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こんな大騒ぎをさせたままでは園遊会が台無しになってしまう。レオノーラはため息をついた。事態を収拾させないといけないだろう。
「どちらにしろ、このままでは目が飽きますわよね。ちょっと変えてきますわね」
おっとりと言ったレオノーラは、近くにいたメイドに声をかけ、控室に案内をさせた。
不正を指摘されたからレオノーラが着替えに行ったのだと皆が噂をし始めたところ、持っていたグラスを音を立てるくらい乱暴にテーブルに置いた者がいた。
ちょうど会場を離れていたレオノーラはもちろんそれを知らなかったのだが。
(あら? どうしたのかしら。なにやら大きな声がするわ)
レオノーラが会場に戻ってきてみれば、ミランダが大立ち回りを演じていた。
もちろん彼女は物を破壊するように暴れていたわけではないが、それに似たような感じではあった。
ビビアンとビビアンに味方する相手に向かって、指を突きつけて問い詰めているではないか。
「レオノーラが誰かの真似なんかしなければいけないほど能無しだと思うの? 今までレオノーラのセンスに頼り切っていた人がよくもそんなこと言えるわね。こそこそと金にあかせてレオノーラの真似ばっかりしてたくせに」
「レオノーラが私の真似をしていたのは知ってるわ。それを見逃してあげていたのは私のほうよ! 盗人猛々しいわね!」
「なんですって!?」
貴族令嬢のやりとりとは思えない、一触即発になりそうな状況に、今までどこかのんびりしていたレオノーラは慌てて割って入った。
「ミランダ、私なら大丈夫だから、落ちついて?」
喧嘩っ早い友人の両肩に手を置いてなだめようとすると「だって!」と言い足りなさそうにレオノーラを振り返るミランダ。
レオノーラを一目見たミランダの顔が驚きに満ちて、声を失った。
「え、それ先ほどのドレス?! 全然違うじゃない!」
ミランダの大きな声が呼び水となり、会場中の視線がレオノーラに視線が集中する。
「うそ、素敵だわ」
「ドレス自体は変わってないわよね。何が変わったのかしら」
レオノーラが着ていたドレスはビビアンと同じだったはず。
この庭園にずっといたビビアンと皆は見比べて、あそこが変わった、ここが変わった、とまるで間違い探しをしているように皆が言い始める。
「全然イメージが違うじゃない。何をどう変えたの?」
「ドレスにちょっとハサミを入れたのよ」
驚くミランダにはこっそりと、レオノーラは自分が何をしてきたかを囁いた。
そのその大胆な内容に、ミランダはまた驚きを隠せなかったが。
脇の部分に横に線を入れるように切れ込みを入れれば下に着ている物の色が見える。
こうなる可能性を見越して、レオノーラはレース素材で派手な紅色の下着を着てきていた。
ただドレスを切っても、インナーが華やかでなければ、デザインを変えた部分が目立たないのだ。
深い藍色の合間に見える鮮やかな紅が差し色のように見える。しかもそれに合わせて口紅の色も塗り直してきた。
それだけだと下品に見えかねないので、透けるシルクのストールを纏うように覆えば、一見するとそのような布地のドレスであるように見えるのだ。
ドレスの裾を切り、スカート部分の脇の縫い目をほどいて足を出して露出を増やした分、今度は首元を覆う着け襟とアクセサリーに変えれば東洋的なドレスに変貌した。
元のドレスから変化させただけだというのに、受ける印象がまるで違う。
それに無作為に切っているようで、ドレスのどこを切るかはかなり計算しないとバランスが取れなくなってしまう。
自分で作った人間だからこそできる、真似だけしかできない人間にはできない技術なのだ。
「パーティーの最中にお色直しをしたり、早変わりをしたなんてすごいわ」
そう口々に褒めてもらうが、レオノーラは苦笑するだけだ。
今までもビビアンに恰好を模倣されて、その場で即興で手に入れられるもので、あれこれとアレンジして変えていたのだが、それに気づく人はいなかった。
すっと一人の男性が近づいてきた。長身の目元が涼やかなイケメンだ。
「噂では聞いていたけれど、本当に素晴らしい感性の持ち主ですね、貴方は」
そう言って、レオノーラにグラスを渡してくれる。
「ありがとうございます」
(私の噂……? どこで流れていたのかしら)
レオノーラはグラスを受け取ると、彼は笑顔のまま、爽やかな視線でレオノーラのファッションを見ながら機転を褒めてくれる。ストールを巻いているとはいえ、一部は下着をはだけているのも同じなので、あまり近くに来ないようにと祈っていたが。
「ドレスの雰囲気を変えてごまかしても無駄よ! この女が私のドレスのデザインを盗んだことは事実だわ」
そう叫ぶビビアンだったが、場の雰囲気は皆、レオノーラの方がオリジナルなのでは、ビビアンの方が盗んだのでは、という空気が流れていた。
