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第四十七話 師匠の上司
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女神ウルシアの断罪が行われた次の日、世間は未だ騒ぎが衰えることはなく、空気さえもざわつきを覚えているような錯覚を感じてしまう。
「さて…ミオ、名目上ではありますが、私の上司の一人を紹介しましょう」
「は、はい」
師匠がダークエルフの里から帰還した翌朝、私は師匠に呼ばれ、応接室にいた。
(上司の一人?)
(エイルは、薬師ギルドと冒険者ギルドの名誉職でサブマスを務めているからな。彼女からは、薬草の匂いがするが…)
師匠の突然の紹介話に、私は少しだけ混乱と緊張を抱える。
「彼女は、ジョハンナ。薬師ギルドアターキル支部の会長をしています。そして、ミディアンナの祖母でもあります」
「ミディアンナさんにょお祖母さん!?…私は、ミオです。こちらは私にょ従魔で、豹がジョウ、雛がきゅうちゃんです。よろしくお願いします」
私が彼女に目を向ければ、にぃ…と口角をあげたお婆さんがいた。驚きで挨拶を忘れるとこだったよ。危ない危ない。
彼女は杖をついているが、元気そうだ。好奇心や悪戯の色が濃い瞳は、ジョハンナさんの性格を表していそうだ。ニヒルな口元を見ると、強ち間違いではない気もする。髪は緑で、後ろでお団子にしている。
「あぁ。よろしく頼むよ。私はジョハンナだ。しかし、小童が珍しくお願いをするもんだから、興味を惹かれて来てみれば……小童が子供を引き取った噂は、本当だったんだねぇ」
「引き取ったのではなく、弟子にしたのです!後見人も兼ねてますが…」
しみじみと呟くジョハンナさんに、師匠が抗議の声をあげる。
「ほぉ?ずぅっと拒否し続けてきた弟子をねぇ…」
「今日は、ミオを弟子にした経緯と理由を知っていただく為に、お招きしたんですよ」
コホンッと、わざとらしい咳払いをした師匠は、私に視線を寄越した。それに頷いた私は、鞄から調薬釜と神酒の素材を取り出す。
要は、既にポーションパニックと化している世間に流す高級ポーションの経由拠点をお願いするための実演だ。
「な!?それは、聖域でしか採取出来ない月涙草じゃないか!?」
エイルの視線を真っ向に捉え、ずいっと迫る。
「ちょっ!?近いですよ!ミオを弟子にした理由は、後でお話しますから、今はこれから起こる世紀の奇跡を目に焼き付けてください」
私はそう言いながら、ジョハンナを押し返す。
ミオはこちらをチラッと見ながらも、調薬釜のメニュー設定のボタンをポチポチと操作していた。
「世紀の奇跡?あれがかい?なにをしようとしているんだい?というか、そもそもあれはなんだい?っていうか、聖域の素材をどうやって?っていうか、あの素材の薬は神酒だろう!?」
溢れ出る疑問や感情が止まらず、私は口から溢しまくった。
マーナ草に月涙、神浄草ときた後は、まさかの竜護草、しかも優包までくれば…製薬する代物は間違いなくアレだ。
現在、大陸に5本の指に入る薬師でも限られた人物しか製薬が出来ない。だが製薬出来るというだけで、肝心な素材が無くては、宝の持ち腐れである。
しかも素材に至っては、長齢種族が保管していた250年前のもの。劣化のないアイテムボックスで保管していた新品同様の薬草たちだったのだ。
目下の問題は、聖域の素材採取を許されているのは、猊下と加護持ちだけだということ。猊下はともかく、加護持ちは魔従族以来、現れていない。
その魔従族も、馬鹿な貴族のせいで、大半が山奥深くに潜ってしまった。
近い将来、神酒などの薬の製法は、作り手とともに失伝してしまうだろう…との見解が囁かれている。
「まぁまぁ、落ち着いてください。ジョハンナの想像通り、あれは神酒の素材たちです。細かい話は省きますが、ミオの従魔は魔力を見る能力が長けていましてね…今回、ミディアンナを診てもらったんですよ」
「…なっ!?魔物の言葉が分かるさね!?」
ミディアンナ…私の孫娘。亡き娘の忘れ形見。
「言葉は念話です。ミオの場合、従魔との会話は詳細に分かるので、問題ありません。現に、私とも会話が成り立つ高位の従魔です」
「それはそれで、凄いことさね」
まだ幼い見た目に関わらず、魔獣とそこまで分かりあえるのは、稀有な才能だ。
「とても気になる気持ちは痛いほど分かりますが、少し静かにしていましょう」
「だがっ『失敗すれば、』っ!…分かった」
エイルの有無を言わせない圧を感じ、最後まで聞くことはせず、傍観に徹することにしたジョハンナだった。
「さて…ミオ、名目上ではありますが、私の上司の一人を紹介しましょう」
「は、はい」
師匠がダークエルフの里から帰還した翌朝、私は師匠に呼ばれ、応接室にいた。
(上司の一人?)
