ただの遊び相手が欲しくてかまちょしてたら専属メイドになった~ただ、遊んでもらってただけなのに!!!~

陽控優亜

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ジャスミンは ベンside

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毎日来る女の子。
僕は怖がれる。
目つきも悪いし、表情もあまりない。
人形だとよく言われる。
でも、女の子は僕が反応しなくても毎日来る。
なついてるのか、たまに僕に寄りかかって寝るし。
人のぬくもり。
素直な笑顔。
毎日くれる花。
「ゆびきりげんまん!!」
女の子は毎日ゆびきりをする。
「明日も、坊ちゃまに会えますように!!」
最後は決まってこれ。
僕は人のぬくもりは感じれない。
この9年間、ぬくもりを知らずに育ってきた。
僕は呪われてる。
人の愛を知ることはない。
誰からも愛されない。
母上も、親としての愛情を僕にはくれない。
母上なりに頑張ってる。
それは、わかっている。
それでも、愛されることはない。
この、呪いは。
誰か、たった1人からでもいいから。
必要とさでれば解けるらしい。
もしかしたら女の子が解いてくれるのかもしれない。
そんな淡い期待を抱くようになった。
もはや、約束というより願いのようになってる。
「坊ちゃまに問題です!!」
いつものように僕の膝に乗ると女の子は言った。
「私の名前はなんでしょう!!」
……名前……。
「……ジャスミン」
キラキラとした目で見つめられ仕方なく答えると女の子は抱き着いてきた。
「っ!!」
「へへ」
嬉しそうな声。
首元がくすぐったい。
そっと、手を伸ばせば。
花のいいにおいと太陽のようなぽかぽかとした温もりが全身を包んでくれてるようだ。
このまま放したくない。
このまま、ずっと。
「坊ちゃま、大好きです。大・大・だーいすき!!」
小さな声で。
優しく話してくれる。
「それは、今だけだ。いつかきっと嫌いになる」
捻くれてるな。
自分でもそう思う。
ここは、年上らしくありがとうといえばいいのに。
ジャスミン。
名前を呼んだらもう放せない。
「ずっとずっと大好きだよ!!坊ちゃまには、私がいる。約束する。毎日、会いに来るしお花も持ってくる。絶対に」
あぁ。
まるで、僕の心を見透かしたかのように。
それに、敬語も抜けてる。
僕は、嬉しくて。
ジャスミンを強く抱きしめた。
「苦しいです、坊ちゃま」
ジャスミンは笑う。
どこまでも、透き通った声で。
天使の笑い声だ。



ここ3日。
ジャスミンは会いに来なかった。
どうして。
約束は嘘だったのか?
そんなはずはない。
ジャスミンは夕方までには必ず来てた。
その次の日も。
また次の日も。
ジャスミンは来なかった。
「もう、1週間か」
ジャスミンが来なくなって1週間が経った。
約束は破られた。
約束なんてしなければよかった。
今日は大雨。
どしゃぶりだ。
こんななか、外に出たら誰だって風邪をひくだろう。
窓の外を見ると何かがいる。
「あれは、なんだ??」
怪しく思いながら外套を来て外に出るとジャスミンが倒れていた。
「ジャスミン!!」
冷たい体。
意識がないのか目を開けない。
僕は急いで寝室にジャスミンを連れて行った。
僕の持ってる服に着替えさせたいけれどジャスミンは女の子だ。
「待ってて。すぐに戻るから」
僕はすぐに母屋に行った。
でも、使用人はみな、僕を無視する。
「失礼します、母上」
父上と話してる母上は驚いたように僕を見つめた。
僕は頭を下げる。
「何してるの、ベン!!」
本来なら貴族が頭を下げるのはあまりよくない。
でも、そんなのどうだってよかった。
「ジャスミンという使用人をご存じですよね」
「えぇ」
戸惑う母上の声。
今までの僕は母上や父上に会うのでさえ恐れていた。
愛されないという呪いのせいで。
家族に愛されないと思っていたから。
「土砂降りの中、庭に倒れていました」
「あの子が!?」
「それに、酷い熱もあります。使用人にも声をかけたのですが、無視されました。一刻も早くジャスミンの服を着替えさせたいのですが、僕は男です」
自然と目が熱くなる。
「足にも、腕にも。服で隠されてるところに傷がありました」
庭で怪我したわけではない。
「体内出血、傷。これらは、ドジをしたで片づけれるものではありません」
僕は、ジャスミンの状況を伝えながらジャスミンの様子を考えていた。
「わかりました。医師のフレヤを離れに呼んでちょうだい」


