孤高のミグラトリー 〜正体不明の謎スキル《リーディング》で高レベルスキルを手に入れた狩人の少年は、意思を持つ変形武器と共に世界を巡る〜

びゃくし

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第百十八話 試練

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「よぉ~し、スライム狩りやってやるぞぉ!」

「狩って狩って狩りまくるにゃ~」

「スライムなら何体かかってこようが屁でもねぇぜ! ここで一攫千金」

 壇上にあがっていたエディレーンさんが履けていく











 エディレーンさんの演説していた壇上の奥、陣地後方に作成された天幕郡は、冒険者ギルドの職員が待機する専用の場所となっていた。

 彼女は集まった冒険者への演説の終わり、俺たちを軽く一瞥するとニヤリと笑う。
 程なくどこからともなくギルド職員の人が現れ、俺たちはその天幕の中へと案内された。

「やあやあ、君たちよく来てくれたね」

 歓迎の声をあげ出迎えてくれるエディレーンさん。

 隣にはこちらに小さく手を振る見知った顔の魔人の女性。
 当然といえば当然だ。
 神の石版に記された異質な記述の結果を間近で見れるのに、それに食いつかない人じゃない。

「フフッ、驚いたかい。私もエディレーンに誘われて冒険者ギルド直属の相談役として、この陣地に控えていることになったんだ」

 悪戯が成功したかのようにクスリと笑うケイゼ先生。
 
「ケイゼは研究者としても優秀だが、魔法を使わせてもかなりの実力だからな。相談役だけでなく戦力としても期待したいところだが……」

「まあ、どうにもならない事態なら私もさすがに手を貸すさ」

「……と言う訳だ。ケイゼには冒険者ギルドを代表して力を貸して貰うことにしている」

 どうりでスライムの大量発生について相談しにいったときも反応が悪かった訳だ。
 すでにエディレーンさんに相談役兼戦力として誘われていたのか。

「ほぅ……エディレーンが褒めるとは……そうですか、そうですか」

(イクスムにはケイゼのレベルやスキルは個人で秘匿するべき情報だし、さすがに教えていないからな。戦力としての予想外の高評価に興味を唆られたようだな)

 だとしても、いきなり好戦的な空気を発しないで欲しい。

 イクスムさんからはケイゼ先生への挑発にも似た雰囲気が醸しだされていたけど、ケイゼ先生自身はどこ吹く風といった様子で受け流していたのは幸いだった。

 それにしても、以前ケイゼ先生を《リーディング》で解析したときはレベル52だった。
 しかも、火魔法の上位魔法、炎魔法まで扱える高い魔法の実力。
 そのうえエディレーンさんとは旧知の仲のようだし、戦力としても戦える納得の人選だな。

「よお! エディレーン! 邪魔するぞ!」

 突然天幕の中に入ってくる大柄な女性。
 その背にはいつぞや見た巨大な刃もつ白銀の片手斧が豪快にくくり付けてある。

(あ、筋肉女)

(ミストレア……また失礼なことを)

「イーリアス、わざわざこんなところに来るとはな。一体どうしたんだ? ……何かトラブルでも起きたか?」

「どうしたもこうしたもないぞ! クランベリーの奴が五月蝿くてな。やれ、突撃ばかりじゃなく自分たちの言うことを聞けだの、お前たちが暴れると被害が拡大するだの、散々に言いやがって、エディレーンからもあの分らず屋に言って聞かせてくれ!!」

「いや、お前たち第二騎士団はどんな戦場でも突撃しかしないだろうが。そのせいでクランベリーは毎回始末に追われてるんだから少しくらいの愚痴は許してやれよ」

「だがな! 私の第二騎士団は全員突撃が信条なんだ! 突撃を失くしたら私の騎士団じゃなくなるだろ? 部下たちだってもう突撃以外したくない、団長に後ろから突撃されるくらいなら自分から前に出ますと言ってくれているんだ!」

「……それは単に前以外に逃げる場所がないからだろうよ……」

 物凄い勢いでエディレーンさんに捲し立てるイーリアスさん。
 騎士団の陣地にきているとは思っていたけど、冒険者側の陣地にまでくるとは予想していなかったな。

「ねぇ、あの何もかもがデッカい女の人って誰なの?」

 イーリアスさんの迫力に気圧されながらもアイカが小声で尋ねてくる。

「胸超デカいし、筋肉オバケじゃん。何食べたらあんなになるの……」

(アイカは食い入るように筋肉女を見ているな。ミリアといい……そんなに気になるか?)

