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第百七十三話 女帝の統べるクラス
しおりを挟む「カルロ・アバトーク、リオンベール・ボライニクス」
神妙な顔つきのエリオンが発したのは二人の名前。
あのとき、宣戦布告の際にフィルディナンド先生を手慣れた動作で引きずって回収していた二人。
一人は人懐っこい笑みを浮かべた少年で去り際に軽く手を振っていたのが印象的だった。
もう一人はなにを考えているのかいまいちわからなかった無表情の少女。
エクレアならなんとなくわかる感情の機微も虚ろに見える視線からはなにも感じとれなかった。
「女帝の取り巻きその一と二だな。この二人は常に女帝と行動を共にしている最側近でもある」
最側近……マーガレットさんとの距離が妙に近く感じたのはそのせいか。
(二人共特に指示を出さずとも阿吽の呼吸で動いていたな)
「男の方がカルロ。噂では斥候系統のクラスで天成器は僅かに曲がりのある細身の片刃刀。いわゆるシャムシールと呼ばれる刀剣だ。鍔のない刀身から柄までが一体化したような剣で斥候系統のクラスだけあってヒットアンドアウェイを得意とする高速アタッカーらしい。使用する魔法は水魔法で射撃魔法が得意のようだな」
「クラスまで分かるものなのか……?」
「ま、そこはおれの腕の見せ所さ。、兄貴」
自慢げに鼻の下をこするエリオン。
やはり相当情報収集に関しては自信があるようだ。
「女帝マーガレットのどんな指示にも嫌な顔一つせず従う側近の一人。コミュニケーション能力が高く、人当たりも他生徒からの評判もすこぶるいい。生徒から悩みを相談されることも多く、些細な雑務だろうと積極的に手伝ったり、自主的な訓練に付き合ったりもしているらしい。恐らく女帝が最も信頼する配下だろうぜ」
「そうなのか……」
「逆に女の方のリオンベールの動きにはいまいち情報がない。常に女帝と一緒に行動しているのはカルロも同じだけど、いかんせん無表情、無感情で自分からは行動を起こさないしな。女帝の指示には唯々諾々と従うようだけど……果たして内心はどう思っているのか」
「う~ん、リオンベール・ボライニクス。何処かで聞いたような気もしますわね。う~~、思い出せませんわ!」
あと一歩のところではっきりしない記憶に嘆くプリエルザをミケランジェがどうどうと励ます中、エリオンは構わず続ける。
「戦闘スタイルについては多少情報があるぜ。どうやら彼女は系統外魔法に属する葉叢魔法の使い手だそうだ」
「葉叢魔法、か」
エクレアの使う花片魔法と同じように一部の植物を魔力によって作り出す系統外魔法の一つ。
大小様々な葉は斬撃魔法や旋渦魔法と相性がよく相手を切断する力に優れる。
中々珍しい魔法を使うんだな。
「天成器は旋棍。トンファーだな。それを両手に出現させ接近戦主体で戦うらしい。大人しそうな見た目の割に結構武闘派なのはびっくりだけどな」
その点は戯けて見せるエリオンに同意だ。
戦闘とはいえとても積極的に攻め入るタイプには見えなかった。
「さて、問題は個人戦の代表に選出される奴が誰なのか。最側近のこの二人が選ばれることも当然あるだろうが、まず女帝本人」
真剣な顔で人差し指を一本立てるエリオンに皆の注目が集まる。
「あまり飛び抜けて強いって噂は聞かない。たださっきも話したように残虐な一面もあるらしく、一度模擬戦で戦った対戦相手は怖がって再戦をしたがらないなんて真偽不明の噂まである。天成器は三方向に曲がりくねった刃の伸びた中型の短剣。麗美ながら禍々しい雰囲気を纏っているせいか評判はよろしくない」
「マーガレットの天成器ミナーヴァですわね。見た目は少し威圧感があっておどろおどろしく感じる方もいらっしゃいますけど、本人はマーガレットを慰め、励まし、時に諌める。素晴らしい女性ですわ」
知り合いの話がでたことで嬉しそうに報告してくれるプリエルザ。
子供の頃から交流があったなら天成器の性格も把握しているか。
「操る魔法は風魔法とその上位魔法、勁風魔法」
