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バーンズ子爵が連れていかれた後、ミュゼーとアイラはゆったりとお茶をしていた。
「会長がどうしてあんなことをおっしゃったかわかりました」
「あんなこと?」
「私のスポンサーになってくれると言った時のことですよ。一年で夫への考え方が変わる、そうなったら教えてほしい、というようなことをおっしゃっていたでしょう? 貴方の側にいたら、変わるだろう私のことに気づいていたんですね」
「ああ、あれね……」
アイラの話を聞きながら、ミュゼーはカップに口をつけた。
アイラは自分のカップに目を落として、話しを続ける。
「あの時、あのまま私が望んでいたように着飾って、女としてあの人を浮気相手から奪い返し、気が晴れてあの人と離婚したとしても、私は実家に戻ってまた同じように結婚させられ、同じことを繰り返していたでしょう。私はこの世界は男がいないと生きていけない、庇護下にないとダメなんだと思っていました。でも実際、そんなことはないですよね。会長は私の世界が狭いということを仕事を通じて教えたかったのですね」
アイラはカップをソーサーの上に置くと立ち上がり、ミュゼーに向かって頭を下げた。
「貴方には私の気持ちがわからない、と言ったあの時の言葉を取り消します。私のことが分かっていたからこそ、あの提案をしていただいていたのですから。その上で感謝をいたします。本当にありがとうございました」
ミュゼーはアイラのスポンサーになると言っていたが、アイラにしてくれたのは投資だ。
アイラが自分で望んだように「女として」見返すのなら、容姿を磨くだけで十分だったはずなのに、ミュゼーは「人として」見返せるようにアイラを磨くだけでなく育ててくれたのだ。
その結果、アイラは人としても浅い夫に興味が失せてしまった。
「あらあら、そんなかしこまることもないのよ。頭を上げてちょうだい」
ミュゼーは困ったように肩をすくめている。礼を言うまでもない、とでもいうように。
そんな彼女をアイラは慎み深い人だ、とほほ笑んだ。
しかし、アイラは気づいていない。
ミュゼーが彼女を助けたいと思ったのは事実だ。
しかしそれ以上に、ミュゼーは貴族の女性が会社に欲しかったのだ。
いつまでも女の自分が一人で会社で頑張れるわけではない。
会社で大事なのは人材である。ミュゼーは優秀な右腕となる人が欲しかった。なにより同じような価値観を持つ仲間が欲しかった。
そこにアイラと出会ったのだ。
アイラは少しばかり視野が狭かったが、彼女の真面目さや育ってきた環境の良さなどは話しただけで分かったので、なんとしても取り込みたかったのだ。
1年かければ、彼女もわかってくれるだろうと思っていたが、1年もかからなかっただけで。
ミュゼーは結局は商売人で、得を考えて動く習慣が身についている。
なんとも世知辛いなぁ、と反省もし、アイラのようなまだ擦れてない女性を見れば、通常の心を思い出すのだ。
だから純粋に謝意を表されると、どうにも、もぞもぞしてこそばゆくなってしまう。罪悪感とでもいおうか。
「どうする? 期限は残っているけれど、うちの仕事を続ける?」
「会長に従います」
勢い込んで言うアイラに、ミュゼーは感情を押し殺してほほ笑んだ。
「じゃあ、今日は特別なディナーをご馳走しなきゃね」
「特別なディナー?」
「貴方の離婚のお祝い。これからもこの会社で働いてくれる貴方に契約書を作り直さないとね」
アイラの決心が変わらないうちに、とミュゼーは秘書を呼ぶためベルを鳴らした。
「会長がどうしてあんなことをおっしゃったかわかりました」
「あんなこと?」
「私のスポンサーになってくれると言った時のことですよ。一年で夫への考え方が変わる、そうなったら教えてほしい、というようなことをおっしゃっていたでしょう? 貴方の側にいたら、変わるだろう私のことに気づいていたんですね」
「ああ、あれね……」
アイラの話を聞きながら、ミュゼーはカップに口をつけた。
アイラは自分のカップに目を落として、話しを続ける。
「あの時、あのまま私が望んでいたように着飾って、女としてあの人を浮気相手から奪い返し、気が晴れてあの人と離婚したとしても、私は実家に戻ってまた同じように結婚させられ、同じことを繰り返していたでしょう。私はこの世界は男がいないと生きていけない、庇護下にないとダメなんだと思っていました。でも実際、そんなことはないですよね。会長は私の世界が狭いということを仕事を通じて教えたかったのですね」
アイラはカップをソーサーの上に置くと立ち上がり、ミュゼーに向かって頭を下げた。
「貴方には私の気持ちがわからない、と言ったあの時の言葉を取り消します。私のことが分かっていたからこそ、あの提案をしていただいていたのですから。その上で感謝をいたします。本当にありがとうございました」
ミュゼーはアイラのスポンサーになると言っていたが、アイラにしてくれたのは投資だ。
アイラが自分で望んだように「女として」見返すのなら、容姿を磨くだけで十分だったはずなのに、ミュゼーは「人として」見返せるようにアイラを磨くだけでなく育ててくれたのだ。
その結果、アイラは人としても浅い夫に興味が失せてしまった。
「あらあら、そんなかしこまることもないのよ。頭を上げてちょうだい」
ミュゼーは困ったように肩をすくめている。礼を言うまでもない、とでもいうように。
そんな彼女をアイラは慎み深い人だ、とほほ笑んだ。
しかし、アイラは気づいていない。
ミュゼーが彼女を助けたいと思ったのは事実だ。
しかしそれ以上に、ミュゼーは貴族の女性が会社に欲しかったのだ。
いつまでも女の自分が一人で会社で頑張れるわけではない。
会社で大事なのは人材である。ミュゼーは優秀な右腕となる人が欲しかった。なにより同じような価値観を持つ仲間が欲しかった。
そこにアイラと出会ったのだ。
アイラは少しばかり視野が狭かったが、彼女の真面目さや育ってきた環境の良さなどは話しただけで分かったので、なんとしても取り込みたかったのだ。
1年かければ、彼女もわかってくれるだろうと思っていたが、1年もかからなかっただけで。
ミュゼーは結局は商売人で、得を考えて動く習慣が身についている。
なんとも世知辛いなぁ、と反省もし、アイラのようなまだ擦れてない女性を見れば、通常の心を思い出すのだ。
だから純粋に謝意を表されると、どうにも、もぞもぞしてこそばゆくなってしまう。罪悪感とでもいおうか。
「どうする? 期限は残っているけれど、うちの仕事を続ける?」
「会長に従います」
勢い込んで言うアイラに、ミュゼーは感情を押し殺してほほ笑んだ。
「じゃあ、今日は特別なディナーをご馳走しなきゃね」
「特別なディナー?」
「貴方の離婚のお祝い。これからもこの会社で働いてくれる貴方に契約書を作り直さないとね」
アイラの決心が変わらないうちに、とミュゼーは秘書を呼ぶためベルを鳴らした。
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