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二章
リオの幼馴染み
「そうそう、リオ。あなたロミさんのこと覚えているかしら?」
リオは少々考える素振りを見せたものの、すぐに嫌そうに顔を歪めた。
「……ああ、そんなのもいたね」
誰のことかユウナは知らないが、あからさまにリオからは嫌悪感が伝わって来たので、友人のような仲のいい相手ではないとすぐに分かる。
「それがどうしたの?」
淡々と冷たく凍った声色にはリオを知る者がいれば、社会的気に抹殺されないか心配になるだろう。
「リオ、どなた?」
ユウナがリオの袖をちょんちょんと引く。
「昔の知り合い」
「幼馴染みみたいなものよ。リオは毛嫌いしているけどね」
苦笑するマーサに、リオは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「そんな簡単に済まさないでほしいんだけど」
不貞腐れたように呟くリオは、やはり母親の前だからだろうか、少し子供っぽさを感じる。
そんなところもかわいいと思いつつ、ユウナは『幼馴染み』という言葉に一抹の不安を覚える。
「幼馴染み……」
かつて散々苦しめられた――というか、苦渋を飲まされたその特別な立ち位置の存在。
「リオにもいるの?」
「ユウナが心配するような相手じゃないよ。住んでいた場所が近くだった同年代ってだけで、嫌な思い出しかないやつらだから」
「やつらってことは複数人?」
「そうだね。ムカつくことに。というか、どうして急にそんなやつらの話になったの? しかも一番嫌なやつの名前を出すし」
「本当にロミさんのこと嫌っているわねぇ。あの子の母親とは仲がいいから、昔はお互いの子が結婚したら素敵ねなんて話していたんだけど……」
マーサは困ったように笑う。
「はっ! 冗談じゃないよ。あんなのと結婚するぐらいなら独身でいた方がいい」
「まあ、公爵家の実子と認められた時点であり得ない話なのだけどね。それにロミさんの母親とも、今は疎遠だし
」
ユウナには分からない話が続いていたため、リオが補足を入れる。
「昔は仲がよかったんだけど、母さんが商会の息子と結婚すると分かったら友人のよしみで金を貸せとか言い出してきてね。それがあまりにも回数が多いから断ったら、今度は薄情者って母さんを罵る始末だよ。それからは関りを絶っているけど、そんな母親によく似た娘って想像してくれたら分かりやすいと思うよ」
「うん、だいたい把握した」
できれば関わらない方がいい人達だと。
「話が逸れたわね。そのロミさんが私の旦那様の商会にやって来て、働かせてほしいって言ってきたのよ」
「面の皮の厚い」
リオは不快そうに吐き捨てる。
「特に商会で働ける技量もなかったからお断りしたのよ。だって彼女、計算も接客もできないんですもの」
「よくそれで面接受けに来たね」
「母親のよしみで雇ってくれると思ったみたいよ。私は商会の手伝いはしているけれど、従業員の雇用や営業は完全に旦那様がしているから一切関わっていないのにね」
「関わっていたとしても、疎遠になった相手のところに転がり込もうとするあたりが厚顔無恥だよ」
「そうね。でも旦那様に不採用にされた後、私のとことに抗議に来たんだけど、リオの結婚式に出席することでバタバタしていたからお帰り願ったの。その時にリオの結婚の話を知って、大騒ぎしちゃってね」
「どうして?」
リオは理解不能だと首をかしげている。
「さあ、どうしてかしらね?」
困ったように穏やかに笑うマーサは、ユウナに視線を向けてからリオに告げる。
「リオ、喉が渇いたからなにか飲み物取って来てちょうだい」
「はいはい。ユウナはジュースでいい?」
「うん」
面倒くさそうにしつつも、嫌がることなく母親の指示に従うリオ。
ちゃんとユウナへの気遣いも忘れなあたりがリオらしい。
リオが離れていくと、マーサが近づきそっと囁いた。
「ロミさんって、リオに気があるみたいなの」
それを聞いてどきりとするユウナに、マーサは続ける。
「とはいえ、リオの眼中になくて完全に相手にされていないんだけどね」
