孤高のミグラトリー 〜正体不明の謎スキル《リーディング》で高レベルスキルを手に入れた狩人の少年は、意思を持つ変形武器と共に世界を巡る〜

びゃくし

文字の大きさ
170 / 177

第百七十話 不穏な報告

しおりを挟む

「これは中々厳しいわね」

 グラッジラム大森林の直近で緊急に設置された天幕の中、新たに偵察から帰ってきた騎士たちの報告書を読みながら思わず漏れ出てしまった呟き。

 ああもう。
 ここに団員たちが居なくて良かったわ。
 こんな弱音を吐いているところは見せられないもの。

 でもこの報告書の内容には驚きを隠せない。
 なんなのコイツ、あり得ないでしょ。

「暁霧の山脈龍ブリーズニッグ。鉱石のような鱗は鋼を凌ぐ強度で初級魔法や通常の錬成矢ではまったく歯が立たない。加えて天成器の攻撃や上級魔法でも軽微な傷を与えられるのみ。進行に際しては障害となる大森林の密集した木々も多少の被弾程度でもビクともせず決して足を止めることはない」

 初級魔法の威力は低いからいいとしても、上級魔法すら軽微な傷なんてやってられないわね。

 ただでさえうちの騎士団は魔法特化。
 第四騎士団もお世辞にも一撃の威力は高くない。

 皆多数の連携によって力を発揮する訓練をしてきた集団戦が得意な騎士たち。
 それなのに頑丈な鱗に全身が包まれた防御力の突き抜けた巨大な魔物なんてどう対処すればいいのよ。

「特筆すべきは濃霧を操ると思わしき能力。最初期の遭遇でこそ予兆は見られなかったが、大森林に生息する魔物との遭遇戦において度々身体の周囲を明らかに自然のものとは異なる濃い霧で覆うことあり。またその霧は視界を著しく奪うだけでなく、魔力を遮断するのか魔力察知のスキルが著しく働きにくくなる。更に濃霧は山脈龍の魔力支配域なのか内部では魔法展開も妨害されるため、霧魔法の自動魔法に酷似した特長があると見受けられる」

 霧魔法は存在する。
 自動魔法も。

 《ミストスフィア》、自動束縛霧魔法。
 魔力で作り出した白い霧を周囲に拡散する球体を生み出す魔法。
 薄く広がった霧は視界を遮り、内部の魔力反応を覆い隠し魔力察知を効かなくする。
 また領域内の魔法展開を僅かだけど阻害する特性もある。

 まあ、ほとんど同じね。
 ただ山脈龍の使うものとは流石に規模が異なるでしょうけど。

 それに報告書には濃霧は広範囲に拡散させたものと一箇所に集中して展開したものがあるとある。
 更には濃霧自体が流動的に動き、山脈龍の体表を撫でるように動いていたこともあったと書かれている。

 濃霧をそれほど簡単に操れるなら遠距離まで届かせるなんて造作もないことかも。
 警戒事項ね。

「攻撃手段は巨大な体躯を生かした踏み潰し、長い尾による薙ぎ払い、噛みつきが予想される。大森林の魔物との戦いでは躍起になって襲いかかってきたトロールを右前足の一踏みで踏み潰し、気まぐれに振ったであろう尾が地面を深く抉った。また、移動の際には小規模な地震が常に発生しており、近づけば近づくほど体勢を維持するのは難しい」

 体長五m前後のトロールを一踏みとは豪快ね。
 というか向かっていったトロールは馬鹿なの?
 明らかに相手になるサイズじゃないって一目でわかるでしょうに。

 それより移動の際の地震が厄介。
 明らかに遠距離攻撃に対して高い防御力があるのに、近くで張り付いて攻撃しようにも揺れが激しいなら陣形なんて保てないでしょうね。

「えーと、現在は王都へ向けて進行しているのは間違いないが、常に霧を纏っているため全体の様子を伺うのは難しく追跡をするので精一杯と。後は……到底個人の力で適う相手ではない、か」

 偵察に向かった騎士たちの所見も含まれているけど、あながち間違っているとも思えない。
 見上げようにも全体を見通せない巨体。
 全身が武装されたような鱗の鎧で、動くだけでも地形を変える。

 報告書にはないけど恐らくは物理攻撃以外の攻撃手段も持っているだろうし、濃霧を操る能力も未知数なところが多々ある。

 ホント面倒な相手。
 第一騎士団は王都から出ないだろうし、頼りになるのはあいつの率いる第四騎士団だけなんて世も末だわ。

 なんでこんな時だけイーリアスの奴はいないのよ。
 こういう泥臭い奴の相手はあの突撃女か第六騎士団の無差別男の出番でしょうに。

 不穏な報告書片手に思案にふけっていると天幕に一際小柄な人物が入ってくる。

 いつ見ても気弱そうな辛気臭い顔。
 こんな奴が王国に存在する七つの騎士団の団長の一人なんて到底信じられない。

 動揺に揺れる瞳で小さな口をもごもごとさせながらそいつが口を開く。

「あのあの……クランちゃん。 わたし、どうすればいいの? 騎士団の子たちが『団長は何もしないで下さいって』わたしの話を聞いてくれないの」

 第四騎士団団長トワ・グラントン。
 いまにも泣き出しそうに不安を表に出しながら縋り付いてくる。
 あー、うっとおしい。

 なんでこんな奴が騎士団長に選ばれたんだか。
 ま、弓の腕だけで選ばれたんだろうけど、コイツったらホンットに戦い以外では役に立たないわね。

「あんたってホントに戦い以外はポンコツよね」

 あー、思わず本音が……まあ、コイツ相手ならいいか。

「そんなぁ、わたしだって頑張ってみんなのお手伝いしようと思ってるのにぃ」

 聞けばトワの奴は副団長から『折角合同で任務に当たる以上クランベリー騎士団長とよく打ち合わせをしたほうがいいでしょう』と言われてこの私専用の天幕まですっ飛んで来たらしい。
 コイツ……体のいい厄介払いされてるじゃない。

