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一章
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夕食中も、その後間宮さんに話しかけられても、その日はもうどうにも上手く切り返すことができずにいた。
目を合わせると、あの書斎での彼の指先の動きを、どこか影のある笑みを、思い出してしまう。揶揄われただけだと何度自分に言い聞かせたって、顔に血が登って喉が渇く。今まで舞台でラブシーンを演じた時だってこんな風に調子を崩すことは無かったのに、どうしてしまったんだろうか。
間宮さんは俺のそんな様子など気にすることなく、いつも通りに食事を終え、風呂に入ってリビングで読書をしていた。
皿を洗い終えた俺がシャワーを借りることを一言告げると、やはりいつものように短く返事をする。不自然なほど、彼は自分がした突飛な提案を話題に出さない。
やっぱり揶揄っていただけなんだ、と俺も気にしないようにして、リビングを出ようとする。
「僕は先に、二階に上がっているよ」
ちょうどその瞬間、振り向きもせずに間宮さんはそう言った。
俺はそれだけでどきりと心臓が跳ねてしまったが、どうにか動揺を抑え込んで、わかりましたと返事をして微笑む。
間宮さんはそれ以上は何も言わずに、黙って部屋を出て行ってしまった。
頭から熱い湯を被って、どうにか冷静になろうと自分に言い聞かせる。鏡に映る自分は、単にシャワーで火照っているせいか、それとも間宮さんのせいなのか、ずっと顔が赤いままだった。
(落ち着かないと………また、眠れなくなる)
目を閉じて、深呼吸をして一度シャワーを留める。それからボディーソープを泡立てて、ゆっくり自分の身体を洗い始めた。
間宮さんの家の風呂場は広々としていて、姿見が大きいのも特徴だった。泡を滑らせていく自分の身体は、女性らしい柔らかいラインは無いものの、筋肉質で硬く重たい男性らしさも持ち合わせていない。俺自身は中途半端な身体付きだと思っていたが、間宮さんは綺麗だと言った。
筋肉質では無いものの、昔から身体の柔軟さには自信があった。間宮さんが動きを褒めてくれたのは、もしかしたらこれも関係しているのかもしれない。
何気なく、自分の手首をぎゅうっと握ってみる。父親に似て色白の俺は、少し力を入れて握った程度で、簡単に赤く痕が残る。手形はほんの少しだけ肌の上に残って、すっと馴染むように消えて行った。
どうしても、昼間に書斎で読んでしまった小説を思い出してしまう。やたらリアルに、縄をかける描写を書き込んでいた。少しでも踠けば縄が身体に食い込み、蜘蛛の巣に囚われた哀れな虫のように、抵抗する心さえへし折られていった、あの男。
じくじくと、身体の中央からまたあの熱が溢れてゆく。自然に息が上がって、指先まで甘く痺れるような、胸の内側がむず痒いような疼き。
「……………っ、バカ……!」
俺は咄嗟に、蛇口を捻ってシャワーを顔から派手に被った。
お湯が鼻に入って思わず咳き込む。ツンと痛む。最悪だ。
(俺、別に、そんな趣味ねぇだろ………)
どうしてただの白紙に印刷された活字が、ここまで脳裏に焼き付いて離れないんだろうか。少なくとも間宮さんの知り合いだと言う著者は、とんでもない才能の持ち主なのだろう。
のぼせてぼうっとする前に、俺は念入りに身体を洗って脱衣所に戻る。
ぱたぱたとタオルで身体を煽いで冷ましつつ、服を着替えてドライヤーで髪を乾かした。
熱風を浴びているその間もずっと、嫌に身体が火照って仕方なかった。軽くパーマを当てている自分の髪が、ふわふわとドライヤーで揺れる。髪の間から覗く目がどこか熱を帯びているようで、自分で自分が嫌になった。
一杯の水を飲み干して、借りている客室に戻る。そのまま布団に入ればいいのに、俺は着替えが入ったカバンを開けて、肌触りの良いシャツを一枚、取り出してしまっていた。
綿素材の色気のないTシャツを脱いで、素肌の上から直接そのシャツを羽織ってボタンを留める。柔らかい素材のそれは、いつも着ているハリのある白シャツとは違って、肩のラインを拾って滑らかに皺を作るものだった。ほんの少し腕を動かすと、ふわりと肌に張り付くようにとろみのある皺が動く。カフスすら貝素材で出来た上質なもので、オーナーから手渡されていたものだった。
