異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)

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二十五日目―アルシェ(能力持ち)の価値

「いやあ、すまない。すこしお待たせしてしまった」

 扉のノックに応えれば、商業ギルドのギルドマスター――アウグストさんが入室してきた。

「大丈夫ですよ。色々見てましたから」

 そう。文字通り、色々とな。俺は心の中で、ニヤッと笑う。

「そうか? それより、今日はどうしたんだ?」
「これを買い取ってもらおうと思いまして」

 俺は鞄に見せかけた収納ストレージから、冒険者ギルドで回収したアルシェを出した。

「アルシェ? 私は構わないが、冒険者ギルドはいいのか?」

 冒険者は、収穫・所得物の納品先として、冒険者ギルドを最優先にするという暗黙の了解があった。だが、俺にはその必要がなくなったからな。

「その冒険者ギルドを辞めてきたんだよ……な?」
「あれじゃ無理だよね、ははっ」

 俺がバレンに話を振れば、彼は乾いた笑みを浮かべた。だがギルマスは、驚きの声を上げた。

「辞めただって!? 冒険者ギルドの新記録を連続で樹立した期待の新人が? ……今度は、なにをやらかしたんだ?」

 ギルマスの薄い紫にグレーっぽいダスティーライラックの目には、疑惑の気配が濃く浮かんでいた。

 俺が望んだとはいえ、前回の態度から、随分軟化し過ぎてないか? おい。それに、俺のことも調べたな? まあ、いいがな。

「実はな―――」

 俺はそんな事を思いながら、冒険者ギルドでの顛末を話した。
 
「薬草採取の納品物が魔草だと?しかし、冒険者ギルドのギルマスも相変わらずの愚行っぷりだな」

 あのギルマスは、俺にだけあんな態度を取っていたんじゃないのか。日頃からあの態度とは、ある意味おそろしい。

「いやあ。事情を知る人は、話が早くて助かる!」
「『いやあ……』じゃないよ、全く! 少し待っていなさい。今から、このアルシェを鑑定してみるから」
「お願いします」

 ❖鑑定中❖

 暫し、鑑定の道具を使い、アルシェを見ていたギルマスは、無言でアルシェを机の上に置き、鑑定の道具を軽く拭いた後、胸ポケットへ仕舞った。

「どうでしたか?」
「確かに魔草・・と出たが……冒険者ギルドの奴ら、最後まで鑑定を読んだのか?」
「さあ? さきほど話したように、彼らの俺への態度では―――」
「そうだな。まさにこれは、“書類は最後まで読みましょう”の教えが生きる事例だな」
「……というと?」
「私の鑑定でも、確かに魔草の単語は出たが、備考欄にはこうある。『魔草の環境の変化により進化した薬草だが、稀に見られる蘇りが存在する。だがこの薬草の能力は、ルイという人物に、眠る能力を引き出された結果である』と記されていた……ルイ君、君はその機密情報を抱えた知識で、新しい魔法文字コードつくって遊んだね?」
「あはは……でも、遊んだというと語弊がありますよ。は来たるべき時を見越して、実験をしたというかですね」

「来たるべき時?」と、首を傾げるギルマスはさておき、「僕?」と、訝しげに呟くバレンは、無視である。

「実はまだ、極秘中の極秘。それも未決定のプロジェクトがあるんですが……」

 冒険者ギルドの時と同じように、理由を語れば、彼は今度こそ天井を仰ぎ見た。顔を、両手で覆い隠したまま。まあ、そうなるよな。

「ブレースト大皇爵家のご令嬢だけじゃなく、今度は、ご当主様のお出ましかよ……」

 仰ぎ見たままのギルマスよ。本音がダダ漏れですよ~。

 ❖現実逃避中❖

「はあ、回復した! しかし、この部屋で良かった。ここには、防音の付与を施しているからな。」
「ふっ! 俺が知らないとでも? じゃなければ、機密情報満載の話なんてしないさ」

 ギルマスが来るまでの間に、鑑定しまくった末に発見していたのである。ちゃんと起動しているのかも、確認したぞ?

