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第百二十一話 破壊の権化
しおりを挟む「クランベリー! いいよな、もう我慢しないぞ! 突撃していいんだよな!!」
「ええ! あんたの得意技でしょ。今度はあんたたちが存分にその力を見せて頂戴」
最上級魔法によって壊滅的被害を受けたスライムたちは大半が切り刻まれたとはいえ、依然脅威的な数を保っていた。
しかし、大波のように押し寄せていた勢いはもうない。
数こそ多いものの、元草原にはところどころ塊となったスライムたちとその上位個体と思われる個体だけが生き残っていた。
(最上級魔法……恐ろしい威力だったな。草原に燃え盛っていた火も土の城壁も勿論あれだけいたスライムの大群も尽く切り刻んだ。範囲内にいればただではすまない)
(……草原が見る影もない荒野に変わってしまったな)
「行くぞぉ! お前ら! 突撃ぃっ!!!」
「おおおぉぉぉーーー!!!」
大地が地鳴りするほどの騎士たちの行進。
先頭に立つのは当然の如くイーリアスさんだった。
背にくくりつけられていた巨大な刃の片手斧を振り回し土の城壁の残骸を踏みつけ突進する。
「【闘技:戦塵疾走】ぉ!!」
走りながらの闘技発動。
白銀の片手斧を振れば地面を闘気の衝撃が駆け抜ける。
ゆうにスライム三十体は固まっていそうな集団に向けて衝撃が走る。
(闘気が着弾と同時に爆発した!?)
だが、驚きは一度で終わらない。
イーリアスさんはスライムの集団に向けて連続で片手斧を振るい続ける。
「【闘技:戦塵疾走】、【闘技:戦塵疾走】、【闘技:戦塵疾走】ぉお!!」
「と、闘技の連打!? あ、あんなに連続で?」
ラウルイリナが信じられないものを見たように驚愕している。
俺も同じだ。
イーリアスさんが片手斧を振るたびに衝撃が地面を走り、スライムの集団が爆散する。
一撃だけでも複数体のスライムを瞬殺している姿には言葉もでない。
「私も連続で闘技を放つことは可能ですが……あれほど雑に放っておいてあの威力とは、余程身体の動かし方と闘気操作が卓越しているといっていいでしょう」
闘技を複数使いこなせるイクスムさんですら驚いた様子でイーリアスさんの豪快な戦いを見守っている。
「団長に続けぇっ! おおおぉぉぉおおお!!」
第二騎士団の騎士たちも負けてはいない。
気迫とともに突出するイーリアスさんになんとかついていきながら、天成器を片手に生き残りのスライムたち確実に減らしていく。
彼らの通った道にはそれこそスライムは欠片も存在せず、まさに蹂躪が繰り広げられていた。
「おっ? 結構歯応えがありそうなヤツが出てきたな」
突撃するイーリアスさんの前に立ち塞がったのは恐らくラージスライムの上位個体マウンテンスライム。
小山ほどの大きさのスライムの体色は緑。
アレは風属性のマウンテングリーンスライムか。
「――――ッ」
イーリアスさんの目の前で緑の巨大スライムが蠢く。
放たれたのは連続した風の刃。
それも一つ一つの刃が長く避けようにもかなり距離をとる必要があるように見える。
空間を埋め尽くすように殺到する長大な風刃。
それを……。
「フンッ」
イーリアスさんはただの一撃で粉砕する。
何気ない動作で振り下ろされた片手斧は、風刃をいとも容易く砕くと轟音と共に地面に突き刺さった。
「闘気を纏っただけの一撃で……闘技級の威力がある? そんなことが有り得るのか?」
ラウルイリナが恐る恐る吐き出した言葉は真実を示していると直感した。
イーリアスさんにとってのただの一振りは十分に必殺の一撃になり得ていた。
だが、見学しているだけの俺たちの内心など彼女には関係なく……寧ろ不満を募らせていた。
「軽すぎる」
ポツリと呟く言葉は少しだけ哀しくて。
それでも彼女は右手の天成器に落としていた視線を巨大スライムに向ける。
「……相手を仕留めたかったらな。こうするんだっ!」
イーリアスさんはマウンテングリーンスライムに飛びかかった。
高い!