スラックスは仕方なく明日履く予定だったものを履いて、ベルトも締める。シャツのボタンも、彼なら恐らくは一番上まで留めたほうが好みな気がしていた。
軽く髪を整えて、そのままの勢いで部屋を出て2階に上がる。心臓の音も、頭の中で鳴っている警告音も、道端で交わした青年との会話も何もかも聞こえないフリをして、軋む階段を一つ一つ踏み締めて歩く。
どこかで、間宮さんがもう眠っていて、俺のこの愚かでどうしようもない覚悟が、無かったことになればいい、俺の中だけの黒歴史にでもなればと思っていた。
息を吐いて寝室の扉を数回、確かにノックした。畳張りの客室でシャツをボタンを留めた時は指先までふるふると震えていたくせに、ここに辿り着く頃にはそれも収まっていたようだった。
「…………どうぞ」
くぐもって聞こえたのは、いつもと変わらない調子の間宮さんの声。俺はどんな顔でドアを開ければいいのか分からないまま、ゆっくりとドアノブに手をかけてその扉を開けた。
間宮さんはベッドに腰をかけたまま、本を読んでいた。彼の服や香水の匂いと共に、ほんの少し酒の匂いがした。寝室にボトルを置いていたのだろうか、サイドテーブルには注がれたウイスキーがほとんど手付かずで置かれている。
寝室の造りは独特だった。フローリングにベッドが置かれているのを見ると基本は洋室の作りなのだが、窓の手前には障子が張られていた。部屋の照明も和紙の素材を用いたものが多く、柔らかい光が部屋を包んでいる。
「遅くにお伺いしてしまって、すみません」
思ったより俺の口からは、滑らかな言葉が出た。
間宮さんは持っていた本に栞も挟まずに、パタンと閉じてサイドテーブルに置いてしまった。ゆっくりと上げられた視線が絡まる。どくりとまた心臓が高鳴って、俺は誤魔化すために微笑んで見せる。
間宮さんは、何をしに来たのかは一切聞かなかった。いつもの制服姿と大きくは変わらない分、何か仕事のために来たのかと勘違いしているのだろうかと俺が思った途端、彼は立ち上がると俺の手を引いて部屋の隅に追い詰める。
ひんやりとした壁と間宮さんに挟まれて、また呼吸を忘れそうになる。
どこか真剣な目をした彼は額同士が触れ合うほど顔を近づけて、ぷつり、と俺のシャツの第一ボタンを外した。俺は一切、抵抗はしなかった。むしろ、顎先を撫でられた時と同じように、喉を軽く逸らして彼が脱がせるのを手伝っていた。
柔らかい襟が静かに開くのが、肌を擦って伝わる。ほんの少しの解放感の代わりに、息苦しいくらい心拍数が上がった。
力を抜いてされるがままの俺に、間宮さんは意図を読み取ったのだろう。彼はやっと目を細めて笑うと、俺の髪を撫でてゆっくりベッドの上にエスコートした。
----
間宮さんの手は、驚いてしまうくらい丁寧だった。
指先で、唇で、身体中を撫でられた。俺の弱い部分を余さず探し出すかのように、彼はじっくりと、強く弱く、弄んでいった。
ベルトを外される頃には、身体中が熱くて、ふわふわして、俺はゆっくり呼吸をするので精一杯なくらいだった。敏感だと知られた耳は裏側から付け根までくすぐられ、舌でなぞられ、耳たぶは執拗に捏ねられた。うなじに何度も優しくキスをされ、背骨の凹凸を優しくなぞられるだけで身体が震えて情けない声が漏れた。触れたことなんかほとんど無かった胸の先だって、彼の指先で優しく捏ね回されると身体の奥がじんと痺れるような気がした。
「ん、……っふ、ぁ、あ……!」
どこかもったいぶるように、間宮さんはゆっくりと丁寧にベルトのバックルを外していく。細身のスラックスに身体の中心は押さえつけられていて、ズキズキと痛むほどだった。わざとなのか、時折撫でるように触れられるとそれだけで情けなく腰が震えてしまう。
「……ふふ、すごいな君は。縛り上げる前に、達してしまうんじゃないのか」
間宮さんの、どこか呆れたような、でも熱にざらついた甘い声が耳元に響く。そうだ、俺って縛られたくてここに来たんだっけ。そうだっけ?ただ、あの小説の、快感に翻弄されて涙を流した男に疑問とほんの少しの興味を持ったのが始まりで。あれ、それで、どうしてこんな事になったんだ?