 アイカと同じようにラウルイリナとニールもイーリアスさんとは初対面だからか彼女が何者なのか気になるようだ。
 質問の答えを無言で促してくる。
 
「イーリアスさんは王国に七つある騎士団の一つ、第二騎士団の騎士団長だ。以前騎士団総本部に案内されたときに出会ったんだが……ああ見えて優しい人だよ。犯罪を犯していたとしても、深く反省さえしていれば、それを許して自分たちの懐に入れてしまうような包容力をもった人だ」

「……へー、スゴイ人なんだ」

「なるほど、王国の騎士団長、ね。帝国の誇る戦力とどっちが強いんだろうな」

「あの女性が騎士団長……どうりで威厳あるお姿をされているんだな。あんなにも鍛え抜かれたお身体とは……素晴らしい」

 ニールはイーリアスさんの強さに興味が湧いたようだ。
 彼女を品定めでもするかのような視線で眺めている。

(エディレーンに熱心に抗議を頼み込む姿には騎士団長としての威厳は感じないが……ラウルイリナは騎士に憧れがあるからな。若干盲目になってるぞ、アレは)

 ラウルイリナは周囲には隠そうとしているけどキラキラした目でイーリアスさんを見詰めていた。

「お? お前……」

「イーリアスさん、お久しぶりです」

「……誰だっけ?」

「ええ……」

「ガハハハハッ、冗談だよ、冗談。私の騎士団の団員候補をとっ捕まえた坊主だろ? ちゃんと覚えてるって!」

 グレゴールさんたちが団員候補になってる……。

「そういや自己紹介はしてなかったか? 私は第二騎士団団長イーリアス・クロウニー。王国を守る盾であり矛。よろしくな!!」

 豪快に笑う彼女は自信に満ち溢れ眩しかった。





 イーリアスさんに以前できなかった自己紹介を終わらせたあと、俺たちは正午丁度に出現するというスライムの大量発生に備えて待機していた。
 
 傍らにはケイゼ先生とエディレーンさんも控えており、舞台となるコボルトたちの庭“牙獣平原”を見渡せる位置でそのときを待っている。

 ちなみにイーリアスさんはもう騎士団の陣地に帰っていった。
 彼女は中々騎士団の陣地に帰ろうとしなかったが、そのうち第二騎士団の団員と思われる騎士たちが現れると強引に引きずるようにして陣地に帰っていった。
 どうやらイーリアスさんが気まぐれに駄々をこねるのは日常茶飯事らしく随分と手慣れた様子だった。

(本気で抵抗すればイーリアスも騎士たちに引きずられることはないんだろうが、アレはアレで楽しんでるようだったな)

「にしても正午きっかりなんて時間指定までするとは、神の試練とやらも変なところで正確だよな」

 ニールが不思議そうにするように、神の石版に記されたスライムの大量発生は正午丁度に発生すると記されていた。
 
 しかし、高台から見下ろす草原は以前と変わらない様子で時折ここにもコボルトたちが攻めてくるものの、スライムの姿は一切ない。
 ニールが懸念していた通り本当にスライムが出現するのか疑いたくなってくる。

「だが、神の石版に記されたことはいままですべて真実だった。疑問なのは歴史上王の魔物の出現すら記すことのなかった神の石版が今回のスライム大量発生を告知したことだが……その答えが出るのはもうすぐか」

 ケイゼ先生が小型の時計から視線を草原に向ける。
 その瞳はこれから起こる僅かな変化も見逃さないと意気込んでいた。

 陣地に待機する冒険者たち、中には御使いもいるのかどことなく騒がしく興奮しているグループもいる。

 騎士団は逆に静かだった。
 すぐ近くに布陣しているが理路整然として統率がとれている。
 これも両騎士団の団長のお陰なのだろう。

 そのときは刻一刻と近づく。

 待機する誰もが固唾を呑んで見守る中――――それは起こった。

「っ!?」
 
「んっ、なに!?」

「……」

 一瞬眩い光が辺りを照らした気がした。

 草原全体を照らす光。

 目の錯覚か?

 それはほんの刹那の出来事。

 しかし、変化は劇的だった。

「これは!?」

「おいおいウソだろ……」

 波だ。

 緑に染まっていた草原に多種多様な色の波。

 何十m? いや何kmある?

「どこから現れたんだ!? あんな大量のスライム、影も形もなかったはずなのに!?」

 ラウルイリナの驚愕する声が耳に残る。
 この場の皆が驚きを隠せなかった。

「これが……神の試練?」

 草原の緑が見えなくなるほどの大量のスライムでできた大海原。

 小さな街一つならすべてスライムだけで埋め尽くしてしまう規模。

 このスライムすべてが王都を襲えば、それこそ壊滅的な被害を受けてもおかしくない。

 正しくそれは試練といっていいものだった。
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