(エイルは、薬師ギルドと冒険者ギルドの名誉職でサブマスを務めているからな。彼女からは、薬草の匂いがするが…)
師匠の突然の紹介話に、私は少しだけ混乱と緊張を抱える。
「彼女は、ジョハンナ。薬師ギルドアターキル支部の会長をしています。そして、ミディアンナの祖母でもあります」
「ミディアンナさんにょお祖母さん!?…私は、ミオです。こちらは私にょ従魔で、豹がジョウ、雛がきゅうちゃんです。よろしくお願いします」
私が彼女に目を向ければ、にぃ…と口角をあげたお婆さんがいた。驚きで挨拶を忘れるとこだったよ。危ない危ない。
彼女は杖をついているが、元気そうだ。好奇心や悪戯の色が濃い瞳は、ジョハンナさんの性格を表していそうだ。ニヒルな口元を見ると、強ち間違いではない気もする。髪は緑で、後ろでお団子にしている。
「あぁ。よろしく頼むよ。私はジョハンナだ。しかし、小童が珍しくお願いをするもんだから、興味を惹かれて来てみれば……小童が子供を引き取った噂は、本当だったんだねぇ」
「引き取ったのではなく、弟子にしたのです!後見人も兼ねてますが…」
しみじみと呟くジョハンナさんに、師匠が抗議の声をあげる。
「ほぉ?ずぅっと拒否し続けてきた弟子をねぇ…」
「今日は、ミオを弟子にした経緯と理由を知っていただく為に、お招きしたんですよ」
コホンッと、わざとらしい咳払いをした師匠は、私に視線を寄越した。それに頷いた私は、鞄から調薬釜と神酒の素材を取り出す。
要は、既にポーションパニックと化している世間に流す高級ポーションの経由拠点をお願いするための実演だ。
「な!?それは、聖域でしか採取出来ない月涙草じゃないか!?」
エイルの視線を真っ向に捉え、ずいっと迫る。
「ちょっ!?近いですよ!ミオを弟子にした理由は、後でお話しますから、今はこれから起こる世紀の奇跡を目に焼き付けてください」
私はそう言いながら、ジョハンナを押し返す。
ミオはこちらをチラッと見ながらも、調薬釜のメニュー設定のボタンをポチポチと操作していた。
「世紀の奇跡?あれがかい?なにをしようとしているんだい?というか、そもそもあれはなんだい?っていうか、聖域の素材をどうやって?っていうか、あの素材の薬は神酒だろう!?」
溢れ出る疑問や感情が止まらず、私は口から溢しまくった。
マーナ草に月涙、神浄草ときた後は、まさかの竜護草、しかも優包までくれば…製薬する代物は間違いなくアレだ。
現在、大陸に5本の指に入る薬師でも限られた人物しか製薬が出来ない。だが製薬出来るというだけで、肝心な素材が無くては、宝の持ち腐れである。
しかも素材に至っては、長齢種族が保管していた250年前のもの。劣化のないアイテムボックスで保管していた新品同様の薬草たちだったのだ。
目下の問題は、聖域の素材採取を許されているのは、猊下と加護持ちだけだということ。猊下はともかく、加護持ちは魔従族以来、現れていない。
その魔従族も、馬鹿な貴族のせいで、大半が山奥深くに潜ってしまった。
近い将来、神酒などの薬の製法は、作り手とともに失伝してしまうだろう…との見解が囁かれている。
「まぁまぁ、落ち着いてください。ジョハンナの想像通り、あれは神酒の素材たちです。細かい話は省きますが、ミオの従魔は魔力を見る能力が長けていましてね…今回、ミディアンナを診てもらったんですよ」
「…なっ!?魔物の言葉が分かるさね!?」
ミディアンナ…私の孫娘。亡き娘の忘れ形見。
「言葉は念話です。ミオの場合、従魔との会話は詳細に分かるので、問題ありません。現に、私とも会話が成り立つ高位の従魔です」
「それはそれで、凄いことさね」
まだ幼い見た目に関わらず、魔獣とそこまで分かりあえるのは、稀有な才能だ。
「とても気になる気持ちは痛いほど分かりますが、少し静かにしていましょう」
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