「……っあ!待って、んん!」
考え事をしている暇なんか無かった。するりと呆気なくベルトは抜き取られ、間宮さんは邪魔なスラックスも下着も、すぐに脱がせてしまったのだ。
すでに熱を持って硬く昂っていたそれが、下着を下げられた勢いで反り返って腹を打つ。俺はあんまりの羞恥に涙が出そうになって、思わず顔を思いっきり背ける。間宮さんがどんな顔をしているのかなんか、見たく無かった。
「…………かわいいな、君は」
どろどろに脳みそが溶けてしまいそうな、甘いセリフを間宮さんは吐いた。間宮さんは俺の臍の下あたりをさすったかと思ったら、そのままゆっくりと手を下げていって、性器に触れるギリギリを優しく何度も撫で始めた。
「珍しいね。剃っているのか」
「ぁ………その、着替えとか、衣装とかで、楽だから、無い方が良いって………っ、ふ、」
誰に勧められたのは忘れたが、脱毛は最近行き始めたばかりだった。間宮さんはどこか楽しそうに返事をしつつ、執拗にそこばかりを撫でる。皮膚が薄いのか、彼の手のひらの熱が大胆に伝わり、じわりと脳髄が蕩けそうな錯覚に陥る。ひく、と無意識に何度も腰が動くのが分かった。もう出してしまいたい、楽になりたいと、少しずつ脳みそがそんな声で埋まっていく。
「ほら……蕩けてないで、一度起き上がれるかい。縛られるために来たんだろう」
軽く頬を叩かれて俺はハッとする。力の入らない腕に鞭を打って、どうにか上半身を持ち上げてベッドの上に座る。だらだらと涎を垂らす自分の下半身が目に入って、またどうしようもない羞恥心に俺は目を伏せた。
間宮さんがどんな表情をしていたのかはそれで見えなくなる。彼は俺の背後に回ると、一度俺の腕を取って、肩の関節でぐるりと優しく回してみせた。
「……柔らかいんだな」
「ん……はい、昔から、身体の柔らかさは、自信あって……」
そう言いながら、昔良くやったように背中側に腕を回して手首を掴んで見せる。すごいね、と間宮さんは満足気に笑うと、だらんと投げ出した俺の腕を取って、背中で組んでしまった。
縄を取り出すのだろうか、間宮さんが一度ベッドから降りた。彼は縄の目や柔らかさを確認するように何度か曲げたり回したりして、毛羽だった繊維をライターで軽く炙って落としていた。
(なんでそんな、慣れてるんだろう……)
縛られるために後ろ手に組んだ間抜けな格好で、俺はそんな事を考えていた。
準備が整ったのか間宮さんは俺の背後にまた回る。ざらついた縄が手首に当てられた瞬間、じんと腹の奥が熱火照って、期待と恐怖で息が上がったのが分かった。
間宮さんは手際良く縄を手首に掛けたかと思えば、くるりと巻きつけつつ確実に締め上げながら、縛り上げていった。
(すご、う、ごけない…….)
ぎゅ、と結ばれるたび、痛みは無いものの固められたかのように動く隙間が無くなって、手の自由が無くなっていく。もう振り解くことも逃げることも出来ない恐怖心が、興奮と混ざり合って熱を帯びていく。
「ん、ぁ…………」
ぐい、と一度強く縄を引かれて、背後の小宮さんに寄りかかるような姿勢になる。触れた身体が熱くて、また息が上がる。縄が二の腕に巻き付いて今度は前に回されて、胸部に麻縄を食い込まされた。
「……痕が残りやすそうだから、首はやめておくよ」
どこか穏やかな口調で間宮さんはそう言ったが、俺の耳にはもう届いていなかった。
彼が縄を引くたびに、きゅうっと締め付けられて息が詰まる。少しざらついた縄が肌に食い込むたび、無力感と血流が鈍るからこその熱に犯されて、頭がグラグラと揺れる気がした。
「ぁ……だ、だめ、です……」
肘を縛った縄がまた胸部に回された時、俺は無意識にそう呟いていた。間宮さんは聞き入れることも無く、無慈悲にぐるり、と縄を巻き付ける。ぎゅっと肋骨が閉まって、物理的に呼吸が苦しくなる。それすらもう、興奮材料でしか無いくらいには、頭の中が茹っていた。
締め上げられるたび、肌が熱を保つ。どこか血流が胸の先に集中するように縄で胸部を区切られて、俺のそこは赤く主張し始めていた。
霞んでいく思考の中で、警報音がずっと鳴り響いている。こんなのは駄目だと、引き返せと、ひっきりなしに叫んでいるようだった。
「……ぁ、いや、間宮さん、……やっぱ、だめ…!」
「痛むわけではないんだろう?もう少し楽しんだらどうだい」
「あ、あ………ッ!!」
くい、と間宮さんが悪戯に縄を後ろに引いてしまった。ぎゅうっと肌に縄が食い込んで、思わず背筋をしならせて震えてしまう。どこもかしこも熱い。じんじんと熱を持っている。ただ縛られているだけなのに、俺の身体、どうなっているんだろう。
俺は必死に首を横に振って抵抗してみる。これ以上はおかしくなってしまいそうで怖かった。
「……相田くん、大丈夫。ほら、深呼吸して」
「ぅ……ん、は……っ」
「そう。ほら、手を握ってやるから、しばらくゆっくり呼吸をしなさい」
そう言って間宮さんは、背後で握っては開いて忙しなく動かしていた俺の手を、そっと、しかし強く握りしめる。間宮さんの手は俺の手よりは冷たく、それが少し心地よかった。言われた通りにゆっくりと呼吸をする。酸素が脳に行き渡って少しだけ頭が冴えたが、息を吸い込むたびに縄が優しく締め付けてくる分、じんわりとした熱にゆっくりと侵されていくのをはっきりと感じてしまう。
結局何の意味もない、もうやめて貰おう、と俺が間宮さんの方を振り返ると、彼は優しい目で俺を見下ろしていた。
