122 / 177
第百二十二話 冒険者の戦い
しおりを挟むエディレーンさんの出番の声にどよめく冒険者たち。
彼らは皆神の石版に記されたスライムを討伐にきた者たちだが、いずれも不安そうな表情をしていた。
それはきっと自分たちと騎士団の違いを目の前で見せつけられたから。
圧倒され、一度は戦うことを覚悟していたはずが、戦場に一歩を踏みだす気概を失ってしまっている。
この場の大半の冒険者がそんな表情を浮かべていた。
「……まず君たちに言っておきたいことがある」
遠く騎士団の戦う戦場の激しさとは対照的な静かな語り口だった。
動揺の広がる冒険者たちにゆっくりとした気遣うような声。
「もし君たちがこの先の戦いに不安を感じて逃げ出したいなら……。私はそれを咎めたりしない。無論冒険者ギルドとしても依頼放棄の責任を問うことはない」
「……えっ」
「……っ!?」
「な、何いってんだ。俺たちは別にビビってなんか……」
なにをいっているか理解できない。
陣地に集まっていた冒険者たちは皆一様にそんな表情を浮かべ困惑していた。
(エディレーンは一体何のつもりだ? 逃げ出してもいい。そう言ったのか?)
(わからない。でもエディレーンさんにも考えがあるはず……。最後まで聴いてみよう)
「君たちの中にはスライムの大群と騎士団の激突を見て、こんなつもりじゃなかったと思った者もいるだろう。実際冒険者ギルドとしてももう少し小規模なものになると予想して募集をかけた」
「ああ、そうだ! も、もっと楽な依頼だったはずだ! こんなことになるなんて!」
「お、俺たちはあんな風に戦えない。というか二つも騎士団がいればもう戦力は十分だろ。俺たちは騎士なんかより断然弱い。……足手まといだ」
「何弱気になってんのよ! 冒険者としての意地はないの!」
「う、うるせぇ! スライム相手ならまだしも上位個体相手なんて知らなかった! 知らなかったんだ!」
「そ、それはそうだけど……」
エディレーンさんの言葉に端を発した冒険者たちの不安と不満の吐露は陣地に混乱を招いていた。
嘆く一人がいれば、憤る一人がいる。
皆で逃げようと叫ぶ者がいれば、皆で戦おうと鼓舞する者がいる。
「無理もない。彼らは神の石版に記されたこととはいえ、これ程の事態になるとは予想していなかっただろう。推定でも上位個体も入り混じった二千体近いスライムの大群とは……私も流石にこれは読めなかった」
「まあ、不満はあるわな。冒険者は皆命を賭けて日々を生きてる。依頼内容が違ったら文句ぐらい言うさ」
ケイゼ先生とニールは混乱する冒険者たちを同情の眼差しで見詰めていた。
彼らの不安も不満ももっともなことだ。
当初の予定とは違う規模のスライム。
それと戦う騎士団は自分たちより遥かに強く、共に並びたち戦う資格があるのかと自己が揺らぐ。
自分たちがどれほど通用するのかもわからない。
疑心が心を縛り身体の動きを鈍くする。
俺も同じだ。
果たしてあそこに飛びこんでどれほど戦える。
そんな不安に身動きを縛られた冒険者たちに向けてエディレーンさんは語りかけた。
「……冒険者として活動していれば命を失うこともある。それが自分の命なのか仲間の命なのかはわからない。だが、常に危険と隣合わせなのが冒険者という職業だ」
「……」
「……ああ、そうだな……」
「私も覚悟してる……」
混乱の坩堝にあった冒険者たちはエディレーンさんの言葉に聴き入っていた。
「戦い、立ち向かうことは勿論大事だ。そうでないと切り抜けられない場面は必ず出てくる。だが……時には逃げることも選択肢に入れる必要がある。逃げることは……悪いことじゃない。無論他人に迷惑をかけない範囲でだが……少なくともいまは逃げたっていい。いまならまだ、引き返せる」