「にゃー。風魔法は風を作り出すから視認性が悪く放たれても避けづらいのが特長だけど、勁風魔法は風を束ねたみたいな魔法で認識しやすい代わりに威力が格段に増した魔法にゃ」
「何もかもを押し出し吹き飛ばす魔法。マーガレットはワタクシが二属性の魔法を扱えるからこそあの上位魔法を覚えたのですわ! ですが、いくらワタクシに追いつきたいとはいっても並大抵の努力で上位魔法は扱えません。エリオンさんのお話を聞いていてもクラスをまとめているのが彼女なら個人戦に出場してくることは間違いないでしょう」
確信したように大きく頷き納得するプリエルザ。
マーガレットさんの宣戦布告のときのあの自信に満ちた表情。
(確実にマーガレットが個人戦にでてくるだろうな。……あれはプリエルザ、好敵手に向けた挑発だ)
挑発か……そう聞くとどこか納得してしまう。
「女帝の他にフィルディナンドクラスの飛び抜けた実力者は二人」
すっと二本の指を立てるエリオン。
「個人戦候補二人目はネルハトラ・ジクロ。赤紫の髪に黄褐色の瞳。軽々しく思慮のなさそうな言葉使いでキラキラした装飾品を好む隻眼の女。大小異なる双剣の天成器を自由自在に操る剣士」
「隻眼……」
「そんな……」
「ああ、常に左目を眼帯で覆っている。でも本人は終始明るく振る舞っててあんまり気にしてないようだな。隻眼になった理由までは知らねえけど。女帝とは友好的な関係だが直接の配下な訳じゃない。あくまで友人の一人といった感じだな。だが避ける奴の多い女帝との模擬戦も嬉々としては引き受けるぐらいには仲がいいようだ」
隻眼の剣士か、アルレインの街でも王都でも片眼を失うような大怪我を負ってしまった人には出会ったことはない。
しかし、そのハンデがあったとしても実力者として周囲に認められる人物、一体どれほどの強さなのだろう。
思いを馳せる中、三本目の指を立てるエリオン。
「三人目はオーニット・マクアレン。出自不明の魔人の男」
「魔人にゃ!?」
「ああ、ウチのクラスにも一人いるがあんな常に周りに噛み付いてくるような暴れん坊じゃないぞ。寡黙で剛健、他人に左右されない男。以前学年の違う上級生に偶然生徒が絡まれた時も、颯爽と現れては突っかかってくる上級生を意にも介さずあしらった。まあ、その時も別に絡まれた生徒を助けるために飛び出てきたって訳じゃないんだろうけど、良くも悪くも上下関係なんてものには縛られない男だってのは広まったな」
ケイゼ先生と同じ種族である魔人。
その頭部から伸びる角は年齢を重ねるごとに成長し、周囲の魔力を察知する能力を備えている。
アシュリークラスにも一人魔人の少年がいるけどまだ交流を図れていない。
彼は……いつも喧嘩ばかりしているから中々接触する機会がないんだよな。
「実力の方はどうなんですの? マーガレットと並ぶ、もしくはそれ以上の実力者なら相当なものなのではないですか?」
「あー、確か天成器は腰に縛り付ける剣帯と直刀。魔法は水と土の二属性。クラスは不明。戦闘スタイルも他の生徒と実力差がありすぎてよく分かんねえ。ただ……」
「ただ? 勿体ぶらないで下さいまし!」
「実力の底は見せてねえのは確かだ。授業での模擬戦も含めてオーニットは一度も本気を出したことがない」
「ええ!?」
「本人は黙して語らずだけどな。だから本当のところは分からねえ。だが、それを無条件で信じさせるほどオーニット・マクアレンには凄味がある」
驚く一同を前に面白いものを見つけたような無邪気な笑みを浮かべるエリオン。
彼にとっては未知のものに対する探究心が疼くのかもしれない。
「女帝との関係はほぼ無い。というか互いに不干渉を貫いてるみたいだな。元々孤独を愛するタチみたいだし、一人きりで行動していることの方が多い。だが、個人戦に選出される筆頭ではあるだろうな」
脅すようなエリオンの台詞に話に聞き入っていた全員が息を呑んでいた。
クラス対抗戦、フィルディナンドクラスの実力者たち相手に俺たちはどこまで戦えるのか。
いままで学園で学んできたすべてが試されるときは刻一刻と迫っていた。
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