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ダルシムとアリシアは町に出るが、アリシア自身が案内できるわけではない。
街をよく知る侍女にさらに連れて行ってもらう形になった。
ダルシムが頼んだものはあまりその辺りの店で販売されているものではなかったようだ。
長時間探し回って歩いたけれど、しかし二人で歩くだけでも楽しく、侍女や護衛の目を盗んで、こっそりと指を絡めたりするのは忘れられないほどときめいてしまった。
幸い手に入れることができた目的のものを、ダルシムはそれの扱い方に気を付けて、とアリシアに注意した。
「ダミーの手紙は今までと同じペースで送りあおう。相手が不審がられないように、内容は同じように書くこと。手紙は言った手順で書くこと。そして絶対に素手では触らないこと。ダミーの手紙が届いたら、読まずそのまま燃やすこと。いいね?」
「はい、わかりました」
ダルシムから渡されたものを、おそるおそるアリシアは手にする。
「それと、本命の手紙はノアの名前で、リック商会の方に出してくれないか?」
リック商会はダルシムの仕事先だ。それなら検閲されないだろう。侍女のノアも心得たと頷いている。
「しばらくの間、面倒くさいけれど頑張ろうね」
そう、ダルシムはアリシアを励ました。
しかし、アリシアからしたら二人で一つのなにかをしていると思うと、それだけで二人の仲が縮まった気がして、少し嬉しかったのは否めなかった。
***
結局、ダルシムが予想した内容が正しかった。
ほどなくして郵便局員が捕まったのである。
犯人の郵便局員は配達の際にたまたまアリシアを見かけて気に入り、女神のように崇拝し、彼女の手紙を盗み読むのを楽しみにしていたようだった。
しかし手紙の内容からアリシアに婚約者がいて、いつか相手の領地の方に行くということを知ってしまう。
そのため、この町にアリシアをとどめるために、二人の仲を引き裂こうとしたのだという。アリシアを手に入れるわけでもなく、ただ、見つめるためだけにそんなことを、と思うと逆に不気味だ。
「封筒に入れてたのはなんですか?」
ダルシムがアリシアの家に改めて訪れた時、侍女のノアがダルシムに質問をした。
ノアは詳しいことは知らされていない。アリシアもダルシムに言われた通りにするだけで、内容などを話されていなかった。
二人の好奇心に満ちた視線を受けて、笑いながらダルシムはそれに答えた。
「漆を塗った板だよ。開封する時に絶対触れる場所に入れておけばどうしても触ってしまう。彼は我々の手紙を読まなければ、中の手紙を偽造できないんだしね。アリシアの家から郵便局の距離程度だったら乾ききらないから手に着く。漆にかぶれるかどうかは人次第だけれど、一定期間たっても引っかかってこないようなら別の手を試せばいいやと思ったよ」
町中の薬局や医者に声をかけ、このような状態の患者が出たら知らせてほしい、とあらかじめ伝えておいてたのだ。
潜伏期間を置いてから起きた強いかゆみ。それが漆かぶれであると分からず、しかも知識がない相手は、あちこち触ってしまって悪化させてしまったようだ。
逮捕時点でまぶたまではれ上がっていたのは、気の毒すぎる結果だった。
漆かぶれはアレルギーのため、発症するかどうかは人による。しかし、犯人は運が悪い方だったようだ。
これで一安心だ、とダルシムはことさらに機嫌いい。
アリシアに微笑むとお礼を言う。
「君が僕からの手紙をちゃんととっといてくれていたのがよかったよ。あれが証拠になったから、早く解決できたんだし、犯人も逮捕できたしね」
「ダルシム様からいただいたものは全部、私の宝物ですから」
恥ずかしそうなアリシアだが、ダルシムはそれを聞くと嬉しそうに目を細めた。
「……僕の本棚の一番下に木の箱があるんだ。もし僕に何かがあったら、それを棺の中に入れてほしいって家族に言ってある」
唐突なダルシムの話に、なんだろう?と首を傾げるアメリア。
「そこにあるものは全部、君からもらった手紙なんだ。プレゼントは全部部屋に飾ってあるけれど」
二人して同じことをしているんだね、と笑うダルシムにアメリアもつられて笑ってしまった。
「近い将来、君が僕のうちに来てくれる、でいいんだよね?」
照れくさそうにいうダルシムのその言葉は、過去にあの犯人が言っていたことを受けてだろう。
よほどあの嘘の手紙の言葉に心を痛めていたのだろうか。
だから、心配しないで、というかのように、アリシアは自分から彼の手を握りしめて囁いた。
