追放聖女のもふもふスローライフ

臥龍岡四月朔日

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追放聖女のもふもふスローライフ

第2話 聖女の力と小さな異変

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 チュン、チュン

 窓から差し込む朝の光と、小鳥のさえずりで目を覚ます。

「モキュ……」

 目覚めた私に気づいたもふぞーが、ふわりと毛並みを揺らしながら寄ってきた。

「おはよう、もふぞー」

「キュキュゥ!」

 元気いっぱいに鳴くと、もふぞーは私の頬をぺろぺろと舐める。
 くすぐったくて、思わず笑ってしまう。こんな穏やかな朝は、久しぶりだ。

 昨夜はぐっすり眠れた。泉で汗と埃を流したおかげで、身体も心も軽い。

 ――さて、今日はどうしようか。

 掃除の続きをするのもいいけれど、生活するにはお金がいる。
 王都を立つとき、実家から申し訳程度に渡されたお金はある。でも、それがいつまで持つかはわからない。

 回復のポーションであれば、私の「微弱」な力でも作れる。効果はたかが知れているが、多少の需要はあるはずだ。
 ただ、売るとなると瓶が必要になる。

 ……まずは村の店を見て回ってみよう。

 新しい生活への期待と、少しの不安を胸に、私はもふぞーを抱き上げて立ち上がった。


 * * *

 一応、雑貨屋で小瓶は見つけたが、数は少なく、量産は無理そうだった。
 買い占めてしまうのも気が引けるので3本だけ買って店を出た。

 村の広場にあるベンチに腰を下ろし、ひと休みする。
 広場では子どもたちが駆け回り、笑い声を上げていた。

 そのとき――ひとりの子がつまずき、石畳に倒れた。

「……っ!」
「……キュッ!」

 私は咄嗟に立ち上がり、駆け寄る。

「大丈夫?」

 膝に擦り傷ができていた。
 この程度なら、私の回復魔法でも……

 手をかざし、魔力を込める。
 すると、みるみるうちに血が止まり、傷口が塞がっていった。

 ――あれ? 私の回復力って……こんなに高かったっけ?

「おねーちゃん、すごい!」

「そういえば、このおねーちゃん聖女様だって、うちのかーちゃん言ってたぞ!」

 ……そんな噂、もう広まってるの?
 いや、私は追放された“無能”聖女なんだけどね……

「もう、大丈夫かな?」

「うん、ありがとう、おねーちゃん!」

 転んだ子は笑顔を見せ、友達の輪に駆け戻っていった。
 その背中を見送りながら、なんだか胸がじんわりと温かくなる。

「それじゃあ、おねーちゃん、もう行くね」

 私が手を振ると、子どもたちは口々に「ばいばーい!」と声を上げた。

 ――こういう瞬間、嫌いじゃないな。

 私ともふぞーは、小さな感謝の声を背中に受けながら屋敷への帰路についた。


 屋敷に戻ると、早速ポーション作りを始めた。

​「さてと、始めますか。もふぞーは、おとなしくしててね」

​「キュキュゥ」

 ​もふぞーを椅子に待たせ、私は作業に取り掛かる。

 必要なのは、水と乾燥させたハーブの粉、そして私の回復魔法だ。まず、桶の水に「浄化」の魔法をかける。すると、透明だった水はきらきらと澄んだ光を帯びる。
 ​そこへハーブの粉を少しずつ入れ、木べらで静かに溶かしていく。本来、力の強い聖女ならハーブは不要だ。これは私のように力の弱い者が、回復力を底上げするための補助にすぎない。
 ​下地ができたら、それを瓶に移し、両手でそっと包み込む。

 ――回復の魔法を込める瞬間、瓶の中で淡い光が生まれた。それはいつも通りの……はずだった。

​「……あれ? 光が……強い?」

​ 光はじわじわと増し、薄暗い部屋の壁や天井までも照らし出す。まるで昼間のような明るさだ。やがて、ふっと光が収まると、瓶の中には澄んだ液体が静かに揺れていた。

​「ま、まあ……無事にできたし、いいよね?」

​「キュキュゥ♪」

 ​もふぞーが嬉しそうに鳴く。異変は気のせいだと自分に言い聞かせ、私は瓶を棚に並べた。


 * * *

​ その後は昨日の掃除の続きを再開。次は台所だ。自炊してできるだけ生活費を抑えなければならない。本当はお風呂場を優先したかったが、水に限りがあるので、当分は森の泉で済ますことにする。井戸の復旧は……危険だから後回しだ。

 ​日が暮れ始め、私は水浴びをするために泉へと向かった。
 森を抜け泉にたどり着くと、私は服を脱ぎ水面に身体を沈める。ひんやりとした感触が肌を包み込んで気持ちがいい。私は「浄化」の魔法をかけつつ汗と埃に塗れた身体を綺麗にしていった。

​「……ふぅ、気持ちいい」

​ もふぞーも気持ちが良さそうに水の上にプカプカと浮かび、時々、前足で水をかく。空を見上げると、薄闇に一番星が瞬いていた。

 ――明日も頑張ろうね、もふぞー。
 私は小さくつぶやき、もふぞーの背をそっと撫でた。

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