追放聖女のもふもふスローライフ

臥龍岡四月朔日

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追放聖女のもふもふスローライフ

第1話 廃墟の別荘と星降る泉

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 辺境の村、ザクソン。
 ここが私の、新しい人生の舞台だ。

​ 今までの人生を振り返る。ブラック企業でこき使われ、気づけば過労死していた前世。聖女の修行に明け暮れた、息の詰まるような日々。
 もう、誰にもいいように使われたりしない。これからは、私のために、自由に、のんびりと生きるのだ。

​ そう決意を固め、私は別荘へと向かった。

 村から少し離れた森の入り口に、その屋敷はひっそりと建っていた。
​ そして、その建物の前に立って、私は絶句する。

 ​……さすがに、ここまでとは想像していなかった。

 ​目の前に広がっていたのは、廃墟と見紛うほどに荒れ果てた屋敷だった。鉄製の門は赤錆に覆われ、動かすには一苦労しそうだ。その奥、庭だったらしい場所には、人の背丈ほどもある雑草が生い茂り、噴水だろうか、苔むした建造物は草木に半ば埋もれていた。

​「まいったなぁ、本当にここで生活できるのかな……」

​ 不安が頭をよぎるが、すぐに気持ちを切り替える。

「まあ、やってみなくちゃわからないよね。頑張れ、私!」

「キュキュゥ!」

 ​私の気合に応えるかのように、腕の中のもふぞーが力強く鳴いた。まるで「僕も一緒だよ」と言っているようだ。

 意を決して門の取っ手に手を伸ばす。しかし、少し力を入れたくらいではビクともしなかった。

​「うへっ、ちょー重い……!」

 ​力いっぱい体重をかけると、「ギィィィィ……」という嫌な音を立てながら、どうにか門が開いた。

 ……はぁはぁ。
 
 たったこれだけで息が切れるなんて情けない。最初からこのハードモードかと、先が思いやられた。

 ​もふぞーを胸に抱き、人の背丈ほどある雑草をかき分けながら、ようやく屋敷の玄関にたどり着く。かつては白かったであろう外壁は薄汚れて蔦に覆われていたが、建物自体はしっかりしてそうだ。これなら、何とか住めるかもしれない。

 錆びついた鍵を何とか回し、重い扉を押し開けて屋敷の中へと入る。窓が少ないせいか、中は薄暗く、窓から差し込む一筋の光が、空気中に舞い散るほこりをキラキラと照らしていた。

 この、埃にまみれた古い廃墟のようなボロ屋敷、それが私の、いや、私たちの新しい生活の舞台。もふぞーと一緒に、作り上げていく、私たちの大切な家だ。



 ……まずは掃除しなきゃ。とりあえずは寝床の確保よね。

 屋敷の二階には、昔、私が使っていた部屋があった。けど、階段の上り下りは大変だし、利便性を考えて一階の元使用人の部屋を使うことにした。
 
 用具倉庫から使えそうな箒やモップを探し出すと、私は気合を入れた。

「よし……戦闘開始!」

「キュキュゥ!」

 もふぞーも一緒になって気合を入れる。
 ――でも君は埃をかぶらないよう、そこの椅子で待機ね。

 窓を開け放つと、森から爽やかな空気が流れ込んできた。長年停滞していた空気が一気に動き、埃を舞い上げる。

「けほっ……! うわっ、凄いなこれ」

 床を掃き、ベッドに積もった埃を払い、薄汚れたシーツを外し、外でパンパンと叩く。
 パフッと白い煙のように埃が舞い、もふぞーはくしゅっとくしゃみをした。

 ――ああ、洗濯したい。
 でも、この世界に洗濯機なんて便利なものはないし、水も貴重だ。村には共用の井戸があるけど、あまりジャバジャバ使うのは気が引ける。屋敷の裏にも井戸はあるけど……管理されていないので掃除して整えないと使えないだろうなぁ。

 はー、文明の利器が恋しい……
 そうぼやきながらも、ひとまず寝床だけは整った。

 そういえば、村の人たちにも挨拶しなきゃなぁ。
 本音を言えば、正直めんどくさい。けど、平穏な暮らしのためにはご近所付き合いは大事だ。

 重い腰を上げ、桶を手に村へ向かう。途中で出会った人には、できるだけ笑顔で「こんにちは」と声をかけた。

「おや、あんたが新しく来た……」
「まあまあ、かわいい獣じゃないか」

「キュ♪」

 人懐っこいもふぞーが尻尾を振るたび、村人たちの表情が柔らかくなっていく。
 ――うん、これはどうやら、もふぞー様様だな。

 * * *

 よし、今日はこのくらいにしておくかな?
 気がつくともう夕方で、窓から黄昏色の光が差し込んでいた。

 ――お風呂入りたい。
 着いてからずっと掃除をしていたので、体中、汗と埃でドロドロだ。

 だけど、水をあまり使うわけにもいかない。
 どうしたものか……

 そういえば、裏の森の奥に泉があったな。
 私は幼い頃の記憶を頼りに、木々の間を抜けてその場所へ向かった。

 泉は今も変わらず、静かに水をたたえていた。澄んだ水面に手を浸すと、冷たさが指先から腕へと染みていく。
 ――これなら水浴びしても大丈夫そう。

 あたりに誰もいないことを確認して服を脱ぎ、そっと泉へと身を沈めた。
 肌をなでる水はひんやりと柔らかく、汗も埃も一気に流れていくようだった。

「キュゥ♪」

 もふぞーも気持ちよさそうに水浴びをしている。ふわふわの毛が濡れてしぼみ、いつもの半分くらいのサイズに見えた。

 水面に映る星々が揺れ、見上げれば、森の隙間から夜空いっぱいの星が瞬いている。

 ――明日も頑張ろうね、もふぞー。
 私は小さくつぶやき、もふぞーの背をそっと撫でた。
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