4 / 177
第四話 アルレインの街
しおりを挟む「今日は買い物に付き合ってくれてありがとう」
「いつもありがとね~」
肩まで伸びた赤い髪に動きやすい白とブラウンの服を着たアニスが明るい笑顔を浮かべた。
腰には今日の買い出しのためにカインさんから借りてきたマジックバックと、彼女の天成器フーラがベルトに留められている。
何事にもおっとりとした性格なフーラは白銀の短杖だ。
アニスはフーラを格納することなく普段から持ち歩いていて、いろいろ相談に乗って貰うらしい。
俺にも秘密らしいからどんなことかはわからないけど。
「今日はどこに行くんだ?」
「お野菜と常連さんのお酒が必要だから街の北のハクバ商店と……あと教会にも行きたいな。お母さんから『お菓子を持って行って』て言われたから。まあ……お父さんが作ったんだけどね」
アルレインの街の北側は人の出入りが激しいメインストリートになっていて多くの商店や露店が並んでいる。
防具屋や食料品店、いつも狩った獲物を売りに行くダグラスさんの肉屋もある。
お店に並ぶ食品、特に野菜の大半は街の東にある農場で作られていて、街に安定した食料を供給することが出来る。
さらに農場の近くには警備隊や冒険者によってある程度魔物を排除している森が管理されていて、そこから木材や山の幸などを採取することが出来る。
もちろん、どちらも魔物の襲撃から守る警備隊も必要だが。
「防具屋にも寄っていいか? 一昨日魔物に襲われていた冒険者が寄ってくれと言ってたんだ」
「うん。もちろん。いつもわたしの買い物ばっかり付き合ってもらうから、たまにはクライの用事にも付き合わせて」
上機嫌そうにアニスが笑う。
「アニスってば。今日の買い物を楽しみにしてたんだから~。行く場所が増えるのはむしろウェルカムだよ~」
「もうっ。フーラだって楽しみだっていってたのに!」
「ははっ。2人は普段通り元気だな。見ているこっちまで楽しい気分になるよ」
真っ赤な顔のアニスに向けてミストレアが愉快そうに話し掛ける。
ミストレアもアニスとフーラとはよく会話する。
気に入った相手としか話さないんだが2人のことは認めているようだ。
「まずはハクバ商店に行ってそれから教会、最後に防具屋だな」
ハクバ商店では何事もなく必要なものが揃えられた。
常連のためのお酒は、王国領の西、帝国からわざわざ仕入れているそうだ。
国境近くの城塞交易都市では帝国との交易が盛んでそこから輸入される。
星神教会内には孤児院と教育所を兼ねる星神教会と、犯罪者を裁き勾留する武装教会の2つの勢力がある。
いま向かっている星神教会は魔物や瘴気獣との戦いで孤児になった子供たちの世話をしていて、前に勉強会に参加させてもらったが街の子供たちと孤児たちは、教会で常識や文字、歴史を教わっている。
天成器生成の儀式やクラスアップも教会で行っていて、街にはなくてはならない存在だ。
「教会のみんな喜んでくれるかな? お父さん気合入れてたくさんお菓子を作ってたんだ」
入口の門を通ると神の石版の置かれた聖堂があり、その脇の孤児院の広場では子供たちが晴天のなか元気よく走り回っている。
魔物や瘴気獣との戦いで親が亡くなり、孤独になった子供たちは星神教会に預けられ、街からの支援で教育が受けられる。
将来は街の守備隊や冒険者になったりする子供たちもいて、街の領主様や冒険者ギルドからも寄付があるそうだ。
「あら、こんにちわ。今日はどうしたの? 礼拝にいらしたのかしら?」
王都から来たというシスタークローネがこちらを見ながら尋ねてくる。
アルレインの街は王都から離れているし、規模も遥かに小さいはずだがなぜわざわざここに来たのだろう。
以前それとなくアニスが聞いた話ではなりゆきでそうなったらしい。
落ち着いた話し方でどこか品のあるシスタークローネはすぐに街に馴染んでいた。
「今日はいつもお世話になっているお礼にお菓子を持って来たんです。お父さんがたくさん作ったのでおすそ分けです」
「まあっ。ありがとうございます。子供たちが喜びます」
上品に微笑むシスタークローネはアニスの出したお菓子を受け取る。
この間はシスターアンネが子供たちに混じって大量にお菓子を食べていたが今回は大丈夫だろうか?
……シスタークローネにすごく怒られてたけど。
聖堂は礼拝のため今日も何人もの人が出入りしている。
星神様の他に天使によって知らされた七柱の眷属神も祀られている。
技巧の神、闘いの神、錬金の神、生命の神、意匠の神、魔獣の神、審理の神。
それぞれは星神様に仕えこの世界を支えていると言われている。
ふと教会の入口を見るとなにやら騒がしい。
「すみません! 通してください!」
「シスターさん! 怪我人だ! 足を折ってるみたいなんだ。助けてくれ!」
「うぅぅ……」
担架に積まれた男の子が痛みのせいか汗を額に浮かべ苦しそうだ。
「すみません、私も手伝いに行ってきますね!」
シスタークローネが慌てた様子で入口に向かう。
「う~ん、痛そうだね~」
「手伝えること……あるかな?」
「骨折となると初級のポーションでは治らない。……でもここには中級回復魔法の使い手がいるから大丈夫だ」
神の石版ではクラスを選択することが出来る。
八つの初級クラスのなかには治癒師のクラスがあり、取得することでいままで魔法を勉強、鍛錬していない人でも簡単に回復魔法を習得できる。
街の戦いを望まない多くの人は回復魔法を授かるため治癒師を選択する。
魔物の襲撃があるため需要があるからだ。
しかし大半の人は基礎回復魔法のヒールまでしか習得できていない。
それでも軽い裂傷や擦り傷は治せるが、たまに教会にも骨折や重症の怪我人が運ばれてくる。
病院でも治療はしてくれるが教会を頼る人は多い。
「こちらの机に寝かせてください。………【エクストラヒーリング】」
シスタークローネの手から柔らかく光る緑の燐光が輝き男の子の体を包む。
苦しそうだった顔が穏やかになっていく。
無事に治って良かった。
「これでひとまず大丈夫でしょう。詳しいお話も伺いたいので、まずはこの子をお部屋で寝かせてあげてください」
シスターさんたちが手際よく教会のなかに運んでいく。
「ふ~。大丈夫そうだね。わたし、なんだか緊張しちゃったよ~」
アニスは自分のことのように心配していて見ているこっちがそわそわしてしまった。
「クライ、あの姿を見ると……あの時のことを思い出さないか?」
「それは……」
ミストレアのからかう声を聞いて昔教会にお世話になったことを思い出す。
あの日、ステータスに記されたあるスキルを使った……いや、スキル名を唱えた時俺は意識を失ってしまった。
教会に運ばれたが原因不明で三日間は意識が戻らなかったそうだ。
あのスキルを使ったのはニ回だけ、一度目は倒れてしまったがニ回目は……。
「あの時のことはもういいだろ。忙しそうだし挨拶だけして次に向かおう」
「はは。そうだな。次はあの面白い子が言っていたエンマーズ防具店だな。さっそく向かうとしよう」
そうニ回目はたった半年前のこと。
あの禁忌の森での決して忘れることは出来ない、忘れてはいけないこと。
1
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる