孤高のミグラトリー 〜正体不明の謎スキル《リーディング》で高レベルスキルを手に入れた狩人の少年は、意思を持つ変形武器と共に世界を巡る〜

びゃくし

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第百一話 デート?

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「何故だぁ~! 何故私はこんな大事な時に仕事なんだ! クライの初めての長期休暇なんだぞ! 屋敷でも外でも一日中一緒に過ごせる貴重な機会なんだぞ! 休みの間に家族の絆を深めようとアレコレ考えていたのに、何故私はこの時に! 王城に出勤しなくてはならないんだぁ!!」

「御当主様、それは――――」

「家族水入らずで王都の劇場で最新の劇を鑑賞して! オークションに参加して、珍しい品を購入して! 庭で盛大にバーベキューをして! 一緒に魔物討伐をするつもりだったのに、どうしてなんだぁ~!!」

(せっかく庭師が綺麗にしただろうに……あそこでバーベキューをするつもりだったのか……)

 悲嘆する母さんをハイネルさんが冷静に諭す。
 
「御当主様、そんなことでは坊ちゃまが呆れてしまいますよ。お仕事が坊ちゃまの長期休暇と被ってしまうとは不運ですが、ソレはソレ、コレはコレでございます。教国より使者が参られております。御使い降臨による各国の対応も連携が必要。であれば、御当主様の力なくば王国の威信に関わります。残念ですが坊ちゃまとの触れ合いはまたの機会に……」

「ぐぬぬ~。御使いさえ降臨しなければこんなことには……」

 物凄く悔しがる母さんになんと声をかけたらいいかわからない。
 ここにいない御使いに対する苦々しく思いが溜まっていくようでいたたまれない。

 だが、そんな母さんは御使いへの憎しみから一転、気合いを籠めて俺とミストレアに宣言する。

「クライ、母さん頑張って仕事を片付けてくるからな。一日、一日は必ず開けてみせる。だから休み中に家族水入らずでどこかに出掛けよう。ミストレア、それまでクライの面倒を頼むぞ! 約束だからな! 母さん、頑張るから! 必ず仕事を片付けて私はここに戻って来るぞ!」

 そういって母さんはハイネルさんに強引に連れられて馬車で王城まで出勤していった。
 『教国の連中をすぐに追い返してやるからな!』と馬車から貴族街に響くくらいの大声で叫んでいたのを、俺たちは聞かなかったことにした。




 
 生徒会執行部が手を回してくれたのか、予想に反して懸念だった“孤高の英雄”絡みの噂に反対する相手は、ザックとかいうナニカ以降は特に現れなかった。

 いまだ学園内の噂は消えていないものの、長期休暇の間に学生たちは各々の実家に帰ったり、家族と団欒を過ごしたりするはずだ。
 セハリア先輩の予想通り休み明けはまた別の話題が学園内に広がるだろう。

 ……いまはそう信じておくしかない。
 イザベラさんやアイカの言う通り余計なことをしてさらに噂が拗れるのは避けたいからな。

 そうそう、母さんはどこで俺が学園で絡まれたのを知ったのか、イクスムさんが報告したのかもしれないけど、『私の家族に手を出そうとは……消し炭にしてくれる!』と突然いいだして宥めるのに相当苦労した。
 俺のために怒ってくれるのは、その嬉しいけど、消し炭は流石にマズい。

「デートといったのに、エクレアとイクスムも一緒か……」

 王都の街中で待ち合わせたケイゼ先生が開口一番に口にだしたのは、不貞腐れた文句だった。

「まったく君は私だって勇気をだして誘ったのに。こんな仕打ちをするなんて」

「いや、あのそれは……」

「フフッ、別に構わないよ。少しからかっただけさ。冗談だよ冗談」

(そもそも《リーディング》でステータスを解析した時に確認したが、クライとケイゼは十歳差だぞ。クライが魅力的なのは認めるが、何を考えてるんだコイツは?)

