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連れてこられたのは、貴族の家にしては小さな家。
どうやらフィンセントが個人で持っている邸宅のようだった。
「セシリア……君の居場所は修道院なんかじゃない。俺の側だ。どうか修道院を出て俺のものになってくれないか?」
「いえ、私は今が幸せなのです。それに貴方は私ではなく、誰か別の人を見ているのでしょう?」
「最初はそうだったかもしれない。でも、今は違うんだ」
救護院を出た後は、フィンセントがシャナに粘着する態度はなおいっそうひどくなった。
昼も夜もたゆまずかき口説いてくる。相手するのもとても面倒くさい。
そして数日後には、あっさりとラルド侯爵令息やドリィにその居場所が見つかってしまったのである。
しかし、今度は修羅場を止めてくれるような看護師はいないし、シャナの面倒を見てくれるメイドはみんなフィンセントの味方である。
どうしようもなくなり、シャナはため息をついた。
「やはり、浮気してるじゃないのよ!」
「違う! とにかく俺の話を聞いてくれ」
「セシリア、久しぶりだね。こんな小汚いところにいさせられるなんて気分が悪いだろう。我が家に来るがいい」
フィンセントとドリィの痴話喧嘩に、それをよそにラルド侯爵令息にシャナが口説かれる図が繰り広げられようとしたその時、門の辺りでバン!と大きな音がした。
「なに、なんの音?」
それに続いて多くの人数が廊下を走る音がして、なんだろうとシャナ以外の人間が驚いて周囲を見回した。
「あの、貴方は以前に私を泥棒猫とおっしゃいましたよね?」
「なによ! 平民風情がこの私に話かけないで!」
シャナがドリィに声をかけるとフィンセントと喧嘩をして頭に血が上っているらしいドリィに怒鳴られてしまう。しかしシャナはそっと手をフィンセントの方に向けた。
「泥棒なのは、あなたたちの方ですよ」
「なんの話?」
「神の花嫁を奪うだなんて傲慢だと思いませんか?」
シャナがそう言った瞬間、部屋のドアが開いた。
「見つけた! セシリア殿がいたぞ!」
教会所属の騎士が自分を見て走りこんできた。そして次々とフィンセント達を捕らえていく。
「な、なんだお前たちは! ここは貴族所有の邸宅だぞ! 誰の許可を得て……」
「教会所属の修道女を拉致監禁した疑いで捜索させていただきます。許可は取ってます」
「なんだと!?」
騒ぐフィンセントをよそにシャナは優雅に立ち上がった。
「修道女殿、大丈夫ですか?」
「助けてくださってありがとうございます」
心配してくれた騎士に礼を言うとフィンセントを振り返る。
「修道院に帰りたいと申し上げたのに、帰らせていただけなかったものですから、助けを求めさせていただきました」
「どうやって!? ずっと見張らせていて、そのようなことをしているそぶりはなかったのに」
「やはり、気づいてなかったのですね。手紙に書いていたんです」
「手紙!? そんなことは一言も……」
「書いてましたよ。聖書の言葉を」
聖書は預言者や聖者が迫害を受けていた記録も残っている。
信者が海を割り、逃げる有名な一節。王に囚われて迫害を受けていた記述。
それらを、手紙の中で引用したり、飾り文字のように数字で仕込んだのだ。
信者が持つ聖書はどれも同じページ数、同じ位置で同じものが表記されるように作られているのだから、調べればすぐにわかるし、有名なものは皆覚えているので、どこの話かはすぐにわかる。
修道院や教会などは閉鎖的な空間だから、身内受けするような聖職者ジョークが飛び交う。
貴族は聖職者と知り合うから、彼らのそういう性格は知っている。
だから修道女が書く手紙のたとえ話として聖書の言葉を引用しているのはその一環だろうとフィンセントは見逃してしまったのだ。その引用が聖書のどこを部分を指しているかを知らなかったから。
しかし聖書を日々読み込んでいる者なら、引用されている聖書の文言と内容が食い違っていることくらいすぐにわかるし、そして、引用された内容からシャナがこの邸宅に囚われて帰ることもままならないことを読み取ってくれて行動を起こしてくれたのだ。
この国は貴族、教会、王権、と三つの権力がバランスを取っている。
その中のラルド侯爵家は貴族派の筆頭である。
教会所属の修道女見習いが、馬車ではねられた上、監禁されているというのは、貴族の権力への介入のタイミングを見計らっていた教会にとって、いいチャンスであったのだ。
「貴方たちは他にも罪を犯していたのでしょう? 懺悔をしてくださいね」
そう言い置くと、シャナはまるで女王のようにそこから立ち去った。
