孤高のミグラトリー 〜正体不明の謎スキル《リーディング》で高レベルスキルを手に入れた狩人の少年は、意思を持つ変形武器と共に世界を巡る〜

びゃくし

文字の大きさ
94 / 177

第九十四話 独白

しおりを挟む

 プリエルザの流した噂は予想以上の変化を伴って広まっていたようだ。
 課外授業のときにはまだ降臨していなかった御使いの間でまで噂として流れているとは……。

 俺の困惑をよそにイザベラさんはアイカの発言をフッと笑い飛ばす。

「面白いじゃないか、助けてやったらどうだ?」

「イザベラ、無責任なことを言わないで下さい」

「だが、アイカが困っているのは本当だろう?」

「そのようですけど……」

「地上に降臨してから王都の住民に迷惑をかけていた御使いもいるのは私も承知している。だが、その点アイカは自らの目的と理由を明かし、誠実に頼み込んできた。出会いこそ唐突だったが、それも本意ではなかった。……それに、強くなりたいと願っている相手を無碍にもできないだろう?」

(イザベラは意外というか、何というか先生向きだよな。クライは勿論セロにも熱心に自分の技術や経験を教えていたし)

「レベルを上げたいなら私も同行しよう。サラウはお父上から外出は控えるように言われているからな、難しいにしても、カルラとララットも誘えば喜んでついてくるだろう。丁度身体も動かしたかったところだ。クライ、お前はどうする?」

「俺は……」

 イザベラさんの問いに……俺はアイカに向けて居直した。
 不思議そうにこちらを見る彼女には伝えておかなければならないことがある。

「一つだけアイカにいっておきたいことがあって……」

「?」

「アイカ……さっきはいきなりのことで戸惑って訂正できなかったけど、俺は“孤高の英雄”なんて呼ばれるような器じゃない。迷わずの森で起きた瘴気獣との戦いは俺一人では決して勝てなかった」

 俺は同じテーブルに座る三人を見渡す。

 ここにはいるんだ。
 あの戦いの当事者で、俺を、皆を支えてくれて、共に助け合った人たちが。 

「あの場所にはここにいるイザベラさんもサラウさんも、ここにはいないカルラさんもララットさんも、俺の担任の先生も、クラスメイトたちも、指導のためにきてくれた冒険者の人たちも……。ずっと不安を抱かせてしまっていた……エクレアもいたんだ。誰が欠けたってあの戦いは生き残れなかった。――――アイカ」

「は、はい」

「アイカの話した怪物を倒したのは俺一人の力じゃない。あの場所に立った全員が一丸となって戦って、それではじめて倒せた相手なんだ。あの戦いの中で怪我をしてしまった人がいた。去っていってしまった人がいた。……俺一人で何もかも守れた訳じゃないんだ。だから頼む。アイカ……君には誤解して欲しくないんだ」

 御使いの間に広まる噂は俺にはどうしたらいいのかわからない。

 ただ、彼女は俺に嘘偽りのない姿で助けを求めてくれた。
 彼女は自らの悩み事を曝けだしてくれたんだ。
 それは……とても勇気が必要なことだ。

 俺も俺自身を噂とはいえ偽りたくない。

 彼女は俺の言葉をどう感じただろうか。
 届いているだろうか。

 気掛かりだった。

 でも彼女は俺という人を見てくれていた。
 噂という形のないものでなく、ここにいる俺自身の主張を。

 アイカは初めて出会った明るく強引なあのときとは異なる、しおらしい態度で答える。

「その……ごめんね。わたしも御使い同士の情報に惑わされてたのかも」

 そっと目を伏せテーブルに向ける。
 その声はか細く弱々しかった。

「地上に降りられたのはさ。初めてなんだ。……わたしね、天界とは違う世界を見てみたいって、そこで生きてみたいって願ってた。この地上に来れるとはさ。本当はまったく思ってなかったんだ。きっと多くの御使いが降臨することを希望するから、わたしなんてどうせダメだなって勝手に決めつけてた。あの日、地上に初めて降臨した時から嬉しくて舞い上がってた。……わたし、空回りしちゃったのかな」

 そういって天を仰ぐアイカに言葉がかけてあげられなかった。
 アイカは地上に降りることに並々ならない覚悟をもって望んでいたんだと、そのとき俺は感じていた。 

 彼女は伏し目がちのまま俺に問うた。

「その……じゃあ今回のことは、ダメ……かな?」

 彼女の望んでいた答えを返す、それが正しいことだと信じていた。

「……誤解が解けたならいいんだ。レベル上げ、俺も手伝うよ。エクレアもいいか?」

「……」

 俺は隣で静かに佇むエクレアを見詰める。
 きっと今度はエクレアも反対しないだろうとわかっていた。

 彼女は一度不安そうに返事を待つアイカを見たあと、視線を戻し頷く。

「うん、うん! 二人共ありがとう! イザベラさんもサラウさんもありがとう!」

「私は何もしていませんけど……」

「ううん! それでもいいんだ、ありがとう!!」

 安堵感からか満面の笑みで喜ぶアイカ。
 苦笑するイザベラさんやサラウさんも巻き込んで盛大に祝っている。

 そこに不意をつくようにミストレアが念話を通じて話しかけてきた。
 彼女には珍しく殊勝げに。

(クライ、私もお前に謝らないとな)

