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治療費を出すという申し出はラルド侯爵家というより、それはフィンセント自身の好意だったようだ。
しかしそのことに気づかず、セシリアことシャナは感謝をしてそのままそこで治療を受けることになった。
そんなある日、誰かがシャナの元まで面会を求めてきた。
「ラルド侯爵家の令息がいらしたようですよ」
心あたりがなかったので、相手の身元を尋ねたのだが、そんな風に言われた。それはシャナの婚約者を奪ったドリィの兄にあたったが、もちろん記憶を失っているシャナにはわからない。
ラルド侯爵家の馬車にひかれたという話は聞いてたので、その関係だろうか、と客を受け入れることにした。
「君は……」
相手はシャナの顔を見て固まってしまった。
また、貴族の誰かに似ているというんでしょう? と、その手の態度にはもう慣れっこになっていた記憶を失っているシャナは、ため息をつく。
「いや、本当にそっくりだな」
その男は強引にシャナの顎をとるとくいっと持ち上げ、視線を固定させられた。
じっと眼鏡の向こうの瞳を見返すが、相手は面白そうに見つめてくるだけで、この無礼な手を離すつもりはないらしい。
「お前は修道女を辞めて、私のモノになれ」
「おやめください!」
驚きのあまりされるがままになっていたシャナだったが、たまたま側にいた看護師の女性がそれを止めてくれた。それに舌打ちをしてその男はシャナの顎を掴んでいた手を離す。
「私は修道女です。神のものになってる身ですから、お受けできません」
震える声で拒絶をするが、相手の男は楽しそうな顔をするだけだ。
「還俗すればいいだろう」
そう押し問答していたら、そこにフィンセントが飛び込んできた。
「義兄上! お戯れはおやめください!」
「なに、貴族の女によく似た女をモノにしようとしているだけさ。平民の女なら、問題にはならないだろう?」
「ですが!」
「フィンセント、君は過去に恋人より家を選んだんだ。シャナ嬢の実家を破滅させるために、手引きをしたのは君だっただろう?」
記憶を失っているシャナは、その話をどこか遠くの世界の話として聞いていた。
自分ごとではないながらも、ひどいことをしている人たちだということはわかり、そういうことを億面もなく言える性格の悪さに怯えて震えていた。
「フィンセント……君の元恋人にそっくりの女が、君の元にいることを知ったら、妹はどう思うだろうな」
「セシリアは関係ありません! シャナとも私はもう縁が切れています!」
「君の婚約者は俺が手に入れる予定だったのに、いつの間にか行方をくらませてしまったからな……今日のところは時間がないから引き上げよう」
懐中時計を見ると、その男は顔を歪めて、シャナを見つめる。
「もう行かなければならないが、体の傷が癒えたらラルド侯爵家に来るよう手配させるからそのつもりで」
そう言いたいことを言うだけいって出て行ってしまった。
彼についていくように、フィンセントも慌てて出て行ってしまった。
まるで嵐が去ったようだった。
傍にいてくれた看護師は、シャナを心配そうに気遣ってくれたが、ふふっと肩を竦めて笑っている。
「侯爵令息と子爵令息のお二人が修道女を取り合うというのも、お話の世界のようですね」
「修道女は神の花嫁ですから、言い寄られても困るのですが……」
「セシリアさんが美しいからですよ」
「もう、からかわないでくださいね」
世俗から離れている修道女なのだから、そう言い続けていれば、いつかは諦めてくれるだろう。
そう思ってたシャナの考えは甘かった。
男どもは毎日のようにシャナの病室を訪れ、口説きにきたのである。
シャナがほとほと弱り果てていたところに、新しく参戦する人がいた。
フィンセントの現在の婚約者であり、シャナの実家を没落させた張本人であるドリィ侯爵令嬢であった。
しかしそのことに気づかず、セシリアことシャナは感謝をしてそのままそこで治療を受けることになった。
そんなある日、誰かがシャナの元まで面会を求めてきた。
「ラルド侯爵家の令息がいらしたようですよ」
心あたりがなかったので、相手の身元を尋ねたのだが、そんな風に言われた。それはシャナの婚約者を奪ったドリィの兄にあたったが、もちろん記憶を失っているシャナにはわからない。
ラルド侯爵家の馬車にひかれたという話は聞いてたので、その関係だろうか、と客を受け入れることにした。
「君は……」
相手はシャナの顔を見て固まってしまった。
また、貴族の誰かに似ているというんでしょう? と、その手の態度にはもう慣れっこになっていた記憶を失っているシャナは、ため息をつく。
「いや、本当にそっくりだな」
その男は強引にシャナの顎をとるとくいっと持ち上げ、視線を固定させられた。
じっと眼鏡の向こうの瞳を見返すが、相手は面白そうに見つめてくるだけで、この無礼な手を離すつもりはないらしい。
「お前は修道女を辞めて、私のモノになれ」
「おやめください!」
驚きのあまりされるがままになっていたシャナだったが、たまたま側にいた看護師の女性がそれを止めてくれた。それに舌打ちをしてその男はシャナの顎を掴んでいた手を離す。
「私は修道女です。神のものになってる身ですから、お受けできません」
震える声で拒絶をするが、相手の男は楽しそうな顔をするだけだ。
「還俗すればいいだろう」
そう押し問答していたら、そこにフィンセントが飛び込んできた。
「義兄上! お戯れはおやめください!」
「なに、貴族の女によく似た女をモノにしようとしているだけさ。平民の女なら、問題にはならないだろう?」
「ですが!」
「フィンセント、君は過去に恋人より家を選んだんだ。シャナ嬢の実家を破滅させるために、手引きをしたのは君だっただろう?」
記憶を失っているシャナは、その話をどこか遠くの世界の話として聞いていた。
自分ごとではないながらも、ひどいことをしている人たちだということはわかり、そういうことを億面もなく言える性格の悪さに怯えて震えていた。
「フィンセント……君の元恋人にそっくりの女が、君の元にいることを知ったら、妹はどう思うだろうな」
「セシリアは関係ありません! シャナとも私はもう縁が切れています!」
「君の婚約者は俺が手に入れる予定だったのに、いつの間にか行方をくらませてしまったからな……今日のところは時間がないから引き上げよう」
懐中時計を見ると、その男は顔を歪めて、シャナを見つめる。
「もう行かなければならないが、体の傷が癒えたらラルド侯爵家に来るよう手配させるからそのつもりで」
そう言いたいことを言うだけいって出て行ってしまった。
彼についていくように、フィンセントも慌てて出て行ってしまった。
まるで嵐が去ったようだった。
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「侯爵令息と子爵令息のお二人が修道女を取り合うというのも、お話の世界のようですね」
「修道女は神の花嫁ですから、言い寄られても困るのですが……」
「セシリアさんが美しいからですよ」
「もう、からかわないでくださいね」
世俗から離れている修道女なのだから、そう言い続けていれば、いつかは諦めてくれるだろう。
そう思ってたシャナの考えは甘かった。
男どもは毎日のようにシャナの病室を訪れ、口説きにきたのである。
シャナがほとほと弱り果てていたところに、新しく参戦する人がいた。
フィンセントの現在の婚約者であり、シャナの実家を没落させた張本人であるドリィ侯爵令嬢であった。
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