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第三十一話 第一層の冒険
しおりを挟む直径三メートル近い巨石に押し潰されるホブゴブリン。
この巨大な石は明らかにラーツィアの魔力の影響だろう。
吸魔の指輪の膨大な魔力の元となった彼女の魔力。
それは本来は拳大の石を作り出し射出するだけの魔法を、圧倒的な破壊力を有するナニカに変貌させた。
……ラーツィアを怒らせたらオレもあのホブゴブリンのようにただの赤い染みになるんだろうな。
気をつけよう。
「ラ、ラーツィア、スゴイ魔法だな。一発で……その……ホブゴブリン? を倒せたな。ほとんど独学なのによく魔法を覚えられたよ」
「はい! アル様。フロイドさんの書かれた魔法書は本当にわかりやすく書いていただいていて、魔法についてまったく知識のないわたしでもなんとか初級魔法を習得できました!」
初級なんだよなー、あの魔法。
絶対違うナニカだよなー。
「流石姫様です。ホブゴブリンをたったの一撃。このレオパルラ大変感激いたしました」
片膝でもつきそうな勢いでラーツィアを崇める師匠。
周囲に人影がないからか、はっちゃけてるな。
その後もラーツィアの魔法の練習は続いた。
そう、惨劇は何度でも繰り返される。
「土矢!」
空中に生成される土を固めた矢。
人の身長より遥かに長い三メートルほどの槍の如し矢は、ホブゴブリン数体を貫通してなおも止まらず、森の木々をも薙ぎ倒す。
「えい! 石棘!」
地面に手をつき唱えるは石の棘を生やす魔法。
突撃してくる豚面の二足歩行の魔物オークを、地面から生える斜め上方に突き上げる石の棘は、まるで尖塔のような巨大さでその厚い脂肪を貫通し串刺しにする。
見るも無惨な光景だったが、ラーツィアは結果に満足したのか、オレに振り返って満面の笑みを見せてくれる。
オレは自分の表情が引きつっていないかを心配することしかできなかった。
「それにしても、この森は広すぎるな。ライミーが小さな都市並みの大きさがあるっていってたけど、それより大きいんじゃないか?」
疑似太陽は天高く存在し、その明かりは地上が昼間だと教えてくれる。
陽の光に照らされる森の木々。
歩けども歩けども尽きることはなく、稀に草原のような土地こそあるものの正に大森林の有り様だ。
「魔物も多いな。しかも不意の襲撃が厄介だ。ここでは常の警戒は怠れない」
これまでも幾度となく魔物の襲撃はあった。
その度に師匠の剣技とオレの恩恵によって撃破してきたが、視界の悪いところでは暗がりの奇襲が怖い。
ラーツィアは接近戦は苦手だからな、オレも師匠に剣技と体術を教わっているとはいえもっと頑張らないと。
「だが、魔物の魔石や素材は集まってる。これをマリネッタとやらに渡して換金してもらえば中々の額になるのではないか?」
「ああ、中には弱い魔物もいたけど色々な魔物を二、三十体ぐらいは倒したからな。金貨十枚以上は確実にいくだろうな」
残念ながらラーツィアが魔法の練習台にした魔物はどれも原型を留めていなかった。
当然討伐証明、冒険者ギルドに持っていくことで討伐報酬を貰える魔物ごとに討伐した証明部位も潰れてる。
この分は冒険者ギルドには請求できないな。
「しかし、半日近く戦ってこれか……金貨三千枚は遠いな」
第一層で戦っているだけでは土地の代金を貯めるのは難しいと改めて思う。
オレやラーツィアは確実に強くなってる。
それでもここで稼ぐだけではまだ足りない。
「祭壇でも見つかればな……」
祭壇。
それはダンジョン内に稀に見つかる宝の置かれた台座。
ダンジョン内に落ちた物質が巡り巡って祭壇に辿り着くらしいが、詳しくは解明されていない。
祭壇に置かれる宝はその大半が魔力を帯びた武器、防具であり、いずれも希少なものばかりだ。
ただ、祭壇が出現する確率はダンジョンの下層の方が高いらしく、第一層にはまず出現することはない。
あー、祭壇の宝なら高額で売り払えること確定なのにな。
オレたちはその後も三日ほど連続してダンジョンに潜ることになった。
奇しくもオレの望んでいたダンジョンというある種の閉鎖された空間で、他者の目を気にせず行える狩り。
調査依頼扱いなため報告の義務こそあるものの、冒険者ギルドでの魔物素材の買い取りは、ギルド内部の掌握が進んだマリネッタが秘密裏に行ってくれるため周囲には目立たない。
実践経験も積め、金貨三千枚までには遠いとはいえ金も稼げる。
理想といえば理想の環境。
だが、それは嵐の前の静けさだった。
大規模ダンジョン出現から一週間近くたった現在。
噂を聞きつけた冒険者たちがこの小さな田舎街に集まってきていた。
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