マーサは楽しそうにふふっと笑う。
「けど、リオの結婚を知った彼女と他の幼馴染みがこっちの国で職を探すとか言っているみたいだから、近いうちにこの国に来ると思うわ。他国の平民が貴族と関わるなんて不可能だと思うけど、念のために教えておくわね」
「ありがとうございます。あの、もしその幼馴染みがリオを頼って我が家に来た時にはどう対処したらいいですか?」
仲がよさそうではないが、幼馴染みであることに変りはない。
「ああ、完全に無視してくれて構わないわ。きっとリオはそうするでしょうから。無視で済んだらいいんだけれどねぇ」
マーサは頬に手を当てて悩まし気にため息を吐いた。
「社会的に消されないか心配だわ。一応は昔から知っている子達だし。でもだからこそお馬鹿さん達の集まりだっていうのも知っているから、あの子の怒りに触れないか半々の確率だわね」
「そんなに仲が悪いんですか?」
「今では想像できないけれど、あの子いじめられっ子だったのよ」
「えっ!」
ユウナが驚くのも無理はなく、ユウナの反応にマーサはそうなるよねと分かっていた反応だ。
「信じられないでしょう? 今のあの子はむしろ虐める側だものねぇ」
「えーっと」
そこは素直にはいと言っていいのか分からず迷うユウナ。
しかし否定の言葉が即座に出てこない時点でお察しである。
「けれど本当にそうだったのよ。どこで捻じ曲がってしまったのか……。まあ、そんなわけだからあの子に権力を持たせたらあの子を虐めていた幼馴染み達がどうかるか、想像するのも怖くてね。何度もキルク様には止めてたほうがいいと進言したのだけど、どうやったのかキルク様の心をがっちりつかんじゃってて、私の力ではどうにもならなかったわ」
どこからツッコめばいいのかユウナは困惑する。
「キルク様は完全にリオに激甘だから、むしろ率先して手を下しかねないわ。止められるのはユウナさんだけだから頑張って!」
「ど、どう頑張れと……」
なにか大きな使命を押し付けられた気がしてならない。
面倒なことにならなければいいなと、ユウナは遠い目をするしかなかった。
リオは少々考える素振りを見せたものの、すぐに嫌そうに顔を歪めた。
「……ああ、そんなのもいたね」
誰のことかユウナは知らないが、あからさまにリオからは嫌悪感が伝わって来たので、友人のような仲のいい相手ではないとすぐに分かる。
「それがどうしたの?」
淡々と冷たく凍った声色にはリオを知る者がいれば、社会的気に抹殺されないか心配になるだろう。
「リオ、どなた?」
ユウナがリオの袖をちょんちょんと引く。
「昔の知り合い」
「幼馴染みみたいなものよ。リオは毛嫌いしているけどね」
苦笑するマーサに、リオは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「そんな簡単に済まさないでほしいんだけど」
不貞腐れたように呟くリオは、やはり母親の前だからだろうか、少し子供っぽさを感じる。
そんなところもかわいいと思いつつ、ユウナは『幼馴染み』という言葉に一抹の不安を覚える。
「幼馴染み……」
かつて散々苦しめられた――というか、苦渋を飲まされたその特別な立ち位置の存在。
「リオにもいるの?」
「ユウナが心配するような相手じゃないよ。住んでいた場所が近くだった同年代ってだけで、嫌な思い出しかないやつらだから」
「やつらってことは複数人?」
「そうだね。ムカつくことに。というか、どうして急にそんなやつらの話になったの? しかも一番嫌なやつの名前を出すし」
「本当にロミさんのこと嫌っているわねぇ。あの子の母親とは仲がいいから、昔はお互いの子が結婚したら素敵ねなんて話していたんだけど……」
マーサは困ったように笑う。
「はっ! 冗談じゃないよ。あんなのと結婚するぐらいなら独身でいた方がいい」
「まあ、公爵家の実子と認められた時点であり得ない話なのだけどね。それにロミさんの母親とも、今は疎遠だし
」
ユウナには分からない話が続いていたため、リオが補足を入れる。
