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第九十三話 王都を出られぬ者たち
しおりを挟む「いや~、わたしいま金欠でさ~。奢ってもらっちゃって悪いね~」
(よく食う女だな。さっき大皿でパスタを食べていたんだぞ。クライ、この女をここに連れてきたのは失敗だったんじゃないか?)
そんなことない、と思いたい。
店先を騒がせてしまったバオニスト商会のお店から場所を移し、落ち着いて話すために近くの喫茶店に入った。
正面には同世代くらいのアイカと名乗った御使いの少女。
俺の隣にはエクレアが座り、サラウさんとイザベラさんも同じテーブルを囲んで座っている。
喫茶店に入るときに躊躇していたアイカは、いまはメニューと熱心ににらめっこをして注文したパンケーキと冷たい紅茶を味わっている。
というのも、どうやら所持金が心許なかったようで食費はなるべく節約することにしていたようだ。
ズラッと色々なスイーツの記されたメニュー表を見る悲しそうな表情に、お昼御飯の時間だったこともあり、思わずご馳走するといったら、店内の人目も気にせず大声で何度もお礼をいわれてしまい、少し恥ずかしい思いをした。
まあそれでもすごく喜んでくれたからいいんだが……。
サラウさんとイザベラさんの二人はわざわざお店を抜けだして、アイカがお店で話した相談事のために同行してくれた。
彼女には内密にとのことだったが、なんでも王都では御使い絡みのトラブルが頻発しているらしく、警戒のためにもついてきてくれたそうだ。
……俺も少しだけど、御使いの噂は聞いている。
俺の入院している間に教会に降臨した御使いたちは、どうやら王都中で良くも悪くも様々な騒動を巻き起こしているらしい。
アイカが俺に悪意をもって近づいたのではないとは思うけど、ここは素直にサラウさんたちの好意に感謝しておこう。
「魔導具があんなにするとは知らなかったからさ~。ちょっと興奮して強引に詰め寄り過ぎちゃった。あの店員さんには悪いことしちゃったカナ~」
アイカは舌をペロッとだして謝る仕草をする。
一見巫山戯ているようには見えるが、その実瞳には反省の色が窺えた。
「それで貴方は? 先程御使い様だとおっしゃっていましたけど……」
サラウさんの質問にアイカは堂々と答える。
「そうそう、改めて自己紹介しないとね! わたしは御使いのアイカ・ペイルムーン。よろしくね!!」
彼女は立ち上がると人差し指と中指を開き目元にもってくると高らかに宣言する。
エクレアの藍色の髪よりもかなり明るい水色の髪は陽の光に照らされ、より一層輝きを増す。
不意に目があった。
……なんだか店内の注目が一斉に集まってこちらが恥ずかしい。
(クライだけじゃないぞ。アイカとかいう御使いも……あれはやってから後悔している顔だな)
「ク、クライだ。クライ・ペンテシア」
「……エクレア・ペンテシア」
サラウさんとイザベラさんもそれぞれに挨拶をし、取り敢えずこの場の全員の自己紹介が終わったところで、俺は早速話を切りだした。
彼女がバオニスト商会のお店で唐突に頼んできた『困っていること』それがどうしても気になっていた。
注目を浴びすぎて若干赤面していたアイカに問いかける。
「それで、助けて欲しいことって一体なんなんだ?」
「じ、実はさ、わたしたち御使いって天界から降りてきた訳だけど……レベルが低いんだよね。セイフリム王国の王都周辺ってどこも魔物が強いじゃん? なんか初心者向けの弱そうな魔物の生息する“迷わずの森”は封鎖中だし、レベル上げするところがないんだよね」
「レベルが低い……ですか?」
「うん、レベルを上げるためにも魔物を倒したいんだけど、御使い同士でパーティーを組んで連携してもあっさり返り討ちにされちゃうし、かといって戦える冒険者の人たちにも知り合いもいないしさ。ホント、レベル上げ大変なんだよね~」
辟易した様子でアイカは話す。