「……なにも言うまい。それより、このアルシェだが、薬草部門の専門家を呼んでもいいか? 流石に、能力持ちのアルシェは、そうそう手に入る代物でもなくてな。現在の薬草の価値がどれほどか、想像しかできない。勿論、職務上の情報は漏洩しない決まりがある。心配はいらない」

 以前、ギルドで登録する際に、ギルドで就労する条件に、情報に関する条項も組み込まれていると話していたからな。魔法契約もその一つ。そこは、信用するしかない。それに、俺も価値が知りたいしな。

「大丈夫だ。是非、お願いしたい」
「良かった」

 ギルマスはそう言いながら、懐から出した箱型の突起を押した。

「それは、なんだ?」
「これはな、人を呼ぶ為の魔法具だな……と言っても、実にシンプルな構造だが」
「へえ」
「気になるか? だが私より、バレン殿が詳しいだろう?」
「へ?」

 急に話を振られたバレンが、間の抜けた声を上げた。

【呼び出し音機】
 二機で一つの魔法具。片方が、呼び出しの通知起動を担い、もう片方が、その指令により、通知音で呼出を知らせるというもの。離れた場所でも使用できる優れもの。

「――というわけなんだ。魔石に魔力がある限り、使用可能なんだよ」
「なるほど。いたってシンプルな構造だな」

 バレンの説明を聞いた俺は、日本のインターホンを思い出す。

 箱型の突起を押せば、箱の内部に突起が沈み、内蔵された魔石に触れる。その魔石には〚通知起動〛の文字があり、もう片方の一機が、その指令を音で知らせる。
 
 暫くして現れたレイアさんに、用件を伝えたギルマスと雑談していると、ノックの音が響いた。

「入ってくれ」
「失礼いたします」

 落ち着いた男性の声が聞こえ、扉は開かれた。

「ギルドマスター、お呼びでしょうか?」
「ああ。取り敢えず、ここに座りなさい」
「失礼いたします」

 ギルマスが座っていたソファの隣を指示された男性は、おずおずと遠慮しながらも、そこへ腰掛けた。

「まずは、彼らを紹介しよう。子供姿は幻で――」
「ギルドマスター?」
「ははっ! 冗談だよ、冗談」

 ギルドマスターの砕けすぎた冗談に、俺が即座に口を挟むと、彼は笑って誤魔化し『冗談』だと宣った。

「おほんっ! それはそうと、彼はルイ君。一つ星魔法具師名人マイスターのレスター様が保証人をされている我がギルドの会員様だ。その隣にいらっしゃるのは、レスター様の弟子のバレン殿だ」
「私は、薬草部門のアルファラと申します。お見知りおき下さいませ」

 浅黒の肌をした緑のターバンを頭に巻いた南国風の男性――アルファラは、深々と頭を下げた。

「こちらこそよろしくお願いします」
「お願いします」

 俺らもそれぞれに挨拶を返し、ギルマスが本題に入る。

「実はな――」

 俺が持ち込んだアルシェの話を始めたギルマスだったが、薬草の能力の話題になった途端、彼の冷静な表情に、少々赤みがさしてきた。

(この世界の人間は……いや。日本でも一緒だが、この世界の人々は、自分の興味あることに全力過ぎる変態さを持っているからな。彼はどうだろう?)
 
 俺がそんな事を考えている間にも説明は終わり、彼は例のアルシェを手に取り、驚きの表情を浮かべた。  

「見た時思っていましたが、触って確信しました! これはとても新鮮ですね」
「そうですね」
(鮮度維持の解除キャンセルを忘れていたぜ)

 固定化で気をつけなければいけないのは、用が済めば、必ず解除すること。そうでなければ、素材が保つ限り、魔法維持のため、魔力を吸われることになる。

 ジト目で見るバレンとギルマスの視線を避け、俺は脳内で(解除キャンセル)を唱えた。

「ギルマスの仰る通り、本当に能力に【抗老化+2】がありますね。俄かには信じられませんでしたが……」

 彼――アルファラの鑑定道具は、眼鏡型だった。眼鏡を外すと、首に下げた紐と繋がっていた。

「どれぐらいの査定額になる?」
「そうですね。この能力持ちの薬草は、一万本に一本あるかないかという確率の希少なもの。アルシェ五束全てお売り頂けるなら……大銀貨五枚五十万円お出しできます!」

 片手を大きく広げ、査定額の最大値を言い切る彼に、俺は頷いた。

「やった!」

 俺の頷きを了承と取り、ガッツポーズをするアルファラさんだが、ギルマスとの対比がひどい。ギルマスは、値切る暇もなかったことを落ち込んでいた。

(『お出しできます!』って、初っ端から最大値を押し出してくるとは。商業ギルド所属だが、商人でない彼は、金よりも薬草が欲しかったんだな)

「アルシェ五束が、大銀貨五枚五十万!?」
 と喚くバレンは、置いておこう。

 多分だが、美に執着する御婦人用の化粧品の素材に化けるんだろうな。
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