 冗談という割には目が笑っていないような気もするけど……。

「どうやら私たちはお邪魔のようですね。お嬢様、私たちはこの辺りで退散しましょうか?」

「ダメ」

「……はい、申し訳ございません」

 なぜかエクレアがめちゃくちゃ怒っているような気もするけど、この間のようなどうしても許さないという強い怒りではなさそうだ。
 というか、エクレアに叱られてしょんぼりとしたイクスムさんが、涙目でこちらを見てくるんだけどヤメて欲しい。

 ちなみにエクレアと出かけるときは常に一緒ともいってよかったアーリアは、ここにはいない。
 エクレアとイクスムさんは、ケイゼ先生と冒険者ギルドにいく話をしたときは即座についてくるといってきたけど、アーリアはその場で一切の悩む時間もなく同行しないと断言した。
 『外せない用事があるので失礼します』と去っていくアーリアの背中を見詰めるエクレアの瞳は、俺の見間違いではなく寂しそうに見えた。

「ところで今日は冒険者ギルド王国本部に行くんですよね?」

「そうだね。でも折角研究棟から出たんだ。王都観光も遇にはしないとね。丁度買い物もしたかったんだ。“失色の器”の捜索を冒険者ギルドに依頼したのは私なんだ。勿論……付き合ってくれるね?」 

「あ、はい」

 一切の断る余地のない質問だった。

 それに、ケイゼ先生には依頼にかかった費用も払おうと思ったら、取り付く島もなく断わられてしまっていたから、買い物ぐらい付き合うのは吝かではない。

 それから俺たち四人、天成器の皆を合わせて八人は王都の大通りを中心に買い物に繰りだすこととなった。

 ケイゼ先生は服やアクセサリーより本を探したかったらしく、本屋巡りを行うことになった。
 その他にも話題の魔導具屋や色々な種類のお酒を網羅した酒屋を訪れたり、王都ではよく訪れるという古本屋に来訪したときは、興奮した様子で次々と本を購入してはマジックバックに詰め込んでいた。
 
 途中、俺がエクレアを怒らせてしまっていたときに調べた、流行りのスイーツ店も再訪し、今度こそ皆で味わうことができたのは良かったことだろう。
 
 それにしても女性の買い物は長い。

 俺やエクレアは王都で流通している本には興味があったからそれほど飽きずに楽しめているけど、イクスムさんは明らかに面倒そうな顔をし始めていた。

(イクスムはあまり物事に執着しなそうな性格をしているからな。本で教わることより自分の考えを大切にしているようだし、妹様がいなければ屋敷に帰ってもおかしくないな。それに比べて……)

「いや~、いつもエルドラドと二人きりで必要な物資の買い物しかしないんだが、遇にはこういうウインドウショッピング? 見て回るだけの買い物も悪くないんだな。よ~し、今日は王都にある全部の本屋を巡ってやる! これでも貯金はあるんだ、読みたかった本は全部買うぞ~!!」

 見たことがないくらい興奮しっぱなしのケイゼ先生はどうにも止められそうにない。

 俺とエクレア、イクスムさんの三人は人知れず同時に溜め息を吐いた。

 王都散策はまだまだ暫く続きそうだ。
 




 渋るケイゼ先生をようやく宥め、またの機会に必ず買い物に付き合うと約束させられた午後。
 遅めの昼食を終え、やっと辿り着いたのは冒険者ギルド王国本部。

「ケイゼ・マクシミリアだ。依頼の品を受け取りに来た。これが依頼書の片割れだ。確認を頼む」

 冒険者ギルドの受付でケイゼ先生が依頼人用の控えを差しだす。
 
「かしこまりました。少々お待ち下さい」

 数分後に現れたのは先程依頼書を渡したギルド職員ではなく、見知った顔の女性だった。

「エディレーン、お前か。別に依頼の品を受け取るだけなんだから会う必要はないと思うが」

「まあ、そう言うなケイゼ。せっかく滅多に顔を見せない旧友がここを訪れたんだ。私だって仕事そっちのけで会いにくるさ」

「嘘をつくな。仕事なんか殆ど部下任せだろうが」

「フッ、バレたか」

 ケイゼ先生と軽口を交わしながら気怠げに笑うギルド職員の女性は、以前ここを訪れたときにも出会ったエディレーンさんだった。
 
 オーク集落壊滅依頼のときにエディレーンさんの助力で、依頼のリーダーであるヴァレオさんに紹介してもらい、ラウルイリナと共に依頼に赴くことができた。
 元々イクスムさんとも知り合いだったけど、ケイゼ先生とも知り合いだったのか……。

「ほぉ~、誰かと思えばイクスムに熱血坊主のクライじゃないか」

 ね、熱血?
 前会ったときは普通に呼んでくれていたのになぜ急に?

「ん~、そこの眼鏡のお嬢ちゃんもイクスムが背後に庇うだけあって、中々訳ありそうだ。ふふっ、まあいい。ようこそ冒険者ギルド王国本部へ。私は君たちを歓迎しよう」

 大仰に手を広げ、歓迎の挨拶をしてくれるこの王国本部の副ギルドマスターは、その憂いた瞳の奥に油断ならない光を灯し、俺たちを見詰めていた。
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