小山ほど全高三m以上の巨大スライムの遥か上に彼女は跳ぶ。
しかし、マウンテングリーンスライムもただ黙ってその場に佇んでいるわけではない。
イーリアスさんの行動の危険さを察知したのか迎撃に動く。
「――――ッ!」
緑の体表を蠢かせ放たれたのは風の砲弾。
空中で白銀の片手斧を振り下ろそうとするイーリアスさんには躱すすべはない……かのように思えた。
「おっと、危ないぞ」
(け、蹴ったのか!? 空中で風の砲弾を蹴り飛ばした? あんなに簡単に? バカな!!)
ミストレアの常識を覆された悲鳴にも似た念話が脳裏に響く。
もうなにがなんだかわからない。
あの風の砲弾だってマウンテングリーンスライムには必殺の一撃だったはずだ。
敵を倒し勝利するための渾身の一手。
事実蹴り飛ばされ明後日の方向に飛んでいった風の砲弾は、着弾地点にいたスライム数体をあっさりと貫通し跡形もなく潰していた。
それを……蹴りだけで弾くのか。
「ほら、喰らえ! 【闘技:地裂開闢】!!」
空中から振り下ろされる巨大な刃は、一切の抵抗を感じさせずマウンテングリーンスライムの天辺から一直線に地面まで到達する。
大地が深く深く割れた。
地割れだ。
たった一人の闘技の一撃が地形すら変えてしまっている。
「あの威力、上位闘技かよ! しかも地属性に変換した闘気を纏ってるのか? すでに最上級魔法でズタボロになってるとはいえ簡単に大地が裂けたぞ。どうなってんだ王国の騎士団長は!?」
「闘気の溜めが一切見られなかった。それでいてあの威力、イーリアス騎士団長は一体どんな修練を積んでいるんだ?」
「いや~、あんな強い人が味方で良かった~。……でも、なんだかわたしスライムの方が可哀想になっちゃったんだけど、どうしよ~」
この場の皆が驚く中一人冷静なケイゼ先生がマウンテングリーンスライムについて解説してくれる。
「マウンテングリーンスライムは通常のスライムが核を一つ体内に有するところを、核を三つ体内に有している。そして、打撃や魔法攻撃はそもそも効きづらく、三つの核すべてを破壊しなければまず倒せない魔物だ。扱う風魔法も中級から上級魔法程度の威力があり、全体の大きさからいってもかなりの難敵。初級冒険者なら体当たりされただけでも重症を負うことになるだろう。だが、アレは何だ? 闘技とはいえ三つある核の内二つがたった一撃で破壊された? どんな威力の攻撃だ」
……どうやらケイゼ先生ですら冷静じゃなかったようだ。
自由に、それでいて破壊の限りを尽くすイーリアスさんを食い入るように見詰めている。
「おお~、中々タフじゃないか! 風の盾を咄嗟に張って斧の軌道を反らしたのか! いいぞ! やるじゃないか!!」
地割れでできた底の見えない大地の溝にいまにも落ちそうになっていたマウンテングリーンスライム。
その魔物に歓喜の声を浴びせかけるイーリアスさん。
……心なしかあの巨大スライムが悲しそうに見えるのは俺だけではないはずだ。
というか風の盾で軌道を反らしていたのか。
それでいてあの破壊力……ますます信じられない思いだ。
戦いはまだ続く。
イーリアスさんは満身創痍になりながらも生存のために反撃してくるマウンテングリーンスライムと楽しげに戦っている。
第二騎士団の騎士たちもそれぞれがラージスライムなどの上位個体と戦い始め歩みが止まりつつあった。
そんなときだ。
両騎士団の活躍に心を奪われていた冒険者たちに声がかかる。
「さあ、冒険者諸君! 君たちの出番だ!!」
戦場に響くエディレーンさんの声。
普段は気怠げな彼女の瞳はいつになく真剣そのものだった。
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