彼女は自らにいい聞かせるように聴き入る冒険者たちに語る。
それをケイゼ先生が哀しそうな目で見ていたのが印象的だった。
「だが、もし……もしまだ戦う勇気があるなら……いまそれを使う時だ。――――あれを見ろ」
戦場の最前線では敵味方の攻撃が入り乱れる中、イーリアスさんが暴れ回っている。
クランベリーさんの指示の下、数多の魔法が飛び交いスライムたちを薙ぎ払う。
しかし、エディレーンさんの指差す先は少し違った。
彼女は最前線より少し手前、俺たちにも近い騎士たちの戦いを指し示していた。
「俺が囮になる! 後ろに回り込んで攻撃してくれ!」
一人の騎士が殺到するスライムの前方に立ち注目を集める。
「魔法は任せろ! 私の障壁魔法で受け止めてみせる!」
一人の騎士が仲間を守るため身を挺して魔法攻撃の中心に躍りでる。
「負傷した! 援護を頼む!」
「一度負傷者を下げる。時間を稼いでくれ」
「任せろ!! うぉおおお!!」
一人の負傷した騎士のため皆が全力を尽くしスライムたちを押し留める。
「騎士たちだって万能じゃない。一人で一騎当千の力をもっている訳じゃない。皆助け合って戦っているんだ。……そして彼らは助けを求めている」
騎士たちは誰もが必死で戦っていた。
「ほんの小さな力でいいんだ。スライムの一体、二体を倒すだけだっていい」
あれだけの攻撃に晒されたのにまだスライムたちは多く残っている。
それこそ大小様々な集団で広範囲に散らばって。
「目先の派手さに囚われることはない。闘技や魔法を使えなくたっていい。……彼らは助けを求めている。そして、君たちはその力になれる」
騎士団の戦いは鮮烈だった。
それこそ、バンさんの最上級魔法やイーリアスさんの上位闘技を見たあとでは。
……俺も囚われていたんだろうか。
あんな風にはなれないと、どこかで線を引いてしまった。
「俺はやる」
「戦う……戦ってやる」
「そうだ。協力すれば上位個体だって……」
熱気が戻ってきていた。
敵を倒し、仲間を助ける。
冒険者たちに静かであつい熱が宿っていた。
「さて諸君にもう一度聞こう! 逃げたいヤツはいるか!」
「……」
「どうした! 私も冒険者ギルドもそれを咎めたりしない! 他の冒険者たちに咎めさせたりしない! 時には引くことも大事だ、遠慮なくいえ!」
「……」
「ならここからは冒険者の戦いを見せる時だ! 君たちの力を見せる時だ! 無理や無茶はしなくていい! 自分の命も仲間の命も大切にしろ!」
「「「おおっ!」」」
「冒険者は自由なのが私の信条だが、両騎士団との兼ね合いもある。ここは私が全体の指揮を務めさせてもらおう。異論はないか?」
「「「おおっ!!」」」
「よし、では行くぞ、冒険者諸君! 共に戦う仲間を、騎士たちを助けに行くとしよう。全員前進しろ!!」
「「「おおおーーーーっ!!」」」
冒険者たちは雄叫びと共に戦場に向かう。
迎え撃つのは騎士たちと戦う大量発生したスライムたち。
戦いは順調だった。
不安から萎縮していた冒険者たちは自分を取り戻していて、互いに連携し合い、一体一体確実にスライムを減らしていく。
上位個体に関しても騎士たちと上手く役割を分担し、問題なく対処していった。
王都ではトラブルの多かったと聞く御使いたちも、地上の住民である冒険者たちとわだかまりなく共に戦っている。
そこには地上と天界の垣根などなかった。
だが……思いもよらなかったんだ。
この戦場に俺たち冒険者や騎士団、それと戦うスライムたち以外に第三の勢力がいるなんて……。
「エクレアッーーーー!!!」
俺たちは対峙することになる。
神の試練がなにをもたらしてしまったのかに。
0
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる