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入院はとても大変だった。
療養に専念していても、こちらの事情を知った、薄っぺらい関係の友人たちや、噂の大好きな報道関係の人間が、見舞いだと嘯いて訪れてくるのだ。病院にはとても迷惑をかけていて、でもその理由がわたしの職業にあると知ると、納得して助けてくれた、プロフェッショナルというのはこういうことだ。
ご迷惑をおかけしているし、なるべく早く退院しよう、と思ってはいても、ひと月しても、医師から退院許可が下りない。
「早く家に帰りたいなあ」
「そうだね、少し長いなあ」
しょり、しょり、と、りんごを剥くニナが、ひとつ剥けてはこちらによこし、食べ終わった頃にまたよこす。太らせる気だ……。
ニナは毎日、面会に来て、わたしと他愛無い話と、事務的な話も時折して、また来る、と帰っていく。それが日課になるほど、わたしは病院に馴染んでいたし、ニナもそうだった。
お金はたんまりあるから一人部屋にしてもらって、のんびり療養させてはもらっている。この病室にくるのは、医師と、看護師と、ニナだけ。運動も制限されていて、だんだん痩せていくわたしに、ニナはなにくれとおやつをよこす。せめてこれ以上体力が落ちないようにと思ってくれているのだ。
ニナは優しい、ここ最近で、たくさんニナのことを知ることができた。
例えば、いつもは事務の仕事を在宅でしていること。
今までのやり取りの中で知ったわたしの好きなもの、嫌いなもの、愛した本。すべて学んでいること。
りんごが好きなこと。車の運転が苦手なこと。
なにも知らなかった頃に比べたら何歩もの進歩だ。
「今日は先生がいらっしゃる日だよね? お訊ねしてみてはどうだろう」
「うーん、そうね。一泊くらい、行けたら全然違うもの」
そうして訪れた医師に、外泊は可能か、お伺いすると、返ってきたのは躊躇いがちな、
「今まで毒など、飲まれた経験はおありですか
?」
入院はとても大変だった。
療養に専念していても、こちらの事情を知った、薄っぺらい関係の友人たちや、噂の大好きな報道関係の人間が、見舞いだと嘯いて訪れてくるのだ。病院にはとても迷惑をかけていて、でもその理由がわたしの職業にあると知ると、納得して助けてくれた、プロフェッショナルというのはこういうことだ。
ご迷惑をおかけしているし、なるべく早く退院しよう、と思ってはいても、ひと月しても、医師から退院許可が下りない。
「早く家に帰りたいなあ」
「そうだね、少し長いなあ」
しょり、しょり、と、りんごを剥くニナが、ひとつ剥けてはこちらによこし、食べ終わった頃にまたよこす。太らせる気だ……。
ニナは毎日、面会に来て、わたしと他愛無い話と、事務的な話も時折して、また来る、と帰っていく。それが日課になるほど、わたしは病院に馴染んでいたし、ニナもそうだった。
お金はたんまりあるから一人部屋にしてもらって、のんびり療養させてはもらっている。この病室にくるのは、医師と、看護師と、ニナだけ。運動も制限されていて、だんだん痩せていくわたしに、ニナはなにくれとおやつをよこす。せめてこれ以上体力が落ちないようにと思ってくれているのだ。
ニナは優しい、ここ最近で、たくさんニナのことを知ることができた。
例えば、いつもは事務の仕事を在宅でしていること。
今までのやり取りの中で知ったわたしの好きなもの、嫌いなもの、愛した本。すべて学んでいること。
りんごが好きなこと。車の運転が苦手なこと。 なにも知らなかった頃に比べたら何歩もの進歩だ。
「今日は先生がいらっしゃる日だよね? お訊ねしてみてはどうだろう」
「うーん、そうね。一泊くらい、行けたら全然違うもの」
そうして訪れた医師に、外泊は可能か、お伺い
すると、返ってきたのは躊躇いがちな、
「今まで毒など、飲まれた経験はおありですか?」
という質問だった。
まさかそんなことを訊かれるとは思ってもいなかったことで、驚きながら、
「ありますが」
と、返事をする。
そのことに、医師も、同行の看護師も、そしてニナも、とても驚いたようだった。
まあ、普通ならば飲む機会のないものだから、仕方ない。わたしも、盛られなきゃ好きではとても飲みたくなどなかった。
「それは、何度もですか」
「はい。多種多様に」
「……誰が」
「おそらく家族が。けれど確証が出ず、警察は捜査できませんでした」
「そうですか……残念なお知らせをしなければなりません」
医師は深く息をついて、まるで自分を落ち着かせるようにした後、宣告した。
「残念ながら、この度の入院が終わることは、おそらくありません」と。
わたしの体は事故でボロボロだったが、それにしても臓器など、弱りきった部分が多く、度重なる検査で、状況を掴めるよう努めてみたところ、毒による全身の虚弱が見られ、このままでは外に出てもすぐ倒れてしまう、それくらいには、もう手遅れ。
なるほど。と、相槌を打つ。
「なるほど、それで、保ってどれほどでしょう」
「最善を尽くします、なので正確な寿命などはまだ……」
「建前は大丈夫です、先生、大丈夫だから」
お願いします。
「……保って、一年はない、かと」
