好きになった歳上オーナーはどうやら訳アリっぽい

りちょ

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4話 菖の生活

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 翌日の深夜。
 ノクターンでのシフトが早く終わる日は、菖は掛け持ちのバイトに出勤している。
 この日は数年続けている、シーシャバーでのバイトだった。

「菖くん、ゲームやろうよ」

「俺ですか?いいっすけど、多分勝っちゃいますよ」

「いいって、ほら。オセロでいい?」

 菖が勤めるバーは隠れ家的な店で、雰囲気がいいバーと言うよりはボードゲームが盛んな、大人の遊び場と言った印象の店だった。
 元々は学生時代に客として菖も通っていたが、菖があまりにもゲームに強く、スカウトされたのがキッカケで働いている。料理学校で学んだ繊細な技術は、この店でも十分に活かされていた。

 火の管理をしていた菖は、誘われて客の席に着く。何度か見かけたことのある顔だったが、声をかけられ、勝負を仕掛けられたのは初めてだった。
 ここではスタッフが客とゲームで競い合う事も勧められていた。強者集いのため、客にとっても一種の楽しみとなっている。
 菖と客の宅の周りに、視線が集まった。

「もっと複雑なルールのでも良いですよ。俺オセロ得意だし」

「いや、これでいいよ」

「はぁい。あ、負けたら一杯奢ってくださいね。俺が負けたら一杯サービスするんで」

 菖は得意げに笑うと、白黒の石を四つ並べ始めた。周りのスタッフは呆れたように菖を見る。負けず嫌いの菖は、酔っ払い相手にも容赦ない事を知っていたからだった。


 数分後、菖は盤面のほとんどを白で埋め尽くし、奢ってもらった酒を手に満足気にカウンターまで戻ってきた。
 バーのオーナーは呆れつつも、微力ながら売り上げに貢献する菖のことは認めていた。

「あの人来週も来るみたいです、俺にまた挑戦するって」

「はは。大人気ない勝ち方したね、カド全部取ってほとんどひっくり返して。いつか恨み買うよ」

「手抜く方が失礼っすよ。俺は茶化さず真剣に勝つんで真摯です」

 菖はそう満足気に笑う。そこそこに給料も良く知的好奇心も満たされるこの職場を、菖は気に入っていた。長く続けるつもりではあった。
 ただ、深夜帯のバイトということだけが菖にとってはネックだった。体力がなかなか保たないのだ。それが最近の菖の悩みでもあった。




 菖の毎日はアルバイトを中心に回る。シーシャバーとノクターンがメインで、あとは効率よく稼げる居酒屋のキッチンを転々としたり、短期バイトをしたり。遅くとも3年以内には資金を貯めて留学に行くことが目標だったため、菖は多少無理をしてでも、いつも忙しなく働いていた。

 菖は勢いのある性格で、決めた目標があればとことん走り抜くタイプだった。その分息抜きは苦手で、いつの間にか疲労が溜まりこむ事が多い。


「なあお前さ、引越しの短期バイトは応募すんの辞めれば?体力仕事向いてないだろ」

「えーでもほら単価高いんだよ、1日だけだしさ」

「いやでもさぁ。なら他のバイトシフト増やした方が良いんじゃねえの、カフェのバイトとか、勉強にもなるんだしさ?知らねえけど」


 菖のストッパーとして声をかけるのが一輝だった。
 菖が無茶なシフト組みをする前に、一輝はさりげなく声をかける。

 一度だけ菖は、一輝の前で弱さを見せた事があった。前職の有名レストランに勤務していた時、菖はストレス性の胃潰瘍を悪化させて家で激しく吐いた事があった。トイレまで間に合わずに一輝の目の前で胃の中を空にするまで吐いて、もうずっとまともに飯が食えてないと泣きながら訴えて、仕事に行きたくないと搾り出すように言うと菖はわんわん泣いた。
 一輝がこんなふうに菖が弱って泣いた姿を見たのは、声変わり以降初めてだった。

 レストラン勤務を辞めるように勧めたのも一輝だった。一度も取れていなかった有休を消化しぼんやり過ごす菖に、菖が憧れていた留学の話をもう一度持ちかけたのも一輝だった。


 菖は一輝の話はいつも素直に聞いた。分かったよと返事をして、バイトの募集画面を閉じる。


「もう平気だって、一輝。レストランで働いてたのだってもう、結構前だし」

「俺が困るんだよ、飯作る人がいなくなるの」

 菖は一輝の言い方に笑ってしまう。気軽な物言いは菖のプライドを守るためのものだとわかっていた。菖は一輝の髪をくしゃくしゃと撫でた。
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