「喉が腫れてます。1週間、ジャスミンは私にも会いに来ませんでした。きっと1週間前から風邪をひいていたのでしょう」
医師のフレヤがジャスミンの着替えを済ませ、悲しそうな目で言った。
「同室の使用人はどうしてたのかしら」
母上が呟くとフレヤという女性は衝撃なことを言った。
「他の使用人からひどい扱いを受けています」
フレヤはジャスミンの服をめくりおなかのあたりを見せた。
そこには、黄色く変色したひどいあざが元々の肌の色を隠すほどだった。
ジャスミンは、こんな怪我をしながらも僕に会いに来てたのか?
ずっと笑顔で、隠してたのか。
あの目の隈は。
夜更かししてるのではなく、安心して眠れなくて。
だから、僕の腕の中で寝ていたのか。
手が赤くなっていたのも。
掌が切れていたのも。
嫌がらせを受けていたから。
「奥様がジャスミンを気に入ってるのもあり、それをよく思わない者もいます」
フレヤは、ジャスミンに薬を飲ませながら僕を見た。
「坊ちゃま。今、何を考えているのですか?」
僕が、考えていること。
「苦しい」
フレヤは優しく笑い頷いた。
「他には」
「どうして、ジャスミンなんだ。僕が変わりたい。ジャスミンと出会わなかったあの頃に戻りたくない。ジャスミンにずっとそばにいてほしい。一緒がいい。ずっと笑っていてほしい」
自然と言葉が溢れた。
目から熱いものがこみあげてきて。
「ベン!!あなた」
母上の驚いた声。
今まで見ていた景色が少しずつ変わりだす。
ジャスミンの体が光り、僕の体も白色に光る。
体が宙に浮き回転し始める。
温かい風、花のような匂い。
そっと目を開けば笑っているジャスミンがいた。
『坊ちゃま、約束を守りに来ました』
約束?
『ずっと。大好きです。坊ちゃま、大・大・だーいすき!!』
そういって僕を優しく包み込むジャスミン。
僕よりもすっごく大きい女性。
それなのに、ジャスミンだとはっきりわかる。
白い髪に金色の瞳。
この、匂いも。
全て、ジャスミンのものだ。  



「ベン!!!!」
目を開くと母上が涙を流していた。
僕は床の上で寝ていた。
顔に何かくすぐったいものがあたる。
「んぅ。坊ちゃま」
この声は。
そっと起き上がるとジャスミンが眠っていた。
体は冷たくなく、熱くもない。
「ジャスミンの熱がありません。喉の腫れも。奇跡です」
フレヤは優しく笑いジャスミンを抱き上げた。
「念のため、私の部屋で様子を見ます。ジャスミンのことなら、安心して私に任せてください」
フレヤとジャスミンがいなくなった後、母上は僕をそっと抱きしめてくれた。
「ようやく。ようやく、心残りなくベンを抱きしめれる。これからは、今までできなかった分を取り戻すよりもそれ以上に愛することを誓うわ」
肩に何か熱いものが落ちた。
母上の涙だ。
ジャスミン以外に、こんなに暖かいと思える日が来るなんて。
雨でぬれた体がゆっくりとぬくもりを持ち始める。
「母上、お願いがあります」
自然と口角が上がる。
「ジャスミンと一緒にいたいのです。だから」
「えぇ。ジャスミンのためにもあなたの所が安全でしょうね。さっそく移動を命じるわ」
ジャスミン。これからは僕が守るからね。
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