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第百二十六話 王都出発までの日々⑤
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❖レシピ登録③
「……」
ジョハンナさんが、包装紙を開く音が室内に響く。
「……」
「これは、ポーションを固めたもので間違いないさね?」
「はい、間違いありません。今回持ち込んだのは、師匠との合同研究で改良したポーションの丸薬です。それとその薬包紙は、オブラートという包装紙です」
「どうして丸薬にしようと思ったのんだい?水薬は直ぐに飲めるが、これは余計な手間がかかっちまうよ?」
「女性のトイレ問題解消を目的に製薬したんですが、製薬してみると、消費期限が飛躍的に延びたんですよね」
「ほぉ。私の鑑定では、そこまで調べれなくてね……どれ」
チリンチリン!と呼び鈴を鳴らしたジョハンナさんに、私は首を傾げる。
「詳細鑑定が可能な道具を、受付から持ってきておくれ」
「畏まりました」
ジョハンナさんの呼び鈴に反応した職員さんは、用件を聞き、再度扉から退出した。
[低級丸薬……丸薬一錠(低級ポーション一本分の三割)。軽傷度の怪我を治す。場合によっては、丸薬半分で全快の場合あり。消費期限は、常温保存で三ヶ月。冷暗所保管は六ヶ月。効果は、練り合わせた材料で変わる。ポーションと違い、品質低下はほぼない]
「なるほどね……確かに改良と呼べる代物さね」
かちゃ…と、軽い音が机に響く。それは、詳細鑑定が可能なモノクルの音だ。
ジョハンナさんはそれを机に置き、再度執務机に向かう。
今度は鍵の閉まっていない引き出しを開け……なにかの書類だろうか?丸めた羊皮紙を、幾つか抱えて戻ってきた。
「これが登録レシピ申請書さね。これに、レシピを書いとくれ」
「師匠、お願い出来ますか?」
「分かりました」
丸められていた紐を解いた羊皮紙を、師匠に手渡した。私は、神聖契約書のレシピ等を書かなければならない。
「そうだ。この薬包紙かい?これは、ミオの商会に発注をかければいいのかい?」
仄かな柑橘系の香りに気付いたのだろう。包装紙を鼻に寄せ、香りを楽しむジョハンナさん。
「後少しで王都に出発なので、商業ギルドにお願いしていいですか?明日迄に、商業ギルドの私担当のマットさんへ、話を通しておきます」
やばい。商業ギルドに、包装紙のレシピ登録をしていない。どれぐらい発注が来るか分からないけど、いっぱい製作しておこう。
「そうさね。ギルドで一括購入も出来るが、丸薬にどれほどの客がつくか分からないからね。取り敢えず、五百枚の発注を掛けようかね」
「五百枚も!?」
「そうさね…この丸薬は、冒険者は元より、街の人たちに、小売りで販売が可能だからね。寧ろ、そっちに需要があるかもしれないさね」
ニヤリと笑うジョハンナさんに、私も満面の笑みで頷く。
「分かりました。マットさんには、その方向で話をしておきます」
師匠と研究している時にも、街の人たちへの小売り話は出ていた。どうやら……ジョハンナさんは、冒険者よりも、街の人の動向に注目するようだ。
取り敢えず、高威力万能美容液のレシピ登録解禁日は、私たちが社交シーズンを終え、帰ってからにしよう。
これは元々、社交界のお貴族様用につくった手土産だからね。それが、お貴族様の手に渡る前に販売されると、希少性と話題性が薄れちゃうからね。
いしし……ロレンツォ様は、どんな反応をするかなぁ?
(また、変なことを考えて……)
ジョウの呆れた視線が、今日もミオに突き刺さっていた。
❖馬車改造計画①
「ご苦労様でした、ミオ」
「師匠こそ、お疲れ様でした!」
薬師ギルドでのお互いを労い、師匠と共にやってきた場所は、彼が言っていた廃棄処分予定の馬車置き場である。
この度、私の研究素材に繰り上がった馬車の私の印象は、(まだまだ走れそうだな…)というものだった。
「まだ使えそうですけど……?」
「手入れだけはしていましたので、綺麗に見えます。ですが、購入してから結構経つんですよ」
「そうなんですね」
「私の知り合いの鍛冶職人エドウィンに、魔鳥で知らせておきました。『実験用の馬車を連れて、いつでも訪ねてこい』だそうですよ?」
仕事が速い!いつの間に連絡を?
私は、驚きながらもお礼を言うと、師匠は微笑んでくれた。
「ありがとうございます!マットさんにも用事があるので、それが終わった後にでも、行ってみます」
「先ほどの薬包紙の件ですね。では、これがエドウィンの工房までの地図です。ララに御者をさせますので、連れて行ってください」
「ありがとうございます」
ララさんってば、御者も出来るんだ。師匠のお屋敷の使用人さんってば、少数精鋭だもんな。当然の結果かもしれん。
♢
エドウィン Side
俺は、アターキル領で鍛冶職人をしているエドウィン=バルザドーラというドワーフだ。
久しぶりに、珍しい相手から魔鳥が来た。それも、内容はヤツの弟子からの依頼だそうだ。なんでも、王都行きまで二週間を切った今、馬車改造などという、とち狂った計画を立てているらしい。
『実験用の馬車は、こちらで用意します。馬車の改造目的は、衝撃緩和を目的としています。使用する木材は、衝撃に強い木材で靭やかさがあれば、なお良しです。
なんでも、ミオが言うには[衝撃を分散させる]構造を試したいとのこと。時間がないのですが、どうか付き合って上げてくださいませんか?お代は、後ほど請求して下さい。良ければ、貴方の兄の木工職人も紹介して下さるとありがたいです』
と、殊更殊勝に頼みやがるもんだから、身体中に寒イボが立っちまったじゃねぇか!?あいつらしくもないっ!だが……余程弟子が可愛いと見える。
ちょうど今は暇をしていたし、俺は受けても構わないんだが、兄者はなんというか。
「しっかし、その衝撃を分散ってのか?確かヤツの弟子は、幼子だという話だぞ?そんなヤツに考えがあると言われても、それに付き合うほど、俺は暇じゃねぇんだがなぁ」
ボリボリと頭を掻く兄者は、あまり気が進まないようだ。だがどちらにせよ、奴からの御駄賃は入るんだ。付き合ってみても、損はないと思うぜ?
「まぁ……連絡はお前に任せるよ。スケジュールは空けておいてやっからさ」
「おう!」
さ!そうと決まれば、兄者の気の変わらないうちに、返事を返すかね!
彼らはまだ知らない。
幼子どころか、彼らを振り回す悪ガキが来襲することを。
「……」
ジョハンナさんが、包装紙を開く音が室内に響く。
「……」
「これは、ポーションを固めたもので間違いないさね?」
「はい、間違いありません。今回持ち込んだのは、師匠との合同研究で改良したポーションの丸薬です。それとその薬包紙は、オブラートという包装紙です」
「どうして丸薬にしようと思ったのんだい?水薬は直ぐに飲めるが、これは余計な手間がかかっちまうよ?」
「女性のトイレ問題解消を目的に製薬したんですが、製薬してみると、消費期限が飛躍的に延びたんですよね」
「ほぉ。私の鑑定では、そこまで調べれなくてね……どれ」
チリンチリン!と呼び鈴を鳴らしたジョハンナさんに、私は首を傾げる。
「詳細鑑定が可能な道具を、受付から持ってきておくれ」
「畏まりました」
ジョハンナさんの呼び鈴に反応した職員さんは、用件を聞き、再度扉から退出した。
[低級丸薬……丸薬一錠(低級ポーション一本分の三割)。軽傷度の怪我を治す。場合によっては、丸薬半分で全快の場合あり。消費期限は、常温保存で三ヶ月。冷暗所保管は六ヶ月。効果は、練り合わせた材料で変わる。ポーションと違い、品質低下はほぼない]
「なるほどね……確かに改良と呼べる代物さね」
かちゃ…と、軽い音が机に響く。それは、詳細鑑定が可能なモノクルの音だ。
ジョハンナさんはそれを机に置き、再度執務机に向かう。
今度は鍵の閉まっていない引き出しを開け……なにかの書類だろうか?丸めた羊皮紙を、幾つか抱えて戻ってきた。
「これが登録レシピ申請書さね。これに、レシピを書いとくれ」
「師匠、お願い出来ますか?」
「分かりました」
丸められていた紐を解いた羊皮紙を、師匠に手渡した。私は、神聖契約書のレシピ等を書かなければならない。
「そうだ。この薬包紙かい?これは、ミオの商会に発注をかければいいのかい?」
仄かな柑橘系の香りに気付いたのだろう。包装紙を鼻に寄せ、香りを楽しむジョハンナさん。
「後少しで王都に出発なので、商業ギルドにお願いしていいですか?明日迄に、商業ギルドの私担当のマットさんへ、話を通しておきます」
やばい。商業ギルドに、包装紙のレシピ登録をしていない。どれぐらい発注が来るか分からないけど、いっぱい製作しておこう。
「そうさね。ギルドで一括購入も出来るが、丸薬にどれほどの客がつくか分からないからね。取り敢えず、五百枚の発注を掛けようかね」
「五百枚も!?」
「そうさね…この丸薬は、冒険者は元より、街の人たちに、小売りで販売が可能だからね。寧ろ、そっちに需要があるかもしれないさね」
ニヤリと笑うジョハンナさんに、私も満面の笑みで頷く。
「分かりました。マットさんには、その方向で話をしておきます」
師匠と研究している時にも、街の人たちへの小売り話は出ていた。どうやら……ジョハンナさんは、冒険者よりも、街の人の動向に注目するようだ。
取り敢えず、高威力万能美容液のレシピ登録解禁日は、私たちが社交シーズンを終え、帰ってからにしよう。
これは元々、社交界のお貴族様用につくった手土産だからね。それが、お貴族様の手に渡る前に販売されると、希少性と話題性が薄れちゃうからね。
いしし……ロレンツォ様は、どんな反応をするかなぁ?
(また、変なことを考えて……)
ジョウの呆れた視線が、今日もミオに突き刺さっていた。
❖馬車改造計画①
「ご苦労様でした、ミオ」
「師匠こそ、お疲れ様でした!」
薬師ギルドでのお互いを労い、師匠と共にやってきた場所は、彼が言っていた廃棄処分予定の馬車置き場である。
この度、私の研究素材に繰り上がった馬車の私の印象は、(まだまだ走れそうだな…)というものだった。
「まだ使えそうですけど……?」
「手入れだけはしていましたので、綺麗に見えます。ですが、購入してから結構経つんですよ」
「そうなんですね」
「私の知り合いの鍛冶職人エドウィンに、魔鳥で知らせておきました。『実験用の馬車を連れて、いつでも訪ねてこい』だそうですよ?」
仕事が速い!いつの間に連絡を?
私は、驚きながらもお礼を言うと、師匠は微笑んでくれた。
「ありがとうございます!マットさんにも用事があるので、それが終わった後にでも、行ってみます」
「先ほどの薬包紙の件ですね。では、これがエドウィンの工房までの地図です。ララに御者をさせますので、連れて行ってください」
「ありがとうございます」
ララさんってば、御者も出来るんだ。師匠のお屋敷の使用人さんってば、少数精鋭だもんな。当然の結果かもしれん。
♢
エドウィン Side
俺は、アターキル領で鍛冶職人をしているエドウィン=バルザドーラというドワーフだ。
久しぶりに、珍しい相手から魔鳥が来た。それも、内容はヤツの弟子からの依頼だそうだ。なんでも、王都行きまで二週間を切った今、馬車改造などという、とち狂った計画を立てているらしい。
『実験用の馬車は、こちらで用意します。馬車の改造目的は、衝撃緩和を目的としています。使用する木材は、衝撃に強い木材で靭やかさがあれば、なお良しです。
なんでも、ミオが言うには[衝撃を分散させる]構造を試したいとのこと。時間がないのですが、どうか付き合って上げてくださいませんか?お代は、後ほど請求して下さい。良ければ、貴方の兄の木工職人も紹介して下さるとありがたいです』
と、殊更殊勝に頼みやがるもんだから、身体中に寒イボが立っちまったじゃねぇか!?あいつらしくもないっ!だが……余程弟子が可愛いと見える。
ちょうど今は暇をしていたし、俺は受けても構わないんだが、兄者はなんというか。
「しっかし、その衝撃を分散ってのか?確かヤツの弟子は、幼子だという話だぞ?そんなヤツに考えがあると言われても、それに付き合うほど、俺は暇じゃねぇんだがなぁ」
ボリボリと頭を掻く兄者は、あまり気が進まないようだ。だがどちらにせよ、奴からの御駄賃は入るんだ。付き合ってみても、損はないと思うぜ?
「まぁ……連絡はお前に任せるよ。スケジュールは空けておいてやっからさ」
「おう!」
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