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アメリア(16)……ジェラルド伯爵家の娘。大人しい性格で鳥が苦手。
ダルシム(17)……レッド伯爵家の令息。偏食気味なところがある。
***
(おかしいわね……どうしてダルシム様はこのような意地悪をされるのかしら。私が鳥が苦手なことをご存じなはずなのに)
アメリアは婚約者であるダルシムから誕生日に、と贈られてきたカナリアを見て、泣きそうな顔をしている。
アメリアのところに持ってきた侍女のノアも困惑した顔をしている。ジェラルド伯爵家に勤める者でアメリアの鳥嫌いを知らないものはいないからだ。
一応、主であるアメリアが怖がらないように鳥かごに布はかけてはあるが、カナリアがピイと小さく鳴くだけでアメリアはびくっと体を揺らしている。
「何かの手違いですかね」
「ごめんなさい、可哀想だけれど、誰か欲しがる方に差し上げてくれる?」
「わかりました。綺麗な羽の色で美しい声ですもの。きっと欲しがる人もいます」
「頼んだわよ」
幼い時に集団の鳥に襲われ、髪の毛をむしられたりケガをしたことのあるアメリアは、大人になってもどうしても鳥嫌いだけは克服できなかった。鳥の声を聴くだけで体が竦んでしまうのだ。
それでも今はまだマシになり、渡り鳥が群れをなして空を飛んでいる姿を見るだけで失神するほど一時期の鳥恐怖症はひどかった。
「あ、ダルシム様からのお手紙はこちらです」
「ありがとう」
アメリアはノアから手紙を受け取り、さっそく目を通す。
(きっと、たくさん文通をしている間に、私が鳥がダメなことを忘れてしまったのよね。きっとそうだわ……)
アメリアはそう自分を慰めた。
彼は忘れたとしても、自分の方は覚えている。ダルシムが好きなもの、嫌いなもの、彼とやりとりした手紙の内容の全てを。
アメリアとダルシムは生まれた時から親同士が決めた婚約者だった。遠く離れていて、あまり会うことはできない。
しかし年に一度か二度、会うだけの相手だったが、少年から青年に向けて育っていく彼に会う度に、アメリアはいつしか恋をしていた。
きっかけは親同士の縁だったけれど、彼と結婚する日を待ちわびるただの恋する乙女になっていた。
自分の方は彼を好きではあるけれど、彼はどうなのだろうか。
親同士が決めた婚約者ということに不満を持っているかもしれない。
あまり会えず、手紙でお互いのことを知っているつもりだったけれど、手紙に書けないところに、彼の本心があるのかもしれない。
例えば、別に思う人がいるとか……。
貴族は結婚相手以外にも、恋人を作ったりすることが暗黙の了解として認められることもある。
しかしそれはあくまでも政略結婚した上での話で、結婚する前に認められるわけではない。
(もしかして、この小鳥のプレゼントは彼の意思表示なのかしら……)
ダルシムに本命の女性がいてそちらと結婚したくて、アメリアを怒らせようとして小鳥を送ってきた可能性を考えてしまい、頭を振った。
(ダルシム様は、そんな不誠実な方ではない。そうだったとしたらきっとちゃんと筋を通すはず)
そうアメリアは考えなおした。
まだ、たどたどしい字しか書けなかった時期から、ひっきりなしに行き来していた手紙。
その中に書かれていた素直な言葉と、そして実際にお会いした時に感じた誠実な性格。
それは確かに一致していて、そんなところがアメリアを魅了したのだから。
ダルシム(17)……レッド伯爵家の令息。偏食気味なところがある。
***
(おかしいわね……どうしてダルシム様はこのような意地悪をされるのかしら。私が鳥が苦手なことをご存じなはずなのに)
アメリアは婚約者であるダルシムから誕生日に、と贈られてきたカナリアを見て、泣きそうな顔をしている。
アメリアのところに持ってきた侍女のノアも困惑した顔をしている。ジェラルド伯爵家に勤める者でアメリアの鳥嫌いを知らないものはいないからだ。
一応、主であるアメリアが怖がらないように鳥かごに布はかけてはあるが、カナリアがピイと小さく鳴くだけでアメリアはびくっと体を揺らしている。
「何かの手違いですかね」
「ごめんなさい、可哀想だけれど、誰か欲しがる方に差し上げてくれる?」
「わかりました。綺麗な羽の色で美しい声ですもの。きっと欲しがる人もいます」
「頼んだわよ」
幼い時に集団の鳥に襲われ、髪の毛をむしられたりケガをしたことのあるアメリアは、大人になってもどうしても鳥嫌いだけは克服できなかった。鳥の声を聴くだけで体が竦んでしまうのだ。
それでも今はまだマシになり、渡り鳥が群れをなして空を飛んでいる姿を見るだけで失神するほど一時期の鳥恐怖症はひどかった。
「あ、ダルシム様からのお手紙はこちらです」
「ありがとう」
アメリアはノアから手紙を受け取り、さっそく目を通す。
(きっと、たくさん文通をしている間に、私が鳥がダメなことを忘れてしまったのよね。きっとそうだわ……)
アメリアはそう自分を慰めた。
彼は忘れたとしても、自分の方は覚えている。ダルシムが好きなもの、嫌いなもの、彼とやりとりした手紙の内容の全てを。
アメリアとダルシムは生まれた時から親同士が決めた婚約者だった。遠く離れていて、あまり会うことはできない。
しかし年に一度か二度、会うだけの相手だったが、少年から青年に向けて育っていく彼に会う度に、アメリアはいつしか恋をしていた。
きっかけは親同士の縁だったけれど、彼と結婚する日を待ちわびるただの恋する乙女になっていた。
自分の方は彼を好きではあるけれど、彼はどうなのだろうか。
親同士が決めた婚約者ということに不満を持っているかもしれない。
あまり会えず、手紙でお互いのことを知っているつもりだったけれど、手紙に書けないところに、彼の本心があるのかもしれない。
例えば、別に思う人がいるとか……。
貴族は結婚相手以外にも、恋人を作ったりすることが暗黙の了解として認められることもある。
しかしそれはあくまでも政略結婚した上での話で、結婚する前に認められるわけではない。
(もしかして、この小鳥のプレゼントは彼の意思表示なのかしら……)
ダルシムに本命の女性がいてそちらと結婚したくて、アメリアを怒らせようとして小鳥を送ってきた可能性を考えてしまい、頭を振った。
(ダルシム様は、そんな不誠実な方ではない。そうだったとしたらきっとちゃんと筋を通すはず)
そうアメリアは考えなおした。
まだ、たどたどしい字しか書けなかった時期から、ひっきりなしに行き来していた手紙。
その中に書かれていた素直な言葉と、そして実際にお会いした時に感じた誠実な性格。
それは確かに一致していて、そんなところがアメリアを魅了したのだから。
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