「どちらにしろ、このままでは目が飽きますわよね。ちょっと変えてきますわね」
おっとりと言ったレオノーラは、近くにいたメイドに声をかけ、控室に案内をさせた。
不正を指摘されたからレオノーラが着替えに行ったのだと皆が噂をし始めたところ、持っていたグラスを音を立てるくらい乱暴にテーブルに置いた者がいた。
ちょうど会場を離れていたレオノーラはもちろんそれを知らなかったのだが。
(あら? どうしたのかしら。なにやら大きな声がするわ)
レオノーラが会場に戻ってきてみれば、ミランダが大立ち回りを演じていた。
もちろん彼女は物を破壊するように暴れていたわけではないが、それに似たような感じではあった。
ビビアンとビビアンに味方する相手に向かって、指を突きつけて問い詰めているではないか。
「レオノーラが誰かの真似なんかしなければいけないほど能無しだと思うの? 今までレオノーラのセンスに頼り切っていた人がよくもそんなこと言えるわね。こそこそと金にあかせてレオノーラの真似ばっかりしてたくせに」
「レオノーラが私の真似をしていたのは知ってるわ。それを見逃してあげていたのは私のほうよ! 盗人猛々しいわね!」
「なんですって!?」
貴族令嬢のやりとりとは思えない、一触即発になりそうな状況に、今までどこかのんびりしていたレオノーラは慌てて割って入った。
「ミランダ、私なら大丈夫だから、落ちついて?」
喧嘩っ早い友人の両肩に手を置いてなだめようとすると「だって!」と言い足りなさそうにレオノーラを振り返るミランダ。
レオノーラを一目見たミランダの顔が驚きに満ちて、声を失った。
「え、それ先ほどのドレス?! 全然違うじゃない!」
ミランダの大きな声が呼び水となり、会場中の視線がレオノーラに視線が集中する。
「うそ、素敵だわ」
「ドレス自体は変わってないわよね。何が変わったのかしら」
レオノーラが着ていたドレスはビビアンと同じだったはず。
この庭園にずっといたビビアンと皆は見比べて、あそこが変わった、ここが変わった、とまるで間違い探しをしているように皆が言い始める。
「全然イメージが違うじゃない。何をどう変えたの?」
「ドレスにちょっとハサミを入れたのよ」
驚くミランダにはこっそりと、レオノーラは自分が何をしてきたかを囁いた。
そのその大胆な内容に、ミランダはまた驚きを隠せなかったが。
脇の部分に横に線を入れるように切れ込みを入れれば下に着ている物の色が見える。
こうなる可能性を見越して、レオノーラはレース素材で派手な紅色の下着を着てきていた。
ただドレスを切っても、インナーが華やかでなければ、デザインを変えた部分が目立たないのだ。
深い藍色の合間に見える鮮やかな紅が差し色のように見える。しかもそれに合わせて口紅の色も塗り直してきた。
それだけだと下品に見えかねないので、透けるシルクのストールを纏うように覆えば、一見するとそのような布地のドレスであるように見えるのだ。
ドレスの裾を切り、スカート部分の脇の縫い目をほどいて足を出して露出を増やした分、今度は首元を覆う着け襟とアクセサリーに変えれば東洋的なドレスに変貌した。
元のドレスから変化させただけだというのに、受ける印象がまるで違う。
それに無作為に切っているようで、ドレスのどこを切るかはかなり計算しないとバランスが取れなくなってしまう。
自分で作った人間だからこそできる、真似だけしかできない人間にはできない技術なのだ。
「パーティーの最中にお色直しをしたり、早変わりをしたなんてすごいわ」
そう口々に褒めてもらうが、レオノーラは苦笑するだけだ。
今までもビビアンに恰好を模倣されて、その場で即興で手に入れられるもので、あれこれとアレンジして変えていたのだが、それに気づく人はいなかった。
すっと一人の男性が近づいてきた。長身の目元が涼やかなイケメンだ。
「噂では聞いていたけれど、本当に素晴らしい感性の持ち主ですね、貴方は」
そう言って、レオノーラにグラスを渡してくれる。
「ありがとうございます」
(私の噂……? どこで流れていたのかしら)
レオノーラはグラスを受け取ると、彼は笑顔のまま、爽やかな視線でレオノーラのファッションを見ながら機転を褒めてくれる。ストールを巻いているとはいえ、一部は下着をはだけているのも同じなので、あまり近くに来ないようにと祈っていたが。
「ドレスの雰囲気を変えてごまかしても無駄よ! この女が私のドレスのデザインを盗んだことは事実だわ」
そう叫ぶビビアンだったが、場の雰囲気は皆、レオノーラの方がオリジナルなのでは、ビビアンの方が盗んだのでは、という空気が流れていた。
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