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新聞によると、セラフィムは飼っていた動物たちを調教して、それを利用して貴金属を盗ませていたようだった。
その事件が発覚したのも、どうやらエルヴィラにふられたことが遠因だったらしい。
窃盗自体はエルヴィラがサイモン侯爵邸に出入りしていた頃には既に行われていた。
エルヴィラの目の前で、盗みに使う調教も行われていたが、それとエルヴィラが気づいていなかっただけだったが。
バートランド伯爵家に賠償金を払ったこと自体より、サイモン侯爵家の家名に泥を塗ったということで、サイモン侯爵……セラフィムの父親は激怒したようだった。
「お前の面倒は金輪際みない! まともに侯爵家の運営もできないなら勘当する!」
エルヴィラの訴えから息子の情けない状態を知ったサイモン侯爵は怒り、金銭的援助を打ち切ったらしい。今までは領地から上がるそれなりの額を侯爵邸宅にいるセラフィムに送っていたようだった。
それは親心もあったが放置していて申しわけないという思いもあったのだろう。
侯爵は本当は邸宅に多くいすぎた動物たちも追い出したかったようだったが、動物の命を奪うのはしのびなかったことと、セラフィムの奮起に期待してそれに関しては受け入れたらしい。
しかし命を守るためには金がかかる。
親からの援助をあてにしていた侯爵令息はそれまではお小遣い稼ぎ程度にしていた動物による窃盗に本腰を入れたようだったが、おぼっちゃま育ちの彼は知らなかったのだろう。
エルヴィラと婚約していたことで、将来の侯爵になるだろう立場があったからこそ、彼がいくら引きこもりだったりの社会不適合者でも、人はそれなりに敬意を持ってみてくれていたということを。
セラフィムの動物天国は、膨大な維持費がかかる。
そのためには彼は親から爵位を継いで金の地盤を作らなければならず、その爵位を継ぐためには結婚して爵位を継がせられる子供をつくらなければならなかった。それができない場合は、傍系に爵位が譲られるのだ。
しかしセラフィムが誰かと結婚をしようにも、エルヴィラとの破談のことがあり、動物の管理もできてない屋敷という悪い噂が流れていて誰も嫁いでこようとしない状況だったのだ。
焦るセラフィムは金を見せびらかすことで貴族令嬢を誘惑し、誰かを抱き込もうとしたようだ。
しかしその結果、動物に盗ませたものを盗んだ本人にプレゼントしようとして窃盗が発覚したらしい
なんというお粗末さだろう。
どこの誰から盗んだのかすら把握していなかったのだろう。
それほど人間に興味がない男だったのだ。
「そりゃ、自分に貢いでくれる『動物たち』の方が私より可愛いわよね」
セラフィムが動物に入れ込んでいたのは、結局は自分の欲のためだったのだ。
事の顛末をきけば、呆れるしかない。
セラフィムにとって、動物たちは家族ではなく手下であり下僕であり、自分の欲を満たしてくれる存在であるだけだった。
そんなナルシストな男と結婚して子供を産んでいても、まともな関係をのぞむべくもなかっただろう。
なにより何も知らないまま、犯罪者の身内になるかもしれなかったのだ。
あの時に彼の異常さを感じた自分の直感を信じ、逃げだして正解だったと今さらながら背筋が寒くなった。
エルヴィラはため息をつきながら、左手の甲を撫でた。
あの時に猫から受けた傷は処置が的確だったおかげで、今はもう痕も残らず綺麗に消えていた。
痛い思いはしたが、結局はあの傷のおかげでセラフィムと別れることができ、今の幸せに繋がったわけだから。
「これは名誉の負傷というのは言葉が違うかしら? 不幸中の幸い?」
そう呟きながらエルヴィラは新聞を静かに閉じて畳み、間抜けな婚約者が過去にいたことは忘れることにした。
その事件が発覚したのも、どうやらエルヴィラにふられたことが遠因だったらしい。
窃盗自体はエルヴィラがサイモン侯爵邸に出入りしていた頃には既に行われていた。
エルヴィラの目の前で、盗みに使う調教も行われていたが、それとエルヴィラが気づいていなかっただけだったが。
バートランド伯爵家に賠償金を払ったこと自体より、サイモン侯爵家の家名に泥を塗ったということで、サイモン侯爵……セラフィムの父親は激怒したようだった。
「お前の面倒は金輪際みない! まともに侯爵家の運営もできないなら勘当する!」
エルヴィラの訴えから息子の情けない状態を知ったサイモン侯爵は怒り、金銭的援助を打ち切ったらしい。今までは領地から上がるそれなりの額を侯爵邸宅にいるセラフィムに送っていたようだった。
それは親心もあったが放置していて申しわけないという思いもあったのだろう。
侯爵は本当は邸宅に多くいすぎた動物たちも追い出したかったようだったが、動物の命を奪うのはしのびなかったことと、セラフィムの奮起に期待してそれに関しては受け入れたらしい。
しかし命を守るためには金がかかる。
親からの援助をあてにしていた侯爵令息はそれまではお小遣い稼ぎ程度にしていた動物による窃盗に本腰を入れたようだったが、おぼっちゃま育ちの彼は知らなかったのだろう。
エルヴィラと婚約していたことで、将来の侯爵になるだろう立場があったからこそ、彼がいくら引きこもりだったりの社会不適合者でも、人はそれなりに敬意を持ってみてくれていたということを。
セラフィムの動物天国は、膨大な維持費がかかる。
そのためには彼は親から爵位を継いで金の地盤を作らなければならず、その爵位を継ぐためには結婚して爵位を継がせられる子供をつくらなければならなかった。それができない場合は、傍系に爵位が譲られるのだ。
しかしセラフィムが誰かと結婚をしようにも、エルヴィラとの破談のことがあり、動物の管理もできてない屋敷という悪い噂が流れていて誰も嫁いでこようとしない状況だったのだ。
焦るセラフィムは金を見せびらかすことで貴族令嬢を誘惑し、誰かを抱き込もうとしたようだ。
しかしその結果、動物に盗ませたものを盗んだ本人にプレゼントしようとして窃盗が発覚したらしい
なんというお粗末さだろう。
どこの誰から盗んだのかすら把握していなかったのだろう。
それほど人間に興味がない男だったのだ。
「そりゃ、自分に貢いでくれる『動物たち』の方が私より可愛いわよね」
セラフィムが動物に入れ込んでいたのは、結局は自分の欲のためだったのだ。
事の顛末をきけば、呆れるしかない。
セラフィムにとって、動物たちは家族ではなく手下であり下僕であり、自分の欲を満たしてくれる存在であるだけだった。
そんなナルシストな男と結婚して子供を産んでいても、まともな関係をのぞむべくもなかっただろう。
なにより何も知らないまま、犯罪者の身内になるかもしれなかったのだ。
あの時に彼の異常さを感じた自分の直感を信じ、逃げだして正解だったと今さらながら背筋が寒くなった。
エルヴィラはため息をつきながら、左手の甲を撫でた。
あの時に猫から受けた傷は処置が的確だったおかげで、今はもう痕も残らず綺麗に消えていた。
痛い思いはしたが、結局はあの傷のおかげでセラフィムと別れることができ、今の幸せに繋がったわけだから。
「これは名誉の負傷というのは言葉が違うかしら? 不幸中の幸い?」
そう呟きながらエルヴィラは新聞を静かに閉じて畳み、間抜けな婚約者が過去にいたことは忘れることにした。
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