孤高のミグラトリー 〜正体不明の謎スキル《リーディング》で高レベルスキルを手に入れた狩人の少年は、意思を持つ変形武器と共に世界を巡る〜

びゃくし

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第百十話 残酷な結末

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 イグニアスドラゴンの瘴気獣と一帯に燃え盛っていた炎が消え失せ、灰色の瘴気舞う大地に佇むのは、ラナさんとアステールさんだけとなった。

 勝った。
 
 あの災害級の相手に二人は退くことも逃げることもせず打ち勝った。
 街を、守りたいと想える場所を守りきった。
 
「ぐっ……」

 だが、当然ながら代償も大きい。
 体力も魔力も底を尽き、身体には数多の火傷、左腕は翼の一撃を受け、力無さげに垂れたまま。
 出血こそ少ないが、火傷痕は酷く、身体の広範囲に渡って刻まれている。
 
 片膝をついたラナさんは全身を襲う激痛に表情を歪める。
 
「ラナ!? 大丈夫か?」

「アステール、ごめん。ちょっと……傷を受け過ぎた」

「早くポーションを使え! まだ残ってるだろ!」

「うん……」

(どうやら回復のポーションを使う隙がなかっただけで、まだマジックバックには所持していたようだな)

 小瓶に詰められた緑の液体を左腕を中心に傷口と火傷痕にかけていく。
 手持ち全部のポーションを使ったようだがすべての傷は治らなかった。
 手足には酷い火傷痕が残ってしまっている。

「ふぅ……ぐっ……」

「ラナ!?」

「ごめん、ちょっと……休憩……」

 憔悴しきったラナさんは心配するアステールさんに断りをいれるとその場に横たわる。
 最早動く体力もないといった痛々しい様子だった。

 横たわるラナさんの視線の先。
 そこでは戦いのはじまりにイグニアスドラゴンの吐いた炎によって半壊した、街の防衛戦力の陣地が立ち直りつつある姿があった。

 残念ながら炎のブレスによって亡くなってしまった人もいただろうけど、イグニアスドラゴンがラナさんたちに倒されたことで生き残れた人々の救助を本格的に始められたようだ。
 街の門も全開に開き、中から治療のための人員が大慌てで出てくる様子が見受けられる。

(……ラナが最後に使った魔法。イグニアスドラゴンの炎が周囲一帯を覆い隠すように燃え盛っていたお陰で誰にも目撃されることはなかったようだな)

(ああ、炎が壁になって上手く影になったみたいだ。……毒属性、死毒魔法。あんなものが目撃されていたらラナさんへの敵意はグラームホールの比ではなかっただろうから……その点は良かったのかもしれない)

 ラナさんの最後に使った赤黒い毒の魔法。
 通常の毒属性魔法ですら人々から忌み嫌われる魔法だ。
 その上位属性にあたるはずの死毒魔法をもしも習得していることを知られたら、どんな最悪の結果を招くのか……想像もしたくない。
 まさかあんなものまでラナさんが使えるなんて思いもよらなかった。

「……それにしてもあの赤竜相手に死角からの奇襲が得意なお前が、よく正面から戦って勝てたな」

「……ふ、ふふ、ありがと」

「毒魔法もあまり効いていなかったようだし、本来の戦い方も出来なかったが……ラナ、お前は本当によく戦ったよ」

「ぐ……戦闘の途中で『糸』を操る左手を折られたのが痛かった、かな。まあ、あんな巨体に『糸』は使い難かったし、あの炎の勢いだと結局燃やされてただろうから、使い物にはならなかっただろうけど」

「戦場のそこら中で奴の吐き出した炎が逆巻いていたからな。『糸』は使わなくて正解だろう」

 ……あれで本来の戦い方ではなかったのか。
 それと『糸』?
 言葉からは『糸』を使った戦い方がラナさんの本来の戦い方にも聞こえるけど、今回は相性の悪さから使わなかったようだ。

(正面から戦ってもラナはかなり強さだった。それ以上のものがあるのか?)

 二人の会話が続く最中、倒れ伏すラナさんに駆け寄る影がある。

「お姉……ちゃん?」

「ああ、ラナ、こんなに傷ついて……」

 傷つき地面に横たわるラナさんに近づいてその火傷痕の目立つ手を優しく握ったのは、彼女のお姉さんであるマリーさんだった。
 彼女はラナさんの酷い火傷痕を見て絶句していたが、目の端に涙を浮かべながらも、ラナさんに話しかける。
 それは、どうしても伝えなくてはならないと決意しているかのようで。

「ラナ……瘴気獣を倒してくれたんだね。街の外壁の中でも戦ってる音が聞こえてた。……ありがとう」

「お礼なんて言わないで、わたしの方がお姉ちゃんにはいつも助けられてるんだから……。それにお姉ちゃんの反対をわたしは押しきって――――」

「ううん。わたしが間違ってた。ラナが正しかったよ。ほら見て。犠牲者は出ちゃったけどみんなあの怖い瘴気獣が倒されたことで喜んでる。ラナが、ラナがみんなを救ったんだよ。貴方のお陰でみんなが助かった。……だからありがとう。この街を守ってくれて。この街のみんなに明日をくれて」

 いまだ陣地跡では負傷者の治療が続けられている。
 それでも街を脅かす脅威が去ったことに皆明るい顔をしていた。
 ラナさんが街を救った、マリーさんの言葉は真実を表していた。