療養に専念していても、こちらの事情を知った、薄っぺらい関係の友人たちや、噂の大好きな報道関係の人間が、見舞いだと嘯いて訪れてくるのだ。病院にはとても迷惑をかけていて、でもその理由がわたしの職業にあると知ると、納得して助けてくれた、プロフェッショナルというのはこういうことだ。
ご迷惑をおかけしているし、なるべく早く退院しよう、と思ってはいても、ひと月しても、医師から退院許可が下りない。
「早く家に帰りたいなあ」
「そうだね、少し長いなあ」
しょり、しょり、と、りんごを剥くニナが、ひとつ剥けてはこちらによこし、食べ終わった頃にまたよこす。太らせる気だ……。
ニナは毎日、面会に来て、わたしと他愛無い話と、事務的な話も時折して、また来る、と帰っていく。それが日課になるほど、わたしは病院に馴染んでいたし、ニナもそうだった。
お金はたんまりあるから一人部屋にしてもらって、のんびり療養させてはもらっている。この病室にくるのは、医師と、看護師と、ニナだけ。運動も制限されていて、だんだん痩せていくわたしに、ニナはなにくれとおやつをよこす。せめてこれ以上体力が落ちないようにと思ってくれているのだ。
ニナは優しい、ここ最近で、たくさんニナのことを知ることができた。
例えば、いつもは事務の仕事を在宅でしていること。
今までのやり取りの中で知ったわたしの好きなもの、嫌いなもの、愛した本。すべて学んでいること。
りんごが好きなこと。車の運転が苦手なこと。
なにも知らなかった頃に比べたら何歩もの進歩だ。
「今日は先生がいらっしゃる日だよね? お訊ねしてみてはどうだろう」
「うーん、そうね。一泊くらい、行けたら全然違うもの」
そうして訪れた医師に、外泊は可能か、お伺いすると、返ってきたのは躊躇いがちな、
「今まで毒など、飲まれた経験はおありですか
?」
入院はとても大変だった。
療養に専念していても、こちらの事情を知った、薄っぺらい関係の友人たちや、噂の大好きな報道関係の人間が、見舞いだと嘯いて訪れてくるのだ。病院にはとても迷惑をかけていて、でもその理由がわたしの職業にあると知ると、納得して助けてくれた、プロフェッショナルというのはこういうことだ。
ご迷惑をおかけしているし、なるべく早く退院しよう、と思ってはいても、ひと月しても、医師から退院許可が下りない。
「早く家に帰りたいなあ」
「そうだね、少し長いなあ」
しょり、しょり、と、りんごを剥くニナが、ひとつ剥けてはこちらによこし、食べ終わった頃にまたよこす。太らせる気だ……。
ニナは毎日、面会に来て、わたしと他愛無い話と、事務的な話も時折して、また来る、と帰っていく。それが日課になるほど、わたしは病院に馴染んでいたし、ニナもそうだった。
お金はたんまりあるから一人部屋にしてもらって、のんびり療養させてはもらっている。この病室にくるのは、医師と、看護師と、ニナだけ。運動も制限されていて、だんだん痩せていくわたしに、ニナはなにくれとおやつをよこす。せめてこれ以上体力が落ちないようにと思ってくれているのだ。
ニナは優しい、ここ最近で、たくさんニナのことを知ることができた。
例えば、いつもは事務の仕事を在宅でしていること。
今までのやり取りの中で知ったわたしの好きなもの、嫌いなもの、愛した本。すべて学んでいること。
りんごが好きなこと。車の運転が苦手なこと。 なにも知らなかった頃に比べたら何歩もの進歩だ。
「今日は先生がいらっしゃる日だよね? お訊ねしてみてはどうだろう」
「うーん、そうね。一泊くらい、行けたら全然違うもの」
そうして訪れた医師に、外泊は可能か、お伺い
すると、返ってきたのは躊躇いがちな、
「今まで毒など、飲まれた経験はおありですか?」
という質問だった。
まさかそんなことを訊かれるとは思ってもいなかったことで、驚きながら、
「ありますが」
と、返事をする。
そのことに、医師も、同行の看護師も、そしてニナも、とても驚いたようだった。
まあ、普通ならば飲む機会のないものだから、仕方ない。わたしも、盛られなきゃ好きではとても飲みたくなどなかった。
「それは、何度もですか」
「はい。多種多様に」
「……誰が」
「おそらく家族が。けれど確証が出ず、警察は捜査できませんでした」
「そうですか……残念なお知らせをしなければなりません」
医師は深く息をついて、まるで自分を落ち着かせるようにした後、宣告した。
「残念ながら、この度の入院が終わることは、おそらくありません」と。
わたしの体は事故でボロボロだったが、それにしても臓器など、弱りきった部分が多く、度重なる検査で、状況を掴めるよう努めてみたところ、毒による全身の虚弱が見られ、このままでは外に出てもすぐ倒れてしまう、それくらいには、もう手遅れ。
なるほど。と、相槌を打つ。
「なるほど、それで、保ってどれほどでしょう」
「最善を尽くします、なので正確な寿命などはまだ……」
「建前は大丈夫です、先生、大丈夫だから」
お願いします。
「……保って、一年はない、かと」
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