どうやらフィンセントが個人で持っている邸宅のようだった。
「セシリア……君の居場所は修道院なんかじゃない。俺の側だ。どうか修道院を出て俺のものになってくれないか?」
「いえ、私は今が幸せなのです。それに貴方は私ではなく、誰か別の人を見ているのでしょう?」
「最初はそうだったかもしれない。でも、今は違うんだ」
救護院を出た後は、フィンセントがシャナに粘着する態度はなおいっそうひどくなった。
昼も夜もたゆまずかき口説いてくる。相手するのもとても面倒くさい。
そして数日後には、あっさりとラルド侯爵令息やドリィにその居場所が見つかってしまったのである。
しかし、今度は修羅場を止めてくれるような看護師はいないし、シャナの面倒を見てくれるメイドはみんなフィンセントの味方である。
どうしようもなくなり、シャナはため息をついた。
「やはり、浮気してるじゃないのよ!」
「違う! とにかく俺の話を聞いてくれ」
「セシリア、久しぶりだね。こんな小汚いところにいさせられるなんて気分が悪いだろう。我が家に来るがいい」
フィンセントとドリィの痴話喧嘩に、それをよそにラルド侯爵令息にシャナが口説かれる図が繰り広げられようとしたその時、門の辺りでバン!と大きな音がした。
「なに、なんの音?」
それに続いて多くの人数が廊下を走る音がして、なんだろうとシャナ以外の人間が驚いて周囲を見回した。
「あの、貴方は以前に私を泥棒猫とおっしゃいましたよね?」
「なによ! 平民風情がこの私に話かけないで!」
シャナがドリィに声をかけるとフィンセントと喧嘩をして頭に血が上っているらしいドリィに怒鳴られてしまう。しかしシャナはそっと手をフィンセントの方に向けた。
「泥棒なのは、あなたたちの方ですよ」
「なんの話?」
「神の花嫁を奪うだなんて傲慢だと思いませんか?」
シャナがそう言った瞬間、部屋のドアが開いた。
「見つけた! セシリア殿がいたぞ!」
教会所属の騎士が自分を見て走りこんできた。そして次々とフィンセント達を捕らえていく。
「な、なんだお前たちは! ここは貴族所有の邸宅だぞ! 誰の許可を得て……」
「教会所属の修道女を拉致監禁した疑いで捜索させていただきます。許可は取ってます」
「なんだと!?」
騒ぐフィンセントをよそにシャナは優雅に立ち上がった。
「修道女殿、大丈夫ですか?」
「助けてくださってありがとうございます」
心配してくれた騎士に礼を言うとフィンセントを振り返る。
「修道院に帰りたいと申し上げたのに、帰らせていただけなかったものですから、助けを求めさせていただきました」
「どうやって!? ずっと見張らせていて、そのようなことをしているそぶりはなかったのに」
「やはり、気づいてなかったのですね。手紙に書いていたんです」
「手紙!? そんなことは一言も……」
「書いてましたよ。聖書の言葉を」
聖書は預言者や聖者が迫害を受けていた記録も残っている。
信者が海を割り、逃げる有名な一節。王に囚われて迫害を受けていた記述。
それらを、手紙の中で引用したり、飾り文字のように数字で仕込んだのだ。
信者が持つ聖書はどれも同じページ数、同じ位置で同じものが表記されるように作られているのだから、調べればすぐにわかるし、有名なものは皆覚えているので、どこの話かはすぐにわかる。
修道院や教会などは閉鎖的な空間だから、身内受けするような聖職者ジョークが飛び交う。
貴族は聖職者と知り合うから、彼らのそういう性格は知っている。
だから修道女が書く手紙のたとえ話として聖書の言葉を引用しているのはその一環だろうとフィンセントは見逃してしまったのだ。その引用が聖書のどこを部分を指しているかを知らなかったから。
しかし聖書を日々読み込んでいる者なら、引用されている聖書の文言と内容が食い違っていることくらいすぐにわかるし、そして、引用された内容からシャナがこの邸宅に囚われて帰ることもままならないことを読み取ってくれて行動を起こしてくれたのだ。
この国は貴族、教会、王権、と三つの権力がバランスを取っている。
その中のラルド侯爵家は貴族派の筆頭である。
教会所属の修道女見習いが、馬車ではねられた上、監禁されているというのは、貴族の権力への介入のタイミングを見計らっていた教会にとって、いいチャンスであったのだ。
「貴方たちは他にも罪を犯していたのでしょう? 懺悔をしてくださいね」
そう言い置くと、シャナはまるで女王のようにそこから立ち去った。
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