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20話
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何も用事の無い平日のことだった。
講義を終えてから特に用事もなかったため、スーパーで惣菜だけ買ってまっすぐ家に帰ってためていた課題を進めていた。
本当だったら今日は黒崎の家に帰るつもりだったが、今日はゼミの友人と飲みに行くらしく断られてしまってしぶしぶだった。
ゲームをするにも映画を見るにもなんとなく寂しくて、先に課題を済ませようと思いぱちぱちキーボードを弾いていた。
「……………はあ」
一度背筋を伸ばして大きく伸びをする。
ぐぐ、と骨が軋むような感覚。
疲れで霞む目を瞬きで誤魔化しつつ、パソコンの画面を遠くから睨みつける。上手くまとまらない文章にさあどうしようとため息をついた。
ふと時計を見ると、もう針はてっぺんを指していて日付を跨いでしまいそうな時間帯。
一度シャワーを浴びようかと席を立つと、ちょうどそのタイミングを見計らったかのように、突然インターホンが鳴った。
………深夜12時過ぎなのに?こんな時間に誰だよ。
変質者か、やばい宗教か怖い人くらいしか思いつかない。
恐る恐る玄関に近づくと、その途中でピンポンピンポンと2回もチャイムを押された。
この時点で俺はかなり怖くなってしまっていて、音を立てずにそうっと近づき、なんとか玄関の覗き穴から外を覗く。
見慣れた人が立っていて、俺は慌ててドアを開けた。
「…黒崎さん?…えっ、なんで?」
立っていたのは黒崎だった。驚いてしまってドアを開けたまま固まっていると、ふらふらと部屋の中に入り込んできて、そのまま俺に抱きつくように寄りかかる。
支えきれずに一瞬ふらついた。転ぶ前にどうにか体制を整えて黒崎を支える。濃いアルコールの匂いに咽せそうになった。
「うわっ酒くさ!!えっどういう事?!」
「来たよ~」
「重い重い!ちょっ一旦鍵閉めるから立ってください!重いって!」
「んー」
何を言っても生返事で聞いているのかいないのか分からない。肩を掴んで一度引き剥がし、とりあえずドアも鍵も閉めて黒崎を室内に引っ張り込んだ。
その途中で、黒崎が荷物一つ…それどころか冬直前のこの季節にアウターの一つも身につけないでいたことに気がついた。
「えっと………黒崎さんその格好で来たの?…ていうか、カバンとか財布は?」
「あー本当だ、……全部落としたのかな」
「…え?……そもそもどうやって来たんですか」
「近かったから歩いてきたよ」
「………なに、本当にどういうこと」
相当酔っているのか、何を聞いても黒崎からの答えはふわふわしていてイマイチ要領を得ない。
11月の下旬にパーカー1枚で歩いてここまで来る意味が、まるで分からなかった。
代わりに俺がぐるぐる考える羽目になる。荷物一式を一体どこに置いてきたんだ、財布はどこいったんだ。ポッケに手を突っ込んでみても、スマホ一つ入っていない。
慌てて黒崎の番号に電話をかける。黒崎からは着信音もバイブ音も聞こえなくて、いよいよ俺が焦り始めた5コール目で、もしもしと誰かが電話に出た。
『あれ、綾瀬?あー、もしかして黒崎と今一緒にいる?』
「え……………と、もしもし、あの……」
『あーごめん俺だよ、小宮。黒崎今手ぶらだよね、こっちに荷物全部あるから大丈夫だよ』
「えっ………あー………小宮さんもいたんですね、はあ…ありがとうございます……」
電話に出たのは黒崎の同期の小宮だった。小宮も同じサークルに所属しており、なんどか2人で会話したこともあった。
聞き慣れた柔らかい口調に、どっと緊張が解けて安心する。
話を聞くと近くの誰かの家で2次会が開かれ、他の友人と買い出しに行った黒崎は、そのままはぐれて行方不明になっていたらしい。
そこまで酷い飲み会に参加したことが無い俺は話を聞いてもいまいち状況は分からなかったが、とりあえず貴重品が無事だと聞いて安心した。
小宮に礼を言いつつ電話を切る。
当の本人はベッドに座ったままぼんやりしていた。
「ねえ黒崎さん、酔っ払うといつもこうなの?」
「えー、そんな事ないと思うけど…怒ってる?」
「怒るっていうか………だって危ないでしょ。荷物どこ置いたかわからないレベルまで酔うって、これで本当に盗まれてたり置いてきたりしてたらやばいじゃん。…ていうか友達と飲んでて、黙って手ぶらで抜けてきちゃったの?戻らなくて平気?」
「…戻らない。だって嫌なこといわれたんだもん、コンビニ行く途中で」
下を向いて都合が悪そうな顔をしたまま黒崎がぼそっと言った。
「……なんですか、嫌なことって」
「んー…セックスの事聞かれた」
「なにそれ、どういうこと」
「綾瀬のことは言ってないよ。普通におれが、尻使ってるってこととか」
「は?何話したの」
「いろいろ聞かれたからいろいろ」
「……やだな、嫌なら言わないでいいんだよ」
何を聞いても要領を得ない回答に、つい声のトーンが落ちてしまう。
ぼんやりしてる黒崎にも、一緒にコンビニに行ったという俺の知らない相手に対しても、少し腹が立った。
「…………ごめん」