一瞬言葉を失う。彼は柔らかく笑うと、一度俺の額にそっとキスを落とした。
そして俺が口を開くより前に、手を握ったまま強く押して、俺をベッドに押し付けたのだった。
「~~~~~ッ!!?、ぁ、ッッ!!」
ぐり、と身体をシーツに擦り付けられて、ツンと尖った胸の先が擦れて潰される。血が集まって敏感になっていたそこには、それだけで充分だった。ずり、とシーツに擦れるたびに、ビリビリと電気のような快感が脳髄まで駆け抜ける。
「……だめです、ま、みや、さん……ぅ、ああ………!」
もうゆっくり呼吸なんて出来ない。はあっと荒い犬のような呼吸を繰り返して、彼に好き勝手弄ばれるだけだった。
どうにか残った理性で顔をシーツに埋めて、ひっきりなしに漏れる情けない声を押し殺す。それ以外に自制なんか出来なくて、もう早く楽になりたくて俺は硬くなった前もシーツに擦り付けて、恥も外聞も捨てて腰をもぞもぞ動かし続けた。
「駄目だよ、勝手にそんなことをして。ほら、腰を上げて」
「ひ、ぁ……ッ、なんで……」
俺の声には答えずに、間宮さんは俺の腰を掴むと無理やりそこだけを突き上げるポーズにさせた。熱を持ったそれへの刺激が取り上げられて、泣きそうになって必死に彼の顔を見るも、楽しそうに微笑んだままだった。
「こっちも縛るから、あんまり動かないで待っているんだよ」
「え……?」
俺が言葉の意味を理解するより先に、俺の臍の下でぐるりと一周縄が巻かれた。
「……ッ!?だ、だめ、間宮さん、もうだめ、だめです……」
「ふふ、落ち着いて。痛むことはしないから、力を抜いているんだよ」
嫌々と子供のように首を振っても、間宮さんは辞める気は無いようだった。心なしか、彼の声も熱を孕んで、どこか上擦った響きを持っている。
ぐ、と通された縄が、硬く上を向いたそれを避けて、股の間に通される。性器は避けてくれたものの、ぐい、とその後ろ側を強く締め上げられる。
調整をしているのだろうか、間宮さんは何度か縄を引いてくるので、予期せぬタイミングであらぬ場所がぎゅうっと締められた。
「ぁ……ま、待って、らめ、だめです……これ……」
締め上げられるたび、甘く熱い疼きが腹の奥で産まれて、頭がぼうっとするほどの快感として身体を支配していく。もう情けない小さな声しか出せなかった。首を振る気力さえ奪われる。体力だけでなく、この人に反発しようという抵抗心まで根こそぎ、ギチギチに縛り上げられて鳴りを潜めてしまったようだった。
ただただ、息苦しいほどの熱と改案に支配される。水槽のフチギリギリまで、水を注がれたようだった。あと一滴でも加えられれば、はしたなくその水を溢れ返してしまいそうなほど。
間宮さんは黙って俺の腕の縄を掴むと、今度はぐいっと引っ張って身を起こした。
次は仰向けに転がされる。涙と涎でぐしゃぐしゃになった顔も、おそらく充血しているであろう胸も、昂ったそれも、何もかも全て見られてしまった。ただそれに反抗できるほどの余裕は、もう俺にも無かった。
間宮さんは黙ったまま、じっと俺の身体を眺める。それからその指先を伸ばして、焦らすように縄の上をなぞり始めた。
「ぁ、あ…………ッ」
腹の上を伝って、その指が腰の縄に乗る。際どい部分に向けて、ゆっくりとその指先が滑り降りていく。自然と息が上がって、心臓が跳ね上がるのが抑えられなかった。
一度間宮さんは手を止める。そして悪戯に、限界まで熱を帯びたそこを、ぴんと指先で弾いたのだ。
「ひ、ぐッッ!!ぁ、あぁああ……ッッッ!!!」
その瞬間、ガクガクと抑えが効かないほど激しく腰が震え始める。背中とベッドに押し潰された手で、必死にシーツを握りしめて耐えようとするが遅かった。俺はつま先でベッドを蹴って思いっきり腰を突き上げた情けない格好で、呆気なく達してしまっていた。
勢いよく飛び出した白濁は中々止まらず、熱を持ったままぱたぱたとそれが自分の腹や胸を汚していく。恥ずかしいと感じる余裕すらもなく、脳みそは快感だけでショートしていた。
「……ん、む、んぐぅ……っ!?」
間宮さんが黙ったまま俺に近づいたかと思ったら、突然乱暴に口を塞がれた。熱い舌がにゅるにゅると俺の舌をしゃぶって口内を蹂躙する。酸欠でくらくらする頭で俺は、そういえばキスはこれが初めてだったななんて、的外れなことを考えていた。
---
「あ、あの………すみません、縄も、シーツも、汚して」
「ふふ、タオルでも敷いておいた方がよかったね」
全て終わった後。俺は間宮さんに縄を解かれながら、ぐずぐずと謝り続けていた。彼は呆れて笑っていて、それが余計に羞恥を煽った。
ゆっくりと縄を全て解いてもらう。間宮さんに言われるままストレッチをして、ゆっくりと肩や関節を回してほぐしていった。縄の痕は一つも残ることなく、赤く鬱血した部分も縄を解いてしばらくして消えていった。
射精後の気怠さと共に、少しずつまともな理性が蘇ってくる。俺は自分の醜態諸々を思い出してしまい、何も言えないままそそくさと散らばった衣服を身につけてベッドから降りた。間宮さんは止めることなく、一度俺の絡まった髪を撫でただけだ。
俺はどこか逃げるように彼の部屋を後にすると、シャワーを浴びてフラフラとしたまま自分用の客室にたどり着くことが出来た。
頭まで布団をかぶって目を閉じてから俺は、自分ばかり乱れておいて、肝心の彼はシャツの一つも脱いでいなかったことに気がついたのだった。