「天使様から貰ったお金もあるんだけど装備品とか、宿代に消えちゃうしさ。だからホント金欠で困ってるんだよね~。あ、お昼奢ってくれてありがとう。すっごく美味しかった」
「あ、ああ、美味しかったなら良かった。それより……ならアイカの望みはレベルを上げてお金を稼ぐことなのか?」
「う~ん、それもあるけど王都の外の世界を見てみたいんだよね。他の都市とか景色を見てみたいんだぁ。だけど王都周辺が強い魔物ばかりでここから移動できない、そこが一番困ってるところかな。あ、もちろんレベルも上げて強くなりたいし、お金も欲しいけどね!」
(御使いって欲望に忠実なんだな)
アイカの望むことは大体理解できた。
ただそれでもまだ疑問がある。
「そもそも質問があるんだけど……アイカは冒険者なのか?」
「え? そうだけど? もう登録してあるし、なんで?」
キョトンとした顔で彼女は答える。
どうやら予想だにしなかった質問らしい。
「その……アイカは御使いなんだろ? わざわざ冒険者として活動しなくてもいいんじゃないか? 星神教会ならなにか仕事を紹介してくれるだろうし、王都なら他にも仕事はあるはずだ。危険な場所に自ら飛び込んでいく必要はないと思うんだけど……」
「あ~、なるほどね」
アイカは一人納得したように頷く。
だけどいまの質問は御使いの噂を聞いてからずっと疑問に思っていたことだ。
神の石版には御使いが地上に降臨する理由までは記されていなかったそうだし、その目的は分からずじまいだった。
噂ではほとんどの御使いが冒険者として活動しているなんてことも聞いているけど、ここに御使い本人がいるなら直接聞くほうが早い。
それと、さっきもチラッと話にでていたけど天使は御使いのサポートはしてくれないのか?
疑問は尽きない。
アイカにその辺りのこともまとめて聞いてみると、返答は意外なものだった
「そりゃあ御使いの大半は冒険者になると思うよ。だって今回の地上への降臨を希望した御使いたちは、地上世界を冒険したり、旅したいって思っているはずだからね。もちろん、地上で普通の生活を送ってみたいって考えてる御使いも中にはいると思うけど、第一陣のわたしたちはこの世界を知りたいって、少なからず思ってるからね。なら手っ取り早く冒険者になろうって考えの御使いが多いと思う」
そういえば神の石版にはこれからも御使いが段々と人数を増やして降臨していくと記されていたんだったな。
「そう、だから王都に降臨した御使いのほとんどが王都から出られなくて困ってるんだよ。このままじゃ王都の中だけしか見て回れない。そんなのもったいないじゃん」
アイカは残念そうに顔を伏せる。
いまの王都から身動きできない状況は不本意なのは見ていてわかる。
「天使はどうなんだ? お金も貰ったようだし、相談とかできないのか?」
「うん、御使い同士は天界にいけば多少情報交換できるんだけど、天使様はよっぽどのことでないと助けてくれないと思う。普段はこっちから連絡も取れないし、お金の工面も無理かな」
「そうなのか……」
「だからお願い! クライが“孤高の英雄”だって御使いの間でも有名なんだよ! せっかく知り合えたんだから、ね、お願い。わたしを助けて!!」
心から困っているのはわかる。
所持金が少なくなっているのも本当だろう。
しかし……。
「その……御使いの間でも、俺って有名なのか?」
「え? そうに決まってるじゃん。王都を守るために学生の身でありながら、ものスッゴイ怪物と一人で戦ってぶちのめしたんでしょ? 学園にはわたしたち御使いは門前払いされて入れないけど、名前も、顔も、特徴もめちゃくちゃ有名だよ。だからわたしだって一目でわかったんじゃん」
「…………」
ウソだろ……。
プリエルザの話していた内容より余計酷くなってるじゃないか!?
(クライ、諦めろ。噂とは古今東西そういう宿命を持っているものだ)
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