孤高のミグラトリー 〜正体不明の謎スキル《リーディング》で高レベルスキルを手に入れた狩人の少年は、意思を持つ変形武器と共に世界を巡る〜

びゃくし

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第四十三話 Bランク冒険者

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 Cランク冒険者とBランク冒険者には明確な実力差が存在する。
 これはボクたち冒険者の間では有名な話だ。

 当然、冒険者の資質は強さだけではない。
 魔物や自然に対する理解度。
 未開領域を探索し、未知の情報を集める情報収集能力。
 依頼を円滑に行うためのコミュニケーション能力。

 高ランクになれば複雑な依頼も増える。
 それらを問題なく遂行するためには経験や知識が必要だ。

 しかし、魔物や瘴気獣の脅威を取り除くには一定の武力も必要となる。
 そして、Bランク以上になるためにはそれまでとは隔絶した強さが必要不可欠。
 それこそ、並外れた力……第四階梯の力が……。

 天成器のエクストラスキルの習得。
 
 第四階梯に到達した天成器はそれぞれが独自の能力、エクストラスキルを得る。
 天成器のEPを消費して発動、展開する力は特殊な形状や効果、能力をもつ唯一無二のもの。
 修練によってその威力や規模は拡張され、独自の技として昇華し戦術に加えることも可能ともなれば飛躍的に強くなれる。

 だが、そこまでの道程は険しい。
 第一階梯から第二階梯まではさほど苦労することはない。
 第三階梯までなら戦闘を生業にする者なら時間はかかるだろうがいずれ到達できるだろう。

 第四階梯は違う。 
 冒険者として十年……二十年活動を続けたとしても到達できない領域がある。
 壁は高く常に絶望が寄り添う。
 強くなろうと足掻いても決して超えられない高く険しい壁。
 
「エーリアス【瑞光鳴禽:瞬羽】」

 アラクネウィッチに向かって疾走するイクスムさんが一つの光を作り出す。
 眩く追従する光の塊は徐々に形を変えていく。

「……こ、小鳥?」

 隣で参戦できないことに憤っていたイオゼッタが呆気に取られた顔で呟いている。
 無理もない。
 光が集まって作り出されたのは体長二十cm弱の一羽の小鳥。
 この場の緊迫した雰囲気にはそぐわないほど悠々とした姿で飛翔する。

 しかし、見た目に騙されてはいけない。
 あれこそがエクストラスキルによって作り出された力の結晶なのだから。

 小鳥はイクスムさんの疾走に遅れることなくついていくと、アラクネウィッチが上空で待機させ迎撃のためにイクスムさん目掛けて落とした闇魔法に向かって軌道を変える。

 衝突の瞬間、目を疑った。

 闇魔法が――――逸れたのだ。

 光の小鳥が闇魔法で作り出された刃に触れる寸前、刃の軌道がまるで自らの意思で小鳥を避けたかのようにズレた。
 大太刀に戻していたため魔法を消した第三階梯の能力ではない。
 間違いない……あれこそが第四階梯の力。

「【瑞光鳴禽:対翼の太刀】」
 
 イクスムさんの下段に構えた大太刀に連なるように展開される新たな小鳥。

 至近距離からアラクネウィッチの大蜘蛛の顔面目掛けて縦に切りつける。

「ギィ」

 アラクネウィッチも黙ってやられる訳がなかった。
 大太刀の軌道から遠のくように後ろに飛ぶ。

 それを追う小さな光。

 斬撃を避けても追尾する二段構えの攻撃。
 迎撃の鋭い足による攻撃もするりと避けると赤く光るアラクネウィッチの目に向かって小鳥がぶつかる。

「ギィィッ!?」

 あの複雑な軌道は魔法では到底真似できないものだ。
 ボクの習得している《ホーミング》の魔法因子でも相手の攻撃を避けて追尾なんて芸当はできない。
 まあ、《ホーミング》は弾速の速い魔法は追尾能力が低く、遅い魔法ほど追尾能力が高いので一概に比較はできないけど……。

 それでもあの光の小鳥は射撃魔法の《バレット》並の速度があった。
 それでいて複雑な軌道を描くことが可能なら躱すことすら困難だろう。

「ふむ、やはり弱いといってもそこはアラクネの上位個体の瘴気獣。身体そのものの強度が違いますね。幾らエーリアスの作り出す鳥たちが威力が低いとはいえ、視界くらいは奪えると思ったのですが……上手く防がれてしまいました」

 アラクネウィッチは大蜘蛛の顔を左右に大きく振るとイクスムさんに向き直る。
 小鳥の直撃でも視界にはほとんど影響はなさそうだ。
 着地の時に少しよろめいただけで特にダメージは多くない。

「あれは……?」

 普段ソロで活動しているならエクストラスキルを見たことがなかったのかもしれない。
 呆然とした様子でイクスムさんの周囲を飛び回る小鳥をイオゼッタが見ている。
 
「そうだね。あの光が集まって作り出された小鳥こそがエクストラスキルの産物だろう。自在に操れる物体を作り出す創造系の能力」

「あれが……エクストラスキル? でもエクストラスキルは強大な力を秘めた切り札の一つのはず……見るからに……その……」

「天成器が第四階梯で得ることになるエクストラスキルは一部の例外を除いてどれもが魔法のように属性をもち、特殊な効果、形状を有する。あのエクストラスキルも一見するとただの可愛らしい小鳥だけど、エクストラスキルは外見だけではその強さは判断できないよ。なにより、小鳥が闇の刃にぶつかりにいった時、刃が……逸れた。あの不自然な挙動こそが独自に保有した能力に関係あるだろうね」

「うん。まるで小鳥に当たらないように自ら避けたみたいだった」

「正解です」

 突然、アラクネウィッチから視線を外したイクスムさんが会話に入ってくるから、ちょっと驚いた。
 そのままエクストラスキルの能力まで説明してくれる。
 ……秘密にしなくていいんだろうか、まあイクスムさんが自ら喋りたそうにしているしいいのか、な?