目を合わせると、あの書斎での彼の指先の動きを、どこか影のある笑みを、思い出してしまう。揶揄われただけだと何度自分に言い聞かせたって、顔に血が登って喉が渇く。今まで舞台でラブシーンを演じた時だってこんな風に調子を崩すことは無かったのに、どうしてしまったんだろうか。
間宮さんは俺のそんな様子など気にすることなく、いつも通りに食事を終え、風呂に入ってリビングで読書をしていた。
皿を洗い終えた俺がシャワーを借りることを一言告げると、やはりいつものように短く返事をする。不自然なほど、彼は自分がした突飛な提案を話題に出さない。
やっぱり揶揄っていただけなんだ、と俺も気にしないようにして、リビングを出ようとする。
「僕は先に、二階に上がっているよ」
ちょうどその瞬間、振り向きもせずに間宮さんはそう言った。
俺はそれだけでどきりと心臓が跳ねてしまったが、どうにか動揺を抑え込んで、わかりましたと返事をして微笑む。
間宮さんはそれ以上は何も言わずに、黙って部屋を出て行ってしまった。
頭から熱い湯を被って、どうにか冷静になろうと自分に言い聞かせる。鏡に映る自分は、単にシャワーで火照っているせいか、それとも間宮さんのせいなのか、ずっと顔が赤いままだった。
(落ち着かないと………また、眠れなくなる)
目を閉じて、深呼吸をして一度シャワーを留める。それからボディーソープを泡立てて、ゆっくり自分の身体を洗い始めた。
間宮さんの家の風呂場は広々としていて、姿見が大きいのも特徴だった。泡を滑らせていく自分の身体は、女性らしい柔らかいラインは無いものの、筋肉質で硬く重たい男性らしさも持ち合わせていない。俺自身は中途半端な身体付きだと思っていたが、間宮さんは綺麗だと言った。
筋肉質では無いものの、昔から身体の柔軟さには自信があった。間宮さんが動きを褒めてくれたのは、もしかしたらこれも関係しているのかもしれない。
何気なく、自分の手首をぎゅうっと握ってみる。父親に似て色白の俺は、少し力を入れて握った程度で、簡単に赤く痕が残る。手形はほんの少しだけ肌の上に残って、すっと馴染むように消えて行った。
どうしても、昼間に書斎で読んでしまった小説を思い出してしまう。やたらリアルに、縄をかける描写を書き込んでいた。少しでも踠けば縄が身体に食い込み、蜘蛛の巣に囚われた哀れな虫のように、抵抗する心さえへし折られていった、あの男。
じくじくと、身体の中央からまたあの熱が溢れてゆく。自然に息が上がって、指先まで甘く痺れるような、胸の内側がむず痒いような疼き。
「……………っ、バカ……!」
俺は咄嗟に、蛇口を捻ってシャワーを顔から派手に被った。
お湯が鼻に入って思わず咳き込む。ツンと痛む。最悪だ。
(俺、別に、そんな趣味ねぇだろ………)
どうしてただの白紙に印刷された活字が、ここまで脳裏に焼き付いて離れないんだろうか。少なくとも間宮さんの知り合いだと言う著者は、とんでもない才能の持ち主なのだろう。
のぼせてぼうっとする前に、俺は念入りに身体を洗って脱衣所に戻る。
ぱたぱたとタオルで身体を煽いで冷ましつつ、服を着替えてドライヤーで髪を乾かした。
熱風を浴びているその間もずっと、嫌に身体が火照って仕方なかった。軽くパーマを当てている自分の髪が、ふわふわとドライヤーで揺れる。髪の間から覗く目がどこか熱を帯びているようで、自分で自分が嫌になった。
一杯の水を飲み干して、借りている客室に戻る。そのまま布団に入ればいいのに、俺は着替えが入ったカバンを開けて、肌触りの良いシャツを一枚、取り出してしまっていた。
綿素材の色気のないTシャツを脱いで、素肌の上から直接そのシャツを羽織ってボタンを留める。柔らかい素材のそれは、いつも着ているハリのある白シャツとは違って、肩のラインを拾って滑らかに皺を作るものだった。ほんの少し腕を動かすと、ふわりと肌に張り付くようにとろみのある皺が動く。カフスすら貝素材で出来た上質なもので、オーナーから手渡されていたものだった。
スラックスは仕方なく明日履く予定だったものを履いて、ベルトも締める。シャツのボタンも、彼なら恐らくは一番上まで留めたほうが好みな気がしていた。
軽く髪を整えて、そのままの勢いで部屋を出て2階に上がる。心臓の音も、頭の中で鳴っている警告音も、道端で交わした青年との会話も何もかも聞こえないフリをして、軋む階段を一つ一つ踏み締めて歩く。
どこかで、間宮さんがもう眠っていて、俺のこの愚かでどうしようもない覚悟が、無かったことになればいい、俺の中だけの黒歴史にでもなればと思っていた。
息を吐いて寝室の扉を数回、確かにノックした。畳張りの客室でシャツをボタンを留めた時は指先までふるふると震えていたくせに、ここに辿り着く頃にはそれも収まっていたようだった。
「…………どうぞ」
くぐもって聞こえたのは、いつもと変わらない調子の間宮さんの声。俺はどんな顔でドアを開ければいいのか分からないまま、ゆっくりとドアノブに手をかけてその扉を開けた。
間宮さんはベッドに腰をかけたまま、本を読んでいた。彼の服や香水の匂いと共に、ほんの少し酒の匂いがした。寝室にボトルを置いていたのだろうか、サイドテーブルには注がれたウイスキーがほとんど手付かずで置かれている。
寝室の造りは独特だった。フローリングにベッドが置かれているのを見ると基本は洋室の作りなのだが、窓の手前には障子が張られていた。部屋の照明も和紙の素材を用いたものが多く、柔らかい光が部屋を包んでいる。
「遅くにお伺いしてしまって、すみません」