「昔は仲がよかったんだけど、母さんが商会の息子と結婚すると分かったら友人のよしみで金を貸せとか言い出してきてね。それがあまりにも回数が多いから断ったら、今度は薄情者って母さんを罵る始末だよ。それからは関りを絶っているけど、そんな母親によく似た娘って想像してくれたら分かりやすいと思うよ」
「うん、だいたい把握した」
できれば関わらない方がいい人達だと。
「話が逸れたわね。そのロミさんが私の旦那様の商会にやって来て、働かせてほしいって言ってきたのよ」
「面の皮の厚い」
リオは不快そうに吐き捨てる。
「特に商会で働ける技量もなかったからお断りしたのよ。だって彼女、計算も接客もできないんですもの」
「よくそれで面接受けに来たね」
「母親のよしみで雇ってくれると思ったみたいよ。私は商会の手伝いはしているけれど、従業員の雇用や営業は完全に旦那様がしているから一切関わっていないのにね」
「関わっていたとしても、疎遠になった相手のところに転がり込もうとするあたりが厚顔無恥だよ」
「そうね。でも旦那様に不採用にされた後、私のとことに抗議に来たんだけど、リオの結婚式に出席することでバタバタしていたからお帰り願ったの。その時にリオの結婚の話を知って、大騒ぎしちゃってね」
「どうして?」
リオは理解不能だと首をかしげている。
「さあ、どうしてかしらね?」
困ったように穏やかに笑うマーサは、ユウナに視線を向けてからリオに告げる。
「リオ、喉が渇いたからなにか飲み物取って来てちょうだい」
「はいはい。ユウナはジュースでいい?」
「うん」
面倒くさそうにしつつも、嫌がることなく母親の指示に従うリオ。
ちゃんとユウナへの気遣いも忘れなあたりがリオらしい。
リオが離れていくと、マーサが近づきそっと囁いた。
「ロミさんって、リオに気があるみたいなの」
それを聞いてどきりとするユウナに、マーサは続ける。
「とはいえ、リオの眼中になくて完全に相手にされていないんだけどね」
マーサは楽しそうにふふっと笑う。
「けど、リオの結婚を知った彼女と他の幼馴染みがこっちの国で職を探すとか言っているみたいだから、近いうちにこの国に来ると思うわ。他国の平民が貴族と関わるなんて不可能だと思うけど、念のために教えておくわね」
「ありがとうございます。あの、もしその幼馴染みがリオを頼って我が家に来た時にはどう対処したらいいですか?」
仲がよさそうではないが、幼馴染みであることに変りはない。
「ああ、完全に無視してくれて構わないわ。きっとリオはそうするでしょうから。無視で済んだらいいんだけれどねぇ」
マーサは頬に手を当てて悩まし気にため息を吐いた。
「社会的に消されないか心配だわ。一応は昔から知っている子達だし。でもだからこそお馬鹿さん達の集まりだっていうのも知っているから、あの子の怒りに触れないか半々の確率だわね」
「そんなに仲が悪いんですか?」
「今では想像できないけれど、あの子いじめられっ子だったのよ」
「えっ!」
ユウナが驚くのも無理はなく、ユウナの反応にマーサはそうなるよねと分かっていた反応だ。
「信じられないでしょう? 今のあの子はむしろ虐める側だものねぇ」
「えーっと」
そこは素直にはいと言っていいのか分からず迷うユウナ。
しかし否定の言葉が即座に出てこない時点でお察しである。
「けれど本当にそうだったのよ。どこで捻じ曲がってしまったのか……。まあ、そんなわけだからあの子に権力を持たせたらあの子を虐めていた幼馴染み達がどうかるか、想像するのも怖くてね。何度もキルク様には止めてたほうがいいと進言したのだけど、どうやったのかキルク様の心をがっちりつかんじゃってて、私の力ではどうにもならなかったわ」
どこからツッコめばいいのかユウナは困惑する。
「キルク様は完全にリオに激甘だから、むしろ率先して手を下しかねないわ。止められるのはユウナさんだけだから頑張って!」
「ど、どう頑張れと……」
なにか大きな使命を押し付けられた気がしてならない。
面倒なことにならなければいいなと、ユウナは遠い目をするしかなかった。
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