「そういえば今回は御使いの人たちも同行してるんだよね。どこにいるの? わたし、挨拶もしてない……」

「御使いねー」

 王都に突然現れた天界の使者、御使い。
 神や天使と共に天界に住むという彼ら、彼女らは降臨直後こそトラブルがあったものの、いまは大分地上の生活にも馴染んでいた。

「御使いなら偵察に何人かついていったわね。後の奴らは邪魔な大森林の魔物の間引きをうちの騎士団と一緒にやって貰ってるわ。あいつら異常に士気が高いから。何処かでガス抜きしとかないとそのまま山脈龍に向かって行きそうで困るのよね」

 今回同行を許したのは不測の事態に備えるため。
 神の試練の最初期、魔物の大量発生では油断もあったが明らかにこちらの想定外の規模が発生することとなった。
 
 そのための御使い。
 《簡易鑑定》のエクストラスキルは魔物の名前やレベルを表示できる。
 でも報告書ではすでに石版に記されてあった名前しか表示されなかったようね。
 ……微妙に使えない。
 本人たちはやる気だけは満ち溢れているのに……思惑通りにはいかせてもらえないわね。

 ホントはいくら御使いが特別とはいえ協力を頼むのは嫌だった。
 最近は御使いの中でも派閥のようなものもあるみたいだし、できるなら接触する必要はなかったとも思う。

 彼ら、彼女らは元は天界の住人とはいえ、いまや私たち騎士団の守るべき民の一人。

 でも……戦う力のない人々を守るには少しでもできることをしないと。

 歯痒い想いに悩みは尽きない。

「あーあ、わたしならここからでも射抜けるのになー。なんでみんな『そんなことは団長にしかできません。無茶苦茶なことを言わないで下さい!』って怒るんだろう」

 不貞腐れたようにソファのような簡易の長椅子に寝転ぶトワ。
 あんたそれ私のお気に入りなんだけど……。

 というか馴れ馴れしくなったものね。
 初対面の時ぴぃぴぃ鳴いてたのが懐かしいわ。

「あんたここから山脈龍まで何kmあると思ってんのよ。だいたい森の木に阻まれて標的なんて欠片も見えないでしょうが」

「えー、でもテキトーに射れば多分当たると思うんだけどなぁ」

 また惚けた顔でアホなことを言い出して……でもコイツなら言った通りに当てるでしょうね。
 それだけの超絶技巧の持ち主だからこそ騎士団長に選ばれた。
 弓の腕だけで一つの騎士団を束ねる地位にいる。
 ……本人に自覚はないんだろうけど。

「ねぇ……クランちゃんは怖くないの? 今回の相手は普通の魔物じゃないってみんな言ってるよ」

 今度は暗い顔で不安を吐露するトワ。
 でもコイツの場合、山脈龍自体ではなく戦いの場に向かった騎士たちが傷つくのが怖いのだろう。
 騎士たちの思いはともかく自分の預かり知らないところで配下が傷つくのが怖いと顔に書いてある。
 
 しかし……。

「たとえ未曾有の脅威に晒されているとしても私のやることに変わりはないわ。魔物は倒す。それだけよ」

 神の石版を信じるなら暁霧の山脈龍は王都を蹂躪すべく進行している。
 実際にかの魔物の進路の行く先には民たちの住む王都がある。

「うん……そうだよね」

「トワ、あんたは騎士団長なのよ。騎士たちを束ね、王国の民を守る最後の砦。戦う力のない者にとっての心の拠り所なの。それが……この程度の試練で不安を表に出しては駄目。たとえ神が与えた困難な試練だろうと必ず私たちは乗り越える。そう自分たちの培ってきた力を信じるの。あんたの配下の騎士たちを」

「クランちゃん……うん、ごめんね」

「謝らない。……不安を抱えていてもいいの。それはきっと正常な感覚だから。でもあんたは騎士団長なのよ。不安は伝播する。配下が心配なら余計あんたは動じてはいけない。冷静に確実に事態の推移を見守るの。それでいて決めるところは決める。それがきっと騎士団長なんだから」

 きっとトワにもわかってる。
 いまのは一瞬見せてしまった心の弱み。

 心を許してくれているからこそ見せてくれた本音の一部

 ……らしくないことを言ったわね。
 私も少なからずこの異常な自体に不安を感じていたのかも。

 ちょっと……なんか恥ずかしい。
 顔が熱いんだけど、なにその目。

 トワの生暖かい眼差しに顔を背けて誤魔化しながらも決意を新たにする。

 必ず、進行を阻止して見せる。

 たとえ神の課した試練がどれだけの障害だったとしても。

 人々の育む平和を壊させはしない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

処理中です...