思ったより俺の口からは、滑らかな言葉が出た。
間宮さんは持っていた本に栞も挟まずに、パタンと閉じてサイドテーブルに置いてしまった。ゆっくりと上げられた視線が絡まる。どくりとまた心臓が高鳴って、俺は誤魔化すために微笑んで見せる。
間宮さんは、何をしに来たのかは一切聞かなかった。いつもの制服姿と大きくは変わらない分、何か仕事のために来たのかと勘違いしているのだろうかと俺が思った途端、彼は立ち上がると俺の手を引いて部屋の隅に追い詰める。
ひんやりとした壁と間宮さんに挟まれて、また呼吸を忘れそうになる。
どこか真剣な目をした彼は額同士が触れ合うほど顔を近づけて、ぷつり、と俺のシャツの第一ボタンを外した。俺は一切、抵抗はしなかった。むしろ、顎先を撫でられた時と同じように、喉を軽く逸らして彼が脱がせるのを手伝っていた。
柔らかい襟が静かに開くのが、肌を擦って伝わる。ほんの少しの解放感の代わりに、息苦しいくらい心拍数が上がった。
力を抜いてされるがままの俺に、間宮さんは意図を読み取ったのだろう。彼はやっと目を細めて笑うと、俺の髪を撫でてゆっくりベッドの上にエスコートした。
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間宮さんの手は、驚いてしまうくらい丁寧だった。
指先で、唇で、身体中を撫でられた。俺の弱い部分を余さず探し出すかのように、彼はじっくりと、強く弱く、弄んでいった。
ベルトを外される頃には、身体中が熱くて、ふわふわして、俺はゆっくり呼吸をするので精一杯なくらいだった。敏感だと知られた耳は裏側から付け根までくすぐられ、舌でなぞられ、耳たぶは執拗に捏ねられた。うなじに何度も優しくキスをされ、背骨の凹凸を優しくなぞられるだけで身体が震えて情けない声が漏れた。触れたことなんかほとんど無かった胸の先だって、彼の指先で優しく捏ね回されると身体の奥がじんと痺れるような気がした。
「ん、……っふ、ぁ、あ……!」
どこかもったいぶるように、間宮さんはゆっくりと丁寧にベルトのバックルを外していく。細身のスラックスに身体の中心は押さえつけられていて、ズキズキと痛むほどだった。わざとなのか、時折撫でるように触れられるとそれだけで情けなく腰が震えてしまう。
「……ふふ、すごいな君は。縛り上げる前に、達してしまうんじゃないのか」
間宮さんの、どこか呆れたような、でも熱にざらついた甘い声が耳元に響く。そうだ、俺って縛られたくてここに来たんだっけ。そうだっけ?ただ、あの小説の、快感に翻弄されて涙を流した男に疑問とほんの少しの興味を持ったのが始まりで。あれ、それで、どうしてこんな事になったんだ?
「……っあ!待って、んん!」
考え事をしている暇なんか無かった。するりと呆気なくベルトは抜き取られ、間宮さんは邪魔なスラックスも下着も、すぐに脱がせてしまったのだ。
すでに熱を持って硬く昂っていたそれが、下着を下げられた勢いで反り返って腹を打つ。俺はあんまりの羞恥に涙が出そうになって、思わず顔を思いっきり背ける。間宮さんがどんな顔をしているのかなんか、見たく無かった。
「…………かわいいな、君は」
どろどろに脳みそが溶けてしまいそうな、甘いセリフを間宮さんは吐いた。間宮さんは俺の臍の下あたりをさすったかと思ったら、そのままゆっくりと手を下げていって、性器に触れるギリギリを優しく何度も撫で始めた。
「珍しいね。剃っているのか」
「ぁ………その、着替えとか、衣装とかで、楽だから、無い方が良いって………っ、ふ、」
誰に勧められたのは忘れたが、脱毛は最近行き始めたばかりだった。間宮さんはどこか楽しそうに返事をしつつ、執拗にそこばかりを撫でる。皮膚が薄いのか、彼の手のひらの熱が大胆に伝わり、じわりと脳髄が蕩けそうな錯覚に陥る。ひく、と無意識に何度も腰が動くのが分かった。もう出してしまいたい、楽になりたいと、少しずつ脳みそがそんな声で埋まっていく。
「ほら……蕩けてないで、一度起き上がれるかい。縛られるために来たんだろう」
軽く頬を叩かれて俺はハッとする。力の入らない腕に鞭を打って、どうにか上半身を持ち上げてベッドの上に座る。だらだらと涎を垂らす自分の下半身が目に入って、またどうしようもない羞恥心に俺は目を伏せた。
間宮さんがどんな表情をしていたのかはそれで見えなくなる。彼は俺の背後に回ると、一度俺の腕を取って、肩の関節でぐるりと優しく回してみせた。
「……柔らかいんだな」
「ん……はい、昔から、身体の柔らかさは、自信あって……」
そう言いながら、昔良くやったように背中側に腕を回して手首を掴んで見せる。すごいね、と間宮さんは満足気に笑うと、だらんと投げ出した俺の腕を取って、背中で組んでしまった。
縄を取り出すのだろうか、間宮さんが一度ベッドから降りた。彼は縄の目や柔らかさを確認するように何度か曲げたり回したりして、毛羽だった繊維をライターで軽く炙って落としていた。
(なんでそんな、慣れてるんだろう……)
縛られるために後ろ手に組んだ間抜けな格好で、俺はそんな事を考えていた。
準備が整ったのか間宮さんは俺の背後にまた回る。ざらついた縄が手首に当てられた瞬間、じんと腹の奥が熱火照って、期待と恐怖で息が上がったのが分かった。
間宮さんは手際良く縄を手首に掛けたかと思えば、くるりと巻きつけつつ確実に締め上げながら、縛り上げていった。
(すご、う、ごけない…….)