「はい、もちろんです」と。
街をよく知る侍女にさらに連れて行ってもらう形になった。
ダルシムが頼んだものはあまりその辺りの店で販売されているものではなかったようだ。
長時間探し回って歩いたけれど、しかし二人で歩くだけでも楽しく、侍女や護衛の目を盗んで、こっそりと指を絡めたりするのは忘れられないほどときめいてしまった。
幸い手に入れることができた目的のものを、ダルシムはそれの扱い方に気を付けて、とアリシアに注意した。
「ダミーの手紙は今までと同じペースで送りあおう。相手が不審がられないように、内容は同じように書くこと。手紙は言った手順で書くこと。そして絶対に素手では触らないこと。ダミーの手紙が届いたら、読まずそのまま燃やすこと。いいね?」
「はい、わかりました」
ダルシムから渡されたものを、おそるおそるアリシアは手にする。
「それと、本命の手紙はノアの名前で、リック商会の方に出してくれないか?」
リック商会はダルシムの仕事先だ。それなら検閲されないだろう。侍女のノアも心得たと頷いている。
「しばらくの間、面倒くさいけれど頑張ろうね」
そう、ダルシムはアリシアを励ました。
しかし、アリシアからしたら二人で一つのなにかをしていると思うと、それだけで二人の仲が縮まった気がして、少し嬉しかったのは否めなかった。
***
結局、ダルシムが予想した内容が正しかった。
ほどなくして郵便局員が捕まったのである。
犯人の郵便局員は配達の際にたまたまアリシアを見かけて気に入り、女神のように崇拝し、彼女の手紙を盗み読むのを楽しみにしていたようだった。
しかし手紙の内容からアリシアに婚約者がいて、いつか相手の領地の方に行くということを知ってしまう。
そのため、この町にアリシアをとどめるために、二人の仲を引き裂こうとしたのだという。アリシアを手に入れるわけでもなく、ただ、見つめるためだけにそんなことを、と思うと逆に不気味だ。
「封筒に入れてたのはなんですか?」
ダルシムがアリシアの家に改めて訪れた時、侍女のノアがダルシムに質問をした。
ノアは詳しいことは知らされていない。アリシアもダルシムに言われた通りにするだけで、内容などを話されていなかった。
二人の好奇心に満ちた視線を受けて、笑いながらダルシムはそれに答えた。
「漆を塗った板だよ。開封する時に絶対触れる場所に入れておけばどうしても触ってしまう。彼は我々の手紙を読まなければ、中の手紙を偽造できないんだしね。アリシアの家から郵便局の距離程度だったら乾ききらないから手に着く。漆にかぶれるかどうかは人次第だけれど、一定期間たっても引っかかってこないようなら別の手を試せばいいやと思ったよ」
町中の薬局や医者に声をかけ、このような状態の患者が出たら知らせてほしい、とあらかじめ伝えておいてたのだ。
潜伏期間を置いてから起きた強いかゆみ。それが漆かぶれであると分からず、しかも知識がない相手は、あちこち触ってしまって悪化させてしまったようだ。
逮捕時点でまぶたまではれ上がっていたのは、気の毒すぎる結果だった。
漆かぶれはアレルギーのため、発症するかどうかは人による。しかし、犯人は運が悪い方だったようだ。
これで一安心だ、とダルシムはことさらに機嫌いい。
アリシアに微笑むとお礼を言う。
「君が僕からの手紙をちゃんととっといてくれていたのがよかったよ。あれが証拠になったから、早く解決できたんだし、犯人も逮捕できたしね」
「ダルシム様からいただいたものは全部、私の宝物ですから」
恥ずかしそうなアリシアだが、ダルシムはそれを聞くと嬉しそうに目を細めた。
「……僕の本棚の一番下に木の箱があるんだ。もし僕に何かがあったら、それを棺の中に入れてほしいって家族に言ってある」
唐突なダルシムの話に、なんだろう?と首を傾げるアメリア。
「そこにあるものは全部、君からもらった手紙なんだ。プレゼントは全部部屋に飾ってあるけれど」
二人して同じことをしているんだね、と笑うダルシムにアメリアもつられて笑ってしまった。
「近い将来、君が僕のうちに来てくれる、でいいんだよね?」
照れくさそうにいうダルシムのその言葉は、過去にあの犯人が言っていたことを受けてだろう。
よほどあの嘘の手紙の言葉に心を痛めていたのだろうか。
だから、心配しないで、というかのように、アリシアは自分から彼の手を握りしめて囁いた。
「はい、もちろんです」と。
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