分かりやすく黒崎が項垂れる。
俯いてしゅんと落ち込む姿は子供みたいだった。
講義を終えてから特に用事もなかったため、スーパーで惣菜だけ買ってまっすぐ家に帰ってためていた課題を進めていた。
本当だったら今日は黒崎の家に帰るつもりだったが、今日はゼミの友人と飲みに行くらしく断られてしまってしぶしぶだった。
ゲームをするにも映画を見るにもなんとなく寂しくて、先に課題を済ませようと思いぱちぱちキーボードを弾いていた。
「……………はあ」
一度背筋を伸ばして大きく伸びをする。
ぐぐ、と骨が軋むような感覚。
疲れで霞む目を瞬きで誤魔化しつつ、パソコンの画面を遠くから睨みつける。上手くまとまらない文章にさあどうしようとため息をついた。
ふと時計を見ると、もう針はてっぺんを指していて日付を跨いでしまいそうな時間帯。
一度シャワーを浴びようかと席を立つと、ちょうどそのタイミングを見計らったかのように、突然インターホンが鳴った。
………深夜12時過ぎなのに?こんな時間に誰だよ。
変質者か、やばい宗教か怖い人くらいしか思いつかない。
恐る恐る玄関に近づくと、その途中でピンポンピンポンと2回もチャイムを押された。
この時点で俺はかなり怖くなってしまっていて、音を立てずにそうっと近づき、なんとか玄関の覗き穴から外を覗く。
見慣れた人が立っていて、俺は慌ててドアを開けた。
「…黒崎さん?…えっ、なんで?」
立っていたのは黒崎だった。驚いてしまってドアを開けたまま固まっていると、ふらふらと部屋の中に入り込んできて、そのまま俺に抱きつくように寄りかかる。
支えきれずに一瞬ふらついた。転ぶ前にどうにか体制を整えて黒崎を支える。濃いアルコールの匂いに咽せそうになった。
「うわっ酒くさ!!えっどういう事?!」
「来たよ~」
「重い重い!ちょっ一旦鍵閉めるから立ってください!重いって!」
「んー」
何を言っても生返事で聞いているのかいないのか分からない。肩を掴んで一度引き剥がし、とりあえずドアも鍵も閉めて黒崎を室内に引っ張り込んだ。
その途中で、黒崎が荷物一つ…それどころか冬直前のこの季節にアウターの一つも身につけないでいたことに気がついた。
「えっと………黒崎さんその格好で来たの?…ていうか、カバンとか財布は?」
「あー本当だ、……全部落としたのかな」
「…え?……そもそもどうやって来たんですか」
「近かったから歩いてきたよ」
「………なに、本当にどういうこと」
相当酔っているのか、何を聞いても黒崎からの答えはふわふわしていてイマイチ要領を得ない。
11月の下旬にパーカー1枚で歩いてここまで来る意味が、まるで分からなかった。
代わりに俺がぐるぐる考える羽目になる。荷物一式を一体どこに置いてきたんだ、財布はどこいったんだ。ポッケに手を突っ込んでみても、スマホ一つ入っていない。
慌てて黒崎の番号に電話をかける。黒崎からは着信音もバイブ音も聞こえなくて、いよいよ俺が焦り始めた5コール目で、もしもしと誰かが電話に出た。
『あれ、綾瀬?あー、もしかして黒崎と今一緒にいる?』
「え……………と、もしもし、あの……」
『あーごめん俺だよ、小宮。黒崎今手ぶらだよね、こっちに荷物全部あるから大丈夫だよ』
「えっ………あー………小宮さんもいたんですね、はあ…ありがとうございます……」
電話に出たのは黒崎の同期の小宮だった。小宮も同じサークルに所属しており、なんどか2人で会話したこともあった。
聞き慣れた柔らかい口調に、どっと緊張が解けて安心する。
話を聞くと近くの誰かの家で2次会が開かれ、他の友人と買い出しに行った黒崎は、そのままはぐれて行方不明になっていたらしい。
そこまで酷い飲み会に参加したことが無い俺は話を聞いてもいまいち状況は分からなかったが、とりあえず貴重品が無事だと聞いて安心した。
小宮に礼を言いつつ電話を切る。
当の本人はベッドに座ったままぼんやりしていた。
「ねえ黒崎さん、酔っ払うといつもこうなの?」
「えー、そんな事ないと思うけど…怒ってる?」
「怒るっていうか………だって危ないでしょ。荷物どこ置いたかわからないレベルまで酔うって、これで本当に盗まれてたり置いてきたりしてたらやばいじゃん。…ていうか友達と飲んでて、黙って手ぶらで抜けてきちゃったの?戻らなくて平気?」
「…戻らない。だって嫌なこといわれたんだもん、コンビニ行く途中で」
下を向いて都合が悪そうな顔をしたまま黒崎がぼそっと言った。
「……なんですか、嫌なことって」
「んー…セックスの事聞かれた」
「なにそれ、どういうこと」
「綾瀬のことは言ってないよ。普通におれが、尻使ってるってこととか」
「は?何話したの」
「いろいろ聞かれたからいろいろ」
「……やだな、嫌なら言わないでいいんだよ」
何を聞いても要領を得ない回答に、つい声のトーンが落ちてしまう。
ぼんやりしてる黒崎にも、一緒にコンビニに行ったという俺の知らない相手に対しても、少し腹が立った。
「…………ごめん」
分かりやすく黒崎が項垂れる。
俯いてしゅんと落ち込む姿は子供みたいだった。
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