ぎゅ、と結ばれるたび、痛みは無いものの固められたかのように動く隙間が無くなって、手の自由が無くなっていく。もう振り解くことも逃げることも出来ない恐怖心が、興奮と混ざり合って熱を帯びていく。
「ん、ぁ…………」
ぐい、と一度強く縄を引かれて、背後の小宮さんに寄りかかるような姿勢になる。触れた身体が熱くて、また息が上がる。縄が二の腕に巻き付いて今度は前に回されて、胸部に麻縄を食い込まされた。
「……痕が残りやすそうだから、首はやめておくよ」
どこか穏やかな口調で間宮さんはそう言ったが、俺の耳にはもう届いていなかった。
彼が縄を引くたびに、きゅうっと締め付けられて息が詰まる。少しざらついた縄が肌に食い込むたび、無力感と血流が鈍るからこその熱に犯されて、頭がグラグラと揺れる気がした。
「ぁ……だ、だめ、です……」
肘を縛った縄がまた胸部に回された時、俺は無意識にそう呟いていた。間宮さんは聞き入れることも無く、無慈悲にぐるり、と縄を巻き付ける。ぎゅっと肋骨が閉まって、物理的に呼吸が苦しくなる。それすらもう、興奮材料でしか無いくらいには、頭の中が茹っていた。
締め上げられるたび、肌が熱を保つ。どこか血流が胸の先に集中するように縄で胸部を区切られて、俺のそこは赤く主張し始めていた。
霞んでいく思考の中で、警報音がずっと鳴り響いている。こんなのは駄目だと、引き返せと、ひっきりなしに叫んでいるようだった。
「……ぁ、いや、間宮さん、……やっぱ、だめ…!」
「痛むわけではないんだろう?もう少し楽しんだらどうだい」
「あ、あ………ッ!!」
くい、と間宮さんが悪戯に縄を後ろに引いてしまった。ぎゅうっと肌に縄が食い込んで、思わず背筋をしならせて震えてしまう。どこもかしこも熱い。じんじんと熱を持っている。ただ縛られているだけなのに、俺の身体、どうなっているんだろう。
俺は必死に首を横に振って抵抗してみる。これ以上はおかしくなってしまいそうで怖かった。
「……相田くん、大丈夫。ほら、深呼吸して」
「ぅ……ん、は……っ」
「そう。ほら、手を握ってやるから、しばらくゆっくり呼吸をしなさい」
そう言って間宮さんは、背後で握っては開いて忙しなく動かしていた俺の手を、そっと、しかし強く握りしめる。間宮さんの手は俺の手よりは冷たく、それが少し心地よかった。言われた通りにゆっくりと呼吸をする。酸素が脳に行き渡って少しだけ頭が冴えたが、息を吸い込むたびに縄が優しく締め付けてくる分、じんわりとした熱にゆっくりと侵されていくのをはっきりと感じてしまう。
結局何の意味もない、もうやめて貰おう、と俺が間宮さんの方を振り返ると、彼は優しい目で俺を見下ろしていた。
一瞬言葉を失う。彼は柔らかく笑うと、一度俺の額にそっとキスを落とした。
そして俺が口を開くより前に、手を握ったまま強く押して、俺をベッドに押し付けたのだった。
「~~~~~ッ!!?、ぁ、ッッ!!」
ぐり、と身体をシーツに擦り付けられて、ツンと尖った胸の先が擦れて潰される。血が集まって敏感になっていたそこには、それだけで充分だった。ずり、とシーツに擦れるたびに、ビリビリと電気のような快感が脳髄まで駆け抜ける。
「……だめです、ま、みや、さん……ぅ、ああ………!」
もうゆっくり呼吸なんて出来ない。はあっと荒い犬のような呼吸を繰り返して、彼に好き勝手弄ばれるだけだった。
どうにか残った理性で顔をシーツに埋めて、ひっきりなしに漏れる情けない声を押し殺す。それ以外に自制なんか出来なくて、もう早く楽になりたくて俺は硬くなった前もシーツに擦り付けて、恥も外聞も捨てて腰をもぞもぞ動かし続けた。
「駄目だよ、勝手にそんなことをして。ほら、腰を上げて」
「ひ、ぁ……ッ、なんで……」
俺の声には答えずに、間宮さんは俺の腰を掴むと無理やりそこだけを突き上げるポーズにさせた。熱を持ったそれへの刺激が取り上げられて、泣きそうになって必死に彼の顔を見るも、楽しそうに微笑んだままだった。
「こっちも縛るから、あんまり動かないで待っているんだよ」
「え……?」
