った鬼頭は大地を蹴り一瞬で千晶の目の前に迫る、しかし千晶の表情に焦りはなかった。
「それだけか?」
突然、千晶に問いかけられるが構わず鬼頭は正拳突きを放つ。が、岩の壁に阻まれ千晶が杖で地面を叩くと鬼頭の脚が砂に捉えられ、そのまま投げ飛ばされる。
そして受け身をとった鬼頭に千晶は上空を指差し、次のように言った。
「他になにかあるのなら、出し惜しみはやめておけ。でなければお前は次の俺の攻撃で負ける。」
鬼頭が上を見上げると空には公園で最初に戦った時に千晶が作ったものと同じ岩のピラミッドがあった。
以前は脚を砂で捉えられ回避することが出来なかった、しかし今は先程のように闘気で砂を吹き飛ばすことができる。
鬼頭はそう思い黒い闘気を膨張させる、しかし突然身体がガクッと下に沈み足下を見ると地面に沼が形成されていた。
脚からゆっくりと沼に沈んでいき、慌てる鬼頭を見て進は驚愕の表情を浮かべた。
「バカな、ここに沼なんてなかったはず───」
進はまさかと思いながら千晶を見ると、千晶は笑みを浮かべ右手を空高くかざしていた。
千晶は戦いの中で自分の繰り出す攻撃に対して鬼頭がどういった反応を起こすのかを観察していた。
そして以前とは違い、鬼頭は脚を砂で拘束してもそれを解く術があった。そこで千晶は砂よりも拘束力があり、尚且つ鬼頭の機動力を奪うのに適した"沼"に彼の足下の地形を変えて拘束したのだ。
「俺の魔力の属性は岩じゃない、大地そのものだ。地形を変える程度のこと、造作もないんだよ。」
そう言って千晶が右手の指をパチンと鳴らすと頂点を下に向けたピラミッドが鬼頭に向けて落下していく。
(またなのか・・・!また俺は、凡人は、天才に負けるのか・・・!)
無理に抜け出そうともがいた結果、腰の高さまで沼に沈んだ鬼頭は身動きが取れず、落下してくるピラミッドをただ睨みつけることしかできない自身の無力さを恨んだ。
「おおおおおおおおぁぁ!!!」
ついには怒りの咆哮をあげ涙を流す、次第に鬼頭のあげる咆哮が人外じみたものへと変わっていく。
『あああ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!』
黒い闘気が鬼頭の感情の昂りに呼応するかのように急激に膨張しはじめる、そして右腕にはまるで異形が持つ巨大な爪を形成し、左肩からは不気味な肌色の長い腕が生える。
そして膨張した闘気は鬼頭を拘束する沼を地面ごと抉り取ると辺りへ吹き飛ばす、沼から脱出した鬼頭は再び上空のピラミッドを睨みつけると大地を蹴り飛翔する。
下を向いているピラミッドの頂点を右腕の巨大な爪で鷲掴み咆哮をあげながら力を入れ握りしめる、するとピシピシと音を立てながらピラミッドにヒビが入りはじめ、鬼頭の右腕の爪がピラミッドの頂点を握り潰すと同時に轟音をたてながらピラミッドは崩壊した。
ピラミッドの残骸は辺りに落下していき砂塵を巻き上げる、千晶は桐江のもとへと瞬時に駆けつけ彼女を守った。
ピラミッドの崩落が止みやがて砂塵も晴れると桐江の無事を確認し千晶はその場から離れた。
千晶はピラミッドの残骸が散らばる戦場に戻り、そこに佇む鬼頭と再び対峙する。
そして鬼頭の姿を目にした千晶はそのあまりの変化に驚きの表情を見せた。
「おいおいマジかよ・・・お前、その姿はまるで・・・」
右腕の巨大な爪、左肩から生える不気味な肌色の長い腕、そして臀部からは長い尻尾が生えていた。目つきも人間のそれとはかけ離れており、まさに"異形"と呼んでも差し支えないほどの禍々しい姿へと変容を遂げていた。
この鬼頭の予期せぬ変化に進も驚き戸惑う。
「なんだ、この変化は・・・私はこんなの知らないぞ・・・」
そして鬼頭は千晶を視界に捉えると口角を上げてニヤリと笑いながら大地を蹴り、真っ向から千晶に突進する。
右腕の爪を無造作に振るうと千晶は岩の壁で防ぐが、爪は岩の壁を簡単に砕き千晶を襲う。千晶はギリギリ回避するが鬼頭は身を翻し尻尾を鞭のようにしならせて振るう。
尻尾の打撃を杖でなんとか防ぐがあまりの衝撃に後ずさる。
(パワーもスピードも、"人間離れ"なんてレベルじゃねぇな。とんでもねぇもん作りやがってあの親父・・・!)