「それに、ラナが一度それと決めたら貫き通す性格なのは知ってるからね。ホントはね。逃げようなんて言ったら……きっと断られるんだろうなってわかってた。……私は貴方のお姉ちゃんなんだから」

「……うん」

「私が何度言ったって街や人を守るためならあの魔法を使っちゃうんだから……仕方ないんだけどさ」

「ふふ、ごめん。っ…………ぐっ」

「ああ、ラナ。待ってて、今救助の人たちに頼んで回復魔法をかけて貰うから!」

 傷の痛みに苦しげな声をあげるラナさんに、マリーさんが助けを呼ぶべく立ち上がり陣地跡に視線を向ける。

 そのときだ。

 災難というものはこんなに連続して襲ってくるものなのか……。
 このときの俺は目の前で起きた出来事に信じられない思いでいっぱいだった。

 負傷者の治療の続けられている陣地跡。
 そこに襲いかかる魔物たちがいる。

 この機会を狙っていたのか?
 イグニアスドラゴンが倒され、人々が油断する絶好の機会を。

 疑問の答えなどでるはずがない。
 残酷な現実だけがそこにあった。

「きゃあああああ!!」

「うあああっ!? なんで! なんで、こんな時に!?」

「た、助けてくれぇーー!!」

「し、死にたくない。せっかく生き残ったのに。こんなところで死にたくないぃ!! 助けて! 誰か助けてー!!」

 怪我人も救助にきた人たちも一緒くたになって助けを求めている。
 魔物たちは集団で逃げる人々を追いたて、覆い被さり、噛みつき、鋭い爪で肉を裂く。
 一瞬にして混乱が巻き起こっていた。

「な、なに?」

 その魔物の一体が怯えるマリーさんに狙いをつける。
 
「シザーラプトルだと!? こんな時に……」

 アステールさんの驚きと共に呟かれたその魔物の名前。
 シザーラプトル。
 全長は二m前後の鋭い鉤爪と牙をもつ、小型恐竜の魔物。
 集団で狩りを行い、冒険者のパーティーにも引けをとらない連携力を誇る爬虫類にも似た二足歩行の魔物。

「ギャアッ! ギャアッ!」

(不味いぞ。他のシザーラプトルも完全にマリーに狙いを定めてる。ラナは動けない。陣地跡は大混乱で助力は見込めない)

「ギャアッ!」

 シザーラプトルの放つ殺意にその場にへたりこんでしまうマリーさん。
 その間も四体のシザーラプトルたちは、彼女と横たわったままのラナさんを取り囲むように距離を詰める。

(こんなことって……この街を襲うイグニアスドラゴンは倒したんだぞ! それがこんな結末なのか! 怪我で動けないラナと戦う力のないマリーが無惨にも殺されて、それで終わりなのか! そんな残酷な結末があってたまるか!!)

 ミストレアが嘆いていた。
 認められない、認めたくないと力の限り叫んでいた。

 俺も……認めたくなかった。
 これじゃあ、あまりにもラナさんが報われないじゃないか。
 必死の思いでイグニアスドラゴンを倒して、守りたいものを守りきって、これからの未来が、明日が続いていくと思った矢先に、こんな結末が待っているなんて……そんなのやり切れないじゃないか。

「ギャアァ! ギャアァ!」

「きゃ!」

 威嚇するシザーラプトルたち。
 理不尽な殺意に晒されながらもマリーさんは気丈に振る舞った。
 震える足で立ち上がり動けないラナさんを庇うように前にでる。

「ラナは、私の妹は貴方たちの好きにはさせない! 襲うなら私を襲いなさい! ジングル、私に力を貸して!」

 マリーさんの右手の刻印が白い光に変わる。
 現れたのは白銀の短刀。
 彼女はそれを手にシザーラプトルたちを睨みつけ叫ぶ。

「かかってきなさい! 私が返り討ちにしてあげる!」

 それが虚勢なのは明白だった。
 それでもマリーさんの気迫に気圧されたのか及び腰になるシザーラプトルたち。

「待っててね、ラナ。こんなトカゲモドキ、私がささっと倒してすぐに助けを呼んでくるから」

 短刀を振り回しながらマリーさんが走る。
 それはシザーラプトルを惹きつけるための動きだった。
 少しでも注目を浴びて囮になる。
 動けないラナさんから引き離すための捨て身の策。

 自らが助かる見込みがないとわかっていて、それでも妹に対してできる最後の献身。

「ギャア」

 マリーさんの気迫に硬直していたシザーラプトルの一体が動きだす。
 あっという間に走る彼女の正面に回り込み飛びかかった。

 マリーさんは笑っていた。
 ラナさんが無事でいてくれることを祈るように。
 最後の、命潰える瞬間にも笑ってやると覚悟するように。

「ギャ………ァ……」

 その瞬間は訪れなかった。
 シザーラプトルの首に絡まり食い込む細い糸。
 飛びかかったはずのシザーラプトルの動きをその糸が完全に引き留めていた。

「ぐっ……」

「ラナ!」

「お姉ちゃんはわたしが守るから……」

 彼女は儚げに笑う。

 これが、この先に見る光景がラナさんの命の最後の輝きだと、俺とミストレアにはわかっていた。
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