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第二十四話 お前は何もわかっていない
しおりを挟むオレが追放されたパーティーと何故か酒場で一緒の食卓を囲んだ日の翌日。
家の広場では師匠との一対一の訓練が行われていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
模擬戦をすると言われて師匠に木刀で斬りかかったものの、延々と軽くあしらわれ続けて体力の尽きたオレは地面に寝転んでいた。
「だらしないぞ」
「いや……そんな、こと、いわれても……」
何度斬りかかっても師匠は平然と躱し続けた。
珠に木刀同士がぶつかりあっても軽く受け流されて弾き飛ばされる。
……やっぱり師匠は強いな。
「やはりな」
「?」
「お前は何もわかっていない」
どういうことだ?
師匠は難しい顔でやっと膝立ちになったオレを見詰めながら呟く。
その声には嫌悪感のような感情が乗せられていた。
「お前の体術はどんなふうに学んだ?」
師匠は嘘は許さないといった雰囲気を出していた。
「どうって……冒険者ギルドだけど?」
「あのお前と模擬戦をしていたセヴランとかいう奴か?」
「そうだ。でも基礎を習っただけだ。……冒険者ギルド主催の講習にはオレの恩恵だと参加させて貰えなかったからな。後は自己流で鍛えてきた」
「そう、か」
なんだろう?
その……哀れみの瞳は?
師匠は重苦しく口を開いた。
その顔は本当は伝えたくはないけど、どうしても伝えないといけないという矛盾を飲み込んだ苦々しい表情だった。
「お前は闘気の扱いについて学んでいない」
「そう、だけど……」
「身体に流れる生命力を力に変える闘気は、体術の基本であり、全ての攻撃、防御の基本だ」
「それは……少しは知ってる」
闘気によって身体能力を向上させれば、通常より素早く行動できるし、レットが大剣を簡単に片手で持っていたように重いものだろうと軽々と持てる。
「お前が学んできたことは間違っている。体術を学ぶなら、いや戦闘技術を学ぶならまず初めに闘気を学ぶものなんだ。そこがすべての基本なんだ」
「基本? だけどオレは体力を優先してつけろって……」
「確かに身体を動かす体力は大事だ。闘気の源になるのも体力だ。だが、それでも闘気から学ぶべきなんだ」
「でも、教本だって……」
「教本、か。それはどういったものだったんだ? 内容は? 著者は?」
著者?
本を書いた作者のことか?
……気にしたことなんてなかった。
「教本は……簡素で古くて冒険者ギルドが発行してるものだった。それにも体力が一番大事だと……」
「だから間違っていたんだろうな」
間違いってなんだよ。
俺が教わったことは、学んできたことは最初から間違っていたって言うのかよ。
自分がどんな顔で師匠を見ているか自信がない。
オレはいまどんな酷い顔をしている?
ただ、師匠は……辛そうだった。
「剣技がからきしなのもそのせいだ。間違ったことを教わっているから、いつまでたっても強くなれない。私が見たところ体捌きも体重移動もところどころおかしいところがある」
「じゃあオレはずっと間違えた方法で鍛えてきたのか? この四年間ずっと」
誰も教えてくれなかった。
誰もオレを見てなんていなかった。
そうだよ。
オレの恩恵がまったくの正体不明で使えない恩恵だとわかった時から、誰もがオレに冷たかった。
冒険者ギルドの講習は恩恵を理由に断られた。
ギルドに行く度に罵られた。
誰もが目を背け、パーティーを組んでくれなかった。
オレに間違いを指摘してくれる人なんていなかった。
「はっ、はは、無駄だったのか、何もかもすべて……」
笑うしかなかった。
虚しさと悲しみが溢れて視界がぼやけた。
二本の足で立っていられなかった。
だが、そんな情けないオレに師匠はいう。
「……だが、言っただろ。オーガと戦っている時の身のこなしは悪くなかったと」
「え……?」
「フワダマ相手でも鍛えていたのが功を奏したんだろうな。攻撃を躱す技術は悪くない」
「なら……オレはまだ強くなれるかな?」
オレの問いに師匠は即答した。
迷いなど、なかった。
「ああ、でなければお前を弟子になどしない」
ラーツィアがオレの運命を変えてくれた人なら、師匠はオレに運命を掴み取る力をくれた人だった。
この日オレは師匠に見られないように地面に顔を伏せて泣いた。
師匠はそれを見ていないふりをしてくれた。
その優しさがオレには嬉しかった。
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