【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)

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第三十五話 サミュエル帰還!

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 そんな静まった室内に、突如響いたノック音。彼らは身体を揺らし、再起動を果たす。

「誰だ?」
「スチュアートにございます。サミュエル様がご帰還されました」
「入れ」
「失礼致します」 
 と言って開いた扉からは、ローリー様の藍色を薄くした水色の色彩を持った英国紳士が立っていた。

「よく帰ってきたな、サミー。聖国は、どうだった?」
「深層の森に接するクリーク連合共和国も、最近の高騰は見過ごせないみたいだね。商業ギルドだけでなく、薬師ギルドの各支部まで来ていましたよ。彼らも本部まで詰めかけて、ちょっとした騒ぎでした」
「それは、災難だったね」 

 サミュエルさんを労うローリー様を見ていると、その彼とバチッと視線が合った。私はジョウに念話を飛ばす。

(あわわっ!?視線がバッチリ合っちゃった!)
(行儀悪く、ガン見するからだ。だが彼は、良いラペルピンをしているな。あれは、鳳凰だろうか?)
 杖を握る手には、ピチっとした黒の革袋が嵌められている。エチィわ。
(…それにしても、クリーク連合共和国は既に深刻な状況なのかな?)

 普通は、国を代表したギルド職員数名が訪ねたりするものだ。それが、同国の各支部事に人が来るなど異常だ。まるで、聖国にあるポーションを奪い合うかのように。

(クリークは、各所へ物資を配送する商人の国だ。多分、彼らが予想した想定を遥かに超えていたのだろう。もしかしたらもう、クリークには高級ポーションの在庫が危ういのかもしれん)
(そうだね。師匠の大叔父様が、党首をしてるんでしょ?責任追及とか…大変なことになってないといいけど…)
(エイルは転移が使えるのだ。しかも大叔父となれば、エイルより年嵩だ。自身の危機は、自分と周囲でなんとかするだろう)

「兄上…そちらの女性は?」
「あぁ、紹介しよう。エイルの弟子で、ミオという。四歳だ」
「エイル様の弟子?…もしかして君が、僕の娘の診察を希望したのかな?」

 彼が、こちらへ近寄ってきた。彼の動きに合わせて、良い香りが漂ってきた。
 柑橘系かな?爽やかながら、甘い香り。きっちりとした服装とは裏腹に、水色の髪は少しおざなりだ。綺麗な碧い瞳が…少し怒ってる?
 
「私は、ミオ・テラオと申します。師匠から頼まれて・・・・診察を致します。どうぞ、よろしくお願い致します」

 ソファから滑り落ちる暇がなかったので、そのままの姿勢でお辞儀をする。

「エイル様から、頼まれて?」
「…?はい、そうです」

 ジョウから、少しだけ気の尖りを感じる。結界があるから大丈夫だと思うけどね。

「四歳でエイル様の弟子になるのだから、さぞ能力がある方なのだろう。こちらこそお願いする」

 言いたいことを全て飲み込んで、力強く握り拳を作る彼に、私は複雑な心境になる。

 きっと今までも、期待しては裏切られてを繰り返したんだろう。診察希望者と聞いて、急いで帰ってきてみれば、相手は幼子だ。私なら、罵ってても不思議じゃない。彼はよく耐えたよね。きっと、ローリー様が同席していることが大きいだろう。

(いよいよだよ、ジョウ)
(あぁ。だが、そう気張らなくてもいい)

 そんなやり取りの中、サミュエルさんの様子に気付いたローリー様が、慌てて立ち上がる。

「取り敢えず、明日までに認定証を送り届ける事を約束しよう。今は先に、ミディアンナを診てくれ。案内しよう」
「はい」

 私たちは部屋を出て、馬車に乗った。

 どうやら、本邸ではなく離れにいるらしい。私と師匠とジョウにスチュアートさん。ローリー様とサミュエルさんと執事(名前は不明)が二台の馬車に別れたが、直ぐに離れに辿り着いた。

(…ローリー様になにか言われたのかな?サミュエルさんの瞳から、さっきの険が取れてるね)
(失礼な態度を叱られていたからな) 
(なるほど。聴力が発達した獣種は、こういう時に特だよ。聴きたくないことまで聴こえるのは、嫌だけどね!)
(ただの我儘だな…っと、着いたみたいだぞ)

「どうぞ」

 父親であるサミュエルさんがノックをすると、それに応え扉が開かれた。扉を開けたのはメイドさんだが、私たち全員が部屋に入る頃には、既にいなかった。

「ミディアンナ、調子はどう?」
「お父様、変わらず…と言ったところですわ」
 儚げなお嬢さん…と言った感じだ。浅葱色の髪を緩く編み込み、胸の辺りに下ろしている。紅茶色の瞳は優しそうに微笑んでいた。
「ミディアンナ。昨日伝えたと思うけど、今日の診療に来られた方々だよ」
「お願いします」
「それから、今日のことは箝口令を敷かせてもらうからね」
「分かりました」
「ありがとうございます」

 頷くミディアンナさんと、お礼を告げる私。
 ミディアンナさんが倒れた当時、治癒を出来る師がおらず、匙を投げられたとジョウに聞いている。最後に診察したのが、知り合いで賢者の師匠だったらしい。

「サミュエルさん。詳しい事は後から話しますが、彼は私にょ従魔です」
「彼が!?…人化しているということですか!?」
「はい、ただにょ従魔ではありません。そして、娘さんを見るにょは、従魔にょジョウです」
「…分かりました。お任せします」
「ありがとうございます」

 本当に…聞きたいこと言いたいことがたくさんあるだろうに。私はサミュエルさんに一礼し、ジョウに頷いた。彼は、既に診察を始めているみたい。

「…どう?」
「まず、ミディアンナ嬢の魔核は元々が弱い」

 魔力が見えるジョウの口から出る言葉に、一同が息を飲む。

「魔核って、人族にょ魔力にょ源にょだよね?」
「あぁ……人の魔力の源を魔核と言う。そのミディアンナ嬢の魔核だが、少々変わった動きをしている」
「変わっているって、どういうこと?先天的?後天的?」
「偶然が重なった事故…後天的だな」
「偶然が重なった!?どんな偶然が、娘をっ『サミュエル!落ち着け!』…すみません」
「大丈夫ですよ」

 ローリー様の言葉に、ハッと我に返ったサミュエルさんが謝った。彼はなんというか、コップに表面張力が張られた水面のように、思い詰めた印象がある。

「魔核は、魔力の心臓のようなものだ。魔官を魔力が循環するためのポンプの役割も果たしている。魔力のみが存在するはずの魔官だが、ミディアンナ嬢の魔官には負の灰燼が混ざっている」
「なぜそんな!?それも、一体どこから侵入したんですか!?」
「なにも不思議ではない。目に見えぬ細かい塵と同じだ。口から目から…あらゆる侵入経路が思いつく」
「そんな…」 

 思ってもいない侵入経路に、サミュエルは言葉を失くした。

「ジョウ、どういうこと?」
「魔核のポンプの中枢に、僅かだが瘴気があるのだ」
「瘴気?……では、娘は魔族に!?でも、瞳は赤くな『落ち着け!』…すみません」

 瘴気は、生き物との共存は不可能だ。全てを枯らし朽ちさせるのだから。そんなものが娘の中にあると聞かされて、取り乱さないのがおかしい。

「瘴気が悪さをしているのは間違いないが、その瘴気は、魔官に入った負の灰燼から発生したものが出来上がったものだ。そして悲劇的なことに、ミディアンナ嬢の持つ属性がこれらの状態を引き起こした」

 塵も積もれば山となるとは、よく言ったものだ。しかし、彼女の属性が事態の悪化を招いたとは、これ如何に?

「ミディアンナの属性?」

 サミュエルさんは、想像していなかったジョウの言葉が飲み込めていない。表情に、困惑の色が混じっている。

「ミディアンナ嬢は光属性だろう?魔核を循環する器官に、まるで封じられるように身動きが取れぬ瘴気があるのだ。五年前は、今よりも瘴気の靄が大きかったはず」
「あっ!そにょ靄って…!?」
「そうだ。エイルが見たのは、瘴気だったのだ。だがよもや、魔核に瘴気の靄があるとは思うまい。ましてや、ミディアンナの属性は光だ。光は闇を祓うからな。光が闇を閉じ込めていたという発想には至らなかっただろう」

 閉じ込めていた…想像としては封印に近いかな?

