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ヴィオラ・ルーベンスは、絵に描いたような才色兼備だ。

成績は常に学年上位に君臨し、魔法の実力もトップクラス。名家の生まれで由緒正しく、おまけに粟色あわいろの絹のようなストレートの髪にミステリアスなスミレ色の瞳を持った美人だ。
本人も自分の才能や美しさはそれなりに自覚していた反面、友だちは数人しかおらず恋人なんて出来たこともなかった。

「それは高嶺の花だからですわ!」

「そうですよ、私が男子生徒なら声をかけるのも恐れ多い」

ヴィオラを慕うキャロルとルーナがそう懸命にフォローした。
ヴィオラは彼女たちが好きだし、彼女たちも心からヴィオラを好いているがその感情は尊敬に近く、一般的な友人とは少し違った。

野バラの精霊のように愛くるしいキャロルに、美少年と見間違うほどスラリと背の高い短髪のルーナ、どちらも名の知れた良家の娘だ。

「しかし…やっぱり恋人は欲しいところです」

壁に貼られた高学年の総合成績表を眺める。
学年一位、いつもはヴィオラ・ルーベンスの名のあるところには、キース・フォックスと書かれている。

キース、成り上がりの下流階級の男子生徒だ。
でも今、特に実技においてヴィオラは遅れをとっている。
確かに才能ある人材だが、このところの成績の伸び方の異常から童貞を卒業し、数多くの女性と淫らな関係になっているとの噂があった。
魔法を扱えるものは性的興奮や欲求を満たすと、その魔力の質が高まるとは昔から言われてきたことで、近年、魔法科学的にも証明された。

だからこそ、ヴィオラも恋人が欲しかったのだ。
恋さえしたころはないけれど、処女を卒業して魔力を高めないと…

お父様に叱られちゃう…。

現に先日、学年一位を取れないばかりかどこの馬の骨ともしれない男に負けるとは何事かとのお叱りの手紙を受け取った。

ヴィオラの父親のルドルフ・ルーベンスは厳格な男だ。このキンドル魔法学園の理事長を勤めながら政治家もやっている。
娘に対する愛情は薄く、ヴィオラの優秀さも、幼い頃からトップであれ一族の名に恥じるなと厳しく躾られた賜物である。

感情がなく冷酷に見える父。
しかしまさか、本当に人の心がないと思い知らされることになるとは、このときのヴィオラはまだ知らなかった。
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