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第二十七話 ここにもう一人
しおりを挟む「ツィア!? その指輪は大切なものの一つだろ? ……いいのか?」
指輪はラーツィアの母親、女王様から贈られたもののはず、思わず口をついて心配の声がでていた。
しかし、ラーツィアは笑顔でオレに返答する。
そこに指輪を惜しむ気持ちは一切なかった。
「ええ、アル様。お婆様なら構いません」
「……なんでだい」
「お婆様の瞳を見ればその方との取引を心から悔いているのがわかります。相手の望んだこととはいえ、不公平な取引をしてしまった、弱みをつく形になってしまった。そのことがお婆様の心に棘のように刺さってしまったのですね」
ラーツィアは祈るように語る。
それは長い間悔いてきたであろうミクラ婆さんへの真摯な祈り。
「わたしはそんなお婆様に報われて欲しい。きっとその方も本来要らないはずの忠告をして下さったお婆様に感謝していたはず。だからこそ買い取って欲しいと譲らなかったとわたしは思います。ですからお母様からいただいたこの指輪はそんなお婆様にこそ持っていて欲しいのです」
オレはその時初めて思った。
器が違う。
人としての器が違った。
初対面の人物のため、その人の心の安寧のために祈ることのできるラーツィアは、まさにすべてを包み込むような心を持っていた。
「ああ、なんてことだい。こんな、こんな優しい娘がウチの店に来てくれるなんて……」
気難しかったミクラ婆さんの心の壁が取り払われていくようだった。
「ツィアあんたは……」
「ラーツィア、ラーツィアです。ふふっ、内緒ですよ」
「ああ、あんたはとんでもない娘だねえ。こんなにも心が楽になったのは久し振りだ。ふぇっふぇっふぇ、だけど貰っぱなしじゃ商人の名が廃る。いくつか秘蔵の魔道具を渡そう、少しは役に立つはずさ」
「本当ですか! 嬉しいです!」
両者とも笑顔が溢れていた。
この笑顔の広がりは間違いなくラーツィアのお陰で見ることのできた光景だった。
「ツィア、それで……もし良かったらこの指輪を孫娘に渡してもいいだろうか? あの娘はわたしゃの宝なんだ。この大切な指輪をあの娘にいつか受け継いであげたい」
「勿論構いませんよ。お婆様のご家族なら尚更です」
「ふぇっふぇっふぇ、ありがとうよぉ」
ミクラ婆さんはここに一人で住んでいるはずだけど家族……。
「ん? 孫娘!? ミクラ婆さんに孫なんていたのか?」
「まったく失礼な奴だね。わたしゃにだって家族はいる。娘は違う街で魔道具屋をやってるんだ。孫はそこの手伝いをしてるはずさ」
「そうなのか? なんでわざわざ別の店で?」
「この店も畳むか悩んだんだけどね。魔法書を売りにきたあの人のこともある。いつか買い戻しにくるかと思って店を一人で守ってきたんだ」
「そうだったのか……でも本当に魔法書を譲って貰ってもいいのか?」
「いいんだよ。この魔法書を買い取ってからもう十年近く経つ。それに、ここにこれを求める者がいる。こんな田舎の魔道具店で死蔵しておくよりは有意義な使い方だ。持っていきな」
言葉にならないことの連続だった。
ラーツィアの他者への純粋な祈りが、ミクラ婆さんの心を癒やしこの結果を得た。
師匠がなぜラーツィアの護衛騎士であることを誇りに思っているのかわかる場面だった。
オレとの違いを見せつけられた気がした。
だけど、それでラーツィアに嫉妬心は沸かなかった。
それはきっと彼女がオレの運命を変えてくれた人だから……。
そして、ここにまた長年苦しんでいた一人の人が救われた。
オレはその光景がとても美しいものに見えた。
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