俺が言葉の意味を理解するより先に、俺の臍の下でぐるりと一周縄が巻かれた。
「……ッ!?だ、だめ、間宮さん、もうだめ、だめです……」
「ふふ、落ち着いて。痛むことはしないから、力を抜いているんだよ」
嫌々と子供のように首を振っても、間宮さんは辞める気は無いようだった。心なしか、彼の声も熱を孕んで、どこか上擦った響きを持っている。
ぐ、と通された縄が、硬く上を向いたそれを避けて、股の間に通される。性器は避けてくれたものの、ぐい、とその後ろ側を強く締め上げられる。
調整をしているのだろうか、間宮さんは何度か縄を引いてくるので、予期せぬタイミングであらぬ場所がぎゅうっと締められた。
「ぁ……ま、待って、らめ、だめです……これ……」
締め上げられるたび、甘く熱い疼きが腹の奥で産まれて、頭がぼうっとするほどの快感として身体を支配していく。もう情けない小さな声しか出せなかった。首を振る気力さえ奪われる。体力だけでなく、この人に反発しようという抵抗心まで根こそぎ、ギチギチに縛り上げられて鳴りを潜めてしまったようだった。
ただただ、息苦しいほどの熱と改案に支配される。水槽のフチギリギリまで、水を注がれたようだった。あと一滴でも加えられれば、はしたなくその水を溢れ返してしまいそうなほど。
間宮さんは黙って俺の腕の縄を掴むと、今度はぐいっと引っ張って身を起こした。
次は仰向けに転がされる。涙と涎でぐしゃぐしゃになった顔も、おそらく充血しているであろう胸も、昂ったそれも、何もかも全て見られてしまった。ただそれに反抗できるほどの余裕は、もう俺にも無かった。
間宮さんは黙ったまま、じっと俺の身体を眺める。それからその指先を伸ばして、焦らすように縄の上をなぞり始めた。
「ぁ、あ…………ッ」
腹の上を伝って、その指が腰の縄に乗る。際どい部分に向けて、ゆっくりとその指先が滑り降りていく。自然と息が上がって、心臓が跳ね上がるのが抑えられなかった。
一度間宮さんは手を止める。そして悪戯に、限界まで熱を帯びたそこを、ぴんと指先で弾いたのだ。
「ひ、ぐッッ!!ぁ、あぁああ……ッッッ!!!」
その瞬間、ガクガクと抑えが効かないほど激しく腰が震え始める。背中とベッドに押し潰された手で、必死にシーツを握りしめて耐えようとするが遅かった。俺はつま先でベッドを蹴って思いっきり腰を突き上げた情けない格好で、呆気なく達してしまっていた。
勢いよく飛び出した白濁は中々止まらず、熱を持ったままぱたぱたとそれが自分の腹や胸を汚していく。恥ずかしいと感じる余裕すらもなく、脳みそは快感だけでショートしていた。
「……ん、む、んぐぅ……っ!?」
間宮さんが黙ったまま俺に近づいたかと思ったら、突然乱暴に口を塞がれた。熱い舌がにゅるにゅると俺の舌をしゃぶって口内を蹂躙する。酸欠でくらくらする頭で俺は、そういえばキスはこれが初めてだったななんて、的外れなことを考えていた。
---
「あ、あの………すみません、縄も、シーツも、汚して」
「ふふ、タオルでも敷いておいた方がよかったね」
全て終わった後。俺は間宮さんに縄を解かれながら、ぐずぐずと謝り続けていた。彼は呆れて笑っていて、それが余計に羞恥を煽った。
ゆっくりと縄を全て解いてもらう。間宮さんに言われるままストレッチをして、ゆっくりと肩や関節を回してほぐしていった。縄の痕は一つも残ることなく、赤く鬱血した部分も縄を解いてしばらくして消えていった。
射精後の気怠さと共に、少しずつまともな理性が蘇ってくる。俺は自分の醜態諸々を思い出してしまい、何も言えないままそそくさと散らばった衣服を身につけてベッドから降りた。間宮さんは止めることなく、一度俺の絡まった髪を撫でただけだ。
俺はどこか逃げるように彼の部屋を後にすると、シャワーを浴びてフラフラとしたまま自分用の客室にたどり着くことが出来た。
頭まで布団をかぶって目を閉じてから俺は、自分ばかり乱れておいて、肝心の彼はシャツの一つも脱いでいなかったことに気がついたのだった。
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