「…では!?瘴気は光属性の魔力が邪魔で、身体から出ていけず、今まで身体に居続けたと!?」

 周囲の視界を奪われると、身動きが取れなくなるのは人間も同じだ。

『そうだ。正確に言えば、入り込んだ敵を光属性の魔力が包囲網を敷き攻撃し続けている。魔力の渦…台風の目のような場所で、集中砲火を浴びて削がれた靄は、再度塵となる。だが行き場のない魔官では、身体を流れる魔力に混ざるしかない。それが身体に悪影響を及ぼしている。魔官に混ざった塵はいずれ浄化されるが、魔核に靄がある限り、靄が消えるまで攻撃が続き、魔官に流され続けるだろう』

 それじゃあ、常にマラソンをしているような疲労感が襲うはず。彼女は、かなりしんどかっただろう。

「ミディアンナの光属性が仇になってたなんて…」

 まさかの結果に膝から崩れ落ちるサミュエルさんを、ローリー様が慌ててが抱えた。
 それも仕方ないだろう。娘の魔力が、結果的には娘を死に至らしめるかもしれない原因の一つだったから。

「そのような見識、聞いたことがない」

 ローリー様も、まさかの診断に驚きの表情を隠し切れない。

「光属性を恐れ集合体を成した負の灰燼がやけっぱちで瘴気を発生させた。負の塵一つ一つに脅威は無くとも、集まればそれなりの力を発揮するからな」
「塵も積もれば山となるとは、よく言ったもにょだにぇ。でも負の灰燼ってにゃに?話の流れから、大体にょ予想はつくけど」
「負の灰燼というのは、魔物を殺した際に出る魔物の魔力の残骸だ。身体は素材になり益になるが、魔力の元は粉塵という負の塵になる。あまり事例はないが、ミディアンナの症状に似たような事例を、以前に読んだことがあった」
「詳しくありがとう。でも口や目から入った塵が、なんで魔核に?普通魔核に関係ない臓器に混ざると思うけど」
「すまんが、吾輩もそこは分からん。出来るのは、今の結果から推測することのみだ。それより、ミディアンナ嬢の治療だが、どうする?これは、並大抵の薬では埒が明かんぞ…聖域へ赴かねばならんか?」
「そうだにぇ。今までの治療には高級ポーションを使ってたみたいだから、今回は特級かな?でも、神酒ソーマを買うお金もツテもないし!採取から製薬まで自力でやろっか!?」

 ミオの天真爛漫な笑顔を見て、ジョウは思う。
 此奴に悪意はないのだ。親切心から出た真の気持ちだろう。だが周りを見てみろ。主に吾輩らを知らぬサミュエルなど、呆けた顔で固まっておるわ!

「あはは。ミオのスキルには、製薬の自動補助機能がついてまして…」
 なんて、苦し紛れの言い訳をするエイルを見ていると、これからが思いやられた。

「あのな、ミオ。特級(別名神酒ソーマ)は白金貨五枚約五千万の値打がある希少薬だぞ?それを、そこらへんの薬屋で調達するみたいなノリで言うんじゃない!」

 ジョウの苦言に、室内にいた皆が一斉に頷いた。

「うぇ!?…私達には解決出来る手段があるんだもん。それに軽く言ったわけではにゃいし!ちゃんと理解してるよ?皆が匙を投げたミディアンナ嬢が治れば、誰が治したんだ!?って大騒ぎににゃることくらい…まっ!今はポーション騒ぎで、それどころじゃにゃいかもだけど!?」

 それに一瞬慄くが、開き直ったミオ。たまに噛んでしまう幼女が、周囲の者を現実に留まらせる。

 ジョウの見解は当たっており、神酒ソーマはたまにしかに出てこない。
 それも、近くにある大都市でオークションに掛けられるのが常であり、掛け値は五千万を遥かに超える。自分の命が助かる代償と思えば、白金貨十枚程度と考える金持ちもいる。

 特級ポーションを製薬出来る者も存在するが、素材が超レア品で、揃えるのがまず困難というのが、この世界の常識である。高級と特級…その間にある壁は、果てしなく高いと述べておこう。

 一庶民が、気軽に手に出来る代物ではないのだ。


☆特級ポーション(別名 神酒ソーマ
 売価 白金貨5枚かオークション
 効能 高級ポーションでは効かない病気にも効果がある。即死以外の病気であれば、殆どが治るとされている。怪我に関しては、向かうところ敵無しである。また、神の力が秘められており、邪を祓うとも言われている。つまり、なんでも治る。

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