(急にどうしたんだ、ミストレア)

(私は……噂を広がるのを良しとしていた。“孤高の英雄”の噂もお前が他人に正当に評価されているようで嬉しかったんだ。ただ、そうだな。他の人を貶めて、活躍を奪ってまでクライ、お前の評判を上げたいんじゃない。それを今回のことで気づかされた。私は間違っていたんだな)

(いいんだ。いつもミストレアが俺の背中を押してくれて、それに何度も助けられてる。ただアイカの誤解を解きたかったのは、せめて俺の周りの、直接触れ合った人にだけは本当の真実を知ってもらいたい。それだけなんだ。まあ、アイカの誤解は酷すぎたのもあるかな)

 本当はプリエルザの流す噂もどうにかしたい思いはあるんだけど……どうも彼女に関わるのは危険だと俺の直感が囁くんだよなあ。
 王都に広がってるとウルフリックがいっていた噂の方も随分と曲解されているし……誰に相談したらいいんだ。

 お店のお客さんまで巻き込んで喜びを分かち合っているアイカを眺めていると、いつの間にかイザベラさんが隣にきていた。

「私はそんなに気にならなかったんだが……噂、気にしていたんだな」

「……はい」

「人の口には戸は立てられないものだ。お前が責任を感じることはないんだぞ」

「でも……あの場では皆が死力を尽くして戦っていたのに……」

「フフッ、そうだな。だが、あの場にいた誰も噂を否定しないだろうな」

「それは……なんでですか?」

「私たちは見たからだ。英雄の誕生する瞬間を……自分の見たものに嘘はつけない、そうだろ?」

 だから噂を無理に消そうとしなくていい、そういって優しく笑うイザベラさんは、真っ直ぐな目で俺を見ていた。

 少しだけだけど肩の荷が降りた心地だった。
 俺はそれだけ巨大に膨れ上がった噂を重荷に感じていたのかもしれないな。

 イザベラさんは躍起になって消そうとするほど余計酷くなるだけだと続けた。
 親しい人にだけ真実がわかっていればいいだろうとも。
 ……噂に関しては少し静観していた方がいいかもしれない。

 それにしても、英雄、か。
 ……本当にそんな風に見えていたんだろうか。
 自分のことだけど実感がない。

 一通り騒いで満足したのかアイカが席に戻ってくる。
 彼女は真剣な表情で言葉を紡いだ。

「その、さ。わたしも御使いの間で広まってる噂。本当は違うんだよって訂正してみるね」

「いいのか?」

 想定外の答えで驚いた。
 そうか、御使い同士連絡できるならアイカの口からいってもらえれば訂正することも可能なのか。
 でも……。

「イザベラさんからは噂は躍起になって消そうとするほど広まっていくものだって聞いたけど……」

「うん、そうだね。クライは動かない方がいいと思う。皆他人の噂話とか悪い話とか好きだからね。……余計拗れて広まったら厄介だもん」

「なら……」

「だけど、御使いの間だと今回の噂はちょっと違うかな。そうだね、不確定情報って形で広まってたから。それに御使いの中には本当の真実を知りたいって人も一定数いるからね。たった一人の意見だからすぐに噂がなくなったり、変わったりしないと思う。でも一人でも意見を挙げれば真実を知りたい人はちゃんと調べて訂正してくれる、はず」

 少しだけ自信なさげのアイカはそれでも俺のためにできることはないかと模索してくれていた。

「ただなあ。それだとクライのところに御使いが接触してきて噂の真実を聞きに来たりしちゃうか心配なんだよね~。迷惑はかけたくないし」

「だけど、同じ王都に住んでいる以上、接触は避けられない。それぐらいは仕方ないんじゃないか?」

 御使いの間で広まっている噂だけは別格なほどねじ曲がっていたからな。
 訂正できるならしたいけど。

「う~ん、ならダメ元で天使様の方にも要望を送ってみるね。わたしにできるのはそれくらいしかないけど……」

「その……大変じゃないか? 無理する必要はないんだぞ。アイカだって王都をでて外の世界を見るって目的があるんだろ」

 少し不思議だった。
 なんで初対面の俺の事情に心を砕いてくれるのか。
 レベル上げに協力するといわれたから嫌嫌手伝っている、そんな風には到底思えなかった。

 彼女は本気で俺のために動いてくれようとしていた。

「だってクライは地上でできた初めての友達だから。だからいいんだ」

 彼女は弾むように笑う。
 友達。
 なぜだろう、アイカのいったその関係が俺たちには相応しいと、そう思えてしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

処理中です...