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第百十三話 顔合わせ
しおりを挟む「だからオレは! クライと王都まで旅したんだよ! クライが家族と出会えるようにここまで一緒に旅して来たんだ! そりゃあ出会いは誤解から始まったが……ギガントアントイーターに突然襲われた時もオレたちで協力して撃退したんだ。オレの方がクライのパーティーメンバーに相応しい」
「私はクライから一緒に依頼に受けないかと誘われた。焦りと不安から視野の狭くなっていた私に彼は手を差し伸べてくれたんだ。そして、彼と共にハイオーグレスの統率するオーク集落を壊滅させた。過ごした時間は短かったが、互いに助け合い、心の内を曝け出した相手だ。なにより私はすでにパーティーを組んで欲しいと彼に頼んである。――――私が先だ」
なぜだ。
なぜこんなことになったんだ。
同じテーブルを囲んで座りながらも言い争うニールとラウルイリナに言葉が出ない。
というか、なぜ互いに反目しあってるんだ?
顔を合わせた直後は二人共それほど険悪な空気でもなかったはずなのに、なにが切っ掛けなのか互いの口調が徐々にヒートアップしだした。
はぁ……。
俺は二人に聞かれないように小さく溜め息を吐く。
思いだすのは数日前。
母さんの屋敷でラナさんとアステールさんの過去を垣間見たその直後のこと。
「……落ち着いたかい」
「はい……すみません」
俺の顔を不安そうに覗き込むケイゼ先生。
……泣いているところを見られてしまったな。
気恥ずかしさからケイゼ先生の顔をまともに見れない。
それに、俺の手を優しく握ってくれたエクレアも時間が経つにつれ、だんだんと冷静になってきたのかどこかソワソワとしだしてこちらも落ち着かない。
唯一イクスムさんだけは普段通りに落ち着き払っているだろうと思って視線を向ければ、見たこともないほど狼狽した姿。
オロオロして視線が泳ぎまくっている。
た、頼りにならない。
そんなどことなく居心地の悪い中、羞恥心を誤魔化すようにポツリポツリと俺は《リーディング》で見た光景について三人に説明していた。
短剣の天成器アステールさんの使い手であるラナさんの唐突な追放のこと。
街を襲うイグニアスドラゴンの瘴気獣と一対一の激闘が繰り広げられたこと。
それに勝利しながらもシザーラプトルの突然の襲撃があり、家族を守るため限界を超えて戦ったこと。
姉であるマリーさんを最期まで心配しながらも守りきったこと。
彼女の死力を尽くした戦いぶり、胸の内に秘めた想いを俺はいつしか夢中になって三人に語っていた。
そして……彼女が大陸で忌み嫌われている毒属性魔法を使用できることも。
正直毒属性魔法について話すのは少しだけ躊躇した。
だけど、ラナさんにとってあの魔法を使えることは決して悪いことばかりではなかったようだった。
俺はこの場にいる三人を信頼している。
エクレア、イクスムさん、ケイゼ先生、この三人ならラナさんが毒属性魔法を使えるからといって、無闇矢鱈と誤解したりしないと信じている。
だからこそ三人には俺とミストレアの見た光景を包み隠さずに話した。
「なるほど。……この“失色の器”にはそんな過去が……」
「壮絶……ですね。たった一人で街を破壊するような相手と戦うことを決めるとは……守りたいもののために命を賭ける覚悟が、彼女にはあったのですね」
「……」
ケイゼ先生は感心するように“失色の器”を撫で、イクスムさんはラナさんの覚悟の尊さを称賛するように頷く。
エクレアは一見普段通りの無表情だが、どこか悲しそうにも感じる。
「グラームホール……教国南東に存在する王国にも近い、いまも実在する都市。そしてイグニアスドラゴン、レッドドラゴンの上位個体。その瘴気獣との激闘、か」
ケイゼ先生の説明では教国南東の都市グラームホールは降雪地帯の多い教国においてあまり雪の降らない地域に存在するらしい。
そして、彼女も話を聞いて驚いていたイグニアスドラゴン。
レッドドラゴンの上位個体であるこの魔物の討伐難度はA+だそうで、さらに瘴気獣だというのだからその強さは計り知れないともケイゼ先生は神妙な顔つきで語っていた。
帝国の火山地帯に生息が確認されているイグニアスドラゴンは、強靭無比な竜鱗で全身を覆い、金属すら容易く溶かす灼熱の業火を操るとされる魔物らしい。
その飛行能力も相まって熟練のAランク冒険者のパーティーでも討伐は困難だとされているとか。
「それにしても……仲間が欲しい、か。いまなら気持ちがなんとなくわかるよ。毒属性魔法を操る彼女には姉以外誰も味方する者がいなかったのだろうな。それこそ君が現れる以前の私のように……」
「仲間、それも互いに信頼できる相手ともなると中々見つからないものです。……ですが個人的には彼女にも一人でも味方がいれば何か変わっていたのでは……とも思います」
ケイゼ先生とイクスムさん、二人がラナさんに思いを馳せる。
その残念そうな姿が印象的だった。
そう、ラナさんの求めていた信頼できる仲間。
その言葉から俺が連想した人物こそが目の前で言い争うニールとラウルイリナの二人だった。
二人は俺が冒険者ギルドを通じて連絡をとった。
ニールとは王都で一度別れてからも冒険者ギルドの伝言を通じて偶に近況報告のようなことをしていたし、冒険者ギルド王国本部でギルドマスターのシグラクニスさんからラウルイリナが王都に戻ってきているのを確認していたからだ。
王都への旅路を共にした狼獣人のニール。
帝国の王子でありながら、原因不明の病を抱える母親のためにエリクサーを探す彼に、俺は彼の提案である時々パーティーを組むことを了承した。
実際には連絡を取り合うばかりであまり時間が合うことがなく冒険に出ることはなかったけど……俺の信頼できる仲間といったら彼のことが頭に浮かんだ。
王国南東に領地をもつフェアトール家の令嬢であるラウルイリナは、オーク集落壊滅依頼の報告を済ませたあと、一度領地に帰るといっていた。
領地を継ぐことになるであろう弟に修復した“始祖の剣”を渡しにいくと。
そして、王都に再び戻ってくると。
彼女は王都で迷惑をかけた人たちに謝りたいと語っていた。
それから、焦りと不安から迷惑をかけてしまった人たちに謝罪と償いが終わったそのときは、俺とパーティーが組みたいとそういってくれた。
二人とも俺の信頼する仲間だ。
パーティーを組むなら彼らしかいない。
そう思って互いの紹介も兼ねて同じタイミングで会えるように時間を合わせたのに……。
「オレとクライの連携は抜群だ! コンバットアントを狩りにいった時も次から次へと見つける端から倒して行ったんだ。息も合ってるし、前衛として前に出て戦うオレと後衛として的確な弓で戦うクライは相性も悪くない」
「私は彼の騎士だ。騎士は守るべき相手と共にある者。私も当然彼と共にある。そう心に決めてるんだ!」
互いに興奮して言い争う二人を見て思う。
なぜこんなことに?
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