47 / 52
第四十五話 出品物と手下
しおりを挟む熱気に包まれたオークションは滞りなく進む。
出品された品の紹介も事前に発表された予定では半分まで進んだ。
魔力付与された篭手、高熱を発する剣、壁にぶつかると勢いを増して反射する鉄球、果てはランクルの街の住民が所蔵していた有名な絵画の絵画や古代王朝のものらしき調度品。
個人秘蔵のお宝が次から次へと紹介され、落札されていく。
「続いてはこの品! ランクルの街冒険者ギルドの倉庫に秘蔵されていた隠された一品! 次期ギルドマスターとも名高い受付嬢からは『もうこんなでかくて場所をとるものはいりません』と聞いているぞ!」
マリネッタぁ……隠されたっていうかギルドの財産売っちゃダメだろ。
「レッドグリズリーの毛皮から作られた巨大マント! ランクルの街のギルドマスターが首の骨を綺麗に折ってくれたお陰で、頭部の部分もしっかり残されているぞ! フードを被れば君も完全にレッドグリズリーに成り切れる!! ぜひ落札して試してみてくれ!! では、解説はグラール殿、お願いしまーす!」
「……実にいい品です。毛皮の処理が良かったのでしょう。また、これを仕立てた職人の腕の良さが窺えるような品物です。レッドグリズリーの毛皮には火に対する耐性もあり――――」
熊みたいな奴が熊の魔物からできた一品の解説をするシュールな光景。
ホント、グラールとかいう山男が解説する時は皆静かになっちゃうんだよな~。
多分本人は善良な人なのはわかるんだけど、強面すぎるから丁寧な口調とのギャップがすごい。
「姉御! この席はどうですかい!」
「ん? ああ貴方たちね。誰かと思ったわ」
こんな大勢の人がいても変わらず水着姿のヴィルジニーに話しかけてきたのは、先日ぶちのめされたばかりの〈砂モグラ〉の連中。
出会った時の高圧的な態度はどこへやら、いまはヴィルジニー相手にへりくだった低姿勢で挨拶している。
「そんな~、姉御のためにこの特別席をなんとか確保したんですぜぇ。そりゃあないっすよ」
「そうね。概ね助かっているわ、ありがとう」
「へへ、そう言ってもらえると俺らも苦労して席を用意してもらったかいがありますぜ」
おっさんが照れた笑いを見せると少し……なんだろう。
違和感がすごいな。
そう、ここで照れ笑いを浮かべる〈砂モグラ〉の三人はなぜかヴィルジニーの手下になっていた。
なぜこうなった?
理由は不明だが、リーダーのガフ曰く『姉御の男気に惚れました』って言ってたけど……ホントか?
だが、まあ意外にもコイツら人脈はあるらしい。
オークションに参加すると言ったら、この会場全体を見渡せる特別な席を用意してくれた。
どうやらコイツらこの大規模会場の設営で多大な貢献をしたらしい。
噂では突貫工事にも関わらず短期間でこんな大きな会場ができたのは、コイツらが作業した土台の基礎がしっかりとしていたからなんだとか。
まったく預かり知らぬことだけど、コイツら三人は土木作業をやらせれば相当優秀の腕をもってるらしい。
いやまあ、コイツらの恩恵、ハンマーにつるはしだし土木作業に向いてそうだもんな。
というか、それほど優秀ならダンジョンに潜るのなんて、冒険者ギルドの依頼で土木作業をすればすぐ許可が出たんじゃ……。
まあ、ヴィルジニーにぶちのめされる前は人に突然喧嘩腰で絡んでくるような奴らだったからな。
性格面で許可が出なかったのかも。
「曲刀の兄貴はどうですかい。楽しんでますかい」
「あ、兄貴……」
師匠がまた心身にダメージを受けてる。
黙ってればホントに師匠は容姿端麗でクールな優男って感じだからな。
〈砂モグラ〉の連中はすっかり信じ切ってる。
「あの……姉御の姉御はどうですかい。楽しめていますでしょうか?」
「ええ、勿論です! 皆さんのお陰で楽しめてますよ。ありがとうございます!」
なぜかコイツらの中でラーツィアはヴィルジニーより立場が上だ。
というか、毎回話しかける時ビビってる。
なに?
誰かに脅されてるのってぐらい露骨に態度が違うんだけど。
そんな〈砂モグラ〉のリーダーガフがこちらを路傍の石でも見るような目線で見る。
「あっ、ゴミのアニキ居たんすね」
「……はじめからいるよ」
「いや~、全然気づかなかったっす。姉御はそこに居るだけでオーラが凄いんすけど、アニキはオーラ、マジないっすよね」
なんでオレには下っ端みたいな口調なんだよ!
それでもってめちゃくちゃ蔑まれてるし。
嫉妬か?
嫉妬がそうさせるのか?
コイツら、特にガフはオレがヴィルジニーと話してる時は大抵毎回不機嫌になるんだよな。
わかりやすいっちゃわかりやすいけど、静かに悔し涙を流すのだけはやめて欲しい。
ヴィルジニーは大抵のことは気にしなかったりするから、横でコイツらが泣いてても別に気にも留めないし、誰も慰めない。
ラーツィアくらいか?
泣き止むように諭してあげてるのは。
……だから姉御の姉御なのか?
真相は不明だ。
オレが〈砂モグラ〉の面々に微妙に罵られている間もオークションは進む。
「さて! 本日の目玉の一つ、魔法具の登場です! 暫定の名前は『魔剣柄』! さあ、解説はアレイサー殿とステリラちゃんにお願いしましょう!」
「お任せ下さい」「ぶっ飛ばすぞ」
アレイサーさんは受け答えから所作まで丁寧なのに、ステリラちゃんはマジでやさぐれてるよな。
いよいよ次はオレたちの出品した魔力で刃を生成する魔法具。
怖くもあり、楽しみでもある。
果たして一体どれくらいの値がつくのか。
オークションに出品したことの是非がもう少しで判明しようとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる