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第三十三話 仲間誘致大作戦①
しおりを挟む「そっ、それにしても…そんな世界最大の権力は、中央にある王宮で振るってこそだと思うよ?使徒様」
頬が引きつりながら紡ぎ出した言葉は、彼なりの虚勢だったのか。しかしそんな的外れた内容に、私は間の抜けた声が出た。
「んぇ?」
「ん?」
私がキョトンと間の抜けた声を出すものだから、ローリー様も私の反応に困っている。
「私は使徒じゃにゃいですよ?ウルシア様たちに、にょんびり暮らしたいと言えば『仕方ないのぉ』と納得してくれました!」
「はぁ!?」
私の言葉に、ローリー様は『信じられないっ!?』と顔に引っ付けた言葉と共に、乱暴にソファから立ち上がる。
「そんな我儘が通るって、どういうこと!?力には責がついて回るからこその『そこまでです、ローリー!』…分かった」
ジョウが、師匠の質問を濁して伝えなかったように、私の生に触れようとしたローリー様を師匠が制した。強力な力には責任が伴うことは、私も理解している。だからこそ、私はポーション対策を提唱するつもりだ。
「彼女にも神にも、色々とあるのです。私も知る事が許可されていません」
「…分かった」
保護役の師匠が上手く言ってくれたお陰で、私は難を逃れ「では、面会の続きといこうか?」…逃れられなかった。ポーション対策を提唱するが、それと面会は別である。
「では、ミオに質問だ。君は何故、この領地に来たんだい?ローリーの話じゃ、聖国とアターキル間の魔導船と遭遇したそうじゃないか?それならば、ここに来るまでに人里は沢山あっただろう?」
ローリー様の疑問は最もだと思いながらも、私は内心で胸を撫で下ろした。何故なら、本来私の優位になる【魔従族】を逆手に取って、意地悪な質問をしてくるかと身構えていたから。
(ようやく落ち着いたか…)
(ミオが脳内で煩いとは、こういうことですか?)
師匠!?それは…今、聞くことじゃない!
だけど、何故アターキルを選んだか。
領主としては知っておきたい疑問だと思うけど…明確な理由はないんだよね。ローリー様の言う通り、道中、確かに村や街はたくさんあったけど、フリータール王国はウルシア様推薦の国だ。深層の森に沿った領地で、アターキルが一番アクセスが良かったんだけなんだ。
クリークも気になったけど、各任期ごとに首長が代わるらしい。きっと、その辺りの種族問題がバチバチに面倒くさそうだ。特に有名なエルフ≠ドワーフは、ラノベではお馴染みだ。それに比べ、フリータール王国は多種民族ウェルカム国家だ。皆といかなくても、楽しそうな国である。
「多種族が暮らしていて差別は少にゃそうですし、にゃにより身分証明にょ問題もありましたから」
「それなら余計に王都が良かったんじゃない?ここで【魔従族】を強調するより、手っ取り早く認定証の発行も出来たし、快適な生活が手に入ったはずだよ!」
やたら中央を押したがるな。
以前の魔従族の一部は、権力や富を欲しがったと聞いた。その人たちがどんな人たちだったのか、私に知る術はもうないけど。
「私は籠にょ鳥になる気は、全くありません。寧ろ逆です!自然豊かにゃ場所で、皆と仲良くにょびにょびと暮らしたいんです」
(既に、聖域での採取が迫ってるがな)
(それの説明もするけど!わたしの一番の目的は、異世界生活を楽しむことだからね!?)
(その為には、ポーションを備蓄する必要があるんですものね)
にこにこと微笑む師匠とは対照的に、ローリー様の表情は、相変らず真剣だ。
「ふぅん。田舎に憧れてやってくるなんて、君はまだ幼いのに、随分酔狂だねぇ。エイルは、弟子を取らない主義だったのは知ってるよね?お互いが協力関係にあるとしても、君みたいな幼子が弟子なんて、周囲が納得しないと思うんだけど、その辺はどう考えてるの?」
(…こやつ!ミオを愚弄するか!?)
グルゥと喉を鳴らしそうになるジョウ(今は人化)を手で制し、念話で伝える。
(ジョウ、耐えて。彼はこの領地の責任者なの。私たちが得体の知れない存在なのは確かだから、疑ってかかるのは仕方ないの。それを、如何に理解してもらうかだよ。今回は、そういう場なの)
(ミオは冷静だったり慌てたり、忙しいですね)
(そうなのだ、エイル。コイツは極端なのだ)
(そうなのですか?賑やかだと言っていた事に関係があるんでしょうか?)
(直に、嫌でも痛感することになる)
ちょっと!今日は、オープン回線だということを忘れないでほしい。くそシリアスな場面なのに、脳内はグダグダだ。
だが彼がこういう行動になるのは、実に単純で明快。彼が貴族で、領主だからだ。
彼の判断は、領民の生命を左右する場合もある。ましてや、消息を絶って二百年振りの【魔従族】だ。この二百年間に、国家間や国の内部の世情も大きく様変わりしているだろう。
私が知る貴族の派閥は主に三つで、王家派、貴族派、中立派だ。彼の政敵について、私は全く情報を待ち合わせてはいない。彼の足を救われる存在にならないように、その辺りも勉強しないといけない。 今は、師匠を頼る他ないが…。だから彼が、降って湧いたような私を警戒するのは無理もないのだ。
「確かに、周囲は私にょ見た目で嘲笑するでしょう。ですが、笑いたいにゃら笑わせておけばよろしいにょでは?」
「へぇ?そこまで言うなんて、よほど自信あるなにかをする気だね?」
挑発的なのは、私の忍耐を試しているのかな?
「自信かどうかは分かりかにぇますが、ぽっと出にょ私には実績がありませんからにぇ。他者から見れば、愚痴にょ一つも言いたいにょでしょう。ですが私は既に、師匠と共同研究にょ約束を取り付けています」
彼らの気持ちも分かるが、人を貶めるのは、自分の品位を下げる行為だと気付けばいいけどねぇ。
「…本当かい?エイル」
ローリー様は、師匠に視線を移した。その表情は真剣そのものだ。
国一番の賢者との共同研究。協力体制にあるとは言え、師匠が簡単に釣られないことを知っている仲だからこそだろう。
「えぇ。研究内容については、特許権申請の関係上話せませんが、私は十分研究する価値のあるものだと認識しています。また、既存薬の改良版に近い研究になるので、遠くない日に結果が出るでしょう」
「…その知識は、少女のかな?」
「そうですよ?私の発案ではありません」
「やはり幼女でも、【魔従族】は【魔従族】か」
「あにょっ!?発言をいいでしょうか?」
その言葉に、私は控えめにした挙手をした。それに、ローリー様は軽く頷く。
「では……師匠もですが、【魔従族】は叡智を司るとか言われているみたいですが、私はまだ四歳です!確かに他にょ人に比べれば、知識量はあるでしょう。ですが、代々継承されてきた知識を全て知っているわけではありません。お婆様から授けられた知識は、時間的にも限界がありました」
知識の総集編みたいな伝記があるだろう!?とか言われても、ないしね。そもそもが設定上の末裔だし。
「言われてみれば確かに…。四歳では、知識継承に限りがあるか。過剰な反応をしてしまったことを謝罪するよ」
「いえ…ローリー様には、これからもお世話ににゃりますから」
ニヤッと笑えば、ジョウがほくそ笑んでくる。
(前世を入れれば三十二歳が、よく回る口よ。悪の代官化か?クックックッ!)
(シャラップ!)
(……?)
過度に【魔従族】というワードに期待をされても困るのだ。そういう意味を込めて、私はローリー様に告げた。それよりも大事なのは、ポーション問題だ。
特にこの領地は、深層の森に接している辺境だ。いわば、フリータール王国内部へ魔物たちを通させないボーダーラインでもある。
「はは!?これから世話になる?それは、師弟関係にあるエイルだろう?私は、君のなにを世話するんだい?」
私の謎発言に軽く笑ったローリー様だが、貴方には主に、王家への橋渡しをお願いしたいです…と心の中で応える。薬師ギルドは、師匠がいるし。
猊下ただ一人の私欲の為に、大勢が犠牲になるのを見過ごせるほど、私の神経は図太くない。逆に繊細だ。私はこれからの夜を満喫する為に、ローリー様を見据え、本題をぶっ込こうとした…んだけど、私の頭に優しく乗る手があった。
「まぁ、その共同研究の前にやらなければいけないことがある!と本人は真剣なんですが…」
師匠は、慈愛に満ちた目で私を見る。
「【魔従族】の彼女がやらなければいけないこと?私がそれに関わっていくのか?それはなんだ、エイル」
ゴクリッと生唾を飲み込むローリー様の音以外は、師匠の衣擦れの音だけ室内に響いた。真剣な表情に逆戻りしたローリー様だが、師匠は、朗らかに言った。
「それは、ポーションの備蓄ですよ」と。
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