心の中で恨み言を言いながら進を見ると、千晶には父がなぜかうろたえてるように見えた。
「どこで・・・なにを、間違えたんだ。私は、私は・・・」
進は小声でつぶやきながら異形に近い存在へと変異した鬼頭を見つめていた。
『こんなはずではなかった。』
そう心の中で繰り返しながら、進は己の過去を思い返す。
─────
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私の妻は幼い頃から身体が弱かった、幼なじみである私は彼女が他の子達のように元気に外で遊べないのを不憫に思っていた。
幼い頃から彼女に恋心を抱いていた私は他の子達と外で遊ぶことはせず、彼女の家で一緒に本を読んだり彼女が休んでいる間に学校で起きたりしたことを話したりして楽しく遊んでいた。
時折、家の塀の向こうから子供達の元気に走る音や楽しそうな声が聞こえた時、彼女はふと羨ましそうな表情を浮かべ、それを見る度に私の心は締め付けられたように痛んだ。
年月が経ち中学に上がっても彼女の体質は改善されず学校を休みがちになり、彼女自身も半分諦めていたようにも見えた。
中学でも相変わらず私は彼女の家で彼女に勉強や宿題を教えたり、観たテレビ番組の話などをして遊んでいた。
彼女のご両親も幼なじみである私が変わらず娘と仲良く遊んでいるのがありがたかったらしく、そして彼女は私と遊んでいる時が一番元気だと私を歓迎してくれていた。
そんなある日、彼女が突然私に問いかけてきた。
「進くんは、私と遊んでて楽しい?」
「え、当たり前じゃないか、君は僕の一番の友達さ。」
"なぜそんなことを聞くのだろう?"そんなことを思いながら読んでいた本から視線を外し、私が彼女の目を見つめて質問に答えると彼女は安堵の表情を浮かべた。
「私って外に出られないじゃない?千晶くんは男の子だから、外で遊びたいんじゃないかなって。」
彼女の言葉を聞き、私は"そんなことか"とため息をついた。
「僕はあまり運動が得意じゃなくてね、それに・・・僕は君と一緒にいるのが好きなんだ。」
言い終えたあとでなにか恥ずかしいセリフを言ったような気がして私は彼女の顔を見ると、彼女の頬はほんのりと赤く染まっていた。つられて私まで恥ずかしくなり読んでいた本で顔を隠した。
そしてほんの数秒の沈黙のあと、彼女が口を開いた。
「それって、私のことが好きってこと・・・?」
彼女の言葉に返す照れ隠しの言葉も思い浮かばず、私は本を閉じて机の上に置き、紅潮した顔で彼女と向き合った。
「そ・・・そうさ、僕は君のことが前から好きだったさ。」
そしてまっすぐな好意を彼女に伝えた、彼女は一瞬嬉しそうな表情を浮かべたがすぐに顔を俯かせた。
「それって、私の身体が弱くて・・・"可哀想だ"と思ったから?」
「違う!」
彼女の言葉を私は即座に、シンプルに否定した。私は同情や哀れみという、そんな不純な感情で彼女を好きになったわけでは断じてないからだ。
「僕は君の、静かで優しい性格が好きだ!もし君が自分の身体の弱さを負い目に感じているのなら、僕が"変えて"みせる!」
私が彼女の前で声を張り上げたことなどその時まではなかった、彼女の唇が小さく震え両眼から涙を流しながら一言つぶやいた。
「ありがとう。」
その時から私と彼女の関係が親友から恋人に"変わった"。
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