「エーリアスのエクストラスキル『瑞光鳴禽』は操作性に優れた光の小鳥たちを作り出せます。威力こそ低いですが、速度は速く避けるのは難しい。そして、小鳥たちはそれぞれが領域をもつ」

「領域? それは闇魔法を逸していた?」

「そうです。湾曲領域とでもいうものでしょうか、小鳥たちの一定距離に近づく攻撃は逸れ、外れることになる。厳密には物理攻撃までは流石に逸らせませんが、魔力や闘気のみの攻撃は問題なく逸らすことができます」

 近づく魔法を掻き消す第三階梯に加えて、魔法を逸らすエクストラスキル。
 魔法攻撃を主体として戦うアラクネウィッチにはとことん相性がいいようだ。

「そして、このエクストラスキルの力は湾曲領域だけではありません。エーリアス【瑞光鳴禽:告鳴】」

 ピィーっと甲高い小鳥の鳴き声が辺りに響く。

 森の中でも時々聞こえるようなありふれた野鳥の鳴き声。
 
「?」

 何が起こったのか分からずこちらを不思議そうに眺めてくるイオゼッタ。
 ボクもさっぱりわからないんだ。
 そんな目で見ないでくれ。

「ギィィィッ!?」

「「え?」」

 苦しげに叫びだすアラクネウィッチ。
 どういうことだ?
 小鳥が鳴いただけで何も変化はなかったはず。
 その答えはいつの間にか隙だらけのアラクネウィッチに接近して、一本の足を切り飛ばしたイクスムさんが教えてくれた。

「この小鳥たちの鳴き声には任意の相手の体内の魔力を揺さぶる効果もあります。目眩にも似た衝撃が体内に直接響く」

 対象を選んで影響を及ぼす能力!?
 魔法では難しいことを簡単に実現するとは……やはりエクストラスキルの力は凄まじいな。

「さて、そろそろ終わりにしましょうか……【瑞光鳴禽:至純郡鳥】」

「……いや、多すぎでしょ!?」

「あんな数を、操れるのか……?」

 イクスムさんの周囲から溢れるでる無数の小鳥の群れ。
 一糸乱れず動く小鳥たちは完全に統率されている。 
 黒紫の森の空を眩いばかりに光る小鳥たちが埋め尽くす。
 この場の全員が釣られるように視線を動かす。

「ありえねぇ……」

「やはりイクスムさんの力は俺たちとは……」

 改めて実力差を実感する。

 力の規模が違う。

 しかし、そのあまりの光景に呆然自失で小鳥たちの大群を眺めていたボクたちと違ってアラクネウィッチは対処のために動き出す。
 脅威を重く受け止めたのか徹底抗戦するための闇魔法を展開する。
 その規模もまた討伐難度A+なだけのことのある無数の魔法の同時展開。

「ギィギィ! ギィ!!」

 空を埋め尽くすほどの《ダークボール》に似た闇魔法と、イクスムさんの第三階梯の能力でも消せなかった《ダークブレイド》に似た闇魔法。
 その圧倒的な数は小鳥の大群に勝るとも劣らない。

「これはまた一気に展開してきたね」

「ルイン! 悠長にしてる場合じゃないでしょ! あたしたちもできることをしないと!!」

「心配ないさ」

 不安そうなイオゼッタに軽く答えた。
 だってそうだろう。
 あれほどの大群を乱れることなく制御するのは相当修練に励まなければ不可能だ。
 もしくは生粋の天才か。

 いずれにせよ心配の必要はない。
 彼女が負けるようならどのみちボクたちは全滅することになるのだから。

「ギィィーー!!」

 アラクネウィッチにも焦りがあるのか次々と闇魔法を放ち始める。
 
 漆黒に渦巻く闇の球体。

 アラクネウィッチの鋭い足を模した闇の刃。

 闇で彩られた暴威がイクスムさんを襲う。

「エーリアス、防ぎなさい! “閃転”!」

 小鳥たちがイクスムさんを中心に旋回する。
 それはさながら煌々と輝く光の竜巻。
 
 迫る闇を逸らす光のつばさたち。
 闇魔法の一切を寄せ付けない。

「“星屑の雨”」

 闇魔法のすべてを逸らし終わった小鳥たちは一斉に空に散らばる。
 昼間のはずなのに空を埋め尽くす光点たち。

「ギィッ!?」

 広範囲に無秩序に降り注ぐ光の小鳥たちの雨。

 そして、光の雨中を駆ける大太刀を携えた影。

 もはやアラクネウィッチに抵抗できることはなかった。

「【闘技:降魔一閃】!!」

 まさに一撃だった。

 上部の疑似餌の女性体ごと大蜘蛛を一刀両断する刹那の斬撃。
 
 アラクネウィッチは灰色の瘴気を撒き